Billboard JAPAN


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<インタビュー>カネコアヤノ 特別な編成でのライブを前に、バンドメンバーとともに語る「今まで」と「これから」



インタビュー

 カネコアヤノがワンマンライブ【カネコアヤノ Billboard Live ワンマンショー 2021】を横浜と大阪のBillboard Liveで開催する。この日はギターの林宏敏、ベースの本村拓磨、ドラムのBobというお馴染みのメンバーに加えて、カネコの作品に長くエンジニアとして関わる濱野泰政がパーカッションで、本村とともにゆうらん船のメンバーである永井秀和がピアノで参加し、特別な編成でのライブとなる。11月29日には日本武道館でのワンマンを成功させるなど、充実の一年となった2021年を振り返り、Billboard Liveに向けて、さらには2022年に向けての展望を、バンドメンバーとともに語り合ってもらった。

エンジニア・泰さん(濱野泰政)の存在について

――今回のビルボードでのライブには泰さんがパーカッションで参加されるとのことで、あらためて、カネコさんとの関係性を話していただけますか?

濱野:彼女がまだ大学生の頃に出会って、うちでデモテープを作ったのが始まりだったね。

カネコ:何もわからない状態で、無理やり作った。そのときはまだ伊豆スタジオじゃなくて、泰さんの自宅で。

濱野:そのデモテープをいろんな人に聴かせたら、前の事務所の方に興味を持っていただいて、すぐにミニアルバムを作って。

カネコ:それは伊豆スタジオでね。

濱野:で、最初は僕がドラムで、もう一人ギターと、3人でライブをやってました。


――その当時のライブを観た本村くんがベースとして入り、林くんがギターで入り、Bobくんがドラムで入って、今のメンバーが固まった。一方で泰さんはエンジニアとして関わるだけでなく、アレンジも一緒に考えてるんですよね。

カネコ:なので、メンバーみたいなものです。


――本村くんから見て、泰さんはどんな存在だと言えますか?

本村:めちゃくちゃ自分のことをよくわかってくれてるというか、何を話してもばれてるんだろうなって気がする。

カネコ:ベーシスト同士だから余計にね。


kanekoayano

――泰さんはもともとベーシストだったんですか?

濱野:もともとはバンドでベースを弾いてて、20年以上前に一回デビューしてるんですけど、そのバンドのレコーディングでいつも伊豆スタジオに行ってたんです。で、そのバンドをやりながら、僕はエンジニアとかプロデュースもしたかったので、「エンジニアをやらせてほしい」って言って、3年くらい修行させてもらうつもりが……もう25年くらいずっといて、主になっちゃったんです。



▲カネコアヤノ - 腕の中でしか眠れない猫のように

――現在は伊豆スタジオのハウスエンジニアなんですか?

濱野:基本そうですね。フリーではあるんですけど。僕にとっては伊豆スタジオが原点なので、なるべくいろんな若いバンドにあの楽しい感じを伝えたくて、カネコのは9割くらいあそこで録ってます。

本村:カネコさん以外のバンドでも基本全部あそこで録っていただいていて、自分も世に出した曲の9割くらいは泰さんが録音したものになってると思います。


kanekoayano

――Bobくんにとって、泰さんはどんな存在ですか?

Bob:お父さん感めっちゃありますね。

カネコ:たしかにそうだね。みんなのパパ感。

Bob:レコーディングも昔は全然経験なかったので、いろいろ聞いたり、一緒になってやっていて、ベースのアイデアも言ってもらったのをやってみたりとかして。そのおかげで聴く音楽も広がったので……自分を広げてくれた存在でもあるというか。


kanekoayano

――お父さんでもあり、先生でもあると。林くんにとってはどうですか?

:音楽の相談もそうだし、人生相談もいろいろして、正しいところにちゃんと導いてくれる存在というか。

濱野:前はよく朝まで飲んだもんね。

:ずっと付き合ってくれて、「ああしなよ、こうしなよ」って言ってくれて。ギターのフレーズに関しても、手癖でやっちゃうところを、「ここはもっと音数減らしてみたら?」とか「こうやったらジョージ・ハリスンっぽくなるよ」とか(笑)、アドバイスでちゃんと導いてくれる存在です。


kanekoayano

――泰さんの音楽のルーツはどのあたりなんですか?

濱野:やっぱりビートルズが一番ですね。まあ、僕はもう50歳オーバーなので、80年代からずっといろんな音楽を聴いてきて、ボブ・マーリーとかも大好きだし。僕からしたら彼らは息子の世代だから、リアルタイムの僕とは捉え方が全然違って、それも面白いなと思ったりして。


――泰さんから見たカネコさんの音楽の魅力についてもお伺いしたいです。

濱野:やっぱり歌詞が一番ですね。出会ったときから「なんだこいつ、すごいな」っていう感じだったんで(笑)。譜割りもすごく独特で、最初は「リズムに合ってないから、直しなよ」とか思ってたけど、どんどんそれが個性になっていって。

カネコ:直せって言われてもできなかったし。

濱野:「何でそこで息を吸うの?」とかも思ったけど、「歌として」というより、「言葉として」譜割りがある感じで、そこはすごい才能だなって。あとは、メロディーも素敵で、アレンジを考えるときに鼻歌で歌うとほぼ洋楽なんだけど、でもそこに日本的な情緒も入ってて、それは昔からずっと変わらず素敵だなって。最近はコードもね、新しいものが出てきてるし。

カネコ:それはこの2人(濱野と本村)がずっと言ってるけど、私はよくわかってない。

本村:初期の頃はコードがすごくシンプルだったのが、作品を追うごとにどんどん研ぎ澄まされて、広がってるんです。でも、別に小難しくなってるわけじゃなくて、気品がある感じにどんどんなってる。そのコードの変遷が面白いねっていう話をよくするんです。新しい曲を聴かせてもらうと、あんまり使ったことがないコード進行を使ってくることが結構あって、そういうときはぶちあがりますね。

カネコ:ありがたい。

本村:あと泰さんと一緒にいると楽器を買っちゃうんですよ。

カネコ:買わされたわけじゃないけど、そういう気持ちにさせるのが上手。ライブの日に買いがちだよね。

本村:ツアー先の楽器屋さんに行って、「これよくない? 本村くん、弾いてみれば」って言われて、弾くと確かに自分に合う感覚があって、「じゃあ、買います」って(笑)。これは結構みんな経験してますね。

濱野:出会いは大切だから。


kanekoayano

――『よすが』では林くんがいろんな楽器を弾いてましたが、それも泰さんに導かれた部分がある?

:そういう部分もあります。バンジョーとか、「世界を目指してるなら、毎曲弾け」って言われたり(笑)。

濱野:「世界進出のためにはバンジョーを入れる」っていう、僕の勝手な持論があって(笑)、隠し味程度ですけど、こっそりバンジョーを入れることは多いですね。



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    本当に音楽で報われた
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本当に音楽で報われた

――ビルボードの話をする前に、11月29日に行われた日本武道館でのワンマンライブを振り返ってもらいたいと思います。カネコさん、いかがですか?

カネコ:楽しかったです。だけど……終わってもあんまり実感がないっていうか、向かう途中の車が一番実感してたかもしれなくて、終わっても実感はよくわかんない。もちろん、楽しかったことは大前提なんですけど。あとはびっくりしましたね、最後が。全然知らなかったんですよ。


――アンコールラストの「アーケード」で会場全体の照明がパッとついたこと?

カネコ:そうそう。照明さんとPAさんしか知らなかったんです。ライブのときはもちろんチームに要望を伝えるんですけど、それ以外のことはやりたいようにやってくださいってお願いしてて、特に打ち合わせとかないんです。もう何十本もやってもらってるから、信頼してるし。だから、最後の最後にああなることは知らなくて、あれは本当に人生で一番びっくりしました。びっくりし過ぎて、顔面が破裂するかと思った。




――顔面が破裂はヤバい(笑)。

カネコ:目と鼻と口がウワーってなりそうになるくらい、ホントにはじけ飛んでいくかと思った。


kanekoayano

――しかも、あの瞬間にそれまで座ってたお客さんが一斉にバーッと立ったじゃないですか? あれは狙い通りだったのか、自分たちもびっくりしたのか聞きたかったんですけど……少なくともメンバーは知らなかったと。もしかしたら、PAさんや照明さんからしたら狙い通りだったのかもしれないけど。

カネコ:すべてにびっくりしましたね。あの人数があの速度で全員立つってことにもびっくりして……爆笑しました。全員椅子の下にバネがあって、ああなる仕掛けになってたんじゃないか、みたいな速度で人が立って……だから、そういうチームと一緒にやって来れたことがとにかく嬉しかったです。本当に音楽で報われたなって。それしかできないから。


――林くんはどうでしたか?

:緊張はまったくなくて、それこそカネコさんも言ったみたいに、行きの車の中が一番緊張したというか、「ステージに立ったらどんな感じなんだろう?」とか考えて……。

カネコ:想像だけ先に行っちゃう感じ。

:でも、リハでいざステージに立ってみると、「大丈夫だな」って思えて、本番も気持ちよくやれました。家の中でいつも練習してるみたいな感じで弾けた気がします。

カネコ:緊張しなかったのも、スタッフの人たちが今までのツアーをずっと見てくれてたからかなって。


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――緊張しないような空気を作ってくれた?

カネコ:そうそう。私は打ち合わせで「いつも通りにそのままやる」ってずっと言ってたから、そういうライブをみんなが作ってくれたと思いました。舞台を作るスタッフの方が、私が言うよりも前に「リキッドルームより小っちゃいステージにしちゃいましょうよ」みたいなことを言ってくれて、言わなくても伝わるっていうのが本当に嬉しかったですね。


――実際あのステージってリキッドルームよりも小っちゃかったんですか?

カネコ:たしかリキッドと同じくらい。「そうしましょうよ。だって、カネコさんもどうせそうしたいって言うでしょ?」みたいなノリで、それが本当にありがたかった。みんなが私たちが緊張しないようにしてくれたなって。


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――Bobくんはどうですか?

Bob:周りの人の気持ちが自分にも伝わってきて、感動しました。涙ものっすね。


――泣いてはいない?

Bob:終わったあとちょっと泣きました。


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カネコ:私も終わったあと泣いた。楽屋戻ったら泣いてしまって、でもみんな泣いてる女子の対応に慣れてないから、「あ、カネコが泣いてる……」みたいな空気を察しました。

本村:僕も泣いちゃいましたね。

カネコ:みんなかわいいじゃん!

本村:カネコさんが帰りのタクシーに乗って、「じゃあね!」って言って、振り返ったら号泣、みたいな(笑)。


――そこなんだ(笑)。

カネコ:でもみんなが帰っていくのって泣けるよね。

本村:カネコが帰ったときに、「終わったんだ」って感じて。

カネコ:泣いちゃうよねえ。

濱野:僕はリハーサルのときに先に泣きました。

カネコ:一番最初に泣いてる!

濱野:古い曲をリハでやってたでしょ?

カネコ:そうそう。一番最初のミニアルバムの曲を一曲だけやったんだよね。

濱野:あれが流れてきて、上を見たら日の丸があって、「ここまで来たんだ」と思ったら、ホロホロッて来ちゃって。

カネコ:本番前も泰さんが誰よりも緊張してた。

濱野:我が子を送り出すみたいな感じ(笑)。僕らが最初にライブをしたのがZepp Tokyoだったんですよ。とあるバンドの前座で、3000人アウェイみたいなところでやって。で、いつかZeppでワンマンやろうっていうのを目標にしてて、その先までもっと行こうって言ってたから、僕はリハーサルでもう……最高でした。

カネコ:嬉しかったですね。人生で一番嬉しかったかも。


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  4. このメンバーとチームでやって来れたことは「宝」であり、生きてるなかでの一番の誇り




このメンバーとチームでやって来れたことは「宝」であり、生きてるなかでの一番の誇り

――ではあらためて、泰さんがパーカッションで参加するビルボードでのライブはどのような内容になりそうですか?

濱野:去年はコロナでできなかったんですけど、それまで毎年阿佐ヶ谷のザムザでアコースティック編成のライブをやっていて、基本的にはその延長なんですけど、今回もう一人ピアノも入れるので、またちょっと違う感じになると思います。

カネコ:(ピアノは)ゆうらん船の永井くん。

濱野:今頑張って仕込み中です。バンドも弾き語りもパワフルに行っちゃうから、ちょっと大人……でもないな。いろいろだね。

カネコ:曲の柔軟性が見えるというか、見えたらいいなって。



▲『カネコアヤノ 単独演奏会「さいしん」2020.6.25 ザムザ阿佐ヶ谷』

――『よすが ひとりでに』(『よすが』の弾き語り版)には「窓辺」のピアノバージョンが収録されていて、とても印象的でした。

カネコ:あの「窓辺」がきっかけになって、ピアノを入れてみようと前向きに思えたというか、新体制でライブをやってみようと思えました。すごいですよね、ピアノ弾ける人。

濱野:前に一回ピアノの弾き語りやったじゃん。

カネコ:すごい下手くそなんですけどね。

濱野:昔ピアノやってたんだよね?

カネコ:小っちゃいときに。でも何ひとつ覚えてないタイプです。今は弾けたらいいなって思います。





――ビルボードの思い出があるメンバーはいますか?

:ダニエル・ラノワを観に行って、1stステージを観たんですけど、あまりによすぎて、その場で2ndステージのチケットも買って、一日で2ステージ観ました。

本村:林くんとはニック・ロウを観に行きました。あと、ザ・バンドのガース・ハドソンが奥さんと来たときに、アンコールで奥さんが「サノ!サノ!」って呼び始めて、「サノ?」って思ってたら、佐野元春さんが出てきて。

カネコ:えー! 誰もわかんなかっただろうね。

本村:それはすごく覚えてて、ビルボードにはそうやって誰か飛び入りしたりするような、オープンなイメージもありますね。


kanekoayano

――ビルボードでのライブ、楽しみにしています。では最後に改めて、2021年を振り返っての感想と、2022年の展望について話していただけますか?

カネコ:2021年はすごく充実してました。ありがたいことにライブが本当に多くて、ひさびさのツアーにも行けたし。コロナ禍に入ってしばらく動けてなかったから、ひさびさの感覚で、嬉しかったですね。ただ、もともと「武道館でやりたい」とかって思ったことは一回もなくて、でもやらせていただけるってなったから、「じゃあ、やるか」みたいな感じだったんですよ。だけど、実際にやってみて、やる価値がある場所だって気づけたことが大きかった。またやりたい場所ができたっていうことが、すごく嬉しかったですね。


――カネコさんは武道館が似合うなって思いました。もともとライブのためのハコじゃないから、音響的にロックバンドだと最初の一音で「あれ?」ってなることも多いんですけど、カネコさんのバンドは一音目からしっくり来て、その意味でもすごく合うなって。

カネコ:嬉しい。またここでやります!って気持ちになりました。それは大きかったかな。人が多いことは嬉しいし、テンションも上がるけど、でもそれイコール「武道館でやりたい」とかにはなってなかったけど、そこは変わりました。なので、やっぱり2021年はすごく充実していて、それもみんなのおかげです。本当にありがとうございますだし、今後ともよろしくお願いしますっていう想いがさらに深まりましたね。このメンバーとチームでやって来れたことは本当に「宝」だと思ったし、私が生きてるなかでの一番の誇りだなって、あらためて、深く深く思った一年でした。


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――2022年に向けてはいかがですか?

カネコ:2022年は、より音楽が楽しくなったらいいかなと思います。頭は固くならず、そのときやりたいことをみんなでやって、やりたくないことはちゃんと言って。別に正解とかはないけど、私たちなりの正解みたいな、そんなようなやつを出して、より音楽が楽しくなればいいと思う。音楽で苦しくなりたくないので。音楽で報われ続けるぞ!


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