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<コラム>優里1stアルバム『壱』――日常を切り取り、“あなた”を歌う 広がる共感の連鎖
聴く音楽、見る音楽、使う音楽
若い世代にとっての音楽が“聴く”ものからYouTubeで“見る”ものになり、さらにTikTokで“使われる”ものとなった現代で、“聴く”“見る”“使われる”の全方位で最も成功したアーティストは、男性シンガー・ソングライターの優里であると断言していいだろう。
今更の説明は不要かもしれないが、“聴く”“見る”“使われる”という観点からひとつずつ振り返ってみたいと思う。アコースティック・ギターを抱えた弾き語りを中心に活動を始めた優里は、2019年6月にInstagramやTwitter、TikTokに歌唱動画をアップし、SNS上での活動を開始した。同年12月にインディーズから配信限定でリリースした初のオリジナル曲「かくれんぼ」は、iTunes総合チャート4位など、各配信サイトで上位にランクイン。恋人が突然去ってしまった部屋に取り残された男性のやるせない思いに共感が集まり、この失恋ソングを使った弾き語り動画がTikTokなどに多数投稿(使用動画は1万超え!)されるようになり、“かくれんぼ現象”と呼ばれる大ブームを巻き起こした。
“使われる”から“見る”へ。翌年となる2020年7月にはYouTubeでの人気コンテンツ『THE FIRST TAKE』にインディーズながらも初登場を果たし、「かくれんぼ(THE HOME TAKE ver)」が急上昇動画ランキング4位に入り、現在はなんと1,700万再生を突破し、「かくれんぼ」のミュージック・ビデオも3,900万回再生を記録。そんな“かくれんぼ現象”を提げて、2020年8月に優里自身の決意表明を込めた「ピーターパン」でメジャー・デビューを果たし、同年10月には「かくれんぼ」のアフターストーリーとして、部屋を去った女性目線で歌った失恋ソング「ドライフラワー」をリリースした。
優里「かくれんぼ」Official Music Video
優里 『ドライフラワー』 Official Music Video -ディレクターズカットver.-
“見る”から“聴く”に。「2021年を代表する曲は?」と聞かれたら、各ダウンロード・サイト&ストリーミング・サービスなどで48冠を達成した「ドライフラワー」と答えて間違いないだろう。Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャートでは、チャートイン60周目にソロアーティスト初の累計5億回再生を突破。2021年の年間総合ソング・チャート“HOT 100”でも1位となり、ストリーミング・ソング・チャートとダウンロード・ソング・チャートでも1位と合計3冠を達成。さらに“使われる”という点でも、TikTokの急上昇ランキング1位を獲得しただけでなく、2021年の年間カラオケランキングでも1位を獲得。月別では2021年2月から2022年1月まで49週も1位をキープし続けているロング・ヒットを更新中で、若者だけではなく幅広い年齢に歌われていることがわかるだろう。また、「ドライフラワー」のMVは7,000万回再生を突破しており、2回目の出演となった『THE FIRST TAKE』は8,900万回再生超えという、“見る”音楽としても驚異的な数字を叩き出している。
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シンパシーの連鎖
また、彼は楽曲のMVをアップする“シンガーソングライター優里”としてのYouTubeチャンネル『優里 Official YouTube Channel』とは別に、『優里ちゃんねる【公式】』というYouTubeチャンネルも運営しており、登録者数73万人を超える本チャンネルでは“歌ってみた”や“カラオケ対決”のほか、コラボ動画など、YouTuberのような企画にもチャレンジしている。YouTube、TikTok、サブスク、ダウンロードとあらゆるSNSで見事な立ち振る舞いを見せ、“ハイブリット・アーティスト”と称されている優里だが、その根本にはアコースティック・ギターの弾き語りによる歌の力、平凡な日常に材をとるシンガー・ソングライター気質があるのだろう。
2022年1月12日には、待望となる1stアルバム『壱』がリリースされた。前述のバイラル大ヒット曲「かくれんぼ」「ドライフラワー」に加え、1億回再生突破のメジャー・デビュー曲「ピーターパン」、同じく1億回再生を突破した、『優里ちゃんねる』のカメラマンのために書き下ろした曲のセルフカバー「シャッター」、ドラマ『SUPER RICH』の主題歌で、各配信サイトで軒並み1位を獲得し、29冠を達成した最新大ヒット曲「ベテルギウス」など、優里のこれまでの集大成と言える全16曲が収録されている。
新たな恋の到来を微かに告げる「ミズキリ」や甘酸っぱい恋の微風が薫る「夏音」。忘れたいけど忘れたくない、忘れたくないけど忘れてしまいたいような“君”と“僕”の痛みや後悔を描いた「かくれんぼ」「ドライフラワー」「シャッター」。“僕ら”の友情や絆、お互いの夢をテーマにした「ペテルギウス」「インフィニティ」「飛行船」。父や母への感謝の念を込めた卒業ソング「桜晴」や、犬と飼い主の繋がりをテーマに、身の周りの当たり前が当たり前じゃないと気がついたときの後悔を歌にした「レオ」。“あなた”の死に胸を痛め、怒りや悲しみを大声で叫ぶ「かごめ」。
【新曲】『レオ』piano ver.
【新曲】『ミズキリ』piano ver.
そして、“自分とは何者か、自分らしさとは何か?”を問いかける「花鳥風月」「ミザリー」「背中」。“俺”という人称で書かれた歌詞には彼自身の思いが強く込められているだろうが、それらの楽曲にしても、四季のある日本の都市のどこかの<6畳一人>(ミザリー)で暮らす私とよく似た感情を見つけることができるだろう。「ドライフラワー」の女の子は、<嫌いじゃないの>と言いながらも別れを決意し、最後に意を決したように<全部全部 大嫌いだよ>と未練を振り切るかのように歌う。そんな経験はきっと誰にでもあるんじゃないかと思うし、繊細で切なくも、前向きで力強い歌声で語られる様々なショート・ストーリーズの主人公のどれかは、きっとあなたとよく似た人であるはず。“似ている”と感じることのできる“共感”という名の感情。優里の紡ぐ“共感という名の感情” が詰まった、初のアルバム『壱』と優里の歌は、シンパシーの連鎖によって世代も時代も超えて聴き継がれ、歌い継がれていくことになるだろう。
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