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<コラム>決定盤『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』発売、モンスター・バンドのキャリアに迫る
この2022年において、フー・ファイターズが世界最強のロック・バンドのひとつであることに異論はないだろう。1995年のデビュー以来、フー・ファイターズは10枚のオリジナル・アルバムをリリースし、3,200万枚以上のセールスを積み重ねてきた。アルバムのみならず、その強さはシングル単位でも発揮されている。Spotifyを開けば、彼らの多くのナンバーが数億回単位で再生されていることに気づくはずだ。もちろんライブ・バンドとしての実力も桁外れで、ツアーをやればスタジアムやアリーナを埋め、世界中のフェスティバルでヘッドライナーとして伝説的ステージを繰り広げてきた。そんなフー・ファイターズの27年にわたるキャリアを追った決定盤『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』がついにリリースされる。
彼らの歩みは常に順風満帆だったわけではない。伝説のバンド、ニルヴァーナのドラマーだったデイヴ・グロールがフー・ファイターズを始めた時、彼のソングライターとしての素質は未知数だったし、ましてやシンガー、フロントマンとしてバンドを背負って立つ姿など想像など、当時誰も想像できなかったはずだ。しかし、デイヴがほぼ一人で作り上げたデビュー・アルバム『フー・ファイターズ』(1995)は、ポスト・グランジを真っ先に告げる傑作として大ヒットを記録。ニルヴァーナとは一線を画すポップでメロディアスな曲調に早くも彼の個性が発揮されており、その個性はセカンド・アルバム『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』(1997)でさらに開花した。
『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』に同作から「モンキー・レンチ」、「エヴァーロング」、「マイ・ヒーロー」と最多の3曲が収録されているように、混沌を振り切って疾走する高揚感や、シンガロング必至のブリッジ、そして激しくも温かなヒューマニズムに満ちたデイヴのボーカルといったフー・ファイターズのシグネイチャー・サウンドは、『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』で確立されたものだ。それがカート・コバーンの死の衝撃が未だ癒えない90年代後期のUSオルタナティブ・シーンに、ポジティブなモード転換を促すものだったのは言うまでもない。1997年にはドラマーのテイラー・ホーキンスが加入。オリジナル・メンバーのグロール、ネイト・メンデル(B)、そして1999年加入のクリス・シフレット(G)と共に、フー・ファイターズは揺るぎないバンド・フォーマットの確立に成功する。
iPodが発売され、YouTubeやMyspaceのサービスも始まった2000年代は、急速なデジタル化によってポップ・ミュージックの産業構造に大転換がもたらされた時代だった。ギター・ロックも必然的にパラダイム・シフトに直面し、90年代オルタナティブを象徴するバンド達はそれぞれに新機軸を模索し始めた。多くのオルタナ・バンドたちが時代に適合できず、失速していく中で、数少ない成功例となったのがレッド・ホット・チリ・ペッパーズが驚きのポップネスを発揮した『バイ・ザ・ウェイ』(2002)や、グリーン・デイのポリティカルなコンセプト作『アメリカン・イディオット』(2004)といったアルバムだ。そしてフー・ファイターズもまた、傑作『ワン・バイ・ワン』(2002)と共に2000年代の幕を開けた。過去3作と比較するとよりシリアスでヘヴィなロック・アルバムとなった同作は、彼らが新時代のロックのダイナミズムとスタンダードを引き受ける覚悟を決めた瞬間だったと言える。
2010年代以降のフー・ファイターズはアルバム毎に新機軸を打ち出していく、さらに果敢な攻めの時代に突入した。ロウキーなガレージサウンドに立ち返った『ウェイスティング・ライト』(2011)や、アメリカの8つの都市にオマージュを捧げた8曲からなるコンセプト・アルバム『ソニック・ハイウェイズ』(2014)、トランプ政権下のアメリカ社会の混迷を鋭くえぐった『コンクリート・アンド・ゴールド』(2017)など、そのバラエティは多岐にわたる。昨年リリースの最新作『メディスン・アット・ミッドナイト』ではデヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』を彷彿させるダンス・ビートを大胆に取り入れ、ファンを驚かせたのも記憶に新しい。
フー・ファイターズはロックというサウンド・ジャンルの価値が揺れ動き、解体と再構築を繰り返した激動の時代の生き証人であり、ギター・ロックの「王道」が失われた今もなお、道無き道を照らす一筋の光であり続けているバンドだ。また、誰からも慕われるデイヴの誠実な人柄も彼らの大きな魅力の一つだ。彼の元にはレジェンドから若手まで多くのアーティストが自然と集まり、いつしかフー・ファイターズは彼らを繋ぎ、モダン・ロックのハブの役割を果たすようになっていった。『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』は、そんなフー・ファイターズの稀有なる歩みを追体験できるコンピレーションなのだ。
リリース情報
『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』
2022/10/28 RELEASE
SICP-6488 2,640円(tax in.)
歌詞・対訳・解説付き
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