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<インタビュー>「お客さんと一緒に成長する作品にしたい」劇伴手掛ける高梨康治が劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』にかける想い



インタビュー

 2021年6月30日に劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』のBlu-ray&DVDが発売された。原作第4期である<デッド・ムーン>編を映像化した今作は、懐かしくも新しい映画に仕上がった。  そんな劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』を、今回は劇伴の側面から見つめ直してみたい。アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』シリーズから続投する形で音楽を担当した高梨康治にインタビューを実施。劇伴へかける想いや制作のこだわりについて訊いてみた。

セーラームーンならではの煌びやかさを表現

――劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』の制作は、アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』シリーズが始まったときから決定していたんですか?

そのときはまだ聞いてなかったです。『Crystal』が続いてよかったなと思っていたら、「劇場版をやるよ」と言われて。

――今回は劇伴を手掛けるにあたり、何を意識しましたか?

基本的に『美少女戦士セーラームーン』の音楽は“宇宙っぽさ”をイメージしています。神秘的な作品ですし、月や惑星と結びつきが強いので。劇場版ではストリングスとコーラスが主軸のサウンドにシンセサイザーを多く組み込んで、テレビ版よりもスペーシーに仕上げました。僕にとってコーラスは女の子の変身シーンで欠かせないものなので、他の作品とどう差別化しようかといろいろ考えながら。そのうえでセーラームーンならではの煌びやかさをどう表現しようかな…と。オーケストラの曲ではあるものの、ボトムではドラムやベースを使い、意外とロックっぽいアプローチもしています。



劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」《前編》6戦士の<変身シーン特別映像>解禁!/Pretty Guardian Sailor Moon Eternal


――ドラムの音もよかったですよね。

実は打ち込みなんですよ(笑)。生っぽい音にはシミュレーションしてるんですけどね。生ドラムも最高だけど、打ち込みのほうがコントロールしやすいし、処理しやすいので。オーケストラでやるときは打ち込みのほうが多いかもしれません。

――「ボトムはロックっぽいアプローチをしている」とのことでしたが、楽曲はオーケストレーションの活きた作品が多かったと思います。高梨さんの旨味であるバンド的なサウンドはあえて控えたのでしょうか?

ロックを強く出すと、どうしてもサウンドが男っぽくなるんです。コーラスとオーケストラのほうが、女性の繊細さや美しさを表現していくのに適しているというか。セーラームーンの持つ煌びやかなイメージを追求すると、ロックじゃないんですよね。

――『美少女戦士セーラームーンSuperS』楽曲からの影響もありますか?

ないですね。むしろ聴かないようにしているくらい。過去に高い評価を得ていたり、多くの人に愛されていたりする作品って、リメイクや引き継ぎのプレッシャーがものすごく大きくて。意識すると「こうしなきゃ」みたいに引っ張られてしまうので、新しいものを作る気持ちで挑んでいます。

――新シリーズの『美少女戦士セーラームーン』は全くの別物だと。

観られる方はどういう解釈でもOKだと思うんですけど、作り手としては「新しいものとして観てください」という気持ちでやっているつもりです。偉大な先人と比べても絶対に適わないので(笑)。敬意として伝説にはあえて触れません。


音楽とセリフのバランスは「経験値」で調整

――曲はどのような順番で作っていかれたんですか?

まず取り掛かったのはセーラー戦士の変身シーンですね。戦う女の子にとって変身シーンは見せ場のひとつですし、肝になる場面だと思うので。できるだけシンプルな構成や展開にして、分かりやすくかっこいいものになるよう心掛けています。次に作るのはキャラクターのテーマ。「このキャラクターが出てきたら、このメロディー」となるように、各々のモチーフを決めていきます。それをシーンに合わせて展開して、一つひとつの楽曲に落とし込んでいくんです。前半のほうはモチーフが薄めなんですけど、後半では膨らませて厚く。クライマックスに向かって勢いがつくようにしています。

――キャラクターがそれぞれテーマを持っているのは面白いですね。

セーラームーンに関しては、『美少女戦士セーラームーン』シリーズとしてのテーマになっているんですけどね(笑)。ジルコニアや不穏な月のテーマとかが分かりやすいかな。何度も繰り返し見ていただくと、「このキャラクターが出てきたら、このメロディーなんだな」と気づいていただけると思います。いろいろ発見していただけたら嬉しいです。

――モチーフのようにキャラクターごとにイメージの楽器もあるんですか?

セーラーマーズだけちょっとえこひいきしてるんですけど…。彼女の変身シーンだけは和楽器を使って、日本っぽいテイストに仕上げました。

――高梨さん的にお気に入りの曲はどれですか?

ウラヌスが変身するシーンの曲ですね。イケイケ度が当社比1.5倍(笑)。大地をズバーッと削って攻撃するところに向かって、めちゃくちゃスピード感をつけられたなと。指の動きまで意識して、一つひとつの音をハメるくらいこだわりました。あとは、エリオスとちびうさがやり取りするシーンも好きかな。

――とてもロマンティックですよね。打楽器の使い方も特徴的だな…と。

僕が打楽器マニアなんですよね(笑)。格闘技の音楽を作っていた頃から自分の特徴は“打楽器の使い方”だと思っています。劇伴って打楽器はループを引きがちなんですけど、僕は打楽器を組み合わせるのが好き。「ドーン」って一発鳴るのにもいろんな打撃音を混ぜて音色を作っているんです。気をつけなきゃいけないのは、できあがった作品には効果音が入ってくるということ。特に戦闘シーンは効果音も多くなってくるので、打楽器をいっぱい使いたい気持ちをグッと抑えます。競合しちゃうとバランスを取るときに音楽を下げられてしまうので。

――効果音がどこに入るかはあらかじめ決まっているんですか?

これは経験値なんですよね…。事前にシミュレーションができないので、できあがった映像を見て予想していく感じ(笑)。あとは、どの辺の帯域を使えば声優さんのセリフに干渉しないかも考えます。今までの感覚をもとに「これくらいの音域なら邪魔にならないかな…」って。

――声優さんの声の高さまで加味されるんですね。

楽器の置き場所によって、声優さんの声の聴きやすさが意外と変わるので。可愛い女の子が出てくる作品ほど、ボトムを下げるようにしてるかな。ついつい可愛い音楽をつけたくなるんですけどね(笑)。セリフがあって、効果音があって、音楽があってこその作品なので。どこに音楽を配置しておけばミキサーさんが使いやすいか考えるようにしています。

――高梨さんのほうから監督に「この場面は音楽が必要では」と提案したりもするんですか?

しないですね。監督の今さんや選曲の茅原さんとはお会いして長いし、信頼関係がかなり深いので。多種多様な意見があると混乱してしまうから、僕は船長に従うのみ。今さんも「自由にやってください」と言ってくださるので、監督の演出に信頼をもってお応えするようにしています。


お客さんと一緒に作品を成長させていく

――お話を聞けば聞くほど、映画を観ながら劇伴を聴き直したくなりますね。

ここだけの話なんですけど、今作は弦の配置も面白いことをしたんです。

――それは訊いてもいいやつですか?(笑)

オーケストラってクラシックならではの決められた配置があるんですけど、今回はパートをダブらせてシンメトリーな配置にしたんです。本来であれば席によって変わる聴こえ方を一定でバランスよくするために。クラシックの人からすると邪道なやり方なんですけどね(笑)。実験をするのが好きなので、面白そうだと思ったら試したくなっちゃって。

――サウンドトラックを聴いてもその違いは分かるようになっているんですか?

サウンドトラックはシンメトリーを外しました。劇場で映画の劇伴として聴くのとサウンドトラックという形で音楽として聴くのでは、聴き方が違うと思うので。ちょっとマニアックな話だけどね(笑)。

――引き続き『美少女戦士セーラームーン』の音楽に関われるとしたら「こうしたい」という展望はありますか?

『Eternal』の延長線で楽曲を進化させたいです。正直なところ、1クールってパッと終わっちゃうんですよ。でも、作品が続けば続くほど、音楽は磨き上げることができる。手法を研ぎ澄まして広げていくのってすごく楽しくて。一つの作品に携わって音楽をずっと任せていただけるのは、クリエイターとしてめちゃくちゃ魅力的なことですね。長く関わるほどお客さんが求めているものも分かってきますし。



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――どうやってお客さんの声を吸い上げるんですか?

ニコニコ動画が全盛期だった頃は、動画についたコメントをよく見ていました。近しい人は基本的にいいことしか言ってくれないけど、ニコ動のコメントは容赦なし(笑)。眺めていると、みんなが何を求めているか理解できるんです。一番ダメなのはコメントがなくなること。要するに興味がないということなので。だから、批判も大歓迎(笑)。みんなが好きでも嫌いでもないものは捨てていって、好きなところをどんどん膨らませていくことが、お客さんと一緒に作品を成長させていくことに繋がるんです。

――お客さんと一緒に成長していく作品って素敵ですね。

一番大事なのは見てくれた人が楽しかったかどうか。僕らはみなさんに楽しんでもらってお金をもらうプロなので、お客さんを喜ばせることが一番大事なんですよ。

――実は続編の話がこっそり動いていたりしますか?

それは僕も知りたいんですよ(笑)。スケジュールを空けて待ってます!

Interview by 坂井彩花
(c)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」製作委員会

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