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<コラム>開催間近【第64回グラミー賞授賞式】注目のノミネーションを解説



コラム

グラミー賞を取り巻く変化

 世界最高峰の音楽の祭典【第64回グラミー賞授賞式】が、日本時間4月4日に開催される。

 グラミー賞とは、アメリカのレコーディング・アカデミーが主催の「アメリカで最も権威ある賞」と言われる音楽賞。優れた作品を創り上げたクリエイターの業績を讃えることを目的に毎年行われる。授賞式においては、賞の行方だけでなく、豪華アーティストによるパフォーマンスも大きな話題となっている。

 グラミー賞では、ポップスからジャズ、クラシックなど様々なジャンルやカテゴリを対象にした全86部門のノミネーションが発表されている。中でも毎年大きな注目を集めるのが<最優秀レコード賞><最優秀楽曲賞><最優秀アルバム賞><最優秀新人賞>の主要4部門。

 ここ数年はグラミー賞のあり方自体も大きく揺れている。レコーディング・アカデミー会員に白人男性が多く、女性や有色人種が少ないことから、候補者や受賞者の選考が白人有利になっているのではないかという批判をたびたび集めてきたのである。昨年には年間を代表するヒット作で評価も高かったアルバム『After Hours』をリリースしたザ・ウィークエンドが受賞どころかノミネートすらされなかったことが物議を醸し、本人も今後のボイコットを宣言。それを受け、レコーディング・アカデミーは今年からこれまで約20人の匿名の業界人で構成された“秘密委員会”による候補者の決定プロセスを撤廃した。今回からは主要4部門のノミネート作品を8から10へと拡大するなど新たな取り組みを打ち出している。

 ノミネートが多くなったことで主要部門の受賞予想は難しくなっているのだが、その中から筆者の見立てで選んだ期待度の高い作品をチェックしていきたい。

 なお、ニュースアプリ『SmartNews』内音楽チャンネルにて、第64回グラミー賞発表の記念企画として、ワーナーミュージック・ジャパン、ユニバーサル ミュージック、ソニー・ミュージックレーベルズの3社協力のもと、豪華ノミネート・アーティストグッズをプレゼントする抽選企画が実施される。詳細は特設ページにて確認できる。

特設ページ:grammy.smartnews-present.jp

注目のノミネーション

 まず今年の“本命”と言えるのが、オリヴィア・ロドリゴだ。2021年1月にリリースしたデビュー曲「drivers license」が“Billboard Hot 100”にて初登場から8週連続1位と彗星のごとく登場した彼女は、5月にリリースされた1stアルバム『Sour』も全米アルバム・チャート“Billboard 200”にて初登場から通算5週の1位と大ヒット。現在19歳のニューカマーながら、まさしく2021年を象徴するアーティストのひとりとなった。



Olivia Rodrigo - drivers license (Official Video)


 オリヴィア・ロドリゴは、グラミー賞の主要4部門すべてにノミネート。2019年にはビリー・アイリッシュが主要4部門を独占し大きなセンセーションを巻き起こしたが、同じく快挙を達成する可能性も大いにありうる。授賞式でのパフォーマンスも決定しており、最も注目を集める存在となることは間違いないだろう。


本命のオリヴィア・ロドリゴ、対抗は…

 “対抗”として挙げられるのが、<最優秀レコード賞><最優秀楽曲賞><最優秀アルバム賞>の主要3部門にノミネートされているドージャ・キャットとリル・ナズ・Xだ。

 ドージャ・キャットは、昨年の「Say So」に続く2年連続の主要部門へのノミネート。昨年の授賞式で見せたSF要素満載のパフォーマンスも大きな話題を集めた。2021年4月にリリースした「Kiss Me More Featuring SZA」は全米最高3位、アルバム『Planet Her』は全米最高2位を記録している。アルバムはタイトルに示唆されているように“新たな女性らしさ”の価値観を打ち出すメッセージ性も高く評価されており、<最優秀アルバム賞>の受賞もあるかもしれない。



Doja Cat - Kiss Me More (Official Video) ft. SZA


 リル・ナズ・Xは、2021年3月に全米1位となったシングル「Montero (Call Me By Your Name)」をリリースし、9月にリリースされた初のアルバム『Montero』は全米2位を記録。ちなみに“Montero”とはリル・ナズ・Xの本名である。

 2018年12月にリリースした初のオリジナル・ソング「Old Town Road」がTikTokをきっかけに大ブームとなり、“Billboard Hot 100”で最長記録となる19週連続1位を達成と大きな成功を収めたリル・ナズ・X。話題性が先行したため、当初はいわゆる“一発屋”のように見られることも少なくなかったが、アルバム『Montero』はそのアーティストとしての評価を高めるきっかけになった一枚だ。2019年6月に同性愛者であることを公表したリル・ナズ・Xは、作品でも自身の苦悩や欲望を赤裸々に表現。アルバム収録曲の「Industry Baby」ではラッパーのジャック・ハーロウをフィーチャリングしているが、授賞式にもジャック・ハーロウと共に出演が決定。過激なパフォーマンスにも注目だ。



Lil Nas X, Jack Harlow - INDUSTRY BABY (Official Video)


 ここからはそれぞれの部門の注目ノミネート作品も紹介していきたい。

 アーティストやプロデューサーなど楽曲制作者に与えられる<最優秀レコード賞>で受賞が期待されるのはシルク・ソニック。共にグラミー賞の受賞者でもあるブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるスーパー・プロジェクトだ。2021年3月にリリースしたシングル「Leave The Door Open」は全米1位を記録。70年代ソウルへの憧れをストレートに表現した楽曲で、巧みな演奏と色気ある歌声のクオリティは申し分なしだ。この曲は作詞作曲者に与えられる<最優秀楽曲賞>にもノミネートされているので、どちらかの受賞もあるかもしれない。

 その<最優秀楽曲賞>の注目は、実力派シンガー・ソングライターのブランディ・カーライル。アリシア・キーズとの共作「A Beautiful Noise」、そして2021年10月にリリースされたばかりのアルバム『In These Silent Days』に収録されている「Right On Time」の2作品がノミネートされている。



Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic - Leave the Door Open [Official Video]


Alicia Keys, Brandi Carlile - A Beautiful Noise (Official Video)


Brandi Carlile - Right On Time (Official Video)


 日本では馴染みがない人も多いが、アメリカにて深く愛され続けている音楽ジャンルが“アメリカーナ”。カントリー、フォーク、ブルースなどに源流を持つアメリカのルーツ・ミュージックだ。前作アルバム『By The Way, I Forgive You』が<最優秀アメリカーナ・アルバム>を受賞したブランディ・カーライルは、現在のシーンを代表する存在のひとり。授賞式でのパフォーマンスも決定している。グラミー賞はカントリーやアメリカーナの根強い存在感を感じさせてくれる場所でもあり、そうした観点から授賞式に注目するのも面白い。


アルバム賞、新人賞も要注目

 <最優秀アルバム賞>には、イェ(カニエ・ウェスト)の『Donda』がノミネート。プロデューサーとして関わったリル・ナズ・Xの『Montero』も含めてこの部門に2枚の作品がノミネートされている。これまでのキャリアにおいて、カニエ・ウェストは主要部門にたびたびノミネートされるも受賞は逃してきた。ヒップホップ楽曲が主要部門を受賞したのは2019年のチャイルディッシュ・ガンビーノによる「This Is America」が初めてだったが、アルバム賞でヒップホップ作品が受賞したことはいまだないので、そういった点も注目だ。ただ、残念ながら授賞式で予定されていたパフォーマンスは直前で中止になったと報じられている。

 <最優秀新人賞>の注目はグラス・アニマルズだ。2010年にイギリスのオックスフォードで結成され、2012年にデビューした4人組。“新人”と言うよりもむしろ長く地道な活動を続けてきたバンドなのだが、2020年6月にリリースした「Heat Waves」で一躍ブレイク。同曲は今も記録的なロング・ヒットとなっている。3月12日付の”Billboard HOT 100”では、リリースから1年9か月を経て首位に到達。初登場から59週のランクインを経て首位を獲得という歴代最長記録を更新した。



Kanye West - Come to Life (Official Video)


Glass Animals - Heat Waves (Official Video)


 他にも<最優秀新人賞>には、ジャスティン・ビーバーとコラボした「STAY」が“Billboard Hot 100”で通算7週1位を獲得したオーストラリア出身の18歳、ザ・キッド・ラロイなどフレッシュな面々がノミネートされている。

 また、授賞式でのパフォーマンスも決まっているBTSは、米ビルボード・ソング・チャート“Billboard Hot 100”にて7週連続1位を記録した大ヒット曲「Butter」で<ベスト・ポップデュオ/グループパフォーマンス賞>にノミネート。昨年の「Dynamite」に続く2年連続のノミネートとなり、初の受賞となるか注目を集めている。



The Kid LAROI, Justin Bieber - STAY (Official Video)


BTS 'Butter' Official MV


 BTSは、グラミー賞と並びアメリカの3大音楽賞とされるビルボード・ミュージック・アワードでは4部門受賞、アメリカン・ミュージック・アワードでは3部門受賞と大きな成果を残している。ただし、ヒット・チャートの成績をもとにしたビルボード・ミュージック・アワード、ファン投票によって受賞者が選ばれるアメリカン・ミュージック・アワードと違い、グラミー賞はミュージシャンやプロデューサー、エンジニアなど音楽業界関係者で構成されるレコーディング・アカデミーの会員の投票で受賞者が決まるのが特徴だ。BTSのメンバー自身もグラミー賞受賞を目標に公言している。

 今年の受賞は誰か。そして授賞式ではどんなパフォーマンスが繰り広げられるか。注目したい。

Text by 柴那典

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