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<コラム>カリスマ性と親友のような親しみやすさを併せ持つ歌姫・西野カナの魅力とは
サブスク解禁、バイラルチャート席巻
ラブソングの歌姫、西野カナが2019年に無期限の活動を休止してから2年。2021年6月の初週に、Spotifyのバイラルチャート『バイラルトップ50(日本)』で西野カナの楽曲が34曲もランクインする現象が起こった。そして6月2日から14日までのおよそ2週間、30曲以上の楽曲がランクインし続けたのだ。これは6月1日にサブスクで全曲解禁されたことで、多くの人たちが改めて彼女の曲を聴き、SNS上でシェアしたり、話題にしたことを証明したこととなる。これまでも多くのアーティストによるサブスク解禁が話題となってきたが、ここまでの現象は稀。改めて彼女の楽曲が多くの人たちに響いているということを物語っている。
西野カナ-サブスク全曲解禁!
“西野カナ”と聞いて、「会いたくて会いたくて」「トリセツ」「Darling」などの曲を思い浮かべる人も多いことだろう。19歳のデビュー当時から歌詞を書き始め、圧倒的な共感を呼ぶ言葉選びは、実体験のほかに、友人や近しい人との日常会話や細かいリサーチによって生まれていたことは有名な話。だからこそ、19歳から29歳のあいだに生み出された楽曲は、そのときの女性が感じる心境の変化や恋愛観、さらに仕事と結婚のはざまで悩む女性像、女性として生きていく悩みなど、誰もが抱えるリアルな心情を見事に歌詞に落とし込み、共感を呼んできたのだ。
その主人公たちの心情の変化は、リリースされた順に聴けば、まるで一人の女性の成長を見ているような気持ちになれるのも面白い。
例えば「遠くても feat. WISE」では、大好きな人との遠距離恋愛に潰れそうになりながらも信じ抜こうと誓う一方で、「会いたくて会いたくて」では、恋する想いが溢れてしまう。「もっと…」「Dear…」では、恋人に対する執着を描きながら、年齢を重ね、「SAKURA,I love you?」では、本当の恋とは一体なんなのかと迷い、「Always」では、愛する人と一緒にいられることの奇跡に気づく。たとえ失恋したとしても、ただ泣きじゃくるのではなく、「Be Strong」のように、もっと強くなれるから、新しい私にならないといけないと進み出していく――。
西野カナ 『遠くても feat.WISE (short ver.)』
彼女が20代半ばを超えたあたりからは、女性としての自立がしっかりと曲へと現れていく。芯の強さ、真っ直ぐに進む凛々しさを描いた「Girls」など、女性へ向けたエールソングが多いのも魅力のひとつ。もちろん、聴けば元気になる振り切った「GO FOR IT !!」や「Believe」「パッ」などは、応援歌の定番として君臨している。
西野カナ『Believe』FULL-サブスク全曲解禁記念
さらに、その頃からは、結婚を夢見るラブソングも顕著に増えていく。誰もが20代になると仕事と結婚、恋愛に悩むもの。さらに理想の恋愛を求め続ける「もしも運命の人がいるのなら」「トリセツ」、そして二人の生活を描く「Darling」、友達の結婚へ捧ぐ「Dear Bride」なども、多くの人の共感を呼ぶ名曲となった。
西野カナ 『Darling』MV(Short Ver.)
それと同時に、普遍的に人を好きになる純粋な気持ちを歌った「恋する気持ち」や「好き」「君が好き」、忘れられない痛いほどの失恋ソング「涙色」「さよなら」も、自分を重ねてしまう人は多いことだろう。
もちろん、彼女を語るには欠かせない、友情ソングもたくさん存在している。「Best Friend」や「私たち」など、本当の親友を思い浮かべて作り上げたという曲は、心を震わすものばかり。アーティストという孤高な存在で、どうしても孤立しがちな職業でありながら、親友を大事にし、いつも悩みを相談し、まとまった休みには一緒に旅行するのがライフスタイルだった彼女だからこそ、多くの人に愛される友情ソングを描くことができたのだろう。これも年代を追うごとに、より友情が深まっている様子が感じ取れるので面白い。
西野カナ 『Best Friend(short ver.)』
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共感を生み、愛され続ける理由
ここまではリリックを中心に紹介してきたが、彼女が当時インタビューで饒舌に語っていたのは、実はカップリングやアルバムのオリジナル曲についてだった。彼女自身が熱心な音楽ファンだったからこそ、洋楽に多く触れ、その時々のトレンドのサウンドをチェックし、誰よりも早くEDMを取り入れたり、時にラップをしたり、ビートの効いたダンスミュージックに挑戦するだけでなく、アコースティックな楽曲を披露したりと、その貪欲さは目を見張るものだった。特にツアーメンバーであるDJ Massと制作した楽曲に関しては、圧倒的にライブを盛り上げる、言葉さえも楽器になるような遊び心たっぷりの「UNZARI」「スマホ」「YOKUBARI」や、クールな表情を引き出す「FANTASY」や「Abracadabra」「ONLY ONE」など、代表曲だけしか知らないリスナーには驚くような楽曲もたっぷり。それらの楽曲もすべてサブスクで解禁されたからこそ、ぜひこの機会に楽しんでもらいたい。
"Kana Nishino Love Collection Live 2019"DVD&BDトレイラー
特にオススメしたいのが、アルバムごとにちゃんと順番で聴くということ。CDというパッケージに対してしっかりと物語性を持っていた彼女だからこそ、アルバムはプロローグとエピローグで本編を挟んだ曲順で構成されている。それぞれにしっかりと意味を持ち、アルバム1枚が完結しているのだ。ぜひ、彼女の手紙のようなアルバムたちを、映画を見るように聴いてもらいたい。
ちなみに、彼女が無期限の活動休止をしてからも、これらの楽曲がこれだけ愛されているのは、その楽曲の良さはもちろん、彼女の存在がどれだけ多くの人の心に大きく存在していたのかを物語っている。真摯に楽曲制作に打ち込み、彼女の楽曲を聴いた人たちの心に“自分の歌”のように響くほど共感する曲を生み出すだけでなく、世代を代表する歌姫として、コンサートではたくさんの夢を見せてくれていた。それは本当に非現実的で、夢のような世界。
もちろん“カリスマ性”はあるのだけど、その一言で表すには少し違う、親友のようでいて、手の届かない存在――。そんな存在こそ、唯一無二の西野カナだったのかもしれない。多くの人が彼女の復帰を待ってしまう反面、10年間走り続けた彼女に対し、思う存分休んでもらいたいと願うファンが多いのも、きっと親友のようであり歌姫でもある、そんな複雑な気持ちを持っているからではないのだろうか。
だからこそ、いまは解禁された全181曲を、改めてじっくりと楽しんでいくとしよう。きっと、いまのあなたにピッタリとハマる楽曲が必ず出てくるはずだ。
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