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<コラム>『THE FIRST TAKE』に登場した謎のアーティスト、マハラージャンの“辛口だがやみつきになる音楽性”
『THE FIRST TAKE』に初登場、マハラージャンとは
ミルクボーイのあのコーンフレークのネタが、なぜあれだけ多くの人に支持されたのかを考えたとき、トゲのあることをテンポよく、楽しく笑い飛ばしてくれるという点は大きいと思う。よく“誰も傷つけない笑い”なんて言われているが、意外と彼らは辛辣なことを言っている。しかし、それを感じさせない二人の掛け合いの見事さと、角刈りにダブルのスーツという格好の面白さがすべてを中和するのだ。要するに、トゲを笑いで包み込んでいる。
マハラージャンの音楽も少し近いところがあるように思う。世の中に対する不満であったり、社会で感じた理不尽、耐えがたい苦痛、生きていくうえで抱いた疑問。そういうものをマハラージャンはオブラートに包んで……いや、ターバンを巻いて人々に投げかける。だから、彼の音楽は不快にならない。不満や皮肉を含ませながらも、くすりと笑えるバランスを保っている。あの頭の上に乗った大きなターバンの中には、さぞかし激辛のスパイスが隠れていることだろう。ピリッと辛いスパイスを中に潜ませて、ちょっと笑えるくらいの見た目で人々に届けている。
先日公開された「セーラ☆ムン太郎 / THE FIRST TAKE」でもそのセンスは光っていた。メガネの奥の眼光鋭く、語気は激しい。どのフレーズもパンチが効いている。スーツでロックするのもモッズっぽくて良い。見せかけのヒーロー、イカサマのヒロイン……言われてみると何人か思い浮かぶ気がする。しかし、ここぞとばかりに繰り出されるサビの言葉は「セイラ~♪」「ムン太郎~♪」と意味不明。そのなんとも言えないシュールさにじわじわと笑いが込み上げてくるのだ。そして、演奏がとことんカッコいい。鉄壁のリズム隊が奏でる極上のグルーヴに自然と身体が動き出してしまう。ベースを担当するハマ・オカモト(OKAMOTO'S)も笑顔を浮かべてノリノリである。映像を見終えたとき、その絶妙な後味に病みつきになっていたとしたら、あなたはもうマハラージャンの魔法にかかっているだろう。
マハラージャン - セーラ☆ムン太郎 / THE FIRST TAKE
それではここで、改めてマハラージャンがどんなアーティストなのかをおさらいしておこう。元会社員だというマハラージャン。CM制作会社に就職し、会社員として働きながら音楽活動に励んでいた彼は、2019年に初のEP『いいことがしたい』をリリース。続いて2020年に2nd EP『ちがう』を発表した。すると早速、その謎めいた風体とたしかな楽曲クオリティに、感度の高いリスナーや音楽関係者らが反応を示す。当時、複数のレコード会社からオファーがあったようだが、現在の所属レーベルであるソニーミュージックから晴れて今年、メジャー・デビュー作『セーラ☆ムン太郎』をリリース。7月には1stアルバム『僕のスピな☆ムン太郎』を発売予定だ。
洗練されたダンス・ミュージック
マハラージャンの作品の特徴は、その独特な歌詞と洗練されたサウンドである。例えば彼の代表曲「いいことがしたい」は“ダメな自分”がテーマの1曲で、他人の評価を得るために影で良いことをしようとする主人公が描かれる。小気味良いギターのカッティングやリフが印象的で、思わず口ずさみたくなるようなリズミカルな気持ちよさがある。他にも「単純な作業」「何の時間」「おかしくなった人」など、タイトルだけで笑えてしまうような楽曲がずらり。かと思えば、「eden」のように真っ当な歌も作り出せる。これがけっこう重要で、ただ奇を衒っているのではなく、基本的にはこうしたストレートな曲も生み出せる才能の持ち主なのである。だからこそ、拗れた視点やシニカルな目線を持った楽曲がより魅力的に輝くのだ。
マハラージャン - いいことがしたい【Official Music Video】
サウンドとしては、自ら影響元として挙げているジャミロクワイやダフト・パンクといったアーティストのソウル、ファンク、ダンス・ミュージックの要素を下地に感じる。トロ・イ・モワ系の曇ったチルウェイヴに影響されたようなものもありつつ、どれも共通してダンサブルに仕上がっているのが特徴だ。クセになるような絶妙なワード・チョイスと踊れるサウンドの融合。それがマハラージャンの大きな魅力であろう。
一方で、豪華なミュージシャンたちによる演奏面も見逃せない。デビュー以前はすべて一人で演奏をこなしてきた彼だが、『セーラ☆ムン太郎』では錚々たる顔ぶれの演奏陣が集結。OKAMOTO'Sのハマ・オカモトをはじめ、OvallからはmabanuaとShingo Suzukiが、そして最近では星野源の「不思議」でドラムを担当していた石若駿が参加している。
グルーヴの核をなすベースのスラップは躍動感にあふれ、正確無比なドラミングはタイトでクール。とりわけ皆川真人によるウーリッツァーやハモンドオルガン、モーグシンセといった多彩なキーボードの演奏は、マハラージャンの作品に通底する、気弱だがどこか人懐っこさのある愛らしいキャラクター性をよく表している。「セーラ☆ムン太郎」にしても、イントロのジャズ的なコード感を漂わすオシャレなピアノが歌詞の世界観への良い振りになっているし、ナイト・グルーヴ感抜群の「空ノムコウ」のタッチには上品な陶酔感がある。特に「適材適所」は白眉で、終盤にかけて各楽器が複雑に絡み合うスリリングな展開は必聴だ。
マハラージャン-適材適所 [イラストビデオ]】
彼らは皆、マハラージャンが“見せかけのヒーロー”ではないことを感じ取っているのだろう。まだまだこれからの新人であっても良い曲を作っている彼のためなら、と才能がこぞって集まっている感がある。5月にNHK『シブヤノオト』に出演した際にも、テレビ初登場ながらも堂々としたオーラを放ち、こうした名うてのミュージシャンたちとともに素晴らしいパフォーマンスを披露していた(いつもと違った派手な柄のターバンを巻いていた)。
こうした地上波出演や今回の『THE FIRST TAKE』への登場、そして来月に控えたアルバム発売を機に、マハラージャン熱は今後もより一層加速していくだろう。あの頭の上に巻いたターバンがさらに大きく、もっとド派手な柄になっていくことを期待している。
僕のスピな☆ムン太郎
2021/07/21 RELEASE
SECL-2658 ¥ 3,000(税込)
Disc01
- 01.次いくよ
- 02.僕のスピな人
- 03.行列
- 04.空ノムコウ
- 05.セーラ☆ムン太郎
- 06.いうぞ
- 07.示談
- 08.僕のムンクが叫ばない
- 09.地獄 Part2
- 10.適材適所 (Album Mix ver.)
- 11.Romantic(ロマンティック)が止まらない
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