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<インタビュー>miletが今だからこそ歌えた“奇跡のような日常” 新作EP『Ordinary days』を語る



インタビュー

 miletが新作EP『Ordinary days』を8月4日にリリースする。7月14日に先行配信された表題曲は、日本テレビ系水曜ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』の主題歌として書き下ろされた1曲。<君の隣で笑うより 君に笑ってほしいのさ>というサビのフレーズが印象的な、日常に優しく寄り添うようなミドル・ナンバーだ。EPは他の収録曲3曲も含めて、miletというアーティストの多面的な魅力を示す作品になっている。新作について、新型コロナウイルス感染症拡大による延期や中止を経て、初めて実現した全国ツアー【milet 1st tour SEVENTH HEAVEN】について、アーティストとして着実に成長しているmiletの今を語ってもらった。

曲の本来の姿がようやく形になった

――まずはようやく実現した全国ツアーについて聞かせてください。このインタビューを行っているのは公演をいくつか終えたタイミングですが、どんな実感がありますか?

やっとできたな、という感じです。予定していたツアーが2回中止になってしまって、3度目の正直という感じで。全国でこんなに待っていてくれた人がいるんだっていうのを目の当たりにして、やっとツアーを回れているんだという実感が沸いています。楽しすぎて夢みたいな気持ちです。

――目の前にお客さんがいる状況で歌う、音楽を届ける体験は、やはり実感としてとても大きいものだろうと思います。

昨年には【milet ONLINE LIVE "eyes" 2020】という無観客の配信ライブもさせていただいて。そこでもみんなの存在を感じてはいたんですけれど、やっぱりみんなが目の前にいて、熱量があって、曲ごとにいろいろ楽しんでくれている姿を見ると「これはライブでしか見えない光景だな」と思いました。ライブ活動自体もそんなにやってきていなかったですし、ツアーで立て続けにライブをするのも初めてなので、日々「ここはよかった」というところも改善点もあって。「これがライブツアーなんだ」という感じもしますし、勉強の日々です。



milet ONLINE LIVE “eyes” 2020 <for J-LODlive>


――ツアーを経て、ミュージシャンとしての基礎体力というか、現場での表現力が鍛えられている実感がある。

ありますね。臨機応変にいかなきゃいけないのもあるし、バンドとのグルーヴ感を高めていくのも私次第だと思うので。責任感もありますね。

――昨年6月にデビュー・アルバム『eyes』がリリースされて1年少しが経ちましたが、アルバムについては改めて今、どんなふうに振り返っていらっしゃいますか?

リリースから時間は経ちましたけど、今ライブで歌っているのはそのアルバムに収録されている曲たちがほとんどなので、懐かしいとは全然思わないです。むしろライブによってアレンジが変わったり、歌っていて初めて気づく部分もたくさんあります。現在進行形で曲も生まれ変わってきている感じもするので。振り返るというよりも、今まさにそれを感じているところです。




――ツアーで披露することで、ようやくアルバムの楽曲たちが血肉化したような感じでしょうか?

そうですね。閉じこもっていたものがようやく外の世界に歩み出してきたような感じはあります。平面だったものが立体になってきたというか。私は景色から曲を作ることが多いんですけれど、絵画的だった景色が実体になったような感じです。ライブとなるとそのときしか歌えない歌になるし、目の前のお客さんのテンションで引っ張られるようなところもあって。音楽が活き活きと、私と一緒に飛び跳ねたり、沈んだり、這いつくばったりしてくれるような感じがして。歌ってみてようやく輪郭がはっきりしてくるというか、曲の本来の姿がようやく形になったと思います。


今だからこそ書ける曲になった

――新作EPについても聞かせてください。まず表題曲の「Ordinary days」はどういうふうに作り始めた曲なんでしょうか?

この曲は『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』というドラマの主題歌として書き下ろした曲です。そのドラマの原作になっている漫画と、あとは脚本を読みながら作らせていただきました。原作の漫画は交番に勤務する女性の警察官のお話なんですけれど、大きな犯罪に立ち向かうというのではなく、日常の中にある問題を解決していくようなストーリーなんです。私たちに近いところで起きていることをわかりやすく、時にほのぼのと、時にシリアスに描いているものだったので。読みながら、主題歌として「日常」がキーワードになるんじゃないかと思いました。今までの曲は日常というよりファンタジーな要素を持つものが多かったですけれど、自分の意識を今見えているものに集中しました。それは今まで作ってきた曲とは違う作業でした。

――仰る通り、今までのmiletさんの曲はどちらかと言うと、華やかなほうにもダークなほうにも非日常の世界に振り切った表現が多かったですよね。それとは違う切り口でテーマやモチーフを膨らませていくような感じだった。

そうですね。「inside you」もそうですけど、自分の頭で想像した描写にサントラみたいな感覚で曲を作っていくようなやり方が多かったんです。でも、今回はメッセージから作っていきました。<君の隣で笑うより 君に笑ってほしいのさ>というサビ頭の歌詞がメロディと一緒に最初に出てきたので、そこをテーマに「私が今見ているものってなんだろう」と考えながら書いていきました。やっぱり今の日常って、数年前の日常とは違うものになっています。コロナ禍で変わってきてしまった日々をどうやって生きるかというのもあるし、こういう時期だからこそ、それぞれの悩みが増えていたり、現実的な話として仕事がなくなってしまったような人もいる。会いたい人に会えなくなってしまったり、必然的に楽しみが減ってしまったりしたような人も、私も含めてたくさんいると思うんです。でも、そんなときでも楽しい事がは実は身近にあったり、今まで見ていたようで見えなかったところにキラキラしたもの、彩りや美しいものがある。自分としては、この時期になってようやくそういうことに気づけたなと思うことが多いんですね。だから、こうした停滞して見えるような時間も実は無駄じゃなくて、このときだからこそ気付くことのできるものがあるんだなと思って。そういうこともこの歌に込めようと思いました。日常を大切にして寄り添っていくというのはドラマのテーマにも一致したので、主題歌として描きやすかったです。




――歌詞にも<奇跡のような当たり前>というフレーズがありますけど、コロナ禍以降、「当たり前」とか「日常」という言葉の意味合いが変わってきてしまったわけですよね。だからこそ日常というものの尊さや大切さも、この曲のテーマとして大きくクローズアップされていると感じました。

どうやって今まで生活していたか思い出せないぐらい、このコロナ禍が長くなってきました。でも、今だからこそ感じるものも多いと思うんです。私もツアーが中止になってしまったり、仕事のやり方も変わっていったり、家でレコーディングしたり、いろんなやり方が変わってくる中で戸惑いもたくさんあったんですけど、私とみんなが同じ状況にあるっていうのは初めてかもしれなくて。同じものが不便だと感じて、同じものが便利だと感じる、そういうフラットな状況って、なかなか今までなかったなと思って。だからこそ共感できる感情もあるし、コロナが早く解消されて自由になりたいという気持ちもみんな同じだと思うし。みんな少なからず同じ感情を持っているんだと思えるからこそ、歌にそれを込めたいと思いましたし、寄り添えるようにもなった。今だからこそ書ける曲になったとは思います。また数年前の日常が復活したら、きっと今不便だと思っていたことも、時間と共に自然と忘れていってしまうかもしれない。でも、私は今だからこそ、日常がどれだけ大切で、本当は綺麗だったかということを書こうと思ったんです。自分にとって見えなかったものを見させてくれる時間だったということを忘れたくなくて作ったというのもあるので、きっと未来の自分にも響く曲になっているんじゃないかと思います。



milet「Ordinary days」Music Video(日本テレビ系水曜ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」主題歌)


――この曲はすごくポップな広がりを持った仕上がりになっていると思います。miletさんの曲には内にこもっていく、もしくは底に深く潜っていくタイプの曲もあるんですが、そうではなくて、聴き手に寄り添うタイプの曲である。そういう曲ができた手応えというのはどうでしょう?

自分を歌った曲と誰かのために作る曲という違いはあるのかもしれないと思います。たとえば「inside you」は私自身のことで、自分の中の気持ちを整理した曲です。でも、この「Ordinary days」は聴いてくださる方のために作った曲なんです。身近なところで言うと、家族のことを想ったり、私をいつも見てくれている人、聴いてくれている人のために作った曲です。やっぱり身近な人が落ち込んでいたりすると、私は勇気づけたいし、元気づけたいと思うし、それが音楽になったらもっと大きな効果を持つようになると思うし、繰り返し使える薬みたいなものにもなると思うので。その力を借りたかったというのもあって、この曲に落とし込んだというのもあります。ドラマの主題歌として歌わせていただけるということも、私のことを知らない方にも耳にしてもらえるきっかけが増えると思うので、みなさんの心にしっかり残る歌をちゃんと作れるようになりたいと思い、全編日本語というところにもチャレンジしました。

――そういう思いがサビ頭の<君の隣で笑うより 君に笑ってほしいのさ>というところにも表れている。

そこが一番込めたいメッセージです。この曲のテーマでもあるし、人に伝えたいことであって。それが素直に言葉として歌えたのは自分としても嬉しかったです。


いろんな私の側面を知ってもらいたい

――EPの表題曲以外についても訊かせてください。「Time Is On Our Side」は華やかなストリングスとダンス・ビートが印象的なアッパーな曲ですが、これはどういうふうにして作っていったんでしょうか?

これは本当に最近できた曲なんです。今ツアーをしている最中なんですけど、ライブ期間中に作り始めて、ライブ期間中に完成した曲なんです。ツアーが始まってからライブが楽しくて。もっとみんなと一体になれる曲がほしい、ライブで楽しめる曲がほしいと思って。だから、今までしてこなかったサビのコーラスも、ぜひみんなにライブで歌ってほしいと思って入れました。今はまだお客さんも声を出せないんですけれど、そういう制限もなくなって自由になったら、みんなで一緒に楽しめる曲になるんじゃないかなと思って。そんな希望も込めて作りました。

――歌詞に「セットリスト」という言葉が出てくるのもそういう背景なんですね。

そうなんですよ。ライブに影響されてますね。



――「Castle」に関してはどうでしょうか?

「Castle」はいろいろなチャレンジをして作った曲です。いつも私の制作の現場って、どんなテンションの曲を作っているときでも楽しくてみんな笑っているんです。これもそんな笑顔絶えまない現場で作った曲で、レコーディング中に「ハハハッ」と笑っていたら、その音も録音されていて。その声を素材みたいにしたらすごく良かったんです。この曲は1番がゆったりしたバラードっぽい感じの曲調なんですけど、2番からは雰囲気を変えてアッパーなビートを入れてみようと。一緒に作っているTomoLowくんが声を素材として組み合わせたり、ドロップを作ったりするのが上手いんです。そういう要素も入れつつ、声もシリアスな曲調とか歌詞に当てはめると、それがまたエッジとして光ってくれたような感じです。

――なるほど。これは曲の真ん中にある「So what?」という一言が曲の雰囲気が切り替わるポイントになっているわけですね。

そこまでの自分を「だから何?」って振り切るというか、そこで一区切りつけることでマイナスだったものをプラスにするというか、過去を振り落としていく強さみたいなものを後半の展開で作っている感じがありますね。私の中では砂の城が崩れていくような絵のイメージもあります。

――「Hit the Lights」に関してはどうでしょうか?

明るい曲を作っているときって、反動でダークで重めな曲が作りたくなるというのがあって。そこで精神のバランスを保っているというのがあるんですけど、この曲は明るい曲を作った後くらいに作ったんですけど、明るい曲を作って肩の荷がおりて、自由な曲を作ろうとなったときにこの「Hit the Lights」を作りました。自分の出身の沼に戻っていったような気持ちで伸び伸びと歌いました。やっぱり気持ちがいいですね。




――miletさんの中でも、EPの4曲の中でもちゃんと振り幅があるし、そのバランスもある。明るさとダークさの共存はずっとありますよね。

ありますね。特にEPだと4曲収録してきたので、必ず対極的な2曲は入れるようにしていて。どっちも本当に素の私が作っているものだからというのもあるんですけど、やっぱりいろんなベクトルの曲を作ることで、4曲あったらそれぞれ好きな曲、様々な人がいると思うんです。このEPの中でも「Ordinary days」が1番好きと言ってくれる人も、「Hit the Lights」が1番好きと言ってくれる人もいて。「こんなに暗い曲を歌いながら、こんなにキラキラした曲も歌えるのか」みたいなことを気づいてもらえるのも嬉しいです。1枚でいろんな私の側面を知ってもらいたいというのもあって、振り幅のある曲を収録しています。

――わかりました。最後にもうひとつ、アルバム『eyes』以降の1年は、自分にとってどういう1年になった実感がありますか?

コロナ禍というのもあって、ツアーが中止になるたびに落ち込んだりもしたんです。でも、かなりエンジンを吹かせられる時間だったと思っています。そして今、ようやく全開で走り始めることができたと思っていて。すごくいい充電期間になりましたし、みんなと離れていたからこそ、つながりの大切さもわかった。アルバムをリリースして、思いもよらず多くの人に聴いてもらうことができて、想像もしていなかった紅白にも出させていただいたりして。コロナ禍というのはずっと停滞期だと思っていたんですけれど、そんなことはなくて、進もうと思えば進める時間でもあったと、振り返って考えることができた。全部が糧になっている、決して無駄じゃないと考えることで前を向けるようになった。その気持ちを「Ordinary days」に入れられました。この曲に繋がったということも含めて、今までの思うように動けなかった1年は無駄じゃなかったと思います。

Interview by 柴那典
Photo by Shintaro Oki(fort)

milet「Ordinary days」

Ordinary days

2021/08/04 RELEASE
SECL-2589 ¥ 1,375(税込)

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Disc01
  1. 01.Ordinary days
  2. 02.Time Is On Our Side
  3. 03.Castle
  4. 04.Hit the Lights

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