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<インタビュー>蓮沼執太&ユザーンが語る、2人の音楽が形になるまで/最新アルバム『Good News』へ込めた想い



インタビュー

 マルチな才能を持つミュージシャンの蓮沼執太と、ジャンルを超えた活躍を見せるタブラ奏者のユザーン。2つのユニークな個性が交差して生まれる音楽は、想像を超えた面白さに満ちている。今回、3作目となるインストゥルメンタルのアルバム『Good News』を発表し、ビルボ―ドライブにも初登場することが決定した。彼らがどのようにして音楽を生み出しているのか、そしてどのような想いで音楽に向き合っているのかを聞かせてもらった。

必然的かのような2人の出会いと
音楽のはじまり

――そもそもお二人はどういう出会いだったんですか。

ユザーン:最初に会ったのは銭湯です。


――銭湯ですか(笑)。

ユザーン:浴槽の中で一緒になったわけではなく、銭湯でライブがあったんですよ。

蓮沼執太:そのイベントのオーガナイザーが僕の友人だったんで見に行ったら、ユザーンが脱衣所のロッカーの上でタブラを叩いてました。


――じゃあ、その時にビビッときたとか。

蓮沼執太:いや、まだきてないですね。

ユザーン:そうなの? まあ、その時は少し挨拶をしたぐらいでしたからね。


――それがなぜ共演するまでに至ったんですか。

ユザーン:その翌々年くらいに、何らかの形で出演する予定だけど共演者が決まってないイベントがあったんです。誰か一緒に演奏してくれる人いないかな、と思いながら渋谷を歩いていたら、前から執太が歩いてきたのがきっかけ。


――そんな流れで共演者を決めるんですか(笑)。

ユザーン:うん、「スケジュール空いてる?」って聞いたら……。

蓮沼執太:「空いてるけど」って。

ユザーン:環ROYも誘って3人でやることになってリハーサルスタジオに入ったんですが、1音出した瞬間に「あ、これは何もやらなくても大丈夫だな」って思って。

蓮沼執太:リハ、本当に一瞬で終了したんです。

ユザーン:3~4時間スタジオを取っていたのに、10分で片付けを始めた。


――要するに、ライブもいわゆるインプロヴィゼーションってことですよね。

ユザーン:はい、その日は完全に即興演奏でした。フリースタイルラップのバックトラックが即興の生演奏、というのは面白い試みだなと思って。

蓮沼執太:でも僕はその頃、まだ即興とかセッションとかってほとんどやったことがなくて。ただ、レコーディングのときはあまり考えず即興的に音を出してみることが多いんですよ。なので、インプロライブにもそんなに抵抗なく入っていくことができました。


――その後の展開は。

ユザーン:その3人でのライブをしばらく続けていったという感じです。

蓮沼執太:フェスなんかにもいろいろ出させてもらったよね。


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――なぜその組み合わせだったんですか。

ユザーン:相性の良さを感じていたんでしょうね。あと、即興ユニットだとリハーサルをしなくていいっていうのも大きいかも。

蓮沼執太:それはある(笑)。


――2人でレコーディングしようと思ったきっかけは。

ユザーン:J-WAVEで放送されている坂本龍一さんの番組で代理ナビゲーターを務めていたことがあるんですが、番組の企画で誰かとセッションすることになって。それで執太に来てもらって、3曲くらいセッションしたんです。2人だけで演奏したのはそれが初めてかな。すごく楽しかった印象があります。

蓮沼執太:楽しかったね。

ユザーン:そのすぐ後に『マンガをはみ出した男~赤塚不二夫』というドキュメンタリー映画の映画音楽を作って欲しいという依頼があったので、執太と一緒にやりたいなと思って声をかけました。


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――その時はどのように作っていったんですか。

蓮沼執太:映画のラフな映像を観ながら、どこのシークエンスに音楽がほしいっていうオーダーを踏まえてどんどん作っていきました。2人で同時に演奏していくので、まさにライブのような感覚でしたね。で、その音源を持ち帰ってから編集を加えて完成させました。


――その時の作り方の感覚は今も変わらないですか。

蓮沼執太:いや、全然違いますね。

ユザーン:サントラは映像ありきだから普段の作り方とはまったく違うし、今作の中でも曲によって制作の手順はそれぞれです。


――最初のアルバムが映画のサウンドトラックで、2作目の『2 Tone』は坂本龍一さんからデヴェンドラ・バンハートさんまで多くのゲストを交えたかなり賑やかなアルバムでしたよね。

蓮沼執太:『2 Tone』は、2人で一緒に作った作品が溜まってきたからまとめようっていう感じでしたね。結果的にゲストの方々も多くて好きなアルバムになりました。


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    共通認識のようなものが言葉を交わさずともできていく
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共通認識のようなものが言葉を交わさずともできていく

――3作目となる『GOOD NEWS』は、前作に比べると非常にシンプルですね。

ユザーン:インストのアルバムにしようと決めたのが大きいかもしれません。

蓮沼執太:今回はゲストが1人だけだけど、今までのユザーンの作品はいろんなゲストを迎えたものが多いよね。

ユザーン:だって太鼓奏者だからね。誰かに参加してもらわないと、ただただ太鼓が鳴り続ける曲ばっかりになっちゃう。

蓮沼執太:それも聴いてみたいけどね(笑)。



――最初からインスト・アルバムにしようと思っていたんですか。

ユザーン:何曲か歌モノも作っていたんですけど、なんとなくそういう気分じゃなくなってきて。制作の途中で、もう全曲インストにしようってことになりました。


――気分じゃないっていうのは?

ユザーン:アルバムを続けて聴いたとき、歌が入ることで少し没入感が削がれる気がしたんですよね。あくまでも「このアルバムに関しては」ってことで、基本的に歌は大好きなんですけど。


――今回はトータリティーを大事にしたんですね。

ユザーン:そうですね。『2 Tone』は執太も含めて3人のヴォーカリストが参加していることもあり、楽曲ごとの変化がわかりやすいアルバムだったかと思います。でも、実は今作もバラエティに富んだ作品なんですよ。歌こそ入っていませんが、本当に多様なカラーの曲がある。もしかすると、歌が入ることでその色彩が逆に見えにくくなるような気がしたのかもしれません。


――そういうことはお互いに話し合うんですか。

蓮沼執太:まったくしないですね。

ユザーン:そういえば、そんな話はしたことないね。

蓮沼執太:でも一緒に作業をしていると、やっぱり共通認識のようなものが言葉を交わさずともできていくんだと思いますよ。


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――曲はお互いに持ち寄るのでしょうか。

ユザーン:何かのタイミングで一緒に作った曲がいくつか溜まってきた段階で、それらを収録することを前提に置いてアルバム全体のバランスを考えつつ作っていく感じです。

蓮沼執太:なにかコンセプトが前提にあって「どうしてもこういう作品を作りたい」ということではないんです。『2 Tone』の時と同じように、お互いの活動の中で生まれてきた楽曲を中心にしてアルバムにまとめていくという作業ですね。たとえばタイトル曲の「Good News」ですが、もともとはクライアントから依頼されて作った1分程度の曲で。そこにシンセやタブラを加えたり、インドのサロード奏者にメロディーを弾いてもらったりという再構成をして今の形になっています。

ユザーン:アルバム最後に収録されている「Door」は、インドで下宿していた部屋のドアの音を中心に組み立てた曲なんです。立て付けが悪くて変な音がするのが気になってて、じゃあそれを録音して使おうと。

蓮沼執太:本当に、曲によって作り方が全然違うんですよね。




――「Go Around」はテクノ風というか、ダンサブルな楽曲ですね。

蓮沼執太:僕たちの曲では珍しいかもしれないですね。ビートがはっきりしたトラックは、2人ではあまり作っていないから。

ユザーン:ライブで盛り上がりそうな曲があってもいいかなと。でも、実は自分なりのテーマがある曲なんですけどね。最初は20世紀を代表するタブラ奏者アーメド・ジャン・ティラクワのフレーズで、短いブレイクの後に叩いてるのはパンジャブ流派の巨星アララカの曲、その後はアララカの息子であるザキール・フセイン先生から教えてもらったリズム。最後はティラクワの曲を3つのキーのタブラでユニゾンしてリスペクトを表現する、という。

蓮沼執太:わかるわけないでしょ(笑)。

ユザーン:やっぱ伝わんないかな。




――そういう聴き方もできると(笑)。

蓮沼執太:僕もアナログ・シンセとデジタル・シンセを細かく使い分けたりしているんですが、それもきっと誰も気付かない(笑)。


――でも、シンセの音が特徴的な作品だと感じました。曲によっては80年代のアンビエントやニューエイジっぽさもありますよね。例えば「Dawning」とか。

蓮沼執太:もちろん影響を受けていると思います。実際に当時の機材を使ったりもしています。でも、80年代のあの感じを再現したい、ということはないです。どれも感覚的に自分から出てきている音なんですよね。




――「6 Perspective」は、実験的で現代音楽にも近い感覚がありますね。こういうのも、どういうすり合わせをして作るのか不思議でした。

蓮沼執太:何らかのすり合わせが必要だとは特に感じていませんでした。自然にできあがった感じで。

ユザーン:元々は、虫をテーマにしたエキシビションのために作った曲なんですよ。映像主導で出来上がったトラックを、アルバム用に再構成して行く作業が楽しかったです。




――曲によって制作のスタートが違うというのも、バラエティが出た要因かもしれないですね。

ユザーン:そうかもしれません。


――ニューエイジっぽい感じのサウンドでも、タブラの音が入ってくるからどうしてもリズムを意識して聴いてしまいます。「Guess Who」はリズムのカウントができない不思議な曲ですし。

蓮沼執太:何拍子なんだろう!ってなりますよね。

ユザーン:この曲の叩き台は執太が作ったんですけど、たぶん執太は4拍子のつもりで作ってたんじゃないかな。でも、途中で鳴っていた5拍子っぽいフレーズにどうしても僕の気持ちが引っ張られてしまって。全部録り直して、4拍子と5拍子が同時に鳴り続ける曲にしました。

蓮沼執太:どっちに耳を持っていくかで感じ方が違う、面白い作品に仕上がったと思います。




――「Mister D」にはトランペットみたいな音が入っていますね。

蓮沼執太:これはユザーンが吹いたアルトホルンです。

ユザーン:トランペットよりも一回り大きくて、マーチングバンドなんかでよく使う楽器。「Mister D」はもともとヴォーカル曲だったんですよ。歌を抜くだけでも面白かったんですが、やっぱりメロディーの要素を足したくなって吹きました。

蓮沼執太:全部の曲が出揃ってからユザーンの家で合宿したんですけど、このアルトホルンはそのときに録ったテイクです。




――合宿っていいですね。

ユザーン:けっこう近くに住んでるのに、なんで合宿なんかしたんだっけ。

蓮沼執太:こつこつと4年もかけて制作してきたからこそ、最後はまとめて一気にやっちゃいたかったんだろうね(笑)。


――ユザーンさんが蓮沼さんと共演する時は、他のミュージシャンとの共演とスタンスは違うんですか。

ユザーン:たとえばバンドサウンドの中で演奏するときは、自分の役割はシンセに近いと思っているんです。でも執太と演奏するときはすでにシンセを執太が鳴らしているし、ビートにも上物にも回れる自由さがあります。


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――普段はシンセという感覚なんですね。それは面白い。

蓮沼執太:タブラは確かに打楽器ではあるけれど、音色にサイン派のような透明感があるし、おまけにユザーンはキーを変えた楽器を並べてハーモニーやメロディーも演奏するから、たしかに鍵盤楽器のような雰囲気がありますね。


――最後の仕上げは蓮沼さんが担当なんですか。

ユザーン:今回はミックスを最後まで一緒にやりましたね。さっき言っていた合宿で、2日間かけて。


――その時も話し合うことはなかったんでしょうか。

蓮沼執太:もちろん細かいところで意見は言い合うんですが、お互いが良しとする方向性が極端に割れることはないので順調に進んでいきますよ。


――完成した『Good News』、どんな印象になりましたか。

蓮沼執太:国内外問わず、時間軸を遡って考えても、こういう作品はあんまりないんじゃないかな、と思います。満足できる内容になったので、ひとりでも多くの人に聴いてみてほしいです。

ユザーン:僕もすごく気に入っているけど、僕が好きな音楽ってそんなに世の中に広まらないことが多いんですよね(笑)。でも、ゆっくり伝わっていったら嬉しいなと思ってます。

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――聴いていてとても気持ちいいアルバムだと思います。ライブも決まりましたが、どういう内容になるんでしょうか。

ユザーン:ライブを前提に作ったアルバムではないので、なんとか演奏できるようにアレンジを考えていく必要がありますね。

蓮沼執太:アルバムをそのまま再現するのではなく、よりフィジカルな方向性で曲を再定義していくことになると思います。ライブならではの形というか。


――今回はリハーサルはやりますか(笑)。

蓮沼執太:もちろんやりますよ。というか、いつもやってますって(笑)。


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