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<インタビュー>AK-69 走り続けてきた25年、新作『The Race』を語る
25周年イヤーを迎えたAK-69がニュー・アルバム『The Race』を発表した。人生のレースを疾走する車=AK-69をテーマに、一人の男の戦いや生き様がアルバムを通して描かれている。The day of AK-69(6月9日)にリリースするべく、急ピッチで作り上げたと本人は明かしたが、スケジュールの関係でやむなく諦めた部分や妥協といったものは全く感じなく、それは彼が音楽人生で培ってきた経験と、本来持っているアーティストとしての技量があるからこそ。そして、¥ellow BucksやANARCHY、ちゃんみな、SALUといった日本のヒップホップ界を引っ張る存在たちが集結しているのも、AK-69が築いてきた功績とカリスマ性なくしては実現しなかったことだ。
猛スピードで豪快に、そして時にはスピードダウンもしながら走り続けてきたこれまでの長い道のりと、アルバム完成までの経緯をAK-69が振り返る。インタビュアーは、長年AK-69を取材してきた高木 "JET" 晋一郎氏だ。
全てを経て、いまここにいるんだ、って思える
だから『俺と同じポジションにはなかなか来れないよ』って自信もある
2020年8月に配信の形で行われた、名古屋城をバックにしたAK-69のライブ【LIVE:live from Nagoya】。「超配信ライブ」と銘打たれDVD化もされた公演は、生の、フィジカルなライブであると同時に、配信というヴァーチャルでしか起こり得ない構成も取り込まれ、そのハイブリッドな内容は、コロナ禍で生まれた奇貨として記憶に残るライブとなった。
「配信でライブするなら、どうせなら配信でしか出来ないこと、俺らにしか出来ないこと、俺らなりのメッセージをしっかり込めたいなと。ヘリコプターで登場、ヘリポートから会場に向かう車の中でも曲を披露しながら、会場に到着するっていう展開は、配信ライブじゃなかったら難しかったと思うし、AK-69の配信ライブだからこそ表現できる内容だったと感じてもらえれば嬉しいですね。」
その意味でも、AK-69の持つド派手な側面が押し出されたライブとなった【LIVE:live from Nagoya】だが、ニュー・アルバムとなる『The Race』は、派手さよりもシンプルに、ラージさよりもソリッドな側面を中心とした、AK-69というアーティストの持つ根本性や基盤が顕になった作品として完成した。
「今回は単純に“自分で作ってて面白いか、面白くねえか”っていう部分にフォーカスしたんですよね。マイクを握り始めて25年経って、AK-69名義だけではなく、デビュー当時のユニット:B-ninjah & AK-69での作品や、シンガーとしての名義であるKalassy Nikoffでの作品を数えれば、これまで20作近い作品をリリースしてきて。本当だったら言うことやテーマは枯渇してもおかしくない。そして、ある程度リスナーが想像できるAK-69像もあると思うから、それに沿ってサービスすることは出来るんだけど、そんなことをやっても、俺は面白くないんですよ。リスナーが求めるであろう、メロディアスなフックも、ドラマティックな曲も作れるけど、いまそれを作ると、どうしても予定調和になってしまうような感触があった。だから今回は、自分が楽しいもの、熱いと思うものを作ろう、どう思われようが知るか!と(笑)。でも、俺がワクワクしながら作った作品なら、みんなが絶対待ってくれている内容になるし、万が一いまピンと来てくれなかったとしても、いずれ結果的に『そうだったのか』って分かってもらえると思うんですよね。」
そう話すように、作品の構成自体も、メロディアスな感触よりも、ヴァースとセンテンスとパンチラインで構成されたラップ・アルバムらしい構造で成り立っている。そしてそのラップ・スタイルも熱っぽくスピットしたり、歌い上げるのではなく、キーを落とし、渋く声を響かせる、重心の低いラップとなっているのも印象的だ。
「もしかしたら、ヒップホップヘッズこそ納得してもらえるんじゃないかな。やっぱりラップは、AK-69はこうじゃねえとな、って。いま、若くて才能のあるアーティストがどんどん出てきて、すごく喜ばしい状況になってると思うんですけど、そういうアーティストや、リスナーにも驚いてもらえれば嬉しい。」
今回の作品は『The Race』というタイトル通り、勝敗や勝負といったテーマ性や、それに纏わる言葉が多く登場する。そういったファイティング・スピリッツはこれまでもAK-69作品の軸となり、それは多くの格闘家やスポーツ選手などが彼の楽曲をテーマ曲にしてきた所以ともなるだろう。一方で「If I Die feat. ZORN」や「Stronger」のように、特に<Def Jam Recordings>移籍以降は、死生観や人生哲学のような部分も作品の大きなテーマとなっていた。もちろん今回もそういった人生哲学も織り込まれているのだが、同時にヒリヒリするような勝利への渇望が強く印象に残る。
「今の自分のモードがそうだったんですよね。例えば俺が売れ始めた15年ぐらい前は、上りのエレベーターに乗り続けてるような感覚で、下がることなんて何も考えなかった。でも、上っていくことが自分にとって目新しくなくなって、自分の音楽が流行り廃りを超えたときに、また戦いのステージや感覚が変わっていって。そこではじめて、下がっていく不安だったり、そういった気持ちに負けそうになったんですよね。でも結果、いまだに下りのエレベーターに乗ることなく、上りのエレベーターに乗り続けられてるってことは、自分にとってすごく自信になるし、そういった全てを経て、いまここにいるんだ、って思えるんですよね。だから『俺と同じポジションにはなかなか来れないよ』って自信もあるし、その感情がリリックに繋がっていったのかな。それは25周年という節目も含めて。」
そういった感情は客演陣のリリックにも伝播しているが、特に強く押し出されているのは「Racin’ feat. ちゃんみな」だろう。
「『デッドヒートしてるつもりかも知れないけど、お前は周回遅れだから』っていう俺のメッセージに対して、『お前の作ってきた道なんて古いよ』ってちゃんみなはアンサーしてるようにも感じる構成になってて、まさにレース中の感覚ですよね。『とにかく強いな、さすが中学の時に自転車にラジカセ積んで俺の曲を流してただけあるな』と(笑)。でもそれが面白かったし、一流のアーティストだなと感じましたね。ちゃんみなには非常にリスペクトを持っているし、一緒に曲を作りたいアーティストだったので、快諾してくれたのは嬉しかった。彼女も俺と同じように歌もラップも出来るアーティストなので、どういうアプローチで進めるかは迷ったんですが、派手な曲よりもゴリゴリにラップする作品にしたいっていう思惑は二人共に共通してたので、その方向で進んでいって。ちゃんみなもスキルをぶつけてきてくれたし、かなりエキサイティングなセッションになりましたね。」
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Interviewed by 高木 "JET" 晋一郎
みんながひっくり返るようなプランの
ブループリントはすでに出来ている
今作はウィニングランに至るまでの情景を、10曲という、10の風景で切り取って構成している。そこには前述のちゃんみなに加え、ANARCHY、RIEHATA、¥ellow Bucks、Bleecker Chrome、SALUが客演参加し、その景色をさらに鮮やかなものにする。
「ケンタ(ANARCHY)とは、俺が名古屋のガソリンスタンドでバイトしてたような時代から友達で。ケンタとDJ AKIOが遊びにきて、俺んちで一緒にカレー食ったり。それでお互いに名前が売れたタイミングで「I.M.P. feat. ANARCHY」(アルバム『THE RED MAGIC』収録。2011年)を作ったりもしてたんだけど、お互いに忙しくなってそれから少し距離はあいてて。だけど2019年にスペースシャワーTV『Black File』のインタビューで久々に会って、その後も俺の事務所に遊びにきてくれたりして、関係性は昔と変わらないんだなと。それで今回の「Pit Road feat. ANARCHY」のビートを聴いたときに、ケンタのラップが聴こえてきて、オファーしたんですよね。前作『LIVE : live』収録の「Bussin' feat. ¥ellow Bucks」にも参加した¥ellow Bucksは、いまのシーンには決して欠かせない存在。東海地方が誇るべき存在で、今回の「I’m the shit feat. ¥ellow Bucks」のトラックを作ったDJ RYOWも『AKくんが『RED MAGIC』を作った頃のような現象を¥ellow Bucksは起こしてる』って。そういうアーティストが東海エリアから出てきたのは嬉しいし、シーンやフッドの文脈を含めて、俺とあいつじゃないと出来ない作品を作ろうと。Bleecker Chromeはすごい才能の持ち主。スタジオに遊びに来たときに、Flying B Entertainment(AK-69が代表を務める事務所)でエンジニアやトラックメイクを手掛けてるRIMAZIのトラックを聴かせたら、「ちょっと乗せてみていいですか」って歌い始めて、それがもう「嘘でしょ!」っていうクオリティで(笑)。それで今回「Next to you」の客演に迎えたんですよね。SALUとは以前、シェネルの「Destiny (Remix) feat. AK-69 & SALU」(2017年リリース)でコラボはあったんですが、今回改めてアルバムのエンディングとなる「Victory Lap」を一緒に作りたいなと。ラップのスキルはもちろん、改めて彼の人間性やメンタルの良さに触れて、刺激になりましたね。」
そしてレディー・ガガのバックダンサーや、クリス・ブラウンのミュージックビデオに参加など、世界的な活動を見せ、現在はプロダンスリーグ『D.LEAGUE』に参加するチーム「avex ROYALBRATS」のディレクターを手掛けるRIEHATAが「Thirsty」に参加している。
「RIEちゃんは言わずと知れた世界的ダンサーなんだけど、彼女がSALUに客演参加していた「GIFTED feat. RIEHATA」を聴いて、そこに可能性しか感じなかったし、ラップも絶対上手いと思ったんですよ。そうしたら『D.LEAGUE』の関連作でラップもしていて『ほらね』って(笑)。それでオファーしたんですが、スタジオでいろんなトラックを聴いてもらって、『踊りたくなる曲でラップしてみて』って話したら、もうその場でラップを考えてくれて。それで俺もラップしてっていう、本当に化学反応というか、セッションで作った曲になりました。」
タンデムなどの特殊な形式を除いて、コースを走るドライバーは一人であり、非常に孤独な戦いだ。しかしその背中を押すのは、スタッフやサポーターであり、孤独な走者を勝利へと導いていく。そして『The Race』の中でもチームへの言葉が紡がれ、そこには彼のスタッフへの思いが感じられる。
「それもリアルに感じることなんですよね。AK-69という看板は、俺だけの力じゃなくて、このプロジェクトに関わってくれるチームやスタッフ、ファミリーの思いや力があって、その上でやっとAK-69という看板を掲げることが出来るんで。それを含めて、レースという世界観がいまの俺はピッタリはまったんです。」
四半世紀という決して短くはないキャリアを経たAK-69。「Checkered flag」で<星の数ほど散ってったあのコーナー>とラップするように、同世代も含めた多くのアーティストがこの世界を去り、シーン自体も生き残るにはより過酷な状況になっていっている。しかし未だにAK-69がマイクを握り続けるモチベーションとはなんだろうか。
「単純に“格好つけたい”んですよね。それを言葉にするのは簡単だけど、それには相当な重荷を背負わなければいけないし、自分の命を削る覚悟が必要で、本当にタフなことなんですよね。でも、それでも俺は格好つけていきたい。それは“格好つかなくなる”という恐怖と向き合ったからこそ、そしてその恐怖を乗り越えたからこそ、そう言えるのかなって。自分の生き方、生き様として、決してダサくはなりたくないし、そのために俺は嘘も偽りもなく、自分のドラマをラップに詰め込んで、格好つけたいんですよね。」
この作品のあとには、新たなプロジェクトも計画していると話すAK-69。
「コロナ禍はまだ終わってはいないけど、この状況によって、自分を見つめ直すことが出来たと思いますね。そしてこの状況で何を仕込めたか、何を糧に出来たかが、コロナ禍が終わったときに試されるだろうし、ここで足踏みしてしまったアーティストは淘汰されると思う。ただ自分は、これ以上ないような仕込みが出来たので、そのスタートが切れるときが本当に楽しみですね。みんながひっくり返るようなプランのブループリントはすでに出来ているし、それが実現したときは、アーティスト、音楽シーン、それらの全てが劇的に変わると思いますね。それを楽しみにしてください。」
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