――まず、中止となってしまった昨年に引き続き、今年も【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL】のイベントアンバサダーに任命された心境から聞かせてください。

堀田茜：昨年は状況が状況でしたので、しょうがないなという思いもありましたが、実際に中止が決定した時は本当に悲しかったですね。でも、私は「これは延期なんだ」とずっと信じてきたので、今年、無事に開催できることがとても嬉しいです。そして、イベントアンバサダーを務めるのは初めての経験ですが、運営の方々がどれだけ頑張ってこの場を作っているのかを感じながら、延期になった分、たくさん楽しみたいですし、去年の分も含めて、素敵な思い出を2倍作れたらいいなと思っています。

――実行委員会は堀田さんが作る個性的なプレイリストを見て、アンバサダーをお願いしたそうです。

堀田：本当ですか!?　私、マニアックというか、へそまがりなんですよね（笑）。でも、アーティストでもない私が、こうして音楽のイベントに携わらせてもらえるのはすごく光栄なことだなと感じています。その分、プレッシャーもありますが、普段はあまり音楽を聞かない方にもこのフェスの存在を知ってもらうきっかけが作れたらいいなと思っています。音楽好き、ジャズ好き、フェス好きから、私を応援してくれている方まで。いろんな方が集まって、自由な交流が生まれる場所になれば素敵だなって思っています。

――堀田さんは普段はどんな音楽を聴いてますか？

堀田：最近はJ-ROCKやシティポップも聴くし、本当になんでも聴きますね。今は、このフェスにちなんだプレイリスト作りに向けて、いろいろとジャズを聴いています。ジャズは玄人好みで、ちょっと手の届かない難しいジャンルっていうイメージがあるのですが、そういうイメージを一回、全部取っ払って、自分が普通に聴いていて、「あ、カッコいいな」と思ったものを見つけようと思っていて。自分の直感だけを信じて、ジャズにも触れ合うことができたらと思ってます。

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――ジャズというジャンルにはあまり触れてなかったですか？

堀田：詳しくはないのですが、両親がブラックミュージックが好きで、その中の1つとして、おうちで流れていることがあったので、なんとなく馴染みはありましたね。小さい頃からピアノとバレエをやっていたので、クラシックには触れてましたし、ヒップホップのダンスもやっていたので、全然違うジャンルを聴くことが多かったのですが、ジャズに関しては、“濃いもの”という第一印象があって……。

――濃いものというのは？

堀田：なんていうんですかね。子供ながらに、他の音楽と比べて、決まりきったものがないなと感じていて。様々な方向からガチャガチャって聴こえてくるけど、まとまっている印象があったのです。あと、私にとってのジャズは、毎週行っていた歯医者さんや、学校帰りに寄っていた本屋さんでよく流れていた音楽なんですよね。どのアーティストだったかはわからないのですが、すごく落ち着くなと思っていて。例えば、私、漫画や雑誌、本を読んでいる時は無音がいいのですが、ジャズは読書の邪魔にならないどころか、相乗効果をもたらしてくれて。ジャズが流れていると、本を読む時間もいい時間になるっていう経験があったので、それもジャズの魅力なのだと思いましたね。

――小さい頃から音楽好きだったんですね。

堀田：そうですね。もともと両親が音楽好きだったので、家でいつも自然に流れていました。でも、私が自発的に音楽を聴くようになったのは4歳上の兄の影響も大きいですね。思春期の時は喧嘩ばかりだったのですが、音楽の話だけは交流を持っていて。喧嘩している最中でも、「この曲いいよ」ってすすめてくれたり、自分の好きな曲だけを録音したMDを交換したり、私の誕生日に私が好きそうな曲を集めたプレイリストを作って、URLを送ってくれたり。「誕生日おめでとう」っていうタイトルとかで。

――優しいですね。

堀田：優しんですよ、兄は。思春期の時でも、“音楽が好き”っていう共通点があったのはよかったです。映画や漫画も兄の影響を受けているので、音楽を好きになったのは、たぶん兄の存在が大きいですね。

――お兄さんと共通で好きだったのはどんな曲でしたか？

堀田：最初に鮮明に覚えているのは、映画『イントゥ・ザ・ワイルド』（2008）ですね。兄におすすめされて見たのですが、私も感銘を受けました。今でも一番好きな映画で、エディ・ヴェダー（パール・ジャム）が作ったサントラが高校生ながらにとても響いたんです。二人で「あのサントラいいよね」って聴いていました。あと、結構、最近のものですが、クリーン・バンディットも好きです。クリーン・バンディットが【サマソニ】に来たときに、私は友達と行ったのですが、私の友達は興味がなくて、一人で見に行ったら、お兄ちゃんに会いました（笑）。お互い【サマソニ】に来ていることも知らなかったのですが、「やっぱりそうだよね！」って、DNAを感じました。

――（笑）。堀田さんは趣味に“音楽フェス”を挙げるほどフェス好きとして有名ですが、音楽フェスを好きになったのはいつ頃からですか？

堀田：大学3年生の時に友達に初めて連れて行ってもらいました。私は海とか山といった自然に触れることも大好きなんですね。特に野外のフェスは、気持ちのいい空気の中で大好きな音楽を聴ける。しかも、お酒を飲みながら、美味しいご飯を食べることもできるし、音楽にノってもいいし、座って聴いていてもいい。それに、その空間には音楽が好きな人たちしかいないっていう……その光景を見た瞬間、雷が走ったんですよね。「なんていう世界があるんだ！」って衝撃を受けたことを今でも覚えています。当時、大学に行きながら仕事もし始めたので、ストレスが溜まっている時期でもあったんですよ。そういう背景もあったと思うのですが、「絶対に来年もくる！」って誓って、家に帰って調べたら、いろんなフェスがあることも知りました。人生のタイミングと、自分が好きなものが全部詰まっている空間が、見事にフィットしていたので、「これはもう、極上の時間だ」って感じたことを鮮明に覚えていますね。

――ちなみ最初に行った野外フェスというのは？

堀田：7年前の【SWEET LOVE SHOWER 2014】だったと思います。サカナクションのステージで、暗い空間にMacのラップトップの画面の明かりがパーと浮かび上がって。その演出に鳥肌が立ちました。夜風も気持ちよくて、月も綺麗に輝いていて。その光景をすごく覚えています。と、同時に、一緒に行った友達のリミッターがパーンって外れちゃって。モッシュみたいなところに入っていって、その子が「イエーイ！」って言いながらぶつかってきて、私も3メートルくらい飛ばされて（笑）。さっきまで普通に喋っていた友達が、音楽に身を任せすぎて、急にそっちに流れて行ってしまったという、驚きがありました。それも、とてもいい思い出なのですが、そのくらい、普段の生活では経験できないようなことも起こるんですよね。理性は保ちながら、本来の素の自分でいられる空間はフェスくらいしかないので、一回行くと、浄化された感じがしますね。

――他にもいろんなフェスに行ってますか？

堀田：そうですね。【ロッキン】【りんご音楽祭】【オハラ ブレイク】【サマソニ】【Greenroom】【ぴあフェス】【ビクターロック祭り】……地方のフェスに行くのも好きですし、行ったことのないフェスに行ってみたいという気持ちもありますね。その中でも特に印象に残っているのは、【りんご音楽祭2019】のUAさんかな。UAさんが歌い始めたら、雨が降ってきたんですよ。その雨が演出に思えるくらいアドレナリンが出ていたのか、濡れるのも気持ちよく感じて。雨がだんだん強くなって、人も少なくなっていったのですが、ご本人がすごく楽しそうに歌っていて、その空間にとても痺れましたね。びしょびしょになったし、次の日に体調も少し悪くなってしまいましたが（笑）、それすらもいい思い出になって、あの時にあのライブが見られてよかったなと思います。【りんご音楽祭】に一緒に行った友達とは、濡れながら「ここにいるって最高だね」って言っていて、一緒に行ってよかったと再確認した出来事でもありました。

――この2年間、ご自身を浄化してくれる音楽フェスに行けてないんですよね。

堀田：そうですね。ライブハウスやイベント会社がなくなってしまうニュースもたくさん目にしましたし、いろんなアーティストさんが「音楽は不要不急なんかじゃない」と発信しているのを見て、本当にもどかしい気持ちになっていましたね……本当に今は早く「ブチ上がりたいな」って思っています（笑）。今まであったフェスに行けなくなってしまって、とてもストレスでした。普通にフェスに行けていたのは奇跡だったんだって感じましたし、これを機に、どれほどの人が、どんな労力や思いをかけて、1つ1つのフェスを作っていたのかも露わになったと思うんです。それを知れたのはいいことだと思いますし、プラスの方向に変えて、今まで行けなかったもどかしい気持ちを全部爆発させる思いで、【LOVE SUPREME FES】を楽しみたいと思います。

――2日間のラインナップを見てどう感じましたか？

堀田：ドリカムさんが出るのがすごく楽しみですね。ドリカムさんのライブに行ったことがなくて。吉田美和さんのソロアルバムの楽曲が中心ということなので、予習していきたいなと思います。しかも、上原ひろみさんとのコラボレーションで、いつもとは全然違うバンドセットが見られるのは、この日のこの場所しかないと思うんですね。いくらその後に映像が出ようが、ライブはやっぱり生もので、その時にしか味わえないものなので、ドリカムさんは一番楽しみにしています。あとは、セルジオ・メンデスやロバート・グラスパーのような大御所もいながら、WONKやSIRUP、kiki vivi lilyのような若手もいるし、AwichやKID FRESINOのようにメジャーですが、アングラ界隈の人もいれば、今をときめくVaundyもいる。本当にいろんなジャンルのアーティストさんが集まっていますよね。音楽は常に自由だし、ジャンルの定義の囚われずに、それぞれが好きなように楽しめる。それが、ある意味“ジャズ”だっていうフェスのコンセプトが見てわかるようなラインナップだなと思いました。

――ライブに行ったことのあるアーティストや聴いてたアーティストはいますか？

堀田：セルジオ・メンデスは小さい頃から家でかかっていて、両親も好きだったので、生で見られるのがとても楽しみですね。しかも、野外でお酒も飲める（笑）。両親に伝えたら、「いいな〜」って羨ましがられました。Awichさんはライブに行ったことがあります。まさにディーヴァというか、ステージに立った瞬間に痺れるくらいの圧倒的な存在感を感じました。しかも、今回はSOILさんのステージで、WONKの長塚さんやSKY-HIと一緒にやるっていう。どういうステージになるのか、このセッションも楽しみですね。あとは、WONKさんもBLUE NOTE TOKYOのライブに行ったことがあって。同世代で、あそこまで自分たちの好きな音楽をマスに偏らずに貫いている姿勢がすごく好きです。チョーキューメイも最近、知りました。

――やっぱりマニアックですよね。チョーキューメイを知ってるのはかなり早耳です。

堀田：他のバンドとは一線を画していて、とても良いんですよ。ジャズっぽさもあるロックで不思議な感じがするし、他にはあんまりないバンドだなって思っています。kiki viviも、iriさんをはじめ、いろんな人とコラボしている曲を聞いてるので気になっていますね。

――当日はどう過ごしますか？

堀田：アンバサダーという立場上、そんなに「イエーイ！」とはできないですけど、ハメを外しすぎることなく楽しみたいですね。本当に私にとっては、待ちに待った日なんです。ずっと焦らされていたんですよ。満を辞して、しっかりとした体制で開催されるのは本当にありがたいことだと感じていますし、自由に過ごしたいですね。眠かったら寝てもいいし、お腹が空いたら食べに行ってもいいし。でも、寝ている時も、食べている時も、そこに音楽があったら、極上の空間だと思います。自分がその時にしたいと思ったことを直観的にできる自由な空間になると思うので、そういうふうに楽しめたらいいなと思います……と言っても、私は見たいアーティストさんがいっぱいいるので、休まずに過ごすと思います。また、いち観客としてしかフェスに行ったことがなかったので、アンバサダーという視点で参加できる経験も貴重だなと思っています。裏側も少し見られると思うので、どれだけの人が、どれだけ頑張って作っているのかも自分の記憶にちゃんと残しながら、思う存分に楽しみたいと思います。

――最後に会場に足を運ぶお客さんにメッセージをお願いします。

堀田：皆さん、待ちに待ったジャズフェスがようやく開催されます！　2年連続の延期を経て、ラインナップは変わりましたが、こうなるべくしてなった最高のラインナップになったと思います。ジャズが好きな方、ジャズは聴かないけど、お目当てのアーティストがいる方、野外フェスが好きな方……本当にみんなが自由に音楽を楽しめる場所になると思うので、一緒に楽しみましょう。会場でお会いできることを楽しみにしています。