ーーLMYKさんのシングル「Unity」と「0 (zero)」をスーパー・プロデューサーのJimmy JamとTerry Lewisのおふたりが手掛けることになった経緯を教えてください。

LMYK：初めて会ったのは2016年。同級生のお父さんが日本とアメリカの音楽ビジネスに関わっているいる人で、一方の私はニューヨークで大学に行きながら音楽活動をしていて。私のビデオを見た彼がJimmyとTerryにシェアしてくれた、という流れです。

Terry Lewis：LMYKとはホテルのレストランの屋外席で初めて会ったんです。彼女はギターを持ってきたから、最初に弾きながら歌ってほしいとお願いました。その弾き語りが私でも長いこと耳にしていなかったような美しい歌声で、すっかり感激してしまって。当時はギターの演奏も少し荒削りだったけれど、すごくいい勘を持っているのはわかりました。パフォーマンスそのものよりも、作った曲に心を奪われました。

ーーLMYKさんがプロのアーティストとしてやっていこうと思ったのはいつくらいでしょう？

LMYK：ニューヨークにいた当時は自分が作った音楽をほかの人に聴いてもらいたいと思っていただけでしたが、JimmyとTerryに出会い、その頃に日本のレコード会社の方ともお会いして、「東京に引っ越して、日本語と英語で曲を作ってみたらどうか」というオファーをもらって初めて真剣に考えました。

ーー「0 (zero)」はミッドテンポで始まって速度が上がっていくところが素敵です。これは、まずLMYKさんの歌を聞いてからジャム＆ルイスのおふたりがトラックをつけたのでしょうか？

LMYK：私が最初に作ったデモはアンビエントでずっとミッドテンポの曲だったから、アップテンポになったのは共同作業の成果ですね。アニメ『ヴァニタスの手記』が19世紀のパリで吸血鬼が出てくる設定だったから、その世界観は意識しました。ヴァースとプリコーラスはすんなりできたけれど、コーラスはけっこう苦労したんです。

ーー日本語ヴァージョンと英語ヴァージョンがありますよね。歌詞を書くときは日本語が先ですか？

LMYK：どちらのパターンもあるけれど、この曲はまず日本語で書いて、それから英語の歌詞を当てはめました。例えるならレースの生地で着物を作る感じに似ているかな。着物（の型）がすでにあって、そこにレース地を当てていくような。両方の言葉で書くのは、最初のうちは大変でした。続けているうちに何を描写したいか、自分が描きたい絵が見えたら、そこにはまる言葉を探す方法を身につけました。だから、いわゆる翻訳とは違いますね。

ーーJam&Lewisさんに伺います。おふたりは日本のシーンと縁が深く、いままで宇多田ヒカルさんやクリスタル・ケイさん、ギタリストのMIYAVIさんなどと仕事をされています。日本人のアーティストと縁が強い特別な理由があるのでしょうか？

Jimmy Jam：日本のアーティストとはたしかに縁が深いけれど、私たちは才能のあるアーティストと強いコネクションを築けたらと思って活動しているだけですよ。音楽は言語を超えて、すべての人に伝わる究極の伝達方法ですから。初めて彼女の声を聴いたとき、こんなに美しい歌声はないと思って、ソングライター、プロデューサーとしてこれは絶対に一緒に仕事をしなくてはと思いました。たしかに「0 (zero)」は静かに始まって、それから様々な感情を喚起するかのように展開する点がいいですよね。LMYKが自分で楽器を演奏できるのも大きいと思っています。

ーーLMYKさんの魅力は、ジャネット・ジャクソン、アリーヤ、ブランディ、ジェネイ・アイコなどにも通じる美しいウィスパー・ヴォイスかと思います。いま名前をあげたアーティストで影響を受けた人はいますか？

LMYK：いま名前が挙がったアーティストは全員大好きでよく聴いているし、影響を受けていますね。

ーーJimmyさんとTerryさんにあえて伺います。ジャネットのヴォーカルの魅力はなんだと思いますか？

Terry Lewis：シンガーには二つのタイプ……じっくり聴きこむシンガーと、一緒に歌いたくなるシンガーがいます。ジャネットは一緒に歌いたくなるタイプ。非常に美しくメロディーを歌い上げるから、つい誘われてしまう。その点はLMYKも同じで、彼女が作り、歌うメロディーはとても美しく、つい歌いたくなる。ジャネットとはヴォーカルを全部自分で歌うという共通点もあります。ジャネットは自分でバックグラウンド・ヴォーカルからハーモニーまで歌うんですよ。LMYKも同じで、ハーモニーをつけるのがとても上手い。だから、彼女の曲で聴ける歌声は100％彼女の声なんです。

ーーLMYKさんが曲を作るときはどの楽器を使いますか？

LMYK：最近はキーボードとロジック（※音楽制作ソフト）を使って制作しています。以前はアコースティック・ギターだけで作っていましたが、最近はシンセサイザーのほうが創造力を喚起されるみたいで。表現したい音によって違うアウトレットを使う感じですね。

Jimmy Jam：楽器を変えるとコードも変わるから、（出てくる音の）ムードやテクスチャーが変わります。ギターのコードとキーボードは感触が違うし。曲作りのときは自分で演奏してスタジオでは人を雇ってレコーディングをする人もいるけれど、LMYKは楽器の演奏もとても上達したので、自分で演奏しています。

Terry Lewis：キーボードでもギターでも自演するように助言しています。特にギターは個性的な弾き方ができるので。ロジックを使ってプロデュースもできるようになって、すべてが上達していますね。成長しているのを見るのは楽しいですよ。

ーーJimmyさんとTerryさんはもともとミネアポリス・サウンドの代名詞的存在として知られていましたが、拠点にする街の空気で音楽性が少し変わるのでしょうか？

Terry Lewis：おもしろい質問ですね。（変化の理由が）場所の変化なのか、時間の経過による進化なのかちょっとわからないんですよね。私たちは40年前、1981年にミネアポリスでタイムとして活動し始めて、2001年にLA に拠点を移しました。どちらもちょうど20年いるから、スタジオなど周りの環境のほうが大事かな。

Jimmy Jam：（音楽作りにおいて）一番大切なファクターはアーティストからどんな周波数、感情を引き出せるかだと思います。腰を据えてそのアーティストが音楽的に、または歌詞の面で何を達成したいか聞き出しますね。私たちはどんどん変化し、常に動き、成長している存在である点も大事。LMYKだって今日と明日では違うから。彼女はプロダクションではもうエースで、場合によっては私たちにやり方を教えてくれるまでになったんですよ。

ーーLMYKさんの次の予定を教えてください。アルバムに取り掛かっているかと思いますが、どのような作品になりそうでしょうか？

LMYK：ほとんどの曲はまだデモの段階ですが、どの曲を作りこんでいくか大体は見えています。TerryとJimmyも当然関わっていて、来年のあいだにはリリースしたいと思っています。

ーー楽しみです！　一方、JimmyさんとTerryさんは7月に『Jam & Lewis Volume 1』が出たばかりですね。マライア・キャリー、メアリー・J・ブライジ、アッシャー、チャーリー・ウィルソン、ボーイズⅡメンなどすごい顔ぶれですが、どれくらいの期間で仕上げたのでしょう？

Terry Lewis：答えは、35年前ですね。

ーーはい？

Terry Lewis：ジャネット・ジャクソンの『Control』がほとんど仕上がっていて、そろそろ自分たちのアルバムに取り掛かろうというときに、A&Rのジョン・マクレーンにあと1曲ほしいと言われて。「全部出し切りましたよ」と答えたものの、車中で自分たちのアルバム用の曲を流していたら、ジョンが「この曲はジャネットが気に入ったらほしい」と。それが「What Have You Done for Me Lately」で、彼女のキャリアの幕開けを飾る曲になりました。逆に私たちのアーティストとしてのキャリアが終わりましたが（笑）。それ以来、曲を作り、プロデュースをするほうに回りました。それで35年かかったんです。

ーー（笑）なるほど。本腰でまとめ始めたのいつでしょう？

Jimmy Jam：3年前、『ソングライターの殿堂』にベイビーフェイスと一緒に選ばれたときですね。これからやりたいことを尋ねられて、自分たちのアルバムをぜひ仕上げたいし、ベイビーフェイスとも曲を作りたいと答えたところ、両方実現させる運びになりました。とうとうわがままになってみたんです。それまでは自分たちのアルバム用に曲を作っても、ほかのアーティストが欲しがったらあげてしまっていたのを、きちんと断るようにして。

ーー断ってくださってよかったです（笑）。LMYKさんがこの5年間でJam＆Lewisのおふたりから学んだ一番大きなことは？

LMYK：「自分らしくしていなさい」ということかな。自分に正直に、自然に出てくるものを信じることが一番大切だと学びました。

Terry Lewis：いつも「自分のアイディアを信じなさい」とも言っています。ほかの人の意見を取り入れる姿勢は必要だけれど、自分のアイディアを大事にするのがまず大切。

ーー日本のファンに伝えたいことがあれば、ぜひ。

LMYK：私はアーティストとして、人間としても成長中で、その成長を音楽に反映していきたいですね。私の音楽はポップに入るとは思うけれど、様々なジャンルの影響を受けているから、意図的にジャンルの境界を超えていくつもりです。