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<寄稿>鳥飼茜からクリープハイプへ「その姿で私に、人に自信をください」
クリープハイプの約3年3か月ぶりのフル・アルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』が発売された。バンド史上最多の15曲を収録した本作のほぼ全ての作詞と作曲を、尾崎世界観(Vo. / Gt.)が担当。文豪として活躍の場を広げている彼のその豊富な言葉もそうだが、それらを彩るサウンドまでもが、心情にあわせて都度違って聞こえるように思える。
本作のリリースを記念して、クリープハイプのファンでもあり、尾崎世界観と親交を深める漫画家の鳥飼茜に寄稿を依頼。尾崎と同様に表現のプロでもある彼女が、このアルバムから感じたものとは。
尾崎世界観氏(以下敬称略させてください)を、2度ほど偶然道で見かけたことがある。幸運にも私は彼と連絡先を交換させていただいた後だったので、嬉しさのあまり「いま武蔵小山にいましたよね?」などと連絡したのだが2度ともスルーされた。
尾崎世界観率いるクリープハイプを聴いたのは2012年だったか、彼らがメジャーデビューしてすぐかその直前あたりだった。当時の私は『先生の白い嘘』というレイプを題材にした漫画を始めたところで、こんな漫画やってて良いのかという不安と、言いたい事を言う気持ちよさの間で常に揺れ動いているときだった。そういう時に人から聞いて初めてクリープハイプの曲に触れた。
これだと思った。私のやっていることは間違いではない、そう思えた。
クリープハイプに対する私の印象は、イキりと正直さである。
世の中に、異性に、大人に、とにかくハッタリかますごとくイキり倒している。
ものを書く仕事で一番重要なこと、それはいま自分が書いていることは間違いではないと信じることだ。運が良ければそう言ってくれる人もちらほら出てくるけど、本来的には誰も信じてくれなかろうが自分だけはハッタリでもそう信じてイキがっていなければ書けない。
正直さで言えば、クリープハイプのそれは正直芸とも言える域で正直をぶちまけている。
私も誰にも頼まれてないのに服を脱いじゃうような正直さを持ち合わせているので、これは非常に共感するところがあった。ちなみに服を脱ぐというのは物理ではなく精神的な意味合いです。
正直芸はちょっとずるいところがある。なぜなら人は嘘がないものには勝てないから。彼らは自分にはこれしかない、これだけしかないと何度も訴えてくる。もうわかりましたと言ってもやめてくれない。
クリープハイプは素っ裸でイキりまくることで人に自信をくれる。今ここにいていいのか、今これをやってていいのか、私たちは常に自信を奪われて生きている。すぐ近くにいる大事な人ですら、自分から自信をどんどん奪っていくのだし。色んな言葉や態度を交わしてきたけど、人から人へ直接に与え合える100%素晴らしいもの=つまり自信、なんていうものは、そもそも無いんだって40歳になって知った。
クリープハイプが10年目に(デビューからは15年だろうか)出した最新のアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』を聴いたけど、やっぱりめちゃくちゃイキっていた。ひさしぶりに、音楽に乗せられるようにノリノリで漫画を描いてしまった。
(ここで私の好みの話をすると、彼らに感じるスタンスとヒップホップのそれはとても相性が良いと思っていて、アルバム名が歌われる「ナイトオンザプラネット」が痺れるほど良かったです。)
クリープハイプ、どうか死ぬまでイキりまくってください。その姿で私に、人に自信をください。尾崎世界観は別に誰かに自信をあげたいとか思ってないんだろう。ただその裸の姿が、歌声とうねる音が、一曲の中にある、その間だけの魔法なんだと思う。
人から与えられるものなんて常にそんな間接的で瞬間的な感じなんだと思う。そのことだけで私は良い世界にいると感じられる。だからもう、尾崎世界観を道端で見かけても声はかけないと思う。
鳥飼茜 プロフィール
漫画家。1981年8月13日生まれ。『週刊ビッグコミックスピリッツ』で『サターンリターン』が隔週連載中。代表作に『先生の白い嘘』『おんなのいえ』『地獄のガールフレンド』など。
リリース情報
『夜にしがみついて、朝で溶かして』
- 2021/12/8 RELEASE
- <初回限定盤(CD+Blu-ray)>
- UMCK-7147 6,300円(tax in.)
- <通常盤(CDのみ)>
- UMCK-170 3,300円(tax in.)
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