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布袋寅泰『Pegasus』40周年記念インタビュー



布袋寅泰『Pegasus』40周年記念インタビュー

僕の理想である「シルエットを見るだけで音が聴こえるギタリスト」になれたと思います──

 アーティスト活動40周年を迎え、2021年1月30日と31日に日本武道館2days公演を開催し、そのライブBlu-ray/DVD『40th ANNIVERSAY Live “Message From Budokan”』と40th ANNIVESARY EP『Pegasus』をリリースしたばかりの布袋寅泰。このタイミングで自身の音楽キャリアを総括するインタビューに応えてくれた。

 幼年期の音楽エピソードからギタリストへの目覚め、BOØWY時代=青春、吉川晃司と結成したCOMPLEX時代、ソロアーティストとして叶えてきた夢、それらすべての時代を網羅した40周年ライブ。そして、新作『Pegasus』各収録曲に込めた想いや今後の夢に至るまで丁寧に語ってくれている。あまりに貴重なテキスト、全音楽ファンにご覧頂きたい。

幼年期の音楽エピソードからギタリストへの目覚め、BOØWY時代=青春、吉川晃司と結成したCOMPLEX時代

--アーティスト活動40周年おめでとうございます。自身では、40年の歳月を経て今どんなミュージシャンになっているなと感じますか?

布袋寅泰:ありがとうございます。相変わらずギターは下手だし、曲作りもワンパターン、デビュー当時から何も進歩していないような気もしますが、40年間、常に変化と挑戦を心がけてきたし、僕の理想である「シルエットを見るだけで音が聴こえるギタリスト」になれたと思います。基本は変わりませんけどね。10代の頃夢中になった音楽が自分のルーツだし、好きなものも嫌いなものもあの頃のままのような気がします。

--アニバサリーイヤーのインタビューになりますので、少しルーツを辿らせて頂きたいのですが、布袋さんが音楽に魅了された最初のきっかけを教えて頂けますでしょうか?

布袋寅泰:家にはアルゼンチン・タンゴや外国民謡などのレコードがあり、母はイタリア民謡の“サンタルチア”をよく口ずさんでいました。幼少期はピアノのレッスンを受けていました。ある日先生に「この退屈な教則本はいつまで続くのですか?」と訊ねたら「永遠にです」と言われ、潔く挫折しました(笑)。のちにエレクトーンを少しやって、今思えば足でベース、左手でコード、右手でメロディというアンサンブルの基本を身につけたような気もします。14歳の頃、親戚や学校の先輩たちがビートルズやDeep Purpleなどのレコードを聴き始め、同時期に故郷の高崎の楽器屋のウィンドウに飾られた鋤田正義さん撮影の有名なT.REXのマーク・ボランのポスターを見て「この恍惚感はエレキギターから来るのか?」と思い興味を持ちました。『ミュージックライフ』などで推薦のレコードを一枚ずつ棚に増やし、ギターの音に夢中になりました。教則本どころか、何もかもが自由なのがロック。私立の中高一貫学校で校則も自由で、その頃から長髪にして先生を困らせました。

--いつどんな流れでギタリストになろうと思ったのでしょうか?

布袋寅泰:ある日母の財布から一万円札が僕のポケットに飛んできました。「ギターを弾きなさい」と神のお告げを受けたのだと思います(笑)。アンプ付きのストラトキャスターを買い、レコードに合わせて練習する毎日が始まりました。その頃からデイヴィッド・ボウイが大好きで、彼の作品に参加しているギタリストが憧れでした。ボウイは毎アルバム、コンセプトの違う音楽スタイルで僕を釘付けにしました。ハードなロックンロールからファンキーなダンスチューンまで、ギターの魅力の奥深さを、教えてくれたのはディヴィッド・ボウイだと思っています。

--そして、1981年~1988年までBOØWYのギタリストとして活躍されるわけですが、今振り返るとバンド時代は布袋さんにとってどんな日々だったなと感じますか?

布袋寅泰:まさに「青春」そのものですよ! コードの名前も知らない4人が、カウントに合わせて一音ずつ重ねていく楽しさを、そして無名のバンドから日本一の存在へ上り詰めてゆくスリリングな経験を共にしたのは、僕の人生の最大の財産だと思います。ミニマルなバンド編成だったし、ギターで様々なチャレンジをしました。僕を信頼し、サウンド面を委ねてくれたメンバーに感謝しています。小さなバンに乗りライブハウスを旅したり、コメディ映画みたいな毎日だったけど、音楽に対する情熱は誰にも負けなかったし、カッコ良さに最後までこだわったあの日々があってこその今だと思います。結成当時からメンバーと「日本一のバンドになってカッコよく解散しようぜ!」と話していたと思います。「燃え尽きる美学」を追求し、日本のロック、音楽シーンを変えるまでの伝説のバンドの一員であったことは、今でも誇らしく思います。

--BOØWY解散後に結成したCOMPLEXもまた布袋さんのキャリアにおいて重要な活動だったと思います。2011年に一夜限りの復活も果たしましたが、自身の中でCOMPLEXはどんな存在なのでしょう?

布袋寅泰:吉川くんは最初からいわゆるロックシンガーというよりパフォーマーとしての意識が強く、豊かな身体性を生かしマイケル・ジャクソンのステップをロックンロールに取り入れようとしたり、ビートを体現するタイプでしたから、僕は彼の特性が活きる音楽を作ることに徹しました。BOØWYとは似て非なるスタイルだけど、僕のギターはバンド時代とは違うアプローチができて、自由でクリエイティヴなプロジェクトでした。彼とは結成前から兄弟みたいな関係です。夜な夜な毎日飲み歩いていましたね。尾崎豊くんや岡村靖幸くんなどにバッタリ遭遇し音楽談義を交わしたりね。いい時代でした。アルバムは2枚しかリリースしなかったけど、こうして今も語り継がれるユニットであることは嬉しい限りです。「BE MY BABY」は今でも日本のロックを代表する一曲だと思っています。

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ソロアーティストとして叶えてきた夢~全時代を網羅した40周年ライブ

--そして、80年代、90年代、00年代、10年代、20年代と5つもの年代をソロアーティストとして活動し、海外デビューや憧れのミュージシャンたちとの共演などなど幾つもの夢を叶えてきました。この自身の歴史にはどんな感慨を持たれていますか?

布袋寅泰『Pegasus』40周年記念インタビュー

布袋寅泰:文字通り駆け抜けましたね。チャレンジ精神旺盛だったからこそ、普通のギタリストが経験できないようなことを数多く経験しました。ヒットチャートに狙いを定め、「スリル」「ポイズン」「バンビーナ」のようなヒットも放ちました。今井美樹の「プライド」やももクロの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」他、多くのアーチストとへの作品提供やプロデュースにも関わらせてもらいました。映画音楽としては「新・仁義なき戦いのテーマ」として書き下ろした曲がクエンティン・タランティーノの耳に止まり『KILL BILL』に起用され、世界のオーディエンスにリーチすることができました。10代の頃夢中だった憧れのロックスターたちとの共演も叶えました。デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、ロキシーミュージック、ブライアン・セッツァー、ローリング・ストーンズなど、レジェンドたちとの共演は忘れられません。海外での活動は10代の頃からの夢でした。ロンドンに移住しヨーロッパ・ツアーやフェスへの出演なども経験しました。海外での活動はそう容易いものではなく、まだまだ結果には繋がりませんが、チャレンジし続けることに意味があると思っています。全てが順風満帆だったわけではなく、悩んだり挫折を味わうこともありましたが、こうして自分らしく今も活動を続けられていることは、とても幸せなことだと思います。

--2021年、それらすべての時代を網羅した『40th ANNIVERSAY Live “Message From Budokan”』は、コロナ禍という未曾有の事態の中で開催されたわけですが、どんな想いで臨んだライブだったのでしょう?

布袋寅泰:開催直前に緊急事態宣言が発令された時は本当にショックでした。コロナによってライブ活動が一年間できず、僕にとってもファンにとっても、そしてバンドやスタッフにとってもとても大切な意味を持つステージでしたから。生配信は決まっていましたが、無観客になるとは思っていませんでした。実際ライブの序盤では未体験の孤独感に襲われどうなるかと思いましたが、中盤からは今までのライブの記憶が重なり、満員のオーディエンスの声援が聞こえてくるようでした。コロナ禍で嵩む皆さんのストレスをライブで振り払いたかったし、生配信に参加してくれたオーディエンスをハッピーにしたい一心で、最後まで布袋らしくパフォーマンスできたと思います。見えなくてもオーディエンスの存在は僕を支えてくれました。長いキャリアの中でも間違いなく『伝説のライブ』になったと思います。

--同ライブはこの度DVD&BD化されるわけですが、映像をご覧になられながらどんなライブになったなと感じましたか?

布袋寅泰:無観客ならではの演出も加えることができたし、今までにない作品が作れましたね。もちろん満場の布袋コールがないライブは寂しいけど、この作品を観る人は誰でも武道館の一席に座り、じっくり音楽を楽しむことができます。BOØWY,COMPLEX時代の曲も、サックスを加えたバンド編成で重厚なアレンジでリメイクできたし、昔ながらのファンも新しいファンも楽しんでもらえる作品だと思います。この“パンデミック”という記憶と共に忘れることのできない映像です。しかし無観客はもう二度とご勘弁を! やはり目の前に僕の音楽を受け止めてくれるオーディエンスあってのライブだと強く実感しました。

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ファンへの想い~新作『Pegasus』各収録曲に込めた想い~今後の夢

--『40th ANNIVERSARY Live "Message from Budokan"』は無観客ライブだったということもあり、逆にファンへの想いをより深めることになった公演だったのではないかと思うのですが、今、布袋さんの中でファンはどんな存在になっていますか?

布袋寅泰『Pegasus』40周年記念インタビュー

布袋寅泰:ファンの存在あっての「布袋寅泰」ですよ! 彼らの熱い声援なくして今の僕はないと思っています。BOØWY時代からのファンはもう50代ですよね。家族のように長い付き合いです。また最近はライブ会場に10代や20代の若いファンの姿も見受けられるし、ここ数年幅広い層の方々が僕の音楽に心を傾けてくれているのを感じ、嬉しく思っています。もちろん表現は音楽家として自分を高めたいという意味で、自分との戦いの繰り返しでもあるけど、やはりファンのみんなに喜んでもらえるのが一番ですよ。誰かをハッピーに、そして勇気づけたくて音楽を選んだのですから。僕は常々「俺についてこい」的な言い方でファンを煽ってきたけど、実は一緒に走ってるんですよね。人生という曲がりくねった道を。こうして混沌とした時代を共に生きる同志として、違いを認め合い、時には慰めあい、そして高め合える存在でいたいと思っています。

--そんなファンの皆さんも待望していた新作『Pegasus』がいよいよリリースされますした。今の時代に必要なメッセージが詰まった表題曲から涙誘うアコースティック曲に「上を向いて歩こう」インストカバー、「DEATH OR FIGHT」なるタイトルからして攻撃的なナンバーまで、あらゆる「これぞ布袋寅泰」が詰まった作品だと感じました。実際はどんな作品を目指して制作されたEPだったのでしょう?

布袋寅泰:おっしゃる通り、どこを切っても布袋節満載の4曲だと思います。「期待を裏切る」のではなく、「期待に応え、超える」作品を届けることが、皆への感謝であると思います。布袋ファンだけでなく、音楽ファン全般に共感してもらえる内容だと思います。エッジーなギターリフも、口ずさみたくなるようなメロディも、開放感と共に心に広がる言葉も、ギターだから歌える音、また闘志が湧き上がる重いビートも、惜しむことなくこの4曲に込めました。シングルというよりミニアルバムを聴くように、それぞれのストーリーを味わってもらえたら嬉しいです。

--表題曲「Pegasus」は、コロナ禍やそれに伴う様々な問題から生まれた閉塞感や不安な状況に飲み込まれている現代において、自分らしく生きていかんとする解放の歌として響く重要なメッセージソングでもあると感じました。実際、この曲はどのような想いから制作されたものだったのでしょう?

布袋寅泰:コロナへのストレスも限界に近いこともあり、心の雲が晴れない毎日ですよね。ネットを見ているとネガティブなニュースや発言が連鎖し、世界をさらに重い空気で覆おうとしているように感じるのは僕だけではないでしょう。何に対しても「NO」と非を唱えるのは簡単です。しかし「YES」も同様に大切な力です。こんな時こそ、目に見えない呪縛を解きはらい、心を解放する必要があると思います。ペガサスの翼は誰もが心に持っている自由の象徴です。広がりのあるサウンドに身を委ね、思いっきり翼を広げてほしいと思います。BOØWY時代を彷彿とさせるトリッキーなギターリフはギタリスト諸君に突き刺さると思うし、ソロからエンディングにかけてのドラマチックな展開は、聴き終えたあと爽快な気持ちを味わってもらえるでしょう。

--続いて、涙さそうアコースティック曲「10年前の今日のこと」。どんな想いから生まれた楽曲なのか教えてもらえますか?

布袋寅泰:東日本大震災から10年。昨日の出来事のようでもあり、また長い10年でもありました。10年一昔、と言いますが、コロナで時間が一時停止した中で40周年を迎え、自分の辿った道をたぐるような気持ちと、かつてデヴィッド・ボウイが「Five Years」という曲で“世界はあと5年で終わる”という世紀末を綴ったように「Ten Years」というテーマで自分と世界に起こったことを描いてみよう、と思ったのがきっかけです。自宅にマイクを立て、全てホームレコーディングした曲です。手作りの温もりがこもった音像に仕上がりました。この曲を聴いてくれる皆さんが、記憶をたぐりながらも、今の自分を、またこれからのこと、一度しかない人生という時間の旅を、穏やかな気持ちで見つめ直すきっかけになればいいな、と思います。何も起こらない平凡な1日が我々の人生のほとんどを占めているのかもしれません。だけど、そんな平凡な1日の一コマに、顔をほころばせてくれるような温かな思い出が必ず存在しているはずです。

--このタイミングで「上を向いて歩こう」をカバーしようと思ったきっかけは何だったんでしょう?

布袋寅泰:ロンドンでのロックダウン中、家で練習や曲作りのためではなく、無心でポロリとギターを爪弾く時間が増えました。そんなある日無意識にこの曲を弾いたんです。心で歌詞をなぞりながらね。その時「ああ、これは絶対誰かの胸に届くな」と確信しました。「どんな時も俯かず、上を向いて、前を向いて歩き続けよう」というのが、僕が音楽を続ける上でのメッセージの基本だし、40周年に掲げた活動のテーマは「とどけ。」という言葉でしたから。しかしこの完璧なメロディと歌詞を指先に委ねるのは簡単ではありませんでした。70テイクくらい弾きましたよ! 優しいけど力強い曲ですね。あとで知ったのですが、この曲がリリースされたのは僕の生まれる一年前の1961年だったとのこと。60年前の曲を来年還暦を迎える僕がカバーしたのも、何か運命的な力を感じます。

--「D.O.F. (Death or fight)」は、かの「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」にも通ずるアンセム的インストゥルメンタル曲だなと感じました。実際はどんなイメージを膨らませながら構築していった楽曲なんでしょう?

布袋寅泰:RIZINからのオファーを受け作ったこのテーマソングは、RIZINファン、格闘技ファンはもちろんのこと、リングに上がる選手たちにとっても、エネルギーが奮い立つような曲を作ろうと、僕も久しぶりにギターを剣にして振り上げるような気持ちで気合いを入れて作りました。映画『ロッキー』や『グラディエーター』、『マッドマックス』の世界観を合体したような壮大で力強い音を目指しました。この曲は筋トレやランニング中に聴くとかなりテンションがあがると思いますよ! 是非みなさん試してみて下さい。

--そんな4曲入りの新作『Pegasus』、どんな風にリスナーに響いてほしいなと、楽しんでほしいなと思いますか?

布袋寅泰:様々な想いを込めて作った4曲ですが、ここからは皆さんの自由です。僕がサウンドや歌詞にのせて描いた世界感をもっともっと増幅させて、それぞれの物語を描き楽しんでほしいと思います。ギタリストの皆さんは是非ペガサス・リフをコピーできるように挑戦してみてください。なかなかの難関ですよ! この作品から僕の40周年は新たなるスタートを切ると思っています。どうぞ期待してください。

--では、最後に、この40周年の先に描いている音楽家・布袋寅泰としての夢や野望がありましたら聞かせてください。

布袋寅泰:野望と呼ぶほど強い目標はないけど、今までがそうであったように、僕は僕らしく、自分のスタイルを磨いていきたいと思います。世界を舞台に活動したい、という夢はライフタイム・ドリームだと思うし、ゴールはまだまだ先です。これからの僕の音楽や活動を耳にするたび「布袋は相変わらず頑張ってるな」と皆さんに思っていただけるようなアーチストでいたい、と思います。

Interviewer:平賀哲雄/Photo:山本倫子

布袋寅泰 / HOTEI「Pegasus」【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

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