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<インタビュー>フィニアスが明かす、グラミー新人賞ノミネートの“完全な驚き”と妹B・アイリッシュ「ハピアー・ザン・エヴァー」の“精神浄化作用”
ビリー・アイリッシュの兄で【グラミー賞】受賞音楽プロデューサー、そして自身もシンガー・ソングライターとして活躍しているフィニアスが、米ビルボードの単独インタビューに応じた。24歳の彼は、ビリーの2ndアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』のタイトル・トラックのヒットや、自身のアルバム『オプティミスト』の制作過程、ライブ・パフォーマンスへの復帰などについて語っている。
2021年が終わろうとしている今、フィニアスにとって今年も感謝すべきことがたくさんある。7月に発売されたビリー・アイリッシュの2ndスタジオ・アルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』のプロデュースと共同ソングライティングを担当したほか、10月には自身のデビュー・アルバム『オプティミスト』をリリースした。2021年は【オプティミスト・ツアー】の北米公演をはじめ、さまざまなフェスティバルや深夜番組での妹のサポートという形でライブ・パフォーマンスにも復帰した。12月の初めには、米国民的人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』にも出演し、卓越したパフォーマンスを披露している。
この多作な年に、フィニアスは【グラミー賞】にまたもやノミネートされ、これで通算で14回になった。彼は、ビリーの2019年のデビュー・アルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』で初めてノミネートされ、<最優秀アルバム賞>や<最優秀楽曲賞>(「bad guy」)を含む8つの【グラミー賞】を受賞した。今年のノミネートでは、ビリーの最新作における彼の広範な作詞作曲とプロデュースが再び評価されたが、その1つ、<最優秀新人賞>は彼にとってソロ・アーティストとしては初めてのノミネートであり、完全な驚きでもあった。
彼は米ビルボードに対し、「どこかから車で帰っている時に、ノミネート発表の生配信を聞いていたんですよ。“ビリーは数年前にこれを受賞したから、もうノミネートされることはないな”なんて思っていたら、3番目に僕の名前が読まれて、“うわっ”ってなりました」と明かしている。
ソロ・アーティストとしての評価が高まる中、フィニアスがいまだにビリーのキャリアにどれだけ力を注いでいるかは明らかで、先週初めにSiriusXMの『ザ・ハワード・スターン・ショー』で、「ビリーのことを何よりも優先しているし、いつだって最初ですよ」と言い切っている。そんなビリーの「ハピアー・ザン・エヴァー」は、リリースから約5か月が経過したが、8月に11位で米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”に初登場したあと、20週目の現在も43位に位置している。
米ビルボードの2021年ベスト・ソングの9位をはじめ、多くの年末リストの定番となっているこの5分間の楽曲は、その独創的な構成と、後半のヘビーなロック・バラードへの大爆発が絶え間なく称賛されてきた。フィニアスは、「この曲がアルバムにとって重要だってことを僕たちは分かっていました。精神浄化作用があると感じていました。“ああ、これは間違いなくタイトル・トラックだな”って思ってました」と述べている。
そんな彼が、「ハピアー・ザン・エヴァー」を生み出した妹との曲作りの過程や、チャートでのロングヒット、自身のアルバム『オプティミスト』と関連ツアーについての思いを米ビルボードに語ってくれた。
ーー「ハピアー・ザン・エヴァー」はどうやって制作されたのでしょうか?
フィニアス:あの曲を書き始めたのは2019年の夏です。米国でツアーがあって、そこから【グラストンベリー】に出演するために英国に直行しました。デンマークのミゼルファートという町にいて、超時差ぼけでした。ギター・センターで80ドルで買った、初心者向けの子ども用ギターのような小さなおもちゃのギターを持っていたんですよ。史上最も安いギターって感じの。ビリーとブラブラしていた時に、最初のコーラスのようなメロディーを一緒に書き始めました。“When I’m away from you, I’m happier than ever”(あなたと離れていると、これまで以上に幸せになれる)という部分です。それは彼女がその瞬間に経験していたことと関連していたんですよね。二人ともそのアイデアを気に入ったことは分かっていたんですが、まだ腰を据えてアルバムを作るような時期ではなかったので、後ろのポケットにしまっておいて、ちらほらと1、2行ずつ書いていました。
その8か月後、僕たちはロックダウン状態で、アルバム制作に没頭していました。あのアイデアを再検討したところ、すごく気に入りました。その時に“パート2”になった部分を作ったんです。あの部分もアコースティックで書いたんですよ、聴いた感じだと想像できないかもしれませんが。曲を書き終えたのは2020年の5月か6月でした。レコーディングがうまくいったのは、その年の夏の終わり頃ですね。通常、曲はすぐに作られるものですが、これはかなり長い期間をかけて作られています。そのことが、あの曲自体がいかに長く、曲がりくねったものであるかを物語っていると思うので、とても充実した作業でした。結果にはとても満足しています。
▲「Happier Than Ever」 / Billie Eilish
ーー昨年お二人がようやくレコーディングを終えたときには、これほどのヒットになると思っていましたか?
フィニアス:僕たちは、何がヒットするかしないかを予測するふりなんてしないです。当時はまだ「Male Fantasy」という楽曲を作っていなかったので、「ああ、これがアルバムの最後の曲になるんだな」と思っていました。あと、僕たちはこの曲でライブを締めくくりたいとも思っていました。そういうことは全部分かっていましたし、(曲は)大好きでした。でも、何かが成功するかしないかを分かるふりはしてないと思うんですよ、当ててみようとした何回かは間違っていたので。
▲「Male Fantasy」 / Billie Eilish
ーー後半はアコースティックで作曲されたということですが、最終的なサウンドの方向性は何がきっかけになったのでしょうか?
フィニアス:僕たちが聴いて育った音楽ですね。僕は何よりも、その曲にふさわしいと感じた方法で音楽をプロデュースしようとしています。あの曲のソングライティングは非常にダイナミックであるべきだと感じていましたし、プロダクションが彼女の声を邪魔するのではなく、感情を後押しするようなものにしたいと思っていました。というのも、あの曲で彼女が歌っているのは、とても傷つきやすい内容だからです。誰かに不当な扱いを受けたことを認めるのは恥ずかしいですよね。でも、それを認めるのは勇気のいることだと思うんです。
ーー曲作りの過程で印象に残っていることはありますか?
フィニアス:この楽曲にはヴァイブスと質感をたっぷり持たせたかったので、冒頭のギターとヴォーカルのコンボを完璧に鳴らすのが本当に難しかったですね。そのために、いくつかのクールなプラグインを使いました。あと、このアルバムで僕がやった一番良かったことのひとつは、ビリーに(音楽ソフトの)Logicで自分のヴォーカルを落ち着かせる方法を教えたことです。Logicでは、すべてのラインのベスト・テイクを合わせて編集します。それ以前にも彼女は自分のヴォーカルを全て演出していましたが、コンピュータの前に座ってやっていたのは僕でした。あとから少しずつ修正したりもしますが、彼女が“このテイクがいい、これが一番好き”というように選択していたんです。この曲では、全部彼女がそれをやってくれました。レコーディングの過程で僕が一番気に入っていたのは、曲のエンディングで彼女が叫びまくっていたことですね。罵り言葉をわめいたり叫んだりしているところです。
ーーこの曲は、”従来型”のシングルではないにもかかわらず、発売以来”Hot 100”にとどまっています。この曲がこれほどまでにファンの心に響いている理由は何だと思いますか?
フィニアス:リスナーが従来のものであるかどうかを気にしていないという事実を、さらに示す例だと思います。リスナーは感情的に反応するものです。好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。だから、それは彼らにとって重要ではないということなんでしょうね。彼らにとって重要なのは、何かに対してどのように感じて反応するかということなんだと思います。
ーー『サタデー・ナイト・ライブ』で「ハピアー・ザン・エヴァー」を披露した時はいかがでしたか?
フィニアス:めちゃくちゃ楽しかったです。あの曲は、ああいう環境で演奏するのがとても心地良いんですよね。あれがあの曲が生きるべき場所なんです。彼女の1stアルバムを作った時とは違って……『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』はベッドルームで作ったので、リスナーが自分の部屋で聴くために作ったような気がするんです。2ndアルバムは、ステージのために作ったような気がします。アリーナやフェスティバルで演奏するために作りました。あれはすごく楽しかったですね。
▲「Happier Than Ever (Live on SNL) 」 / Billie Eilish
ーー先月【グラミー賞】で5部門にノミネートされましたね。
フィニアス:とても光栄に思います。最大の名誉は、レコーディング・アカデミーそのものが僕を認めてくれたことです。自分が大ファンであるほかの候補者の方々と一緒に参加できることも大変光栄です。何がすごいって、それも一因ではありますよね。
ーー<最優秀新人賞>の候補になりましたが、あなたにとってリード・アーティストとしては初のノミネートです。今回の候補者の中でお気に入りのアーティストは誰でしたか?
フィニアス:まずは全員と最初に言っておきますね。全員に感銘と刺激を受けていますが、個人的にはアーロ・パークスと仕事をする機会が少しありました。僕は彼女の大、大ファンですし、何曲か一緒に作ったことがあって、あれはご褒美でしたね。オリヴィア(・ロドリゴ)のキャリアが爆発的に伸びていくの見ているのも楽しかった。アルージ・アフタブはすごく才能があると思います。スウィーティーがノミネートされているのもいいですね、すごく才能がありますし、ザ・キッド・ラロイもそうです。いやもう、僕が今言及していない人たちは、ただ単に今パッと思い浮かんでいないってだけです。とても名誉なことです。(ノミネートの知らせは)全くの驚きでした。ベイビー・キームの次に僕が読まれたんです。びっくりしましたよ。
▲「Only A Lifetime」 / FINNEAS
ーー『オプティミスト』についてですが、これらの楽曲がデビュー・アルバムにふさわしいと思ったのはなぜですか?
フィニアス:これらの楽曲はひとつの作品集として書いていたので、とてもまとまっていると感じました。作品集に共通項があることが全てではないですし、ダイナミックで多様でもあるべきですが、(『オプティミスト』には)真の意味での焦点があって、それに満足していました。自分の外にあるものに目を向けるのではなく、自分がなぜこのように感じるのかということを考えるようにしていたんです。できるだけ内省するようにしていました。(リスナーが自分を)“理解してもらえている”と感じてもらうには、(アーティスト)自身の欠点や不満、不安などを正直に話すことだと僕はずっと思っています。そうすることで、人は自分を分かってもらえていると感じるんです。誰だってそういうことを抱えていますから。
ーーご自身の作品だけでなく、ビリーやアーロ・パークス、キッド・カディ、ジャスティン・ビーバーなど、ほかのアーティストにも多くの楽曲を提供したりプロデュースしたりしていますよね。自分のために『オプティミスト』を制作することで、どのような教訓を得ましたか?
フィニアス:多くを学びました。完全に一人で部屋にこもってフル・アルバムを作るというのは、とてもクールなプロセスです。あと、オープニング曲の「A Concert Six Months From Now」では、Johan Lenoxと一緒にストリングスのアレンジをしました。あれもすごく楽しかったですね。彼は本当に才能があると思います。僕はすでに新しい作品のためにたくさん曲を書いていますが、今回のアルバムは本当に誇りに思っていますし、完成後すぐに北米ツアーもできました。曲がライブでどう解釈されるかとか、どの曲が観客に最も喜ばれたとかを見ることができてすごく楽しかったです。ものすごくポジティブな経験でした。作ってすぐにツアーに出せたのは本当にありがたかったです。
ーーツアー中に観客から最も歓迎されたのはアルバムのどの楽曲でしたか?
フィニアス:「The Kids Are All Dying」は毎晩大好評でしたね。「Only A Lifetime」と「Love Is Pain」はパフォーマンスしていて本当に楽しかったです。実は、ツアーを始めた時は「Medieval」という曲をセットリストに入れていなかったんですが、“Medievalを演って”と書いてあるサインをライブに持ってくる人が出てきたんです。そこでツアーのちょうど半分の頃に追加したんですが、それがすごく楽しかったです。意外だったんですよね。というのも、その場にいる誰かにどの曲を演奏してほしいって言われる具体的な経験がなければ、ストリーミングで何がよく聴かれているかみたいなことしか分からないからです。その指標は、人々の意見のように個人的なものではなく、単なるデータ・ポイントに過ぎません。ですから、その場にいる人たちと個人的に関わることができたのは、とてもエキサイティングでした。
▲「The Kids Are All Dying」 / FINNEAS
Q&A by EJ Panaligan / Billboard.com掲載
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