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<インタビュー> Night Tempoが『ザ・昭和グルーヴ』シリーズ最新作をリリース 昨今の「シティ・ポップ人気」について語る



 ジャパニーズ・シティ・ポップをこよなく愛し、インターネット上で数々のリエディットを発表したことで2010年代後半に大きく注目された韓国人DJ/プロデューサー、Night Tempo。フューチャー・ファンクの人気アーティストとしてエイティーズの名曲を現代のダンス・ナンバーに生まれ変わらせてきたリエディット・プロジェクト『ザ・昭和グルーヴ』は2019年のWinkからスタート。その後、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香、松原みきと続いてきたシリーズ最新作は『中山美穂 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』。「CATCH ME」(オリジナルリリース87年10月)「WAKU WAKUさせて」(86年11月)の2曲のオフィシャル・リエディットが実現した。

 2曲とも80年代のトップ・アイドルだった“ミポリン”のダンス・ナンバーであり、とりわけ、「CATCH ME」はNight Tempoがジャパニーズ・ポップスを好きになった原点であり、最大級のリスペクトを捧げる角松敏生が作詞作曲プロデュースのすべてを手がけた曲でもある。そんな自身の念願が叶ったと言える今回のリリースについての話題を振り出しに、80年代アイドルの魅力やジャパニーズ・シティ・ポップをめぐる現状について、Night Tempoにじっくり話を聞いた。

80年代のアイドルの歌声は「ユニーク」だった

――Night Tempoさんの新作は『中山美穂 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』。まさに念願が叶ったリリースですね。

Night Tempo:そうですね。昔のことをいろいろ思い出しながら作業しました。

――「CATCH ME」を知ったのはいつ頃ですか?

Night Tempo:好きになったのは、小学生の頃ですね。まだその頃は日本語も何もわからなかった。


▲中山美穂 – CATCH ME (Night Tempo Showa Groove Mix) 【Official Visualizer】

――当然ながら、まだ角松敏生さんのこともまったく知らず。

Night Tempo:はい。好きになったきっかけは当時の韓国のヒット曲と似ていたからです。というか、韓国の曲が日本の真似をしているものが多かったんですけど。まだ子どもだったから、周りの評価とか曲のクオリティの高さとかはあんまりわからなかくて、純粋な心で好きになったんです。

――角松敏生ワークスだということはどうやって知ったんですか?

Night Tempo:20代前半くらいですね。その頃から「こういう日本のいい曲は他にもあるのかな?」と思って、漢字の読み方を覚えて、角松さんのことをいろいろ調べていたんです。そこから角松さんと美穂さんがつながっていきました。僕がいちばん好きな“角松サウンド”は、角松さんのアルバムだと『TOUCH AND GO』(86年6月)。美穂さんだとこの「CATCH ME」や、角松さんがフル・プロデュースしたアルバム『CATCH THE NITE』(88年2月)なんです。

――今回のリエディットは原曲のイメージを踏襲したものですけど、ビートの足し方がNight Tempoさんらしいポイントになっていると思いました。

Night Tempo:そうですね。でも、やはり「CATCH ME」は当時としてもすごくユニークな編曲になっていて、それを無理矢理に自分の色に塗り変えようとしても、それは逆にどっちも良さがなくなることなので、今回はある程度まで原曲の音を残して、ちょっとだけ変化を足すくらいで完成させました。

――中山美穂さんの歌については、どう感じていますか?

Night Tempo:美穂さんは女優としても演技が上手すぎて怖いくらいですが、歌声もとってもユニークです。「クセが出る」というか、声とクセを聴いたらすぐ「あ、中山美穂さんだ」ってわかるし、いろんな曲を歌っても中山美穂の歌になる。歌声を小さくしてもインストゥルメンタルを貫いて声が前に出てくるんです。結構、数少ない声だと思います。

――斉藤由貴さん、工藤静香さんなど、80年代の日本の女性アイドル・ソングも『ザ・昭和グルーヴ』シリーズではこれまで扱ってきましたよね。日本のアイドルは「必ずしも歌がすごくうまいわけじゃない」とも言われますが?

Night Tempo:そうは言っても、当時の歌の平均は今よりすごく高かったと思うんです。しかも昔は声の補正も今みたいにできなかったわけだから、その時代にアイドルがあれくらい歌えていたのは、すごくレベル高いですよ。当時のアイドルの歌は「うまい」とか「下手」とかじゃなく「ユニークさ」が多かったと思います。その人だけのチャーミングなポイントがあって、歌とサウンドの組み合わせがちゃんと計算されていたんです。

――80年代アイドルはソロ・シンガーのヒットが多かったですもんね。

Night Tempo:そうですね。アイドルもひとりひとり素材が強かった。70年代から90年代前半の日本のアイドル・ソングやシティ・ポップは、アーティストの色が確実なんですよね。ちょっと失礼な言葉かもしれないけど、80年代に松田聖子さんひとりでできたことを、今はたくさんの人が集まってやっているように思います。でもこれは時代の流れなのかもしれないですけど。

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シティ・ポップ人気はまだ第一波も来てない

――『ザ・昭和グルーヴ』シリーズは、歌を大事にしたミックスになっていると感じます。

Night Tempo:はい。最初の頃はあまり歌を気にせずにやってたんですけどね。海外や日本の若者はそういうミックスを「いい!」って言ってくれたんですけど、一部には歌が聴きづらいという意見もあって、そこを調整できないのかなと思いながら、今は歌を活かすようにリミックスしています。ただ僕自身は、歌声は楽器だと思ってるんです。もちろん歌詞も重要ではあるんですけど、例えば英語の音楽で言葉を知らなくても心からいいと感じることがよくあるじゃないですか。その感覚を大事にしたいなと思ってるので。


▲斉藤由貴 – 卒業 (Night Tempo Showa Groove Mix)

――その感覚は、ここ数年来のジャパニーズ・シティ・ポップの海外での受け止められ方ともつながりそうですね。

Night Tempo:今シティ・ポップとして聴かれてる80年代の音楽って、当時は最先端のサウンドだったかもしれないけど、今の若い人にはオシャレだけどちょっとパンチが足りなく感じる部分があると思います。そのままでもすごくかっこいいんだけど、パンチがもうちょっとあったらいいかも。僕のリミックスではそういうところの強さを足したりしてます。今の人たちがちょっとでも聴きやすく受け入れてくれるように変えるのがメインの作業なんです。

――いい音楽だからこそ若い人たちの耳で楽しんでもらいたい。

Night Tempo:はい。だから、シティ・ポップ人気はまだ第一波も来てないと僕は思ってます。まだまだこれからだと思うし、その波を若い人たちが自然と引き出すことが重要。大人たちが先に出て無理矢理シティ・ポップをアピールするよりは、若者たちがもっと自然に「こういう曲が好きだからもっと聴いてみたい!」ってなるような流れを後押してあげることのほうが大事なんじゃないかな。今シティ・ポップは海外でもブームだし、せっかくいい流れになってるからこそ、若い人たちに飽きられないようにしていかないと、盛り上がる前に勢いが下がっちゃうんじゃないかと心配してるんです。


▲Tatsuro Yamashita - Kiss kara Hajimaru Mystery (Night Tempo Edit)

――かつてシティ・ポップを聴いてきたはずの大人たちと、今楽しもうとしている若い人たちがうまく噛み合ってない?

Night Tempo:そうだと思います。今の若者は大人よりずっと海外の情報や事情をよくわかってるので、その意見を無視しちゃいけないと思います。大人が教えるというより、逆に大人が若者たちと会話をして、若者の文化を学んで、一緒に盛り上げることができたらシティ・ポップはもっともっと世界的になれる。シティ・ポップだけじゃなく、日本の音楽はすごくいいものが多いので、どんどん盛り上げて行けたらいいのになと思ってます。やっぱり土台を固く作った方がブームは長く続きますよね。そのためには若い人たちの力がいちばん重要です。

――本当にそうですね。「真夜中のドア」や「プラスティック・ラヴ」の次に海外で受ける曲はどれだ? みたいな話題ばかりじゃなく、その時代にみんなが真剣にやっていたことをちゃんとリスペクトしていくことも必要なんでしょうね。

Night Tempo:そうですね。でも研究もほどほどに、とも思うんです。日本人ってすごく真面目だから、考えすぎてちょっと本質から遠くに行っちゃうことも多い。曲が流行ったのは簡単な理由なのに、それにいろいろ理由をつけて「だからこれはすごい」って日本の中でだけ盛り上がったりする。そこはちょっと違うと言いたいです。


▲松原みき - 真夜中のドア/Stay With Me (Night Tempo Showa Groove Mix)

――でも、こうしてコロナ禍でもいろいろシティ・ポップについて前向きに発信を続けているNight Tempoさんは頼もしいと思います。

Night Tempo:これも、僕が早い段階でシティ・ポップのリエディットを始めたから、今の立場でやり続けることができているんだとも思ってます。自分が好きと思ってる方から依頼が来ることも増えて、今がいちばんいい時期なんじゃないかな。頑張って今できることは全部しようと思ってます。今はまだひよっこなので、『ザ・昭和グルーヴ』や自分の作品で結果を少しずつ作っていくことで満足してます。だけど、こうやって実績を重ねていけば、もっとクリエイティブにいろんなことができると思ってます。

―― まだまだこの人の曲をリエディットしたいという存在はいますよね。

Night Tempo:はい。いつかはオフィシャルでリエディットしてみたい人たちがいっぱいいます。それから、リエディットだけじゃなく、当時のシティ・ポップを作っていた人たちと共同作業もしてみたいです。

―― 過去の音源のリエディットだけでなく、シンガーやミュージシャンと一緒に新しいものを作るということ? それはすごくいいですね。

Night Tempo:いろんなアーティストの方々のサウンドに僕が今の要素を足すことで、もっといいものが作れると思います。

――期待してます。そして、コロナ禍が明けたら、日本でまたDJパーティーできたらいいですね。

Night Tempo:はい!

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