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<コラム>テイラー・スウィフト『ミッドナイツ』が米ビルボードで歴史的快挙、ファンを惹きつけてやまない魅力とは



コラム

Text:新谷洋子

 かつて誰も目にしたことがなかったその光景は、壮観と表現するよりほかない。11月5日付けの全米ビルボードHOT 100のトップ10を見ると、1位の「アンチ・ヒーロー」を筆頭に、2位に「ラヴェンダー・ヘイズ」、3位に「マルーン」、4位に「スノウ・オン・ザ・ビーチ feat. ラナ・デル・レイ」、5位に「ミッドナイト・レイン」……と、10位までの全スポットが、テイラー・スウィフトの10枚目のアルバム『ミッドナイツ』の収録曲で埋め尽くされていた。

 ストリーミング時代に突入してから、1枚のアルバムの収録曲が同時に複数チャートインすることは多々あったものの、トップ10の独占は史上初の快挙だ。さらに4曲がトップ20入りしており、『ミッドナイツ』そのものも、ビルボード200で11作連続となるナンバーワンを獲得。しかも発売初週のフィジカル売上は、米国内だけで114万枚を突破した(デジタル・アルバム&単曲換算を含めると157万ユニット超)。これは2015年のアデルの『25』(約300万ユニット)以来の好成績であり、Spotifyではリリース後24時間の最多再生回数(1億8,600万回!)を記録している。

 言うまでもなく、テイラーの人気は今に始まったことではない。ではなぜ10枚目にして、ここまでの快進撃を見せているのか? 答えは恐らく、本作が2019年の『ラヴァー』以来のポップ・アルバムだという点にある。

 思えば2020年に相次いで登場した双子のアルバム、『フォークロア』と『エヴァーモア』で、彼女はザ・ナショナルのアーロン&ブライス・デスナーらとのコラボレーションを通じて、作風を刷新。インディ・フォーク~バロック・ポップの世界に踏み入れた。カントリーからポップに移行した時を遥かに上回る大胆な変容ぶりに、人々は驚愕すると共に賞賛を浴びせ、【第63回グラミー賞】では3度目の<最優秀アルバム賞>に輝いたわけだが、もはやポップなテイラーの時代は終わってしまったのではないかと、一抹の不安を抱いたファンが大勢いたとしても不思議ではない。


▲【第63回グラミー賞授賞式】より
Kevin Winter / Getty Images for The Recording Academy

 その後の彼女は、かつて所属していたレーベルが買収されて原盤の権利が第三者の手に渡ってしまったことから、過去の作品を再録して自分の歴史を奪還するという、壮大なプロジェクトに着手。すでに昨年2ndアルバム『フィアレス(テイラーズ・ヴァージョン)』(オリジナル盤は2008年)と4thアルバム『レッド(テイラーズ・ヴァージョン)』(同2012年)の新録盤を発表し、他の旧譜のレコーディングも着々と進めているはずだが、この間、未来にもちゃんと目を向けていたテイラーは、『1989』(2014年)以降の全作品に関わってきたジャック・アントノフと全面的に共作・共同プロデュースを行い、ポップに回帰する『ミッドナイツ』を完成させたのである。


 いや、これは単なる回帰ではなく、本作から聞こえてくるのは、『フォークロア』と『エヴァーモア』でソングライティングとサウンドのスキルを磨いたからこそ辿り着いた、30代の彼女が鳴らす大人のポップだ。何しろ『ミッドナイツ』はタイトル通り、“真夜中”のアルバム。前二作のオーガニック路線から抑制の効いたエレクトロニック路線に転じ、ノワールかつドリーミーなムードに全編が包まれている。そう、テイラーのデリケートな歌声は、まったりとしたディスコのリズム、テンション溢れるトラップのビート、ひんやりと冷たいシンセの響き、アンビエントなテクスチュアに縁取られ、彼女は“Meet me at the midnight(真夜中に会いましょう)”と我々を誘うと、13の“眠れない夜”のストーリーを披露するのである。

 テイラーが眠れない理由は様々だ。例えば、昔の恋の苦い思い出(赤系の色彩をモチーフにした「マルーン」や「クエスチョン...?」)、気になって仕方がない自分の欠点の数々(「アンチ・ヒーロー」)、ふたりの人間が同時に同じ気持ちを抱いて恋に落ちるという奇跡のような出来事(彼女が敬愛するラナ・デル・レイをゲストに迎えた「スノウ・オン・ザ・ビーチ」)、じわじわと実感するハピネス(「スウィート・ナッシング」)、或いは復讐の計画(「ヴィジランティ・シット」)……といった具合に。「ビジュエルド」には、自分をリスペクトしてくれないパートナーに業を煮やして、真夜中に独りでドレスアップして出かける彼女がいる。また「ミッドナイト・レイン」では、若い頃にキャリアを優先して諦めてしまった恋を振り返ったり、「ラヴェンダー・ヘイズ」では巷に溢れる噂話やメディアの批判、女性像の押し付けに心を乱されていたり、フィクショナルなキャラクターたちに語らせることが少なくなかった『フォークロア』と『エヴァーモア』に対し、ここで浮き彫りになるのは、往々にしてリアルなテイラーの姿だ。そんなパーソナルな志向もきっと、ファンが本作に飛びついた所以なのだろう。



 このあと来年春には、【The Eras Tour】と命名された5年ぶりのツアーが、北米から始まる。“era(時代)”という言葉を複数形で含んでいることから、『ミッドナイツ』に特化するのではなく、キャリアの集大成的な内容になるものと推察できる。来日はいつになるのか定かではないが、まさに円熟期に入ったテイラーが無敵の貫禄を見せつけるウィニング・ランになるに違いない。

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