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<コラム>ミューズが語る、野心を取り戻した最新アルバム「バンドのリセットが起ころうとしている」



コラム

Interview&Text:佐藤優太 / Translation:近藤麻美

 2018年の前作『シミュレーション・セオリー』まで6作連続で全英チャート1位を記録する現代のUKを代表するロック・バンド、ミューズが9枚目のスタジオ・アルバム『ウィル・オブ・ザ・ピープル』を8月26日にリリースした。

 『シミュレーション・セオリー』では、シェルバックやティンバランドをもプロデューサーに迎えたシンセ・ロック・サウンドに乗せて、メタ・ヴァース後の世界を思わせるようなSF的世界観を表現した彼ら。だが、新作は一転、パンデミックや戦争、自然環境の破壊、人種間の緊張の高まりなど、この現実社会の問題をテーマにした作品となった。とはいえ、そのサウンドは今まで以上にタイトかつアップリフティング。バンド史上最もギター・ヘヴィな「キル・オア・ビー・キルド」のような曲もあれば、バンドがかねてからリスペクトを公言するクイーンからの影響を強く感じる曲も収録されている。ドラマーで新作のレコーディングの指揮をとったドミニク・ハワードのインタビュー・コメントとともに、その魅力を解説する。

歌詞に表れた、現代社会の不安定性

 「壊されるんだよ、顔を。反逆者のギャングたちにね。」デモ隊のシュプレヒコールを思わせるコーラスが、ミューズ流のグラム・ロック・サウンドの中で映える表題曲「ウィル・オブ・ザ・ピープル」のMVのコンセプトについて、ハワードはこのように語る。「おそらくそれはバンドとしての変化、個人としてのなんらかの進化ということかな。」

 「実はアルバムは“The Great Reset”というタイトルも候補に挙がっていたんだ。そういう意味では、今作は基本に戻ったサウンドなんだよ。特にヘヴィな曲は、余分なものをそぎ落として、前作のようにSF的に誇張されたサウンドとは全く違う。アルバム・アートワークはそれを代表したものだと言える。『ウィル・オブ・ザ・ピープル』のビデオを観てもらえばわかるけど、最後にマスクは破壊されるんだ。アートワークはこのビデオの静止画像を使用した。まだ破壊される前のね。これからバンドのリセットが起ころうとしているという意味なんだよ。」




MUSE - WILL OF THE PEOPLE [Official Music Video]


 ネットの情報に詳しい人ならピンと来ると思うが、“グレート・リセット”とは、ネット上のある種のミームを彷彿とさせるフレーズでもある。国際的なジャーナリズムのプラットフォームであるopenDemocracyは「グレート・リセットは、COVID-19を使って過剰人口を解決し、ワクチンで人類の残りを奴隷にしながら、個人資産を廃止して共産主義の世界秩序を確立するグローバル・エリートの計画」を意味する陰謀論の一種だと説明する。

 もちろんミューズの意図は、この陰謀論を直接的に支持することではない。だが、メンバーは現在の政治や社会の仕組みの抜本的な変化に期待していることを隠すこともない。パンデミックや戦争、あるいは自然環境の破壊といった現代の社会における様々な不安定性を、人々がどのように乗り越えていくのか。そのためのナビゲーションとなりエネルギー源となることが『ウィル・オブ・ザ・ピープル』というアルバムに与えられた“使命”のひとつだ。

 「マット(マシュー・ベラミー)が歌詞を担当しているんだけど、彼が書くべきだと感じた問題に今回も焦点を当てた。彼はいつも歌詞が曲作りにおいて一番難しい作業だと言っているよ。僕らはバンドを始めた頃から、つまり、ティーンエイジャーの頃からいつも先にメロディーができて、そこに歌詞を乗せるようにしている。ヴォーカルを入れずに曲を作って、後から何を感じるかを考えるというような感じだね。アルバムは現代の不安定さを大いに省みていると思う。僕らはアメリカで多くのレコードを制作したけど、やはりアメリカでは社会の分断をよりはっきりと感じる。不安定さへの懸念は(イギリスとは)違うレベルで、外国人としての立場からもはっきりと肌で感じる。パンデミックに限ったことではなくね。その感情がより劇的に歌詞にも表れているんだ。」

 だが、そのようなシリアスなテーマを扱っていても、サウンドはあくまでも力強い。聴いた後に絶望感に打ちひしがれるのではなく、むしろ「やってやろう!」と気持ちを奮い立たせたくなるような作品に仕上がっていることに、ミューズというバンドのプライドのようなものを感じる、と言ったらいささか大袈裟だろうか。「アップリフティングなサウンドであっても、ダークでシリアスな内容の歌詞を載せることはできる。それが音楽の醍醐味だと思う。さっきも言った通り、作曲ではメロディーが先だから、歌詞がそれに影響されることもあるしね。」


掘り返された野心

 新作のレコーディングは2019年の末からスタートしたそうだが、そのあいだの期間にバンドは、彼らの初期音源(『ORIGIN OF MUSE』『Origin of Symmetry: XX Anniversary RemiXX』)をリイシューする仕事も手掛けている。『ウィル・オブ・ザ・ピープル』のバラエティに富んだ、しかしロック・バンドらしいタイトさも感じるサウンドに、それらの経験は影響したのだろうか?

 「(少し考えて)そうだね。リミックスをやるプロセスでは、もともとなかったストリングスを入れたり、パーツを変えたりしたから、昔の曲を掘り起こしたりもした。気づいたのは、僕たちって意外とエクスペリメンタルなことをしてたなあ、ということ(大笑い)。必ずしも商業的なサウンドではなかったけど、ある種の野心的な試みだったね。特にセカンド(『オリジン・オブ・シンメトリー』)は今聴いたら、全然調理されてなくてエクスペリメンタルで、少し変な感じさえした。でも、この感覚こそ忘れちゃいけないんだよね。例えば(新作の)『キル・オア・ビー・キルド』のミドル・セクションのギター・ソロ、僕らは“The Munsters Section(※)”と呼んでいるんだ。つまり『知ったこっちゃねえ!』ってこと(笑)。この曲はそう意味では、昔のエクスペリメンタルだったバンドの側面を思い出させてくれたね。」

※筆者注:『The Munsters』は1960年代のアメリカのシチュエーション・コメディ番組。フランケンシュタインや吸血鬼らで構成されるモンスター一家が、ギャグや風刺を演じる作風で人気を博した。




MUSE - KILL OR BE KILLED [Official Music Video]


 ミューズは紛れもなく21世紀以降、最も成功を収めたロック・バンドのひとつだ。だが、その一方で、彼らのアルバムには常に新しいコンセプトやサウンドを求める野心のようなものが感じられる。それはハワードが力説する実験性の大切さと無関係ではないのかもしれない。

 「だって、ヒット曲を1曲仕上げて、それが上手くいったからってまた同じことをやろうとは思わないよね。前作ではエクスペリメンタルなことをするというワイルドさが少し欠けていたかもしれない。今作ではその野心を取り戻すことができたと思うよ。これは未来の作品作りにも同じことが言えると思うんだ。常により良い曲を作っていきたい。それがバンドのアティテュードだし、そういう意味でも昔の曲を聴くのはいい刺激になったよ。」

 ここ日本でも今年は夏フェスが本格再開し、“パンデミック以降”の時代が着実にスタートしている。ミューズもすでにこの夏、新作の発売に先立っていくつかのフェスやライブに出演。そして、アルバムを引っ提げた待望のツアーが9月にヨーロッパからスタートする。

 とはいえ、新作の制作を後押しした爆発的な創作のエネルギーは、まだまだ費えることはないようだ。「次のアルバムまでに3~4年かけるのではなく、常に作品作りには取り組んでいこうと思っている。ロサンゼルスにスタジオを所有しているから、いつでもやりたいときにレコーディングできる環境があるからね。ツアーが終わって、少し休暇を取ったとしても、すぐに次作に取り掛かる準備は常にできるんだ。」

 ハワードは日本のファンへも「もう長いこと会えていないのは本当に残念だ。日本のファンはいつもクールな経験や素晴らしいエナジーを与えてくれる」とメッセージを送る。『ウィル・オブ・ザ・ピープル』を聴くことは、不安定で先の読めない時代における“旅”の始まりを感じるような経験だが、その次を感じるライヴ・ツアーは、案外すぐ近くに迫っているのかもしれない。そんなふうに自然と未来へ視線を向けたくなるような、力強い高揚感のあるロック・アルバムだ。

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ミューズ「ウィル・オブ・ザ・ピープル」

ウィル・オブ・ザ・ピープル

2022/08/26 RELEASE
SICX-30148 ¥ 2,640(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ウィル・オブ・ザ・ピープル
  2. 02.コンプライアンス
  3. 03.リベレイション
  4. 04.ウォント・スタンド・ダウン
  5. 05.ゴースツ(ハウ・キャン・アイ・ムーヴ・オン)
  6. 06.ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・イッツ・ハロウィーン
  7. 07.キル・オア・ビー・キルド
  8. 08.ヴェローナ
  9. 09.ユーフォリア
  10. 10.ウィ・アー・ファッキング・ファックト

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