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<インタビュー>倉木麻衣、今伝えたいメッセージとリンクする楽曲が詰まった新作『unconditional L♡VE』を語る



 10月27日、倉木麻衣が13枚目のオリジナルアルバム『unconditional L♡VE』をリリースする。本作のコンセプトは、タイトルどおり「無条件の愛」。そして倉木自身が綴り、歌う収録12曲のリリックは、どれもどこまでもポジティブで優しいものに仕上がっている。彼女が今このメッセージを発信する背景には当然折りからの新型コロナ禍が横たわっている。日本を代表するシンガーは全世界的な未曾有の大事態を前になにを思うのか?

いろいろなものに刺激を受けながら制作した『unconditional L♡VE』

――やっぱりこの2年、生活に変化はありました?

倉木麻衣:ライブやイベントが中止や延期になったり、今までやれていたことがやれなくなった、という印象はあります。ワクチン接種が進んでいることもあって、去年よりはさまざまな物事がポジティブに前進しているなとも思う一方で、みなさんもまだまだ不安もあるだろうし、私も寂しさは感じていますし。……ただ、だからこそできることもあるんですよね。

――新型コロナ禍だからできること?

倉木:ライブ配信もそうだし、このリモート取材と同じようにネットの会議サービスを使って、ファンのみなさん1人ひとりと顔を見ながらお話する取り組みも今だから始められたことですし。コロナ禍という死と隣り合わせの状況だからこそなにができるのか? はもちろん、どうあるべきなのか? は常に考えています。

――答えは見つかりました?

倉木:私自身いろんな楽曲を聴くことで勇気づけられたり、リフレッシュさせてもらったりしたこともあって、音楽ってやっぱり大事だなということを再認識しました。あと、こういう状況だからこそ楽しく、愛を持って生きていきたいし、いかなきゃいけないな、と思っています。

――このたびリリースされたアルバムがタイトルからして『unconditional L♡VE』=無条件の愛になった理由がよくわかりました(笑)。

倉木:ですよね(笑)。まさにそういうアルバムが作りたくて。みなさんにネガティブな感情や不安な気持ちを振り払ってもらえるような、そしてみなさんの中にある愛の存在に気付いてもらえるようなアルバムを作りたいな、という思いから制作を開始しましたから。

――前作、2019年のアルバム『Let's Goal 〜薔薇色の人生〜』にはポジティブな楽曲はもちろん、パートナーとお別れしてもなお前を向こうとする主人公の姿を歌うリード曲や、別離したパートナーとのあったかもしれない未来を夢想する「きみと恋のままで終われない いつも夢のままじゃいられない」も収録されています。

倉木:はい。

――ところが今作は徹頭徹尾、ポジティブな言葉に彩られている。人の悲しみにも寄り添える作詞家でもある倉木さんだけに、ここまで直球勝負することはけっこうな挑戦だったんじゃないか? という気もします。

倉木:今、直接手を繋げはしないけど、音楽を通じてみんなと繋がって一緒にがんばることの大切さや楽しさを言葉にすることは私にとっても必要だったから、あまり身構えず制作できました。「コロナに罹ったらどうしよう?」と不安に駆られて、それに疲れ切っているのは私もみなさんも一緒だし、そういう気持ちを振り払って明日に希望を抱きたいのも同じなので。

――では作詞は楽しかった?

倉木:今回は特にメロディやアレンジが言葉を連れてきてくれることが多くて。デモを聴いているときに「この言葉しかないよな」というフレーズが思い付いて、そのまま書き留められたし、ポジティブな言葉を書くことは自分自身の気持ちを高めていく作業でもあったので楽しかったですね。

――収録曲の作曲家・編曲家を指名したり、集まったデモの中から収録曲を選んだりしたのは倉木さんですよね?

倉木:そうですね。

――そしてその楽曲が言葉を連れてきたということは、デモや作家を選んでいる時点で歌詞のプロットがなんとなく見えていた?

倉木:はい。気持ちがアガっていくようなもの、今伝えたいメッセージとリンクしそうな楽曲を選びましたし、いただいたデモに入っていた仮歌詞に影響されて歌詞を書いてもいますし。たとえば「ベロニカ」という曲の<ベロニカ>はまさにデモに入っていた言葉なんです。

――あっ、まさにうかがいたかったんです。「ベロニカさんってどなた?」って(笑)。

倉木:作曲・編曲の中村(泰輔)さんが連れてきた方です(笑)。しかもベロニカって人名としても使われるけど、お花の名前でもあって、その花言葉が「忠誠心」「忠実」で。

――だから<僕>が<ずっと君を守り続ける>楽曲になってるのか。

倉木:そうですそうです。デモに入っていた<ベロニカ>というフレーズを聴いて「まさに私が伝えたいことが集約されているから、これは生かしたい」ということで、そこを起点に歌詞を書き始めました。ほかにも、お仕事での出会いを通じてメッセージが生まれることもあって。「ひとりじゃない」はサンリオのウィッシュミーメルというキャラクターがいたからできた曲で……。

――ウィッシュミーメル誕生10周年を記念して制作した楽曲ですよね?

倉木:メルちゃんは世界に元気を届けているんだけど、ときどき疲れて泣いちゃうこともあるキャラクターなんですけど、そういうことは私やみなさんにもあるし、そういうときって孤独を感じたりもすると思うんです。でも実は自分のまわりにはみんながいてくれているし、みんなはみんななりの場所でがんばっている。メルちゃんとの出会いで気付いたそんなことを言葉にした1曲なんです。だから作詞のモチーフはまちまち。いろいろなものに刺激を受けながら1年半くらいかけて制作したのがこのアルバムという感じですね。

▲Wish me mell × 倉木麻衣「ひとりじゃない」プロモーションビデオ

――前作リリース直後にして、新型コロナがまん延し始めたころには着手していた、と。

倉木:コロナのおかげ……というと、おかしな言い方になってしまうんですけど、ライブやイベントがなくなってしまったことで逆に楽曲に向き合う時間、アルバム制作に集中できる時間ができて、じっくりといろんな曲を作ることができました。

――確かに今作には7曲のタイアップ曲が収録されている。つまりこの2年のうちに新曲を7曲発表しているわけですもんね。

倉木:じっくり時間をかけたおかげで、けっこうハイペースで制作を進められました。だからスタッフは大変そうでしたけど(笑)。

スタッフ:レコーディングはスタジオの広さの割に、少ないスタッフで行う作業なので、密になる怖さはなかったんですけど「リモートワーク、在宅勤務ってなんだろう?」というくらいスタジオにいたし、常に〆切に追われていた気がします(笑)。

倉木:そのくらい無我夢中で制作していました。

――2000年代中盤から社会貢献活動に注力していることもそうだし、大学では、社会状況を分析しつつ産業界やメディアにはなにができるのかを探る産業社会学部にいたこともそうだと思うし、新型コロナ禍をにらんだ今作もまさにという感じなんですけど、倉木さんには「ポップミュージシャンの社会との向き合い方」について常に考えているイメージがあります。

倉木:小さいころ街を掃除していたら、近所のおばさんに「ありがとう」って言ってもらえたことがすごくうれしかったんです。その経験があって、デビューする前には友だちと一緒に募金活動をしてみたこともあるし、おっしゃるとおり大学や学部を選ぶときにもそういうことを考えていました。自分が楽しんでやったことで誰かが喜んでくれる。それがすごくうれしいから、歌手になってからも「自分が歌うことによって誰かに喜んでもらえるといいな」「そのうれしい気持ちや、みなさんの喜びによって世界が良くなるといいな」という気持ちは強く持っています。

――ただ、今の倉木さんは近所を掃除していたころとは影響力が違う。ツアーでは毎回国内の各都市だけでなく、海外の数都市も回っている。要は喜びを届ける先が世界レベルに広がっています。

倉木:ありがたいことに本当に多くの方に聴いていただいている気はします。

――でもそれって本当に多くの人に期待されているということでもありますよね。正直、その願いや思いって重くないですか?

倉木:そういうことは1回も考えたことなかった(笑)。プレッシャーはまったく感じていないですね。いろんな街に住んでいるいろんな方からいただくファンレターを通じて、逆に私が勇気づけられもしますし。やっぱりなにかを発信することでポジティブな思いをみなさんが共有してくださるのは、私にとってうれしいことなんです。

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「“先生方”が結集させた才能に私がどう応えるか」

――サウンドについてもうかがわせてください。資料によると今回は選曲や作詞はもちろん、ミックスエンジニアやマスタリングエンジニア、それからマスタリングスタジオのセレクトまで倉木さんご自身がコミットしているとあります。

倉木:今までは楽曲を作り上げて、ボーカルとコーラスを全部録り終えた段階でチームのみんなと「こういう感じで聴かせたいよね」というオケのバランスのイメージの打ち合わせをしていたんです。そしてそれをスタッフがセレクトしたエンジニアさんにお伝えして、ミックスやマスタリングしていただいた音源を聴いて、気付いたことがあればまたお伝えするというスタイルで作業を進めていて。でも今回はスタッフから「このエンジニアさんはどう?」と提案してもらうようにしてみたんです。今までもどのエンジニアさんにお願いするのか、という最終決定は私がしていたんですけど、そこまでの過程にも積極的に参加してみました。

――では、倉木さんがこのアルバムで目指した音場とは具体的にはどのようなものなんでしょう?

倉木:「アルバム全体をこうしよう」ではなくて、楽曲ごとに「こういう音にしたいな」と決めていった感じですね。

▲「ZEROからハジメテ」ミュージックビデオ

――確かにタイトル曲のようなダンスミュージックは、世界標準を意識したであろうコンテンポラリーな音作りになっているし、「Proof of being alive」はもっとオーガニック。ストリングスのナマ感を味わえる音になっている。

倉木:それぞれの曲にはどんな音が似合うかな? と探っていった結果ですね。ダンス系の楽曲だったら、最新のヒット曲に加えて、私のルーツのひとつでもある80年代、90年代R&Bなんかをイメージしながら制作しました。

――80年代、90年代テイストってアレンジにも反映されています? たとえば「ONE LOVE」や「Wで包むよ」のド派手なオーケストラルヒットが、「ONE LOVE」の8分音符でルート音を刻むシンセベースが鳴っています。

倉木:まさにそうですね(笑)。ただクリエイターさんは当然思い入れを持って曲を作ってくださっているので、その思いを裏切らず、でも自分の思いもプラスできたらな、とはいつも思っています。それは作詞についても同じ。いただいたメロディやアレンジを邪魔せず曲を引き立てられる言葉ってなんだろう? と考えて書いていく。だからすごく時間がかかるんですけど(笑)。

――シンガー・倉木麻衣の魅力を発揮できるメロディやアレンジを探るというよりも、メロディやアレンジに対して倉木さんはなにができるのかを探る感じ?

倉木:今回に限らず、私のアルバムや楽曲は常に“先生方”が結集させた才能に私がどう応えるかを考えて制作している気がします。

――往年の歌謡曲の歌い手みたいだ(笑)。作家陣は作曲家先生であり、編曲家先生なんですね。

倉木:私が一目惚れ……一耳惚れ?(笑)した楽曲を作ってくださった方ですから。その楽曲の持つ世界はやっぱり壊したくないんです。それにボーカルにかんしても自分で歌っているからこそ客観視できない部分もありますから。だからこそ制作チームに「ここをこうしたらもっと良くなるよ」というアドバイスをもらいたくて。そうやってチームと先生方とじっくり協議しながら制作したいし、そうやって作ったアルバムや楽曲は素晴らしいものになるはずですから。みんなで作り上げていく。それが倉木麻衣のスタイルだし、1曲1曲面白く仕上がったな、と思っています。

――実際スムーズに聴けるんだけど、確実に1曲ずつになんらかの仕掛けがあるアルバムですよね。ストリングスだけをバックに歌う「Proof of being alive」も、倉木さんならその編成でも歌えることは知っているんだけど、歌う当人にはけっこう大変だったんじゃないかしら?という気がしますし。

倉木:この曲は難しかった……(笑)。

――でも、夢見クジラさんによるこのメロディとアレンジを選んだのはご自身ですよね?(笑)。

倉木:そうなんですよね(笑)。コンスタントにシンフォニックライブを開いていることもあって、アルバムでもチャンレンジをしてみたいということで選んだ曲で、「長い人生のあいだにはさまざまな困難もあるけど、それを乗り越えていこう」という意味と、私のそういう思いを込めて「Proof of being alive」=生きている証というタイトルにしてみました。

――『unconditional L♡VE』はサウンド的にもメッセージ的にも今だからこそ聴かれるべき1枚だと思うんですけど、そういう力作を作り上げた今だからこそやってみたいことってあります?

倉木:やっぱりライブですね。みなさんの命や健康が第一なので、誰もが120%楽しめるライブを今すぐやれるわけではないけど、そろそろできたらうれしいな、と思っています。あと、それでもこのアルバムの楽曲たちをみなさんに届けるためにライブ配信の準備を進めているので、それに向けてがんばりたいし、新しい曲も……。

――へっ!? この2年、スタッフが思わず「リモートワークとはなにか」を忘れるくらいの勢いでアルバムを作ったばかりなのに、もう新曲が?

倉木:はい。すでに制作に取りかかっているので、そちらも楽しみにしていてください(笑)。

倉木麻衣「unconditional L□VE」

unconditional L□VE

2021/10/27 RELEASE
VNCM-9065 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.unconditional L□VE
  2. 02.UNBREAKABLE
  3. 03.ONE LOVE
  4. 04.Can you feel my heart
  5. 05.Wで包むよ
  6. 06.ベロニカ
  7. 07.TOMORROW
  8. 08.ひとりじゃない
  9. 09.It’s never over
  10. 10.Proof of being alive
  11. 11.Sea wind
  12. 12.ZEROからハジメテ
  13. 13.always ~All Fan’s Chorus Special Edit いつでも LOVE ずっと SMILE~ (Bonus Track)

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