オフコースの音楽とクラシック

――【オフコース・クラシックス・コンサート】は今回で4年目、いよいよ日本武道館です。1982年6月30日オフコースの武道館10daysの最終日、最後の5人でのライブが行われました。40年後のその日に武道館でコンサートをやるということでファンは感慨深いと思います。

服部隆之：そういうお話をよく耳にするし、この日がファンの方にとって重要な日というのはわかっているのですが、もちろん映像ではあのコンサートを観させていただいて、小田さんが「言葉にできない」で、言葉がつまるシーンも知っていますが、みなさんにとってあのコンサートがどれほどのインパクトがあったのかというのが、いまいち掴めていなくて…。

――結果的に5人でのラストステージでした。

服部：なるほど。それはファンの方にとっては大きな出来事ですし、悲壮感を感じるのはそれを含めて色々な理由があったのですね。

――今回のコンサートの前半（第一部）は、40年前のコンサートと同じ曲順ということをお聞きしました。

服部：そうです。全く同じ曲順で演奏していきます。でもあくまで“オフコース･クラシックス”という世界観の中でやっていますので、原曲のアレンジのままのものもあれば、そうではない曲、インスト曲もあったりしながら、その“色合い”をみなさんに楽しんでいただきたいです。2部ではオフコースの色々な楽曲を、アーティスト同士のコラボやインスト曲を含めてお聴かせします。

――オフコースの曲はインスト曲の「心はなれて」を始め、ストリングスを使っている曲も多いですが、そのアレンジは服部さんから見て、どう感じましたか？

服部：一度小田さんの事務所で譜面を見せていただいたことがあるのですが、譜面の書き方が僕らに近いんです。ロックミュージシャンと、シンフォニーを書く作曲家とは、音楽の作りが全く違います。ロックの人達はノリとかリフの雰囲気で、感覚的に構築していきます。僕達は主題をちゃんと前振りして、それが最後にもう1回出てきたり、そこに至るまで色々と変奏曲をやったり、計画性がより強いというか、そうやって組み立てて一つの曲を作っていきます。交響曲の作曲家はみんなそうです。オフコースの譜面はそれなんです。非常に専門的な音楽的な知識が必要になる譜面でした。だから「これは僕が書くストリングスと一緒だ」って思いました。でも本当にどの曲もメロディがすごく綺麗なんです。狭いところを行ったり来たりしているのではなく、ちゃんと起伏のある美しいメロディなので、オーケストラ栄えします。

――コーラスアレンジも含めて、美しいですよね。

服部：本当に複雑で構築美を感じます（笑）。例えば「Yes-No」もイントロで流れているメロディと、サビのメロディは違う要素のものが最後は重なるということを計算して作っていて、ミュージカル的なセンスを感じます。

――ちなみに服部さんが個人的に好きなオフコースの作品は何ですか？

服部隆之：やっぱり「愛を止めないで」が好きなんですよね。2019年に出した『オフコース･クラシックス』というアルバムの中で、「Yes-No」や｢YES-YES-YES」は原曲に近いアレンジですが、「愛を止めないで」は愛しているが故に、かなりアレンジを変えました。愛が深い故に原曲に忠実なアレンジにしてもよかったのですが、逆方向に行ってしまいました（笑）。ファンの方からあまり怒られなかったからよかったのですが（笑）、さかいゆうさんが歌うということも大きかったです。

――今回もさかいゆうさんを始め、オフコース愛が深いおなじみのシンガーの方が勢揃いしました。

服部隆之：おっしゃるように、ここに出演してくださるシンガーの皆さんのオフコース愛がやっぱりすごいです。特に佐藤竹善さん、さかいゆうさんはオフコースのことを本当によく知っていらっしゃる。それがまず気持ちいいですし、だから色々な無理を聞いてくれるのだと思います（笑）。そして、何より原曲のキーにこだわっていて、キーを下げるなんてことはあり得なくて、小田さん、鈴木（康博）さんが作ったキーで歌うのが、お二人に対してのリスペクトだし、礼儀と思っています。ちょっと下げたら楽なのに、と思うこともありますが頑なに下げないんです。

オーケストラとの“セッション”

――服部さんが何年も続けてやっているシンフォニー×ポップスのコンサートは、この【オフコース･クラシックス】だけですよね？

服部：そうですね、いわゆるシンフォニックを使うポップスのコンサートは、あることはありますが、このコンサートのように毎年やっているものはありません。だからおなじみのシンガーの方達との“呼吸”を楽しめるようになってきたし、毎回発見があります。

――譜面はありつつも服部さんとオーケストラ、シンガーとの規模が大きな“セッション”ですね。

服部：その通りです。オーケストラのメンバーも確実に歌は聴いているので、だからその人の歌い方でやっぱり自然と弾き方も何か変わってしまうんです。だからまさにセッションです。バンド内でやるセッションとはまた意味合いが違うかもしれませんが、音楽的には完全にセッションです。

――今回は日本武道館での一回だけですが、このコンサートはこれまで毎回全国をツアーしてきて、それぞれの都市のオーケストラとの“セッション”も楽しみのひとつでした。

服部：当然オーケストラによって音が全然違って、それぞれに独特の音があります。特に「言葉にできない」は、ほとんどリズムが入っていないので、そのままオーケストラで歌うような、まるでオペラのアリアみたいな感じなので、オーケストラが変わると、もう全然違う雰囲気になります。

――シンガーの方では、今回はCHEMISTRYが初参加です。

服部：川畑（要）さんとは、僕がサウンドプロデュースをやらせていただいたマーチン（鈴木雅之）さんのカバーアルバム『DISCOVER JAPAN II』でご一緒させていただきました。川畑さんも堂珍（嘉邦）さんもハイトーンで、綺麗なファルセットが出るので、オフコースの楽曲を歌うにはピッタリの声だと思います。楽しみです。男性陣は竹善さん、さかいさん、稲垣潤一さん、中川晃教さん、全員高い声が出るシンガーの方ばかりです。

――女性陣は矢井田 瞳さん、辛島美登里さん、Ms.OOJAさん、NOKKOさんが昨年に引き続き今年も参加となります。

服部：去年はスケジュールの問題で、さかいさんが出演できない回があって、さかいさんが歌っていた「愛を止めないで」を、NOKKOさんが歌ってくださいました。少しジャジーなアレンジだったのですが、でも自分のロックシンガーとしての個性を失わずに、肩の力を抜いてフォービートに身を委ねる感じが本当にカッコよくて。なんていうか、きちんと人生の経験を積んだ女性の歌になっていて、唯一無二の世界観でした。これ、前回のインタビューでも言ったのですが、矢井田 瞳さんや辛島美登里さんは、小田さんと『クリスマスの約束』（TBS系）で共演していましたが、僕はこのコンサートの音楽監督なのに、小田さんと一回しかお会いしたことがなくて、一緒に音楽をやったことがないんです(笑)。それなのに、オフコースファンが注目する日に、注目している場所でコンサートを開くという…。

――小田さん、6月3日から3年振りの全国ツアー【明治安田生命 Presents Kazumasa Oda Tour 2022 「こんど、君と」】がスタートします。でもきっと6月30日の日本武道館は気になっていると思います。

服部：1982年6月30日からちょうど40年後の同じ日に同じ場所でコンサートをやるということで、僕もこのシリーズの集大成という気持ちで臨みます。あの伝説のコンサートに対するファンの皆さんの思いというか、気持ちをフォーカスした一夜にしたいと思います。