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<インタビュー>ザ・なつやすみバンドが語る、“架空の公園”が舞台の新作『NEO PARK』の手応え ビルボードライブ公演への意気込みも



インタビュー

 ザ・なつやすみバンドが、約2年半ぶりのオリジナル・アルバム『NEO PARK』をリリースした。前作『Terminal』に続く、“旅行三部作”シリーズの2作目となる新作で、“空港”から始まった彼らの旅は、郷愁漂う架空の公園“NEO PARK”へとたどり着く。MC.sirafu曰く「思っていた以上にポップス!」な仕上がりの本作は、「風の谷のナウシカ」のカバーを含む計9曲入り。2年半の旅路における彼らの成長は、メンバー全員が作曲に携わるという形で顕著に表れており、中川理沙はその手応えについて「バンドとしてパワーアップした感じがしています」と語っている。そんな最新作を携え、8月29日にはビルボードライブ東京のステージに登場。こちらも2年越しのカムバックとなる。そこでBillboard JAPANでは、アルバム『NEO PARK』とビルボードライブ公演について、メンバーにメール・インタビューを行った。

“架空の公園”が舞台の新作『NEO PARK』が誕生するまで

――アルバム『NEO PARK』について、率直な手応えをお聞かせください。


中川理沙:今作はメンバー全員が曲を作ったことで、バンドとしてパワーアップした感じがしています。ベースの潤さんとドラムのみずきちゃんも曲を作ることによって、いつもと違うことにチャレンジできたり、二人の考えてることが見えるのが嬉しかったり、その曲を聴いて私とシラフさんはバランスを考えながらそれぞれ曲を作ってゆくというのも面白かったです。メインボーカル以外の人が歌う曲というのも昔から好きで、今回みずきちゃんに歌ってもらったのもフレッシュでみずみずしくてとてもよかった。

MC.sirafu:作品としての手応えは(毎回)めちゃあります。アルバム1枚作るごとに寿命が縮んでいくくらい、自分を追い詰めてやっています! ただ、作品の反応とかバンドへの期待値とかそういったものが見えにくい、音楽どころではない昨今の状況だと思っています。だからかはわかりませんが、作品だけは強度あるポップスにしようという意思が働いたのかもしれません。いつにも増して。


――制作を始めたときの構想やテーマを教えてください。また、そのヴィジョンはどの程度まで具現化することができたと思いますか?


中川理沙:ポップスへの憧れ、敬意を素直に表すというのがテーマでした。バンドメンバーそれぞれ好きな音楽がバラバラなのですが、ポップスが好きなところは共通しているので、アイデアも出しやすく自由度が高くて楽しかったです。思っていた以上にポップス!なアルバムになりました。

MC.sirafu:前作『Terminal』を出した時点で、次回作(今作)の構想は死ぬほどあったのですが、この世界の状況で全て消え去りました(笑)。最大のヒントである「人との交差」が絶たれたとき、何を作ればいいのか? バンドとして、何を表現すればいいのか? 制作と同時進行でヴィジョンを探していくという、ある意味本当に旅のような貴重な体験をしました。


――「色んなことに葛藤したり、悩んだり、本当に完成するのか?と不安になったり。」(MC.sirafuさんのTwitterより)とのことですが、どんな葛藤や不安があったのでしょうか? また、そういったネガティブな感情をどのように払拭することができましたか?


MC.sirafu:誰しもが抱えているものと同じだと思います。自分の置かれている環境、愛する人たちとの関係、その先にある目的という面では、「音楽をつくる」ということは特別なことではないのです。感情は常に動き続けるので、それがどうあれ、決してネガティブなものとは捉えていません。敢えて言うなら、人を憎まないこと。あと、自分自身に少しだけでも、優しくしてあげればいいときかな、と思います。


――“NEO PARK”という架空の場所を舞台にした理由は?


中川理沙:もともと現実逃避をするような気持ちでこのバンドを結成したのですが、最近はまた息が詰まりそうになることが多くて、少しほうっとできるような、聴いてるあいだは他のことを忘れられるような、逃げてもいい場所があってもいいと思って、そんな音楽が作りたいと思いました。最初はネバーランドの予定だったのですが、ネバーランドだと戻って来れなくなる可能性もあるな…と思って、気軽に足を運べる公園を作ったほうがいいかも!と思って路線変更しました。

MC.sirafu:ギリギリまで「場所」をどこにすべきかみんなで悩みました。当初「ネバーランド」みたいなこと言ってたのですが、現実を見ずそんな理想郷を掲げている場合ではないぞ!と(笑)。そんなとき、行き着いた先が「公園」に落ち着いたことに少しホッとしました。当たり前にある「公園」ですら、僕らは集うことを許されない。だったら公園までのちょっとの距離を歌おう。それが「救い」になるなら。


――全編を通して故郷へ帰省したときのような、どこか懐かしさを覚えるノスタルジアがあります。これはむしろ架空の存在“NEO PARK”だからこそ、皆さんの心の底にある原風景のようなものが淀みなく表出したではないかと感じるのですが、こういった解釈に納得できる部分はありますか?


中川理沙:こんな公園があったらいいな…という思いの中に懐かしい光景は含まれていると思います。私は国を問わず、聴いたことがあるわけではないんだけどなんだか懐かしい感じのする音楽が大好きです。今回は潤さんとみずきちゃんも曲を作っていて、二人ががっつり自分で曲を作ってきたのはほぼ初めてで、それがまた初々しくてノスタルジックな雰囲気を出していると思います。

MC.sirafu:原風景は人それぞれだと思いますが、それをより喚起させるサウンド・プロダクトを、より今作は意識しました。80〜90年代エバーグリーンの感覚。

高木潤:タイミングを同じくしてコロナ禍にあり、これまでのあたりまえが架空に思えてしまうような日々が続くなか、各々がより日常や原風景に寄り添って制作にあたれたのかなと思っていて、強く意識せずとも自然とNEO PARKの世界観を作れた気がしています。


――前作『Terminal』での小淵沢レコーディング合宿の経験は、以降の活動において、特に今作の制作においてどんな形で生かされましたか?


MC.sirafu:逆に言えば、色々な事情で、前作と同じ方法論ではできない。今、やるべきレコーディングの形は何か? 今作は「集う」方法より、メンバー個々が曲を作ったり、それぞれのスキルを信用する形で、よりパーソナルな部分が浮き出る方法論でやれたと思います。詳細は伏せますが、ちなみに僕の録音の半分以上は自宅で行われています。1stアルバム『TNB!』を録ったときを思い出し、色々変わってしまったけど、10年経った今も同じことやっていて、不思議な気持ちになりました。


――本作のインスピレーション源となった出来事、アーティスト、作品があれば教えてください。


中川理沙:昨年から仕事以外はほぼ電車を使わないようにしていました。飲み屋に行くのが大好きなのですが、コロナ禍になってからは家の近くの飲み屋が空いてるときに入るくらい。いくつかある近所の飲み屋はどこも歌謡曲や90年代のJ-POPが流れ続けていて、お客さんもあまりいないからはっきり聴こえました。知ってる曲も多いけど、改めてじっくり聴くと以前は耳に留まらなかった音やアレンジが気になって面白くて。知らない曲も攻めたものが多くて、職人の方々の遊び心に感動したり。なんだか落ち込む時期でもあったので、いろんな国の音楽の影響を受けながらも、日本の文化として確立されていることに勇気をもらいました。私も素直にJ-POPを作りたい!と思ったことが今作に繋がっていると思います。

MC.sirafu:実は同時進行で、曽我部恵一氏とアルバムをレコーディングする機会に恵まれ(詳細はその内…)、その作業プロセスなど、学ぶところ大きかったです。それが今作に反映されているかはわかりませんが、エンジニア、メンバーとの関わりに到るまで、影響はされました。


――レコーディングは順調でしたか? TNBとして新鮮なアプローチ、新しいチャレンジなどがあったならば教えてください。


MC.sirafu:意外にまっとうなポップスをやっているつもりはなく、やりたいのだけれど一向にできない(笑)。そう言った意味で、ポップスに対して逃げず、真正面から向き合ったと言う、なつやすみバンド史上最高の実験作になっております(笑)。でも、スタンダードに本腰入れて向き合うことが一番難しい。

高木潤:今回は全員が作詞作曲に携わりました。結成13年目ですが新たなチャレンジだったと思うし、まだまだおもしろいことやれそうだな、という手応えがありました。


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コロナ渦の中での曲制作、メンバー1人1人が込めたメッセージとは

――「たったひとさじの日々」の歌詞について、コロナ禍以降の価値観、人生観が反映されているようにも思えますが、どんな想いが込められていますか?


中川理沙:このコロナ禍でSNSやTVを眺める時間が増えて、人って無限にいるんだなーとぼんやり思って。自分と考え方が違う人や全く想像がつかないくらい感覚が遠い人もたくさんいるんだけど、みんな違って当たり前だし、人の背景や事情を全て見ることなんて不可能だし、嘘をつく人もいるけどそこにも事情があるだろうし、誰かを守るためにぐっと我慢して何も言えない人もいる。本当は見えない部分が多いはずなのに見えているように錯覚してしまって、言葉を簡単に投げられる時代になったからこそ、想像力を持たないと簡単に人を傷つけてしまうなと思って怖くなりました。人間みんな複雑でそれぞれの生きづらさを抱えていると思うけど、シンプルに感じたものを受け入れて、何もかも輝かしく感じた時代もあったよなーと思って、本当はそれで良くて、ほんの少しでもそんな時間が持てたら心もほぐれるかなと思いました。自分を見失わないように、想像力を働かせて、無理せず大事だと思うものを大事にするだけだ!という気持ちで作りました。


――「薫風ライナー」ではMC.sirafuさんと高木潤さんがクレジットされていますが、どのような分担がなされたのでしょうか? 制作過程を振り返ることはできますか?


高木潤:ワンコーラスだけデモを作ってバンドに提出したのですが、シラフさんが大サビを加えて戻してくれました。もともとは共作にする予定ではなかったけれど、少し地味だったし、続きをどうしようか行き詰まっていたので、持つべきものはメンバー、とありがたみを感じました。

MC.sirafu:途中の大サビが僕です。潤さんのほぼでき上がってるデモにさらに1サビ追加しました。結果、より変な構成になって、TNBぽいかなと。ペダルスティール宮下くんも素晴らしい仕事していて、満足してます。


――「風の谷のナウシカ」のカバーについて、アレンジのポイントとなった部分を教えてください。


MC.sirafu:実は昔からちょいちょいやってまして。きっかけはテンテンコさんとアンコールセッションしたときかと。意外に原曲に忠実なアレンジでして。エバーグリーン感を消さぬよう、なおかつバンドっぽさが残ることで、ラフなニューウェイブ感出るかな、と言う狙いです。フルートのフレーズも、本当はセクションだったやつを、敢えて1パートだけでやってもらってます。最高のスカスカ感が出たと思います。


――TNB流のシティポップのような「ビーチサイドファントム」ですが、そのサウンドデザインについて、インスパイアされたもの、リファレンスとして思い浮かべた音楽などがあれば教えてください。


中川理沙:大貫妙子さんのSUNSHOWERです。歌詞はコロナ禍でどこにも遊びに行けなくなってしまって、「思いきり仕事して休みの日に思いきり遊ぶ」ということに憧れている今を記録しておこうと思って書きました。充実してる人たちを描くつもりだったけど、それを眺めてる人の歌になりました。


――村野瑞希さんによる「maigostone」ですが、<変わらないことが永遠の課題になるんだ>というフレーズが強く印象的でした。この曲に込めたメッセージ、想いをお聞かせください。


村野瑞希:もともとこの曲…このフレーズは5年くらい前からあったもので、人間って成長していくなかで知らなくてもいいことを知ってしまったりするじゃないですか。それで変わっていってしまうことが切ないなぁというか。子供とか、穢れたこととか知らずにそのままでいてくれ〜、とか。人との関係性とかも“変わらないこと”は不可能だなぁという意味合いでした。それが、このコロナ禍を経て正反対の意味も含むことに気付きました。世の中の“変わらないこと”に困ってる人たちがたくさんいる。変えていかなきゃいけないことがたくさんある。もっと個人的なことで言えば自分の欠点とか、変えたくても変われなくてずっと悩んだりする。ここ1年は自分のそういう部分とひたすら向き合わなきゃいけなくて、なんだかそういうエゴが出てしまってないかなと心配なのですが…。自分自身ですらいろんな意味で捉えられる曲になってしまったので、聴く人のタイミングで好きなように聴いてもらえればいいなあと思ってます。ただ、もし今変わりたくても変われなくて悩んでる人がいたら、変われない自分を責めるんじゃなくて、変わりたいと思える自分を褒めてあげてほしいなあと、そこに気づいた自分自身を受け入れてあげてほしいなあと伝えたいです。


――空港”から“公園”を経て、第3作ではどんなところを目指しますか?


中川理沙:どこだろう…?B…。Brazilかな?

MC.sirafu:どうなってるんでしょうね? まだその辺うろついてるかも(笑)。


――2019年の『Terminal』リリース時以来、2年ぶりのビルボードライブです。前回は1st、2ndステージで異なる内容となっていましたが、どんな思い出がありますか?


中川理沙:出る前は緊張したけど、演奏を始めると気持ちよくて、お客さんのわくわくしているような気持ちも伝わってきて夢みたいな時間でした。1stステージは1stアルバム『TNB!』の再現ライブだったのですが、作った当時はビルボードで演奏できる日が来るなんて1ミリも想像していなかったので、感慨深かったです。

MC.sirafu:母親が観に来てくれて、喜んでいたので親孝行できたと思います! もちろんビルボードだから呼びました!

高木潤:1stアルバム『TNB!』の再現ライブは、それまでのキャリアを振り返ることができ、とても良い機会でした。ビルボードライブで演奏している自分たちの姿に、大人になったな…と感じずにはいられませんでした。

村野瑞希:『TNB!』の再現もあり、普段やらない曲もやって緊張もしてたと思うんですが、楽しくてあっという間に終わってしまいました。1stと2ndで衣装もガラリと変えてましたね。


――ライブのパフォーマンスが特に楽しみな『NEO PARK』の楽曲があれば教えてください。


中川理沙:「Symphonic」かな…。ズレたら終わりなので緊張感があります! 見所は潤さんのベース。

MC.sirafu:サポート・ミュージシャンが入る新曲群も見所ですが、そのサポメン(フルート若菜さん、sax加藤くん、ペダルスティール宮下くん、トロンボーンNAPPI)含む全員で演奏するセッション曲は見所ですよ〜。

村野瑞希:わたしは「薫風ライナー」の大サビで初期メンバー2人が一緒に歌ってる部分が好きです。


――最後に公演への意気込みと、リスナーへのメッセージをお聞かせください。


中川理沙:またビルボードでライブできることがとても嬉しくて楽しみです! 少しでもみなさんの心が安らいだり、わくわくするような時間にできたらいいなと思っています。どうか無理せず、来ていただける方はお気をつけてお越しください。

MC.sirafu:ただただ皆様にお会いできることを楽しみに、そしてありがたく思っています。いつにも増してエモい演奏になるかもね!

高木潤:『NEO PARK』、聴いていただきありがとうございます。皆さんに楽しんでいただけるよう、素晴らしい仲間たちと共に僕たちも楽しんで演奏したいと思います!

村野瑞希:今できることをがんばります!

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