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パット・メセニー、新たな境地に取り組んだ最新アルバム『Road To the Sun』を語る
1975年に初リーダー作『ブライト・サイズ・ライフ』を発表し、ソロ・キャリアをスタート。これまでに12部門のグラミーを獲得し、ここ日本でもTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』エジプト編エンディング・テーマに起用された「ラスト・トレイン・ホーム」などで、多くのリスナーに親しまれている、パット・メセニー。最新アルバム『Road To the Sun』は、ジェイソン・ヴィーオを演奏に迎えた『Four Paths of Light』と、ロサンゼルス・ギター・カルテットを演奏に迎えた『Road To The Sun』で構成。共にグラミー受賞者である世界屈指のギタリストたちと、新たな音楽旅情を繰り広げた。パット・メセニー本人に最新アルバム『Road To the Sun』について語った。
他のギタリストたちが演奏するために曲を書いた
「これは僕にとっていつもと全く違うタイプの作品なんだ。いつもならギターを弾いているのは僕で、今までの作品ではずっとそうだった。少なくとも僕が楽器の中では主役だったんだ。だが、今回の作品はそうじゃない。他のギタリストたちが演奏するために曲を書いたんだ」
これまでは、即興で楽曲を制作することが多かったが、今回はあらかじめ音を綿密に構築させて完成させた作品となった。
「そういうのは長年の間にあらゆる方法でやってきたけどね。でも面白いことに、ギター向けにやったのは稀だったんだ。大抵は僕自身がギターを弾くからね。ギターのパートについて簡単に書いておけばそれが何を意味するか自分で何となくわかるから。だが、今回は本当に具体的に、自分が何を彼ら(ジェイソンやロスアンゼルス・ギター・カルテット)に与えることを望んでいるのか、そして自分の頭の中で鳴っているものと同じものをどうやって譜面に再現するのかを見いださないといけなかったんだ」
アルバムは、ジェイソン・ヴィーオを演奏に迎えた『Four Paths of Light』からスタートする。彼の存在はパット・メセニーにとって、大きな衝撃だったという。
「最近はそういうことが多いんだ。世の中にはたくさんの達人がいる。その楽器のすべてをモノにできるような人々が次々に出てくるんだ。ジェイソンの第一印象はそんな感じだった。彼の演奏するバッハは格別だったからね。また、僕がいつも求めている魂の部分、ストーリーテリングの部分の表現力が優れていたと感じた。何千回もプレイしたような曲の一部だったとしても、ギターの存在感を消してしまうことができるような感じというか…」
ゆえに、ジェイソンに演奏を託した楽曲は、かなり難易度の高いものになったそうだ。
「自分ができないものを彼に書いた訳ではないよ。僕は楽器を熟知しているから。でも、自分では弾かないような弾き方で、彼には弾けるだろうし、実際弾くだろうというものを書いたんだ。なかなか興味深い仕上がりになっているよ。特に第3楽章はものすごく難しい。あ、第1楽章もだ。でもジェイソンがそれらを上手くまとめていく様子を見るのは楽しかったよ。あの難しい曲をモノにするために、彼が何をやったかをレコーディングで見ていたら、心が満たされたんだ。曲に何らかの命が宿していく姿を見るのは、本当にクールなことだったよ。おかげで、これらの曲はこれからも生き長らえるだろうし、他の人たちもきっと弾いてくれるだろうと思えたんだ」
続く、ロサンゼルス・ギター・カルテットを演奏に迎えた『Road To The Sun』もまた、聴きごたえのある内容になっている。
「彼らは、色んな意味でギター・カルテットの新しいプラット・フォームをもたらしたんだ。3人は従来のナイロン弦のクラシック・ギター、1人はベースの音域が広い7弦ギターでね。その編成は彼らが出てくる少し前からあったけど、アンサンブルとしての可能性を本格的に広めたのは彼らだと思う。彼らはストレートなクラシック楽曲もいくつもやってきたけど、ある時僕の『レター・フロム・ホーム』に素晴らしいアレンジを施したものを録音していた。あれは印象深かったね。彼らはギター・カルテットの定義を広げたんだ。他のジャンルの解釈を通じてね。彼らのために曲を書くアイデアがどういう風に出てきたのかは思い出せないけど、やってみたいことがあったんだ」
ギターは僕にとって<楽器>というものでもない、翻訳機みたいなもの
また、ギタリストそれぞれの個性、また新たな魅力を引き出す音作りにもこだわったと語る。
「ジェイソンの作品も同様だけど、彼らがプレイヤーとしてどれほど素晴らしいかを知っているから、アンサンブルのメンバーそれぞれの個性に近いものを作らなくては、という試練が僕にはあった。だから、彼らの音を集中して耳を傾けた。そこで、彼らがプレイヤーとしてどういうところに集中して演奏しているのか、弱みはどこなのかを見極めようとした。みんなそれぞれ個性を持っていたから、それを思う存分魅力を発揮できるようなものにしたかったんだ」
また、異なる才能を放つギタリストと共演してみたことで、パット・メセニー自身もこれまでに経験したことのない満足感を得た様子だ。
「このアルバムに関して言えば、多分僕の音楽を全く知らない人も聴くことになると思うけど、ある意味僕にとっては、自分の作品を違う方言のようなもので語る機会を得たという感覚に近いんだ。そのチャレンジは、とても楽しかったし、本当に心躍るものがあったよ。だから、僕は普段自分の作ったアルバムは滅多に聴かないけど、これは他のどの作品よりも多く聴いている。とにかく何度も繰り返し聴いているんだ」
また、ギタリストとしての「パット・メセニー」の自我が、この作品を通じてさらに強くなったという。
「ギターは僕にとって<楽器>というものでもないんだ。僕にとっては翻訳機みたいなものかな。パーフェクトで、クールな楽器ではあるけどね。それに気づいたのは、ほんの最近のことなんだけど。このアルバムはいろんな意味で、今の自分の考えに沿っている。本当にギターのための作品なんだ」
本来ならば、この作品を携えてツアーを敢行したいところであるが、現状を考えると実現しにくいのが、残念だと語る。
「今までになかった形で、ギターに敬意を示すことができるというか。すべてのギター的なものに焦点を当てたツアーをやれたら楽しいだろうなとは思っていたけど……。それに今は素晴らしい若手ギタリストが、僕の領域にもたくさんいる。ジェイソン、ロサンゼルス・ギター・カルテットを含めてね。彼らを集めて何日間かフェスをやれたら、とても面白いことになるよ」
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