Special
<インタビュー>AAAMYYYが明かす理想で覆い隠した“本当の自分”、2ndアルバム『Annihilation』で訪れた変化
Tempalayのメンバーであり、TENDREやRyohuのサポート/楽曲提供など様々なフィールドで活躍しているAAAMYYYが、2ndアルバム『Annihilation』をリリースする。打ち込み主体だった前作『BODY』から一転、およそ2年半ぶりとなる本作には気心の知れたプレイヤーたちが多数参加し、オーガニックなバンド・サウンドを全編にわたって展開している。まるでひとつのフレーズのようにアンサンブルの一部として組み込まれていた彼女の歌声も、ここでは全面的にフィーチャー。声のニュアンスを生かしたソング・オリエンテッドな楽曲には、彼女が思春期に聴き馴染んでいた歌謡曲からの影響も刻み込まれているという。SF的世界観をベースにしつつ、コロナ禍で感じた“喪失”とそこからの“再生”を赤裸々に綴ったAAAMYYY。シンガー・ソングライターとして飛躍的な進歩を遂げた彼女とともに、本作の魅力を紐解いていこう。
固定観念をいったん取っ払って
――打ち込み主体だった前作『BODY』から一転、今回はバンド・サウンドが中心のアルバムとなりましたね。この変化はどのようにして訪れたものだったのでしょうか。
前作『BODY』を携えてツアーを回ったくらいから、「次はバンドでレコーディングできたらいいな」というヴィジョンはあったんです。それまでは自分で曲を作って、すべて一人でレコーディングすることに価値を見出していたのだけど、「もうそれもいいかな」って。それで今作は、AAAMYYYバンドのメンバーから派生して色んな人とやってみることにしました。石若駿くんを呼んだり、荘子itくんを召喚したり、Shin Sakiuraがビートを組んでくれたり。「Fiction」は自分が作ったデモトラックのまま本チャンまでいきましたが、それ以外の曲は基本的に誰かと一緒に作ってますね。
――レコーディングやアレンジの方法が変わったということは、曲作りも『BODY』の頃とは違いますか?
曲作りに関しては、今まで通り音楽アプリの『Figure』を使ってます。そこは継続しつつ、今回はShin Sakiuraくんを家に招いて、セッションしながらビートを作っていくとか、そういうインタラクティブなこともしてみたし、例えば「AFTER LIFE」という曲を作っていたときは、1曲の中でどんどん転調していく気持ちよさにハマっていた頃だったので、途中段階の大まかなデモを(河原)太朗ちゃん(TENDRE)に聴いてもらって、理論的に違和感のあるところを直してもらったりしながら仕上げていきました。
AAAMYYY - AFTER LIFE [Official Music Video]
――たしかに「AFTER LIFE」の目まぐるしい転調も、これまでのAAAMYYYさんの作風にはあまりないアプローチでしたよね。あれはどこから思いついたのですか?
それこそTENDREもそうだし、BREIMENとか自分の周囲にいるバンドたちって、転調の仕方が独特なところもカッコいいことに気づいたんです。あとは90年代のJ-POP、例えばKinKi Kidsなどもすごくユニークな転調をするので大好きだったなと。きっと「AFTER LIFE」は、そういうところからも無意識に影響を受けていたのかもしれないですね。ただ、例えばTempalayの場合だと、理論的に間違っていたり気持ち悪いところも気持ち悪いまま進んでいったりするのですけど、今回は“歌謡的な部分”に重きを置きたい気持ちがあったので、そこまで変なことはしたくなかったんです。とにかく色んな人の助けを借りて、自分だけでは思いつかないような“第三者的な視点”を曲の中に入れていきましたね。
――歌謡的な部分に重きを置こうと思ったのはどうして?
私は少しひねくれているところがあるので、『BODY』やそれ以前の作品では、あえて感情を排したウィスパー・ボイスで歌っていたんです。それはそれの良さももちろんあったんですけど、例えば歌っていてちょっとピッチがズレたり、声がかすれたり、ひっくり返ったりする瞬間にこそ人はグッと来るのだなということを、それこそTENDREやTempalayのツアー中に実感したんです。なので今回は、今までのルールや固定観念をいったん取っ払って、好きなように歌ってみることにしました。
――それって、ある意味では自分の素の部分をさらけ出すことでもあると思うのですが、そのときに勇気は要りましたか?
そもそも自分はディーヴァではないと思っていたし、歌い上げるようなボーカリストでもないので、この声を楽曲の中でどう生かすかについて、今まで考えているようで考えていなかったことに気づいて。今回は、そこをしっかり考えて向き合ってみた結果なのかなと思います。もちろん「うまく歌い上げよう」という気持ちはないけど、声のニュアンスはすごく欲しいから、3テイク以内でOKテイクを選ぼうとか、そういう自分内での縛りは設けていました。
様々な姿の“自分”
――なるほど。アルバム自体はいつ頃から作っていたのですか?
実はコロナになる前から「2020年のうちにアルバムを1枚出そう」という話はあったんです。そのための曲作りは2019年から始まっていて、「Leeloo」や「Utopia」といった曲に関しては、夏頃にはもうレコーディングしていました。そこからさらに曲を作り進んでいく中、コロナになってしまって、アルバムのリリースも延期になったという経緯があったんです。なので、アルバムにはコロナ前の曲とコロナ以降の曲が混ざっている状態ですね。
――歌詞についてはどうでしょう。コロナ期間中にAAAMYYYさんが考えていたことが如実に反映されているのかなと思ったのですが。
本当にその通りです。以前、インタビューしていただいたとき(『AAAMYYYが語る、楽器とサウンドメイキング』)は、自分の理想のイメージ像に自分を近づけようとしていたというか。「アーティストとして、こうあるべき」みたいな考え方があって、しかもそれを見せないように振る舞っていたんですね。でも、そういうことに疲れている自分がいたし、何か嘘をついているような気持ちにもなってしまって。「これって不誠実なのでは?」というモヤモヤがずっとあったんです。自分の思い描く理想像とは別に、子供のような自分、理性を取っ払った自分、そういう様々な姿の“自分”が心の中にたくさん存在していることに気づいて、それを今回、吐き出さざるを得なかったんですよね。
――そうだったんですね。しかもコロナになって、ライブがすべて飛んでしまったときは「自分には何もない」とさえ思っていたと以前のインタビューで読みました。
そうなんです。これまでの自分は忙しくあることや、忙しい中でも仕事を受けて、それをきちんとこなすことに価値を見出していたんですよね。ビジネスとしては間違ってないことですけど、メンタル的には全然ダメだったことにコロナになって初めて気づいたんです。だとすると、これまで自分がやってきたこと……なりたかった理想のイメージに近づけようとしていたことすべてが無意味だったのでは、という気持ちになってしまったんです。
――自分もフリーランスで働いているので、AAAMYYYさんの気持ちはよく分かります。
“フリーランスあるある”ですよね。ただ、そのおかげで色んな考え方ができるようになったから、結果的にはよかったのだと思います。
――そういうAAAMYYYさんの心の変化は「PARADOX」や「天狗」などの曲に表れているのかなと思いました。例えば「PARADOX」は、弱さを見せられない人の生きづらさ、傷つくことを恐れて一人でいることのパラドクスを描いています。
このアルバムに登場する“あなた”という二人称は、一貫して私自身のことなんですけど、「PARADOX」はさっき話したような私自身の多重人格的な“本音”というか、心の中の自分に対して話しかけているような歌詞ですね。例えば、Tempalayの中で私はしっかりしてなきゃいけないとか、ちゃんとやっているように見せなきゃいけないとか、そんな思い込みが積み重なるのは、いいように見えて実は悪いことの積み重ねだし、『バタフライエフェクト』のようなことも起こり得る。よく「いい行いを積み重ねていくと、いいことがある」みたいなことが言われるじゃないですか。
――「徳を積む」ってやつですね。
そう。でも、実際はそんなことってあまりなくて。どんなにいいことを積み重ねていたつもりでも、真逆のことが起きたりするわけじゃないですか。だとしたら「一体何のためにいいことを積み重ねるのか?」ということを考えたときに、自分は“体裁のため”にやっていたのだなと気づいたんですね。つまり、自分自身のためでも、誰かのためでもなく、“社会的体裁”のために頑張ってきたのだなと。そういう気づきを「PARADOX」では歌っていますし、「天狗」ではそのことへの懺悔が書かれています。
――「天狗」はさらに厳しい内容というか、自分自身に対してここまで言うのかと思いました。
でも、本当にこの歌詞に書かれている通りの自分だったと思います。けっこう酷い嘘とかも、ひどくないように見せながらうまくついたり、それでやり過ごしたりしたことは何度もありました。それによって関係性がなくなってしまった人もいっぱいいるし、過去を美化していた自分は“天狗”だったのだなと気づかされて、それでこういう歌詞になっちゃいました(笑)。
――自分にも思い当たる節がたくさんあって、いたたまれないところもあったのですが、でもこの曲も最後には“希望”を見せているというか。<後悔ばかりだごめん どん底でいっそもがいて出直すよ>というフレーズには、前に進もうという意思も感じられますね。
懺悔をしていく中で、「本当に自分は最低な人間だ」と思いながら、でもちょっとそこで喝を入れたりしておかないと、あまりにも辛すぎる曲になってしまうと思って、荘子itくんを召喚しました。特にこちらから要望を言わなくても、彼なら歌詞を見れば汲み取ってくれると思って、ラップを入れてもらいたい場所を空白にしたデモを送って、「ここで自由にラップして欲しい」と頼みました。ちょっとだけ質問をもらって、あとは完全にお任せでしたね。
恥ずかしいところも含めて全て投影した
――以前のインタビューで、「SNSで発信することに疲れた」ともおっしゃっていましたが、その気持ちは「不思議」や「FICTION」という曲の中に反映されていますか?
おっしゃる通り、「不思議」はコロナになって、全員がステイホーム期間でSNSが爆発していた時期のことを書いてます。コーラスで参加してくれた“The Boy”とクレジットされている某アーティストは、SNS上でも色々積極的に意見を発信していて。家も近くて何度か話したり、ご飯を食べたりの付き合いがある中で、お互いに共有している世の中の未来像や政治についての要望などが、かなり色濃く歌詞の中に反映されているかなと思います。例えば今、世の中には“当たり前”や“正義”とか“正しさ”とか、そういう考えが錯綜し過ぎていて、議論になっていない非効率な状況がずっと繰り返されていると思うんです。そういう気持ちがこの2曲には入ってますね。
――そして、今作もやはりSF好きなAAAMYYYさんらしい世界観が全体的に漂っていますが、ここ最近は何かインスパイアされた作品などありますか?
NetflixやAmazonプライムに死後の世界、黄泉の世界を題材にしたものが、特にコロナ中は多かった気がしていて。そういう作品を観ていた影響ももちろんあると思うんですけど、例えば「TAKES TIME」や「AFTER LIFE」に関しては、輪廻転生や業がテーマになっています。さっきも話したように、どんなに徳を積み重ねても理不尽な出来事が起きてしまうのに、どうして私たちはそれに囚われてしまうのだろうと。例えば犯罪者というのは、世間が作るルールや価値観、常識といった概念によって作り出されてしまう側面もあると思うんです。“世間が作る価値観”というのは、美醜意識とか脱毛をするとかしないとか、左利き右利きとかなんでもいいんですけど、そうやって何かひとつの側面をハイライトすることによって優劣が生まれ、“劣”とみなされ社会から排除されて犯罪に走ってしまう。ある意味では心の声を“罪”という形で表現しているのかもしれないし、それに対して頭ごなしに「犯罪だ!」と叫ぶ周囲も一体何なんだろうと。そういう仕組みで世の中が回っているから、一度でも“劣”のほうに追いやられた人はずっと地獄が続いていく、本当に生きづらい世の中だなという気持ちを「Takes Time」には投影しました。
AAAMYYY - TAKES TIME [Official Music Video]
――「After Life」は死後の世界や死ぬ間際のことを歌っていますね。
これは知り合いが亡くなった時期に書いたものです。誰かが死ぬと、その人が本当はどんな気持ちで死んでいったのか誰も分かり得ない中で、「いい人生だったよね」みたいなことが言われるわけじゃないですか。でも、そうやって周りが死の価値を決めるのであれば、社会的な功績を上げている人の死はより崇高なものであり、犯罪者の死はそれより劣ったものとされてしまう。そうではなくて、本当は周りがどう思うかではなく、本人が幸せを感じながら死ねたらそれが一番の救いだと思うんですよ。であれば人生を生きる意味とは、自分で幸せと感じながら死ぬことなのかなと思って書いた曲ですね。
――AAAMYYYさんは、なぜそんなにSFに惹かれるのだと思いますか?
SFって奇想天外なことが起きた後の世界を描くことが多いじゃないですか。アポカリプスだったり、地球に住めない状況になったり、宇宙空間だったり。そういう特別な状況に陥ったときに、人間の心理や醜い本質って一番出るのかなと思うんですよね。私は人間を含めた生き物が好きで、その生き様や考え方にすごく興味があるんです。「この人はどんな育てられ方をしてこうなったんだろう?」みたいなことをあれこれ想像してみたり、「もしこの人がSF的な世界観に入り込んでしまったら、どんな行動をするのかな?」とか考えることが昔から楽しくて仕方なかった。誰が生き残るのか、果たして生き残ることが幸せなのかとか。そうすると自分はこの先、何をすべきなのかを考える機会にもなるんです。
――とても興味深いです。
不老不死や若返りをモチーフにしたSFとかを見ていると、「その欲望ってどこから来るのだろう?」とも思いますね。「そんなに今の人生が好きなのか?」とか想像するのが楽しいんです。監督の思考も垣間見られますしね。「こんな結末を思いつくんだ……」って。
――アルバム最後に収録されている「HOME」も、コロナ禍での気持ちを歌った曲なのかなと思いました。
実を言うと、この曲はコロナ禍になる前、2019年のクリスマスくらいには歌詞もできていたんです。当時からコミュニケーションが希薄になっていく人間関係を寂しいと感じていて、例えば、LINEの既読をつけたらそれでいいやとか。このままでいいのかなという不安から生まれた歌詞ですね。「ただいま、お帰り、ありがとう」とか、そういう言葉を大事にしたいという思いを込めました。
AAAMYYY - HOME [Official Music Video]
――ところで、今作を作っているときによく聴いていた音楽というと?
コロナ中は歌モノを一切聴かなかったですね。ハンス・ジマーとか、そういうSF映画のサウンドトラックをレコードで聴いたりしていました。
――確かに本作は、ハンス・ジマー的なエグい低音が随所に入っていますよね。
低音でいったら、他にもワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとかの影響もあるのかなと思います。あとは自分が幼少期の、自意識が芽生える直前くらいの記憶に潜っていって、その頃に聴いていた音楽を探しました。いつもインタビューで「私のルーツはビートルズとカーペンターズ」と話していたし、もちろんそれは絶対にあるんですけど、中には美空ひばりさんや八代亜紀さんの楽曲もあったりして。その影響も出ていると思いますね。
――ちなみにタイトルの『Annihilation』にはどんな意味が込められているのですか?
直訳すると“対消滅”で、原爆とかそういうものも“Annihilation”なんですけど、さっき話したような、自分の中にいる複数の“自分”のぶつかり合いで色んな概念が壊れたからこそできたアルバムだと思うので、そういう自分の中の“大爆発”という意味でこのタイトルをつけました。今回は自分の恥ずかしいところも含めて全て投影した作品なので、これができて本当に今はスッキリしてます。
Photo by Yuma Totsuka
Annihilation
2021/08/18 RELEASE
WPCL-13317 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.Elsewhere
- 02.不思議
- 03.Leeloo
- 04.PARADOX
- 05.天狗 (Ft.荘子it)
- 06.FICTION
- 07.Utopia
- 08.TAKES TIME
- 09.AFTER LIFE
- 10.HOME
関連商品