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【特集】デビュー20周年!新作リリースを控えるジョン・メイヤーの音楽キャリアを振り返る



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 ジョン・メイヤーがデビュー20周年イヤーに動き始める――2021年7月21日に約2年ぶりとなるニュー・アルバム『ソブ・ロック』をリリースすることを発表したのだ。<現代の3大ギタリスト>と称される彼が、その功績とキャリアを築く前の最初のステップとして世に送り出したデビュー・アルバム『ルーム・フォー・スクエア』は、全米で400万枚セールスの大ヒットを記録。華やかなショウビズ界では、ルックスやゴシップ面が注目されがちではあるが、作品ごとに打ち出す新たなメイヤー・サウンドで世界中の耳の肥えたリスナーたちを魅了してきたことは間違いない。新しい作品に期待が高まるが、ここで音楽ライターの新谷洋子氏による記念すべきデビュー作品『ルーム・フォー・スクエア』の考察とともに、彼の音楽人生を振り返ろう。

『ルーム・フォー・スクエア』発売から20年

 ジョン・メイヤーのファースト・アルバム『ルーム・フォー・スクエア』がリリース20周年を迎えた。オープニングを飾る名曲「ノー・サッチ・シング」で“線の内側で生きろと言うけど、ハミ出たほうがいいことだってあるんだ”と、社会が押し付ける大人の心得を笑い飛ばしたジョンだが、以来20年間、その線からどんどんハミ出して新たに引き直すことを繰り返しながら、作品を重ね、ミュージシャンシップを磨き、アメリカではこの世代を代表するシンガー・ソングライターかつギタリストとして、安定したキャリアを歩んでいる。


▲『ルーム・フォー・スクエア』日本盤ジャケット

 もとを正せばコネチカット州出身、13歳の時にギターを弾き始めてミュージシャンを志した彼は、高校卒業後バークリー音楽院に入学するという正攻法で、夢の実現に挑んだ。しかしほどなくして中退して南部に移り住み、アトランタで本格的な活動をスタート。1999年にEP『Inside Wants Out』を自主発表する傍ら、ライブ・パフォーマンスを通じて、同世代の学生を中心にファンを急速に増やしていく。そしてコロンビア傘下の<AWAREレーベル>から2001年6月5日『ルーム・フォー・スクエア』をリリース。全米ビルボード200で最高8位を獲得すると共に、最終的に米国内だけで400万枚以上を売り上げた。これはキャリア最高の数字だ。

 彼の順調なブレイクはちなみに、ルックスの良さも手伝って半ばアイドル的ポジションを確保したことや、90年代末に大きな影響力を持ち始めていたAAA(アダルト・アルバム・オルタナティヴ)系ラジオ局のバックアップを得たことも、無関係ではない。AAAは、90年代のオルタナティヴ・ロックの流れを汲みつつルーツ音楽に寄った、文字通りアダルトな志向のロック・アーティストの総称であり、デイヴ・マシューズ・バンドやマッチボックス・トゥエンティー、或いはジェイソン・ムラーズといった面々が該当するが、<AWARE>はまさしくAAAに特化したレーベルであり、ジョンはその象徴だったと言えよう。


 『ルーム・フォー・スクエア』をプロデュースしたジョン・アレイジアもやはり、そのジェイソンやデイヴ・マシューズ・バンド、ベン・フォールズ・ファイヴら、多数のAAA系アーティストとコラボしていた人物。彼は、主にアコギを弾きながら歌うジョンのシンガー・ソングライター的パフォーマンスに、シンプルなバンド・アンサンブルを寄り添わせ、ライヴの印象から遠くない形で、天性のメロディセンスとウィットとペーソスに裏打ちされた歌詞をストレートに伝えるという手法を選んだ。

 じゃあ当時23歳の彼はどんなことを歌っていたのか? 例えば、不安と希望が渦巻く新天地アトランタでの再出発を描いた「ホワイ・ジョージア」。ひたすら無邪気なラヴソング「ユア・ボディー・イズ・ワンダーランド」。一番幸せだった子供の頃の記憶を辿る「83」。 孤独感にさいなまれながら、まだ出会っていない恋人に“早く僕のところに来て!”と懇願する「ラヴソング・フォー・ノー・ワン」。デリケートな筆致でメンタルヘルスを論じる「ノット・マイセルフ」。季節の変化と共に恋の終わりを予感している「セント・パトリック・デイ」。つまり本アルバムは、様々な体験を通じて愛すること、愛を失うこと、或いは生きることについて学んで、世界に自分の居場所を探し求めるひとりの若者のポートレイト――と言ったところか。ロマンティックでナイーヴ、かつ生意気で野心的な面も浮き彫りにした等身大の言葉が広く共感を呼んだことは、当然の成り行きだろう。


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ブルース、ポップ、カントリー…
注目の新作は80'sテイストへ

 そんな『ルーム・フォー・スクエア』でジョンは【第45回グラミー賞】の<新人賞>候補に挙がり、一躍ブレイクを果たしたわけだが、いよいよ全米ナンバーワンに輝いたセカンド・アルバム『ヘヴィアー・シングス』(2003年)で、早くも方向性をシフト。ヒップホップやファンクのリズムを取り入れてしなやかにグルーヴを紡ぎ、ギタリストとしての腕前を本格的に披露して、音色を一気に広げた。かと思えば、2005年に入ると今度は、ピノ・パラディーノ(ベース)及びスティーヴ・ジョーダン(ドラムス)というベテランのセッション・プレイヤーたちと、新バンド=ジョン・メイヤー・トリオを結成。少年時代から聴き親しんできたブルースに回帰するロックを志向し、ツアーに打ち込んで、ライヴ盤『トライ!』を発表している。そしてサード『コンティニュアム』(2006年/全米最高3位)ではピノとスティーヴの参加を得て、『トライ!』に収録した曲も一部再録し、トリオの延長にあるブルース・ロックに加えて、古典的なソウルやR&Bを自分なりに消化。鍵盤の存在感が強まったサウンドには滋味が溢れていた。



 それでいて4作目『バトル・スタディーズ』(2009年/全米最高1位)での彼は、さらにブルースやソウルを掘り下げるのではないかという予想を裏切り、これまでの体験を踏まえて再びポップ・ミュージックと向き合う。ピノとスティーヴ、ワディ・ワクテル(ギター)、イアン・マクレガン(オルガン)といった辣腕ミュージシャンを従えて完成させたのは、70年代の西海岸ロックにヒントを得た、レス・イズ・モア主義の丁寧なアレンジが光る上質のポップ・アルバムだった。

 こうしてアーティストとして着実に進化を遂げ、音楽的評価を固めたジョン。カニエ・ウェストからエリック・クラプトンまでジャンル・世代共に幅広いミュージシャンに乞われて、コラボレーションを行うようにもなったのだが、プライベート面は穏やかではなかったことは、ご存知の通りだ。女性セレブリティと次々に浮名を流した彼はゴシップ誌の常連となり、交際相手について軽率な発言を繰り返すなどして物議を醸し、この頃には激しい批判を浴びていた。『ルーム・フォー・スクエア』収録の「マイ・スチューピッド・マウス」では、“口を開く前に考えなさいとママに言われてきた”と自戒を込めて歌っていたにもかかわらず、まさにそのスチューピッド・マウスが災いしたわけだ。

 同時に声帯にできた喉頭肉芽腫にも悩まされ、試練の時期を迎えていた中で、ジョンはドン・ウォズをプロデューサーに迎えた5作目『ボーン・アンド・レイズド』(2012年/全米最高1位)を発表。名手グレッグ・ライスのペダルスティール・ギターを全編にフィーチャーし、アメリカーナの世界に分け入ってまたもや新境地を拓き、当時の状況を受けて内省を深めたソングライティングが賞賛を浴びたものだ。しかし喉の治療でツアーは断念し、間髪入れずにドンと次の作品に取り掛かって、さらにトラッド路線を推し進めた『パラダイス・バレー』(全米最高2位)を2013年に送り出す。タイトルは、前年から暮らし始めたモンタナ州の農場の名前だが、ショウビズ界から距離を置いて生活のペースを変えたことが、ピースフルなサウンドスケープに如実に表れていた。


 このあと無事ステージに復帰したジョンは、自身のツアーを行うほかに、グレイトフル・デッドの結成50年を記念するデッド&カンパニー名義のツアーにギタリストとして加わるなどして、ライヴ活動を満喫。7作目には通常より時間をかけて、趣向を変えてアプローチし、コンセプト・アルバムめいた作品を生むことになる。『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』(2017年/全米最高2位)と題されたその7作目は、ポップからカントリーまで曲ごとに異なるスタイルのサウンドに乗せて、ひとつの恋の終章を総括。男性の弱さを赤裸々に描写する、切ないブレイクアップ・アルバムとなった。


 また同作に伴うツアーでは、5年ぶりの来日が実現。日本武道館で2公演を敢行し、エド・シーランが飛び入りするというサプライズで会場を沸かせたことが記憶に新しいが、それから2年を経た今、ニュー・アルバム『ソブ・ロック』の完成が報じられている。すでに公開されているジャケットを包むのは、ピンクとブルーの微妙な色合いといい、書体といい、明らかに80年代風のテイスト。音楽的にも80年代にインスピレーションを求め、パンデミック下の世界で聴き手が安らぎを見出せるよう、子供の頃の自分に安心感を与えてくれたソフト・ロックに根差した作品を作り上げたのだとか。“すすり泣き”や“むせび泣き”を指す“sob”という単語のチョイスも興味深く、“すすり泣くロック”が、今回もまた新しいジョン・メイヤーに我々を引き合わせてくれるのだろう。


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