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<コラム>泰葉「フライディ・チャイナタウン」を筆頭に、今年もシティポップが海外でブレイク(執筆:栗本斉)



コラム

 ここ数年、シティポップがブームと言われ続けて久しいが、2022年に入ってからもその勢いはとどまるどころか、ますます加速しているように思われる。ラジオやテレビ、ウェブなどにおけるシティポップ特集の番組や記事は連日のように公開されているし、関連書籍の出版も相次いでいる。そして、アナログ、CDともにリイシュー企画も盛んだ。

 こういったムーヴメントの発端を話し出すと長くなるが、間違いなくインターネットカルチャーの賜物と言っていいだろう。もともとはヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクといったアンダーグラウンドのクラブ・ミュージックとしてインターネット上で“再発見”され始めたのがきっかけだが、そこからYouTubeに違法アップロードされた音源が続々と世界中でブレイク。さらにはTikTokなどのSNSで使われる頻度が高くなっていき、“ジャパニーズ・シティポップ”という大きなトレンドに繋がっていったのだ。


 このムーヴメントからヒットした楽曲の代表的な存在が、竹内まりや「プラスティック・ラヴ」や松原みき「真夜中ドア~Stay with me」などだが、これらの楽曲に追い付け追い越せとばかり、続々と往年のシティポップ・チューンがリール動画での使用に伴って国内外のリスナーが急増している。代表的なものを挙げると、大貫妙子「4:00A.M.」、濱田金吾「街のドルフィン」、杏里「Remember Summer Days」などがある。そして、今年に入って大きく話題になった楽曲といえば、やはり泰葉の「フライディ・チャイナタウン」だろう。

 「フライディ・チャイナタウン」は、泰葉が1981年に発表したデビュー・シングルである。ピアノを弾き語りするのが売りの泰葉は、どこか八神純子を思わせるスタイルで話題を呼んだパワフルな歌い口が特徴のシンガー・ソングライターだ。同年に発表したデビュー・アルバム『TRANSIT』を聴くとよくわかるが、当時のビリー・ジョエルをはじめとするシンガーやウェストコースト・ロックの影響が色濃く、ソングライティングの能力も非常に高い実力派として評価されるべきだが、タレント的なイメージもあって過小評価されてきた感は否めない。よって、SNSの力とはいえ、ようやく真っ当に認められたと言ってもいいのではないだろうか。荒木とよひさによる少々トリッキーな歌詞や、井上鑑が手掛けたファンク・テイストの硬派なアレンジなどは今聴いても斬新だし、なにより伸びやかなメロディを歌い上げる泰葉の歌唱力は見事だ。


 TikTokでは、他の楽曲同様のダンス動画はもちろんだが、アニメ『HUNTER×HUNTER』の登場人物であるキルアの声に似ているということでも話題となり、よりキルアの声に近付けるようピッチを下げたヴァージョンがアップされていたりもする。こういった現象は、これまでにない形と言ってもいいだろう。他にもフューチャーファンクのクリエイター、EVADE FROM 宇宙やAests、そして日本でも大人気のNight Tempoなどによるイリーガルなリミックスも入り混じり、混沌としながらも「フライディ・チャイナタウン」の話題作りの底上げとなっているのだ。

@mets_wife #greenscreen BRO IT REALLY DO BE SOUNDING LIKE KILLUA #killua #killuazoldyck #hxh #hunterxhunter #anime ♬ Fly-day Chinatown - 泰葉

@luv.jean I modified the pitch to sound like him lol | its a little off beat tho #killua #foryoupage #hunterxhunter #hxh ♬ Killua singing - lyn

 そんな中、ついに「フライディ・チャイナタウン」はオフィシャルのリリックビデオがYouTubeにアップされた。アニメの静止画とグローバル対応の歌詞の表示という非常にシンプルな作りのものだが、泰葉本人の映像やジャケ写を使用していないことがかえって今っぽい。コメント欄に「公式が需要をしっかり理解している」なんて書き込みがあるのも納得。5月25日に公開され、2カ月弱ですでに78万回を超えているのはなかなか大したものだ。同時にこの曲はストリーミング配信も解禁されており、Spotifyの再生回数を見ると、こちらもすでに50万回を超えている。後追いとはいえ、しっかりとオフィシャルでフォロー施策を行っているのは非常に重要だと言える。

 6月29日には、彼女の4枚のアルバムがストリーミング配信され、泰葉の音楽にアクセスしやすくなったのも嬉しい。同時に、CDも再発されているのは、フィジカルを好むリアルタイム世代への目配りもされているということだろう。しかも、「フライディ・チャイナタウン」の7インチ・シングルと、アルバム『TRANSIT』はアナログでのリイシューが行われているのもこういったトレンドをしっかりとレーベルサイドがキャッチしていることの表れでもある。

 今回ユニバーサルミュージックからリリースされた<CITY POP Selections>は、泰葉に象徴されるように、現在進行形のシティポップ・ムーヴメントをダイレクトに反映したリイシュー企画と言えるだろう。オリジナルのアナログ盤が高騰している大橋純子『MAGICAL 大橋純子の世界III』(1984年)や、濱田金吾『Heart Cocktail』(1985年)などの他、王道の山本達彦やハイ・ファイ・セットによる各種名盤から、マニア受けする西郡よう子『MY NAME IS YOKO』(1980年)や古井戸『SIDE BY SIDE』(1978年)までもがラインアップされており、シティポップ初心者から上級者まで納得できるセレクトになっている。

 しかも、このリイシュー企画は年内にかけて続々と行われ、合計100作品がリリースされるそうだ。ちなみに8月31日に予定されている第二弾では、中原めいこやセンチメンタル・シティ・ロマンスから、風見りつ子や東京Qチャンネルまで幅広いラインナップが発表されている。しかも同時に、中原めいこの名盤『2時までのシンデレラ -FRIDAY MAGIC-』(1982年)のアナログ盤もリイシューされる。このアルバムに収められた「FANTASY」もSNSを中心に海外でブレイクし始めており、そういった意味でもまさに旬といっていいだろう。

 こういった昨今の動向をチェックしているだけでも、シティポップをめぐる盛り上がりはまだまだ止まりそうにないことがよくわかる。もちろん、SNSなどのブームに乗ることは消費文化に絡めとられるリスクがあるとオールドファンは感じるかもしれないが、ネガティブにとらえずに過去の遺産が再評価されるチャンスだと考えたほうがいいだろう。ただそのためには、「フライディ・チャイナタウン」のように丁寧なリイシューを心がけることが重要ではある。何よりも、当時作られた音楽が世界中で聴かれていることの凄さと驚きを、素直に体感していただきたいと思う。

泰葉「TRANSIT」

TRANSIT

2022/06/29 RELEASE
UPCY-90069 ¥ 1,650(税込)

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Disc01
  1. 01.恋1/2
  2. 02.モーニング・デート
  3. 03.ありきたりな筋書き
  4. 04.Bye-Bye Lover
  5. 05.空中ブランコ
  6. 06.LOVE MAGIC
  7. 07.フライディ・チャイナタウン
  8. 08.ミッドナイト・トレイン
  9. 09.アリスのレストラン
  10. 10.Remember Summertime

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