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<インタビュー>中村正人も期待する日本初上陸フェス【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2022】の見どころ
2013年から英イースト・サセックスで開催されてきたヨーロッパ最大規模の野外ジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL】が5月14日・15日に埼玉・秩父ミューズパークで開催される。国内外の豪華アーティストが集うこの初上陸フェスの目玉のひとつはDREAMS COME TRUEと上原ひろみの共演だろう。世界の上原ひろみと日本を代表するシンガー・吉田美和が繰り広げるステージで「何かスゴイものが生まれそう」な気配がするのは、否めない。
それを誰よりも間近で体験することになる当の中村正人は、当日どのような気持ちで挑むのだろうか。ジャズを愛する中村が考えるジャズフェスとは。
――日本で初めて開催される新世代ジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2022】への出演を決められた経緯から聞かせてください。
中村正人:【グラストンベリー・フェスティバル】などは知っていましたが、イギリスに【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL】のようなオープンなジャズフェスがあることは知らなくて。ユニバーサルミュージックの担当スタッフからの薦めもあって出演させていただくことになりました。
――二つ返事で?
中村:いやいやですね(笑)。60代の僕からすると、ジャズフェスと言えば【Aurex Jazz Festival】(1980〜1983)で、60〜70年代をベースとしたジャズの流れの真っ只中にもいたマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンの後、マイルスの一派が新しい流れを作り出したでしょ。ハービー・ハンコックやチック・コリアやロン・カーターの流れと、当時はクロスオーバーが始まって、フュージョンになっていった。だから、ジャズフェスと聞いて「なぜカシオペアやT-SQUAREがいないの?」って思いましたが、ちゃんと話を聞いてみると、イギリスではシックが出ていたりとか、結構、幅広いアーティストが出てるってことを知って。
あとね、野外はしんどいんですが(笑)、僕たちくらいキャリアが長くなると、偉い・偉くないは別にして、決められたことしかやらなくなってくる。実はそれはあまり良くなくて。特に吉田美和は、本当に歌のために生活の全てを捧げていて、スポーツ選手と一緒で、音楽のために当たり前に私生活を犠牲にしている。だから、仕事でいつもとは違うチャンスを作らないと、なかなか新しい空気を吸えない。(今回の出演には)そういう理由もあるかな。ジャズはこうあるべきっていう概念が今まではあったんですが、僕もオープンな気持ちを持たないといけないし、吉田美和にとっても、いいチャンスだなって思って。それが“いやいや出る”っていうことですね(笑)。僕は、心の狭いジャズファンだから。
――(笑)。中村さんの心の狭いジャズファンの部分も知りたいです。もともとジャズも好きだったんですか?
中村:そうですね。クロスオーバー/フュージョンが一番流行った時代……70年代の半ばくらいかな。元々はソウルミュージックが好きで、マーヴィン・ゲイのバック・ミュージシャンのクレジットを見ていて。ただ、当時はクレジットまで書いてあるものが少なかったんだよね。中古レコード屋に行っても、僕が尊敬してるデヴィッド・T.ウォーカー(Gt)の名前が全然見つからない。でも、音を聴くと、間違いなく、ジャクソン5のヒットシングル(「ネヴァー・キャン・セイ・グッバイ」「アイ・ウォント・ユー・バック」「ABC」「アイル・ビー・ゼア」などに参加)に入っていたりする。バリー・ホワイトもすごく好きだったし、クルセイダーズのテナーサックス奏者でベーシストでもあるウィルトン・フェルダーも好きでしたね。てっきり同姓同名の違う人だと思っていたら、同一人物だと知ってびっくり。

――(ウィルトンは)ジャクソン5(「アイ・ウォント・ユー・バック」「ABC」「ザ・ラヴ・ユー・セイヴ」)やマーヴィン・ゲイ(「レッツ・ゲット・イット・オン」)でもベースを弾いてました。
中村:そうそう。ジャズ・クルセイダーズからザ・クルセイダーズになっていって、そこでジョー・サンプル(Key)やウェイン・ヘンダーソン(Tb)も知った。そこからミュージシャンに注目し始めて、フュージョンのセッション・ミュージシャンやスタジオ・ミュージシャンからジャズの本流に遡っていった感じ。当時、マイルスはもちろん、ギル・エヴァンスのアレンジが好きで、『死刑台のエレベーター』といったジャズメンがやる映画音楽も大好きだった。どんどん深掘りしていって、「こうじゃないといやだ!」っていうのが強くなっていったんだよね。(スティーヴ・)ガット(Ds)が叩いてないと嫌だとか、(フュージョンバンド)スタッフのドラムもクリス・パーカーまでは許す、とか(笑)。狭い領域で、新参者が来るのがすごく嫌で、最初はマーカス・ミラー(Ba)がすごく嫌だった。「なんでマーカスがデヴィッド・サンボーンやるんだ!?」みたいな。とはいえ、スパイロ・ジャイラもシャカタクも好きだった。
――シャカタクはイージーリスニング扱いされたりもしてました。
中村:そうそう。僕みたいな視野の狭いジャズ/フュージョン・ファンからは敬遠されたけれど、僕は好きだった。今、聴きなおしてみて欲しいよ。すごくいいから。シンセの音色1つにしても、ポップさの中にあるフレーズ1つにしても、やっぱり秀逸だよね。あと、ウェザー・リポートは死ぬほど好きだし、ジャコ(・パストリアス/Ba)も好きだね。イノベーターというか、あの時代には、すでにあった楽器の概念を変えてしまった人たちがいて、今、考えてみると、子供心に、その人たちをもっと評価して欲しいと思ってたんだね。日本は歌謡曲真っ最中だったから、周りは誰も知らなくて。フュージョンは一時期、報われなかったけれど、細野(晴臣)さんや大村憲司さん、ポンタさん(村上“ポンタ”秀一)たちが高中(正義)さんと共演したり、後にSMAPがそういう方々といいアルバムを作ったりしたよね。
――吉田美和さんのソロアルバム『beauty and harmony』では、デヴィッド・T.ウォーカーをはじめとしたフュージョン・アーティストたちと共演されてますね。
中村:マリーナ・ショウの『フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ?』という素晴らしいアルバムがあって。あれはジャズというよりも、ヴォーカル・アルバムだね。究極の芸達者が歌ものでひけらかす演奏が大好きでさ。ジョニ・ミッチェルのアルバムに参加したパット・メセニーやジャコ、マイケル・ブレッカー、ドン・アライアスもそう。吉田美和がソロアルバムを作ることになった時、「ドリカムとは別のものを作りたい」って、最初は僕にプロデュースの話は来なかった。でも、吉田が頼みたかったプロデューサーが合わなくて、しょうがなく僕に来て(笑)。どうせ作るなら、マリーナ・ショウのアルバムのメンバーにお願いしようと思って、ピアノだけはスケジュールが合わなくてダメだったけれど、オールスターが集まった。吉田のソロとはいえ、僕の夢を叶えたアルバムかな。
――ちなみにジャズフェスにも行ってましたか?
中村:【Aurex Jazz Festival】には毎年行っていたし、田園調布でやっていた【ライブ・アンダー・ザ・スカイ】やあの時代のジャズフェスには必ず行っていました。後期のジャコのバンドも見ていて。ただコンディションがいい時のジャコをあまり見られてないんだよね。ウェザー・リポートで何回か見たくらい。もっと見たかったし、もっと映像を残しておいてほしかったよね。マイルスも生で見てるし、(パット・)メセニー(Gt)も(アル・)ディ・メオラもラリー・カールトンも見てる。それが全部ジャズかっていうと……ね? テーマがあって、アドリブを楽しむのがジャズだとしたら、それもジャズだったかもしれない。マイルスやコルトレーンの難しいやつがジャズだと思っていた当時の僕の考えもズレてたんだろうね。ジャズは変遷していて、(今回の)ラインナップを見ても、僕が知っている頃のジャズフェスとは程遠い。でも、1つ1つの参加アーティストを勉強させてもらうと、これが今のジャズで、大きな支持を得ているのかと思うと頷ける。
――今のジャズはどう捉えましたか。
中村:あまり知らないんですが、ヒップホップが当たり前にある時代のジャズだなと思っています。日本のアニメやボカロ、ラップやDJも当然にあって。音楽ってそういうものなんだなって思う。そう考えると、今のジャズを定義するのは難しいけれど、楽しくやっていていいなと思う。上手い人たちは、やっぱりジャズが楽しいからやってるんだよね。言い方は悪いけれど、上手じゃないとダメなんだよ。デタラメと上手って境目が難しいね。
――フリージャズも適当に演奏してるわけじゃないですからね。
中村:もちろん誰がどんな演奏をしてもいいんだけれど、そこには表現力が必要だなと思っていて。デッサンが天才的に上手かったピカソが、長年かけてああいう形に至ったのと一緒。音楽ファンとして、デタラメは嫌いだし、そういうのは楽しくない。でも、今回出るアーティストたちはうまくて、自由で、垣根がない。ちょっと悪そうなところもあって、いいじゃない?
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公演情報
【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022】
- 2022年5月14日(土)、5月15日(日)
- 埼玉・秩父ミューズパーク
- <5月14日>
- DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、Chris Coleman、古川昌義、馬場智章/セルジオ・メンデス/SIRUP/Ovall(ゲスト:SIRUP、さかいゆう、佐藤竹善(Sing Like Talking))/aTak ... and more
- <5月15日>
- ロバート・グラスパー/SOIL & “PIMP”SESSIONS(ゲスト:SKY-HI)/Nulbarich/Vaundy/WONK/Answer to Remember(ゲスト:KID FRESINO、ermhoi、Jua、黒田卓也)... and more
- チケット:一般・指定席(前方エリア)1日券16,000円(※5月14日はソールドアウト)、一般・芝生自由1日券13,000円、中学生高校生・芝生自由1日券6,000円、駐車場1日券3,000円(すべて税込)
シャトルバス利用券(往復)料金未定 西武秩父駅⇔会場(約15分) - ※小学生以下は、芝生自由エリアに限り保護者1名に付き1名まで入場可。
- ※駐車券はイープラスのみで販売。
- ※シャトルバス利用券の詳細は追ってお知らせいたします。
関連リンク
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Photos by 辰巳隆二
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