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<インタビュー>小室哲哉が語る、TKヒット曲ばかりの初のフルオーケストラ公演【後半】

インタビューバナー

小室はステージ上でピアニストとしても楽団に参加し、さらに、オーケストレーションを彩るゲスト・ボーカルも迎える

 稀代のヒットメーカー小室哲哉初のフルオーケストラ公演が開催される。しかも、誰もが知るTKヒット曲ばかりの選曲だ。自身のユニットTM NETWORKはもちろん、渡辺美里、trf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle with t、globeなど数多のアーティストに楽曲を提供してきた“歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく公演、その名も『小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-』。会場は、2022年11月27日Bunkamuraオーチャードホール、2022年12月9日兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて、プレミアムな2公演となる。

 指揮・オーケストラ編曲を務めるのは、小室哲哉と同い年で共通の音楽観を持つピアニスト、指揮者、作編曲家として幅広く活動する藤原いくろう。小室はステージ上でピアニストとしても楽団に参加し、さらに、オーケストレーションを彩るゲスト・ボーカルも迎えるという。本番へ向けて、都内某所で作戦会議中の小室と藤原に突撃して、どんな選曲や内容になりそうかを聞いてみた。

 小室哲哉がオーケストラ、そして自らからの作品を振り返る貴重なる1万4千字インタビュー。後半パートをお届けしよう。(Text: ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) / Photo: 辰巳隆二)

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今回小室さんということもあり、
こんなにも誰もが知るヒット曲ばかりのオーケストラ公演というのも珍しい

――オーケストラが生み出すクラシックの名曲って、実は歴史上語り継がれてきたポップミュージックの最たるものですよね。誰もが知るクラシックの名曲は、長い時間をかけて伝わってきたものなので。

藤原いくろう:そうですね。そして、今回小室さんということもあり、こんなにも誰もが知るヒット曲ばかりのオーケストラ公演というのも珍しいと思います。なので、メロディーを大切にオーケストラでも表現していきたいですね。オーケストラへの編曲という意味では、バッハに通じるようなアレンジもあれば、小室さんのキーワードでもある転調でいうとブラームスを感じる流れもあるかもしれません。あとは、現代音楽のストラヴィンスキーの激しい要素も取り入れてみたいですし。でもやっぱり、小室さんのイメージって僕のなかではモーツァルトなんですよ。ミュージカル『マドモアゼル モーツァルト』のサウンドをやられていたからということだけじゃなく。なので、小室さんに合うようなハイセンスなオーケストラをイメージしています。


――今回、先日までツアーをやられていたTM NETWORK曲もやられるかと思うんですが、「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」以外には、どんな曲が候補にあがりましたか?

小室哲哉:「Get Wild」は、やっぱり挙がっているよね。あと、追加で検討をお願いしているのは「STILL LOVE HER (失われた風景)」。「TIME TO COUNT DOWN」とか。


――「STILL LOVE HER (失われた風景)」は、冬の街の風景にピッタリはまりますし、「TIME TO COUNT DOWN」は、先日のツアー『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days”』でのぴあアリーナMM公演でのデジタルオーケストラなアレンジが、また近未来的なオーケストレーションの凄まじさを感じました。

小室:ありがとう。せっかくなので、まったく違うアプローチというのが面白いかなと思って。「SEVEN DAYS WAR」とかね。あの曲はサビまでが、なんであんなふうになったんだか自分で作っていながらわかってないんですよ。珍しくメジャーセブンというコードから入ってる曲で、なかなか僕のなかでは少ないんです。


――それを今回、紐解く要素となったら面白いですね。

小室:バイオリンの白玉の長いのが入ってくるのは、頭に浮かびますけどね。やったことないんで、弦はまったく。どんなふうになるのかなって。特にTM NETWORKはフルオーケストラを使ったことが1度もない。とにかくシンセサイザーで壮大さやスケール感を出すかっていうミッションだったので。TM NETWORKの場合は、テクノロジーの進化を楽器の進化に合わせて伝えなければというミッションのあるグループだから。


サントラの『天と地と SOUNDTRACK』も本当は、
生のオーケストラでやりたかったんですよ

――それでいて、小室さんはTM NETWORKメジャーデビュー翌年の1985年という、かなり早い段階で『吸血鬼ハンター“D”オリジナル・アニメーション・サウンド・トラック』を生み出されていて。しかも、クラシックの素養を前面に出した作品ながら、ストリングス、ブラス等は生楽器ではなく、シンセサイザーE-mu Emulator IIによる演奏だったんですよね。

小室:この間、聴き直したんですけど、まあまあいいですね。最初からオーケストラ的な表現はやりたかったんだけど、TM NETWORKではかなり我慢したんだなあって。サントラの『天と地と SOUNDTRACK』も本当は、生のオーケストラでやりたかったんですよ。


――それも敢えて、すべてをシンセサイザーで作るという小室さんならではの使命を持ったチャレンジ精神からですよね。しかも、特殊な制作方法をとられていて、作った曲やフレーズを大宮ソニックシティというホール空間で鳴らして、空気に震わせてからシンクラビアに音を取り込むなど実験的なことをされていました。観客がいる無音状態を録音するなど。テクノロジーを活用した実験をされていましたね。

小室:時代劇であっても、シンセサイザーで新しい表現スタイルでの録音にこだわったんですよね。結果、オーケストラ入れて録った方が何十倍も楽だったはずで(苦笑)。


藤原:『天と地と SOUNDTRACK』の曲もぜひやりたいですよね。


小室:やってもらえたら、すごいなあと思いますけど。


藤原:名曲がありすぎるので、そうだ5年計画ぐらいで(苦笑)。


――すぐにボリューム2を企画しないと(笑)。

小室:実際、曲が多いんですよね、本当に。


――しかもヒット曲が多いですからね。

藤原:そういう意味でも、モーツァルトっぽいんですよ。


――曲名見てるだけでテンションが上がりますもんね。安室奈美恵さんソングだけでもシンフォニックコンサート、出来ますよね。TM NETWORKの選曲だけでも観てみたいし。

小室:そうなんですよ。あと、hitomiさんの曲も実はオーケストラが似合うかもしれない。


藤原:いろんな方に書かれているじゃないですか? H Jungle with tでの浜田雅功さんの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」だってそうだし。


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ゲスト・ボーカルの人は歌メインではなくて、楽器のソリスト的な扱いかな

――そういえば、今回ゲスト・ボーカリストを迎えられるという噂を耳にしました。

小室:予定はしています。二部構成で、すべて音楽が演出なので。そんな意味でのオーケストラありきのフィーチャリングがいいなって思います。ただ歌ってもらうばかりだと結局バックバンドになってしまうので。


藤原:曲の中ではゲスト・ボーカルの人は歌メインではなくて、楽器のソリスト的な扱いかなと思っていて。


――なるほどです。楽しみですね。

小室:普段曲作りで大事にしているポイントがあるんです。曲、歌詞、サウンドという僕はだいたい三本の矢じゃないんですけどバランスを考えて曲作りをしていて。曲のメロディーがちょっと弱いかなってときは、歌詞を頑張るみたいな。一人で作っていると自分でバランスを取れるんですよ。結果、歌詞がすごくいいよねって言われる曲になったり。歌詞を大切にすると、アレンジがシンプルになったりして。もちろん全部が優れている曲も何曲かあると思うんですけど。


――それは、とても貴重な発言ですね。ポップミュージックにおける曲作りの極意な気がします。そうやって考えると、曲、歌詞、サウンドが優れている「CAN YOU CELEBRATE?」はやりそうですね。弦の高まる使い方が素晴らしくって。

小室:やりますね。


藤原:「CAN YOU CELEBRATE?」はあえて王道で壮大なオーケストラでいいのかなと思っています。


小室:双璧かはわからないですけど、「I'm proud」もそうだと思います。あれは、オーケストラ・アレンジをハリウッドお任せだったんですけど。ビート感をオーケストラが作ってくれてるというか。四つ打ちがメインではなく、オーケストラによる早いパッセージがリズムのグルーヴを作ってくれている曲だったので。ずいぶんオーケストラに助けられてるんじゃないかな。


藤原:スタジオだと細かいことを詰められるんですけど、ホールで「せーの!」で指揮をやると細かいニュアンスが大変だったりしますね。スタジオだと、フェーダーで上げ下げができるんで。


シンセの場合はそれを全部機械でやるから

小室:そこらへんは、本当に職人技ですよね。取材中にこんな質問していいのかアレなんですけど、僕は指揮の基本をわかってないんですよ。どこが頭でとか、リリースの長さと。シンセでいうアタックの入りとかリリースなど。


藤原:ポップスの方が一番合わないのは、拍の頭ですよね。だいたい振り上げた時にみんなはじめちゃうんですけど、降ろしたここが頭なんです。ステージも広いので。たとえば後ろに居るティンパニーの人の位置で聞くと、実は音がぐちゃぐちゃだったりするんです。よくやってるなと思いますよ。本当に、指揮頼りにみんなやるんで。


小室:それしか頼りがないんですよね。当たり前のように音は届く場所によって早い遅いがあるわけで。


藤原:よく言うんですけど、指揮者には自分だけの頭の中で鳴っているオーケストラと、実際に聞こえているオーケストラのふたつがあるんですよ。オーケストラだけを聞きながら指揮すると、テンポがどんどん遅くなっちゃうんです。


小室:海の波のように、指揮者の方との距離が遠ければ遠いほど遅れて音が聴こえてくるんですね。近い人は早い。数学的な理論で考えたら気が狂う。全部ミリセカンドで違うんでしょうね。


藤原:何十人と並ぶじゃないですか? 5列、6列。前と後ろの人でも、ズレは当然あって。そのズレが音の厚みにもなるんですけど。でも、ホールというのは良く出来ていて、指揮者の位置が一番音のバランスは良いんですね。だから、今回小室さんがピアノを弾く位置はとてもいい環境で。


小室:位相とかはどうなんですか? やっぱり揺れるっていうか。


藤原:それは、もう揺れますね。バイオリンの配置があるじゃないですか。楽曲にもよるんですけど、第一バイオリン、第二バイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバス、というのを、位置を変えて並べる人もいる。わざと位相を出すために。


小室:歌でいうと、(声を重ねる)ダブルでやると変わる人とあんま変わらない人もいるんですけど、僕の声はめちゃくちゃ変わるんです。重ねれば重ねるだけ、ロボットみたいな声になっていくんですよ。


藤原:超アナログなんで、オーケストラは。全部人でやるしかないですね。エコーも人力でやるんです。バイオリンで分けてフレーズを残してくんですよ。“タータータ”って、タの人がいて、ターターって伸ばす人がいて、タタタって伸ばす人がいて。エコーを付けたりします。


――面白いですね。そういうところを気をつけて聞いてみると、深みが増してきそうです。

藤原:シンセの場合はそれを全部機械でやりますからね。


小室:数値で見れるので。


藤原:ある種、人力かデジタルかの違いで、共通点はすごい多いんですよ。


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この間のTM NETWORKのコンサートにも参加していた
パーカッショニスト、小野かほりさん。僕の大学の後輩なんです

――今回のライブでは、パーカッションも入られるという。

藤原:この間のTM NETWORKのコンサートにも参加していたパーカッショニスト、小野かほりさん。僕の大学の後輩なんです。彼女も、音楽大学出身で。だから、指揮にも合わせられるんですよ、彼女は。


――オーケストラにパーカッションが入ることによって、どんな効果が期待できますか?

藤原:オーケストラだけだと、グルーヴを出したい曲とか、テンポ感が後ろに重かったりするんですね。そんなところは、ちょっと彼女に引っ張ってもらって。あとはティンバレスだったり、そういう装飾的な楽器も彼女は色気たっぷりに演奏してくれるので。


小室:そう思います。


――小室さんは、小野かほりさんをどのように評価されていますか?

小室:もうglobeの初期からやってもらっているので。まさに色合いですね。色彩をつけてもらっています。僕の場合は、普段他のリズムがかなり派手なので、その上で色鮮やかにしてもらうイメージで。


――今回、公演タイトル内に“HISTORIA”と入り、小室さん歴代のヒット曲が並んできます。曲名をみていだけでもワクワクする内容になっていますが。何か裏テーマみたいなコンセプトなどあったりするんですか? 先ほど、打ち合わせで「ミュージカルみたいな雰囲気」、なんてちらっと聞こえてきました。

小室:実はちゃんとクラシックのコンサートをしっかり観たことがないんですよ。仕事でちょっと観たりはありましたけど。本当の趣味でいうと、どちらかといえばミュージカルの方が好きで。


――アンドリュー・ロイド・ウェバーを敬愛されていますよね。

小室:ロンドンに住んでた頃はミュージカルをよく観てました。入り口と終わり、カーテンコール含めてすごくイメージが沸くんですよね。ちょうど80年代末TM NETWORKの後期へと入るタイミングで。忙しいとはいえ、すごい時間を使えたんですよ。その後、僕が作った「LOVE」という曲があるんですけど、あれは、ミュージカルサイドの要望で「何よりも美しいバラードを!」って言われて。「“何よりも”って、モーツァルトより?」っていうような感じだったと思うんだけど(苦笑)。なんどもやり直したんですよ。でも、すごい時間があったんだろうなって。なのでミュージカルの経験はあるので、見えるんです。でも、オペラだと少し深すぎて、音楽も含めて。


藤原:そうですよね。でも形的には一緒ですからね。一幕、二幕。僕は似た感じで思っているんですけど、歌がないっていう意味では踊りのないバレエのステージのようでもあるのかなって。


小室:うんうん。細かく考えだすと、自分としてしては心配なことが山ほどあるんだけどね。シュミレーションをやっても、やっぱり生のオーケストラとは全然違うと思うので。ピッチとかもそうだなんですけど、いろんなチューニングなどもね。後は、ピアノの力量が追いつくかな、とかもね。


いかに自分がソリストとして主張していけばいいのか?

――そういえば「My Revolution」もやられたりするんですか?

小室:公演タイトルにある“HISTORIA”という意味においては、自分の音楽の歴史上大事な曲だからね。あの曲で作曲っていうことに関してスポットを当ててもらったので。転調を指摘されはじめたのも、あの曲からかもしれない。


――今回こうやって実施するにあって、小室さんからいくろうさんへ質問などあったりしますか?

小室:山ほどあるんで(笑)。僕も楽器の一部にもなるワケなので「いかに自分がソリストとして主張していけばいいのか?」とかね。見え方はもちろん作れるかもしれないんですけど、聴こえ方も含めてどうやっていけばいいのかなって。ちょっとディープ・パープル話に戻りますけど、キーボードのジョン・ロードは、完全にバッハの影響なんですよ。「たしかにハモンドがあるな」とか。あとメタリカが、『ONE』というアルバム作品をフルオーケストラでやってるいんですよ。「ああいう音も合うんだ!」とかね。あとはジミー・ペイジとかの弦の使い方とか。いろんな自分なりのイメージは含ませていて。


――70年代から、ロックの可能性とクラシックの可能性は時に融合して、さらに広がってきたわけですよね。小室さんへの影響も大きいですし、いろんなクリエイターの方々の想像力を刺激してきたのでしょうね。

小室:そんなことを思い出しながら、時間があったらいろいろ聞き直してみたくなって。でも、プログレシブ・ロックっていっても「絶対にオーケストラは使わない!」って決めこんでいた人たちもたくさんいて。ピンクフロイドとかとかジェネシスとか。「絶対に弦は使わない!」、みたいな。こだわりみたいなのを感じるグループもいたと思うし、逆もあってね。


藤原:そういう意味で、オケ使わない人たちはメロトロンなどで弦を表現してましたよね。


小室:僕もずっと、つい最近まで使ってましたけど。今のメロトロンは立ち上がりが早いので。超高速で立ち上がるんですよ。


――音楽好きな小室さんなので、クラシックから広がる音楽トーク、お話が止まらなくなっちゃいますよね。

藤原:小室さんの珠玉の名曲たちをどれだけオーケストラならではの表現ができるか、責任重大だと思っていますので、頑張ります。あと、東京も兵庫も両方来たほうがいいと思います。オーケストラが違うと演奏が変わってくるので、その辺りも楽しんで欲しいですね。


小室:うん、ぜひ楽しみにしていてください!!!



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