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<コラム>彗星の如きMAISONdesの登場、和田アキ子の新たな挑戦――2021年、TikTokを彩った音楽を振り返る



コラム

TikTok以降の音楽シーンを彩るニューカマー

 2021年も残すところあと1か月、今年も音楽シーンでは様々なヒット・ソングが生まれた。中でも目立ったのは、SNS上のバイラルをきっかけとした、新たな才能の台頭。YOASOBIや瑛人の例を出すまでもなく、TikTokを起点とした若手アーティストのブレイクは、コロナ禍によってシーンのエコシステムが激変した2020年のヒット・チャートでも見られた現象だが、そうした環境の変化に音楽業界のプレイヤーたちも適応し、戦略的にヒットを生み出そうとする動きが加速したのが2021年だったと言える。

 2月にyamaと泣き虫をフィーチャーした楽曲「Hello/Hello」でデビューしたMAISONdesは、今年の新潮流を牽引した存在だろう。コンセプトに「どこかにある六畳半アパートの、各部屋の住人の歌」を掲げ、作品ごとにフレッシュな若手ボーカリストを招いて楽曲を発表しており、毎回大きな反響を呼んでいる。

 本格的な飛躍のきっかけとなったのは、和ぬかとasmiをフィーチャーした楽曲「ヨワネハキ」で、7月26日~8月1日を集計期間とした“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”では初登場にして首位を獲得。2月に発表した楽曲「寄り酔い」が同じくTikTokでバズり、一躍その名を広めた和ぬか。この「ヨワネハキ」でも、和のテイストを存分に効かせたユニークな作風は健在で、ポップ・ミュージックとしての訴求力をたしかに高めている。また、メイン・ボーカルを担うasmiも、2020年12月にリリースした「memory」のTikTok動画投稿数が1.6万本以上(12/7現在)を記録するなど、注目度の高さは折り紙つきだ。



MAISONdes - ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi / THE FIRST TAKE


 TikTokにおける「ヨワネハキ」の知名度は、主にダンス動画の定番ナンバーとして浸透していった。動画プラットフォームやSNSでは近年、ユーザーが生成するコンテンツ(UGC)の人気が高まっているが、中でも特に拡散されやすいのが、歌ってみた動画とダンス動画の二つだ。後者の場合、影響力の高いインフルエンサーによる動画投稿で爆発的にバズる展開が多いが、その場合、どうしても一時的な消費に留まり、楽曲そのものの人気に繋げることが難しい。しかし「ヨワネハキ」は、Billboard JAPANの総合ソング・チャート“HOT 100”の推移を見れば分かる通り、TikTokで人気となり始めた8月の時点で、すでに動画再生指標とストリーミング指標が好調なチャート・アクションを見せており、この2指標が牽引する形で総合順位も長らく上位をキープしている。8月には動画チャンネル『THE FIRST TAKE』への出演も果たしており、現時点で800万回再生を突破するなど、SNS上のバイラルがしっかり楽曲人気に結びついていることがわかる。

 今年のTikTokを象徴する新人としては、若干18歳のオーストラリア出身アーティスト、ザ・キッド・ラロイのグローバルなヒットも見逃せない。7月に発表した、ジャスティン・ビーバーとのコラボ曲「ステイ」は、2021年、世界で最もTikTokを賑わせた楽曲だと言っても過言ではないだろう。とある海外ユーザーがこの曲に合わせ、ひたすら腰を振りながら踊るシュールな動画がバズり、日本を含む世界各国のユーザー間でミーム化した。BTSやTWICEなどのK-POPアーティストを除けば、ここまで日本で大ヒットした洋楽ナンバーは久しぶりかもしれない。国内のヒット・チャート上では、アデルやエド・シーランらを押さえて上位をキープしており、その勢いの凄まじさを感じられる。



ザ・キッド・ラロイ&ジャスティン・ビーバー「ステイ」(チョコレートプラネット松尾ver)Full Version



大御所の挑戦

 ほかにも「シル・ヴ・プレジデント」のP丸様。、「グッバイ宣言」のChinozo、「海のリビング」の鈴木鈴木など、話題のニューカマーたちが続々と現れる一方で、中堅~ベテランのアーティストによるTikTokヒットの成功例にも注目したい。和田アキ子が12月8日にリリースするニュー・アルバム『WADASOUL 2』の収録曲で、9月2日に先行シングルとしてリリースされた「YONA YONA DANCE」が旋風を巻き起こしているのだ。

 この「YONA YONA DANCE」は、神戸発の4人組バンド、フレデリックによる提供楽曲。もともと中毒性の高いメロディとファンク的なダンス要素を組み合わせ、シーンの中でも独自の存在感を放っていた彼らだが、本作もバンドのリスナーであれば一聴して気づけるほどに“フレデリック節”が全開のナンバーとなっており、言わずと知れた“リズム&ブルースの女王”の新境地を引き出している。



和田アキ子 - YONA YONA DANCE


 こちらも例の如く、ダンス動画を投稿するユーザーが多いのだが、前述の2組がユーザー主体で振り付けが広まったのに対し、こちらはアーティスト側の積極的な発信が功を奏したように思える。8月10日に最初の投稿が行われた和田アキ子のTikTokアカウントでは、景井ひな、なえなのといったインフルエンサーたちのほか、さまぁ~ず、THE RAMPAGEなど、様々な著名人らとコラボして踊ってみた動画を投稿、芸能界の大御所ならではのコンテンツを作り出している。その一方で、番組収録やライブの裏側映像から何気ないVlog系動画、さらには「YONA YONA DANCE」の歌ってみた動画に対するリアクション動画なども用意されており、ミーム経由で流入してくるライト・ユーザーでも楽しめるアカウント運用がなされている。

 「“歌手生活53年”和製ブラックミュージックのゴッドマザーの現在(今)のソウル/R&Bアルバム」というキャッチコピーを掲げた最新アルバム『WADASOUL 2』は、前述のフレデリックに加え、Rin音やWONKなど、新進気鋭の若手アーティストたちが参加することでも注目を集めているが、TikTok経由でリスナー層を拡げ、主に若年層のユーザーからの興味関心が集まっている現状を踏まえば、新作に対する幅広い世代からの反響にも期待できるのではないだろうか。

 なお、Billboard JAPANでは近日中に“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”の年間ランキングを発表予定。また、12月8日には上記ランキングに代わり、新たな楽曲人気チャート“TikTok Weekly Top 20”がローンチする。TikTok内の動画において楽曲がどのように使われ、視聴されているのかを数値化したデータに対し、ビルボードジャパンが独自開発した係数を乗じてトップ20までを生成する。視聴数をベースにした“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”と比べて、より敏感に実際のトレンドを反映したランキングを提供していく予定だ。2022年、どんな楽曲がTikTokを、ひいては音楽シーンを彩っていくのか、新チャートの動向と併せてチェックしてほしい。

Text by Takuto Ueda

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