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Josh Cumbee xビッケブランカ対談、2人の出会いから「Sound Of Your Name 」の制作秘話まで
Great minds think alike. 賢者は似たような考え方をする、転じて「同じ意見だよ」という意味の言い回しだ。プロデューサーとしてマドンナ、クリス・ブラウンなど超一流アーティストと仕事をしてきたジョシュ・カンビ―と、日本を拠点に縦横無尽に活躍するシンガー・ソングライターのビッケブランカは国境や言語を超えて、お互いをよく理解している。ジョシュのデビュー・シングル「Sound Of Your Name」にビッケブランカが参加した経緯をひもとくインタビューで、くり返し感じたことだ。静かだが情熱的なこのバラードを聴く際は、少し注意が必要だ。都会に降り積もる雪のように重なり、溶け合うふたりの美声を耳にしたが最後、なんどでも聴きたくなるし、耳から離れなくなるから。どちらも曲を作り、演奏をし、歌い、アレンジまでしてしまうマルチ・タレント。日本語と英語が飛び交う、LAと東京を結んだ音楽談義だ。
Interview & Text:池城美菜子
Josh Cumbee とビッケブランカの出会い
ーーおふたりの出会いから教えてください。
ビッケブランカ:岡崎体育と世界標準のダンス・ミュージックを目指して「化かしHOUR NIGHT」を作ったとき、どうせならミックスも世界で活躍している人がいいねってことになって。その際に「ジョシュ・カンビ―というイケイケのエンジニアもできるアーティストがいるよ」って紹介されたのがきっかけですね。そのミックスが本当にすばらしかったので、次もすぐに何かできたら、って思いました。
▲ ビッケブランカ VS 岡崎体育「化かしHOUR NIGHT」
ーービッケブランカさんと初めて作業をしてみてどうでした?
ジョシュ・カンビー:ふだん地域もジャンルも様々なアーティストと仕事をしていますが、それぞれやり方があるんですよね。そのなかでも、ビッケはとくに面白かった。曲のフィードバックをビデオでくれたんだけど、それ自体がユーモラスで楽しかったんです。
ーー「化かしHOUR NIGHT」は途中でEDM で展開します。作曲と編曲をビッケブランカさんが担当されていますが、激しめのEDM になるのはジョシュさんのアレンジですか?
ジョシュ・カンビー:自分の手腕だと言いたいところだけど、はじめから音楽的にかなり完成していました。EDM は音楽的にはあまりおもしろくない曲もあるけど、あの曲は音の重なり方もすごくよかったし工夫されていた。だから、ミキシングはおいしいとこどりみたいな感じで、楽しめました。
ーービッケブランカさんの歌声を聴いたときの第一印象を覚えていたら。
ジョシュ・カンビー:ボーカル・アレンジメントが幅広くてすごいな、と。「化かしHOUR NIGHT」は低くてほとんどかすれている箇所もあれば、スポークン・ワードのようなラップ、僕が好きな00年代半ばのロックみたいに展開する箇所もあって。ふたりのコラボレーションだと知っていたけれど、途中であれ、3人目で誰か参加している? と思ったほどです。
ーーそのミックスが上がってきたときの感想を教えてください。
ビッケブランカ:彼の経験値なのか、センスなのか本当に世界標準で戻ってきたのでびっくりしました。僕もDTMでずっと音楽を作っているけど、どういじったらこうなるのかわからないので、何をしたのか教えてほしいとお願いしたくらい。岡崎体育も同じことを言っていました。
ーー「Sound Of Your Name」はジョシュさんのソロデビュー曲ですが、この曲を選んだ理由は?
ジョシュ・カンビー:ジェイ・デントンと1年前に作った曲で、それからシャワーに入ったりするたび思い出してよくは歌っていたんです。それで、頭から追い出すにはリリースするしかないかな、と思って実行しました。
▲ Josh Cumbee「Sound Of Your Name」
ーーソングライターやプロデューサーとしてキャリアをスタートさせたあと、シンガーになる方は多いですよね? もともとシンガー志望だったケースと、だんだん歌いたくなったケースがあるかと思いますが、ジョシュさんの場合はどちらでしょう?
ジョシュ・カンビー:まずエンジニアとして活動を始めて、トビー・ガッドという天才的な人と仕事をしていくうちにソングライティングやプロデュースを手がけるようになりました。たまに、曲を提供しても歌いたくないと言われてしまうこともあって。その1曲がアーミン・ヴァン・ブーレンの「Sunny Days」で、とりあえず僕が歌ってみたら、アーミンが気に入ってそのままリリースすることになり、大ヒットしました。
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ビッケブランカ「一緒に歌いたいって反射的に思った」
ーー「Sound Of Your Name」は昔の恋人から電話がかかってきて名前を見た途端、息が止まりそうになるという、だれでも身に覚えのある一瞬の感情を捉えた美しい曲です。これは、実体験を元に書かれた曲でしょうか?
ジョシュ・カンビー:イエス。
ビッケブランカ:え、そうなの!
ジョシュ・カンビー:大学を出た後で大恋愛をして、結婚するつもりだったのに結局別れたことがあって。立ち直ったかな、と思った頃、コーヒーショップで彼女と同じ名前が呼ばれて心臓が止まるような思いをして‥あれ、立ち直ったはずなんだけどな、と戸惑いながら一瞬で失恋が蘇った経験をもとにしています。
ビッケブランカ:ロマンティックだね。
ジョシュ・カンビー:ロマンティックだけど、悲しいよね。
ーー曲中で彼女は2回、電話をかけてきています。結局、彼は電話を取ったのでしょうか?
ジョシュ・カンビー:曲では取ってないし、現実でも僕は取らないですね。だいたい、別れた後で以前の恋人に連絡をするときは、本当に愛情があるからではなく、次にいい人を見つけられないだけだから。
ビッケブランカ:僕も歌の中では電話を取っていないだろうな、と思って歌いました。ただ自分だったら、秒で取ります。元カノとは、すごくいい友達や相談相手になるんです。
ジョシュ・カンビー:ワオ。君は僕よりも駆け引き上手なのか、元カノがとてもいい女性だったかどちらかだね(笑)。
ーービッケブランカさんは「Sound Of Your Name」を最初に聴いたとき、どう感じましたか?
ビッケブランカ:まず、歌声のすばらしさに驚きました。その前はエンジニアとして仕事をして、歌声には注意を払ってなかったので。お気に入りのラーメン店に向かう車の中でかけたときに、一緒に歌いたいって反射的に思ってすぐに担当者に連絡したんです。
ジョシュ・カンビー:ビッケがやりたがっているというメールは、ドバイ行きの飛行機の乗り継ぎで空港にいたとき受け取りました。30分くらいしか時間がなかったから、慌てて返信した記憶があります。
▲ Josh Cumbee「Sound Of Your Name with ビッケブランカ」
ーービッケさんは序盤には登場せず、真ん中のコーラスから入り、最後を締めます。このアレンジは、どちらのアイディア?
ビッケブランカ:僕。どんな風にコーラスを乗せるかは一瞬で浮かびました。どう入れば無駄がないか、それでいて胸を打つようなデュエットになるか瞬時に見えた。途中から入って交互に掛け合い、最後はジョシュの声をミュートして自分だけにしたところ、すごくいいってそのまま受け入れてくれて嬉しかったです。
ジョシュ・カンビー:何度もやり取りして相手の希望を探りながら曲を仕上げるケースと、相手が完全に把握しているケースがあって、ビッケは後者でした。本当にすばらしかったので、ミックスは自分のボーカルに磨きをかけてどちらも際立たせたるようにしたんですよね。ひとりで歌っているヴァージョンはもう聴きたくないほどデュエットを気に入っています。
ーーおふたりが一緒に歌っているところを見られるのはいつになるのでしょう?
ジョシュ・カンビー:しばらくは難しいかな。オンラインだとどうしてもズレが出てしまうから。ビッケにこのスタジオに来てもらうのが一番いいでしょうね。
ビッケブランカ:え? 社交辞令ではなくて? 僕は友達に引かれるくらい言ったことを行動するタイプだから真に受けちゃうよ。
ジョシュ・カンビー:本当に大丈夫。こっちのラーメン屋さんは東京ほどおいしくないかもしれないけど(笑)
ーービッケブランカさんは、もともと英語でも歌われていますよね。英語で歌う理由をよかったら。
ビッケブランカ:洋楽ばかりを聴かされて育って、マイケル・ジャクソンの曲を作りたいと思って音楽を始めたのでごく自然に英語で歌っていました。日本語でも歌う必要がでてきて、宇多田ヒカルさんや松任谷由美さんを聴いて勉強した感じです。曲もまず英語で歌ってから日本語にすることが多いですね。
ジョシュ・カンビー:すごいね。
ーーおふたりは多くの楽器を操れる点も共通しています。どの楽器が演奏できますか?
ジョシュ・カンビー:すごくうまくはないけれど、ほとんどの楽器が演奏できます。ピアノ、ギター、ベースやドラム、トランペットも吹きますね。
ビッケブランカ:僕はメインがピアノで、ギター、ドラム、ベースが演奏できます。バイオリンやトランペットはできないけど、KORGのMS-20を手に入れたばかりでこれから使う感じです。曲のアレンジやざっくりしたミックスもDTM でやっています。あと、左利き用のギターも弾くかな。
ーー実際のレコーディングでは、自分で演奏するスタイルですか? それとも、楽器の音色を入れる場合はスタジオ・ミュージシャンに任せるのでしょうか?
ジョシュ・カンビー:自分の曲を作るときは大体自分で演奏しています。何度も失敗して、気に入った演奏だけを入れていますが。最近、ドミニカ共和国のアーティストと作業したときは、コンゴやウッドベースが入ったので、もちろんプロに任せました。
ビッケブランカ:基本的な楽器はできるけれど、僕は怠け者だからプロ級に演奏できるように練習するよりゲームをしていたいんです。日本には優れたピアニストがたくさんいるし、ピアノで作曲だけして、実際のレコーディングではほかの人に任せてます。
ジョシュ・カンビー:あ、僕もゲームは好きだよ。最近、有名なプロデューサーたちは大体ゲームをやるよねって話をしたばかりで。たぶん、ゲームをやっている最中は没頭するしかなくて、音楽作りの脳を休められるからかえって生産性が上がるかも、って言ってたんです。
ビッケブランカ:その説、マネージャーに強調しないと(笑)
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ジョシュ・カンビー「みんなで集まって音楽を楽しみたい」
ーー次回、お互いのプロジェクトに参加するとしたら、どのような形が理想的ですか?
ジョシュ・カンビー:今の世相が落ち着いたら、やっぱり同じスタジオでやり取りしながら曲を作りたいですね。アイディアを出し合って、演奏をして音楽を作りたい。
ビッケブランカ:彼の曲で一緒に歌うのは叶ったので、プロデューサー/DJとして一緒にステージに立ちたいです。実は、プロデューサー/DJとしても海外で活動するのが次の目標なので。日本ではそういう活動をする土壌がないから。ジョシュはフェスとかでDJはするの?
ジョシュ・カンビー:ヨーロッパのフェスのDJセットでヴォーカリストとして出演したことはあるけれど、DJの技術はないから一緒にやるとしたらビッケがプレイする横で歌うか演奏するかになるかな。
ビッケブランカ:いいねぇ。海外では自分は歌わないつもりなんだよね。
ーー英語で歌わないのはもったいない気がします。
ビッケブランカ:ネイティヴの発音ではないと、感情移入してもらえないんじゃないか、と思っていて。そこに時間を割くなら現地のシンガーに歌ってもらったほうがいいような。日本語で歌うのはアリかもしれないけど、それならロックやアニソンがいいですね。EDMと日本語はどうしても座りが悪いから。
ジョシュ・カンビー:決めつけないほうがいいかもしれないよ。ニック・ハワードというイギリスのシンガーの友達がいるんだけど、彼はイギリスだと競争が激しすぎるからってドイツ語を半年間で学んで、ドイツで大活躍しているから。
ーー2020年から今まで、音楽活動が制限されましたよね。その間どのように過ごしたか、その経験を今後、どうプラスに生かせそうか教えてください。
ジョシュ・カンビー:2020年はたしかに音楽活動をするのは大変でした。人をひとつにするのが音楽だから、やはりみんなで集まって音楽を楽しみたいですね。
ビッケブランカ:外出とツアーはできなかったけれど、僕自身はそれを解決するほうへは意図的にエネルギーは使いませんでした。いずれ終わるんだから水のようにいよう、って思って。そうやって自分に注意を向けていると、そもそもどうして音楽をやりたかったんだっけ、という初期衝動を掘り下げるところまで行って、ああ、給食の時間に学校のテレビに出たかったから、歌うのが気持ち良かったからだったと思い当たりました。それが昨年の夏の終わりで、そのあとの活動にすごくいい影響を与えたように思います。外国に行きたかったんだ、って子どもの頃の夢も思い出しました。
ーー何か言い忘れたことがあれば。
ジョシュ・カンビー:近々、オリジナルの新曲もリリースする予定です。エイベックスのチームがバックアップしてくれたオリジナルの「Sound Of Your Name」のビデオもあるので、チェックしてほしいですね。今年中にはアルバムを出せると思うし、ビッケのコンサートでもぜひ歌いたいです。
ビッケブランカ:2020年からたくさんの曲を作っていて、まだ世に出していないのもあるのでそれを楽しみにしてほしいですね。
ーー今日はありがとうございました。
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