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<インタビュー>Tempalay『ゴーストアルバム』人間と自然の“狭間”を描く、土着的で極彩色なサイケデリア
Tempalayが4作目となるフルアルバム『ゴーストアルバム』をリリースする。2020年2月に発表した「大東京万博」が大きな話題と高い評価を集め、12月にはシングル「EDEN」でワーナーミュージック・ジャパン 内レーベル<unBORDE>よりメジャー・デビュー。転機を迎えたバンドが放つ新作は、彼ら独自のサイケデリックな色彩感とオリエンタリズムな要素たっぷりのサウンドに満ちた傑作に仕上がった。
アルバムのモチーフになったのはタイトル通りの“幽霊”。ジャケットはマジカルアイの技法を駆使して“見えないものと見えるものが重なり合っている”アートワークとなっている。新作はどんな狙いを持って作られたのか。3人に語ってもらった。
ゆとりがある状態で1曲1曲に向き合うことができた
――アルバム、本当に素晴らしかったです。
全員:ありがとうございます。
――今回のアルバム制作の取っ掛かりはどういうところからだったんでしょうか?
小原綾斗(以下、小原):始まりは「大東京万博」を2020年2月に出したところですね。そこからアルバムを出そうという話だったんですけど、いろいろと延期して、「EDEN」を作って、今になったという。
――「大東京万博」を作ったときには、もうこの『ゴーストアルバム』に向けての構想みたいなものはありました?
小原:いや、全然。ないですね。アルバムということも意識せずに作ったので。
Tempalay "大東京万博" (Official Music Video)
――あの曲を作っていたときにはどんなことを考えていましたか?
小原:あまり覚えてないんですけど……とにかく2020年ということとオリンピックというのがあって。思いっきり『AKIRA』の世界と被ったんですよ。それを題材にした曲を作ろうと思って、その混沌としたところに花火というものがテーマとしてあったんです。花火みたいな、何のために存在しているか分からないけど、何故かみんなが引き寄せられるようなものを作りたかった。大阪万博もそうですけど、そういうものって表裏があるわけじゃないですか。その両方から見たものを想起していたような気がしますね。
――2020年は新型コロナウイルスのパンデミックもあり、世の中全体に大きな変化が訪れた1年だったと思います。ライブが思うようにできなかったことも大きいと思いますし、いろんな状況の変化を経てアルバム制作に取り掛かったと思うんですね。なので、改めて小原さんとJohn NatsukiさんとAAAMYYYさん、それぞれの視点から去年を振り返ってもらえればと思うんですが、どうでしょうか?
John Natsuki:以前に比べて、自分のペースでいろんな物事を動かせるようになったというのが、俺的にはプラスだったと思った1年ですね。ライブとかがバンバン入っていたときはそれが忙しくて、新しいことに挑戦する時間もあまりとれなかったんです。でも、今はわりと時間の余裕がある中で、自分が向き合いたいものと向き合える。ゆとりがある状態で1曲1曲に向き合うことができたというか。そういう意味でも、今までのアルバムのなかで一番、自分自身に納得できている感じはしますね。
AAAMYYY:私はコロナになる前までの自分の生活や考え方、「これは正しい」と思っていた概念が、2020年に180度ぐらい変わった感じですね。そういうことをイチからしっかり見直せる期間になったというか。感覚を研ぎ澄ますとか、休むとか、自分を大切にするとか、そういうことに気づいたし、時間を使うことができた。そのうえでこのアルバムの制作にたくさん時間をかけることができたので、手応えがあるというか、John Natsukiと同じようなことを思います。
小原:僕は楽しんでいましたけど、たぶん音楽をやっている人って、あまり生活は変わっていないと思うんですよね。ライブがなくなったこと以外はそんなに変わっていないというか。で、やっぱりどこかでずっと音楽のことを考えていたなと思います。みんなそうだと思うんですけど、精神的休養の仕方がそれぞれ見えたと思うんですよ。そこでめちゃくちゃ作る人は作るし、それが自分のセラピーになる人もいる。僕は一切音に手を出さなかったんですけれど、そういう感じで各々良い循環ができたんじゃないかなと思います。
――僕は、Tempalayの音楽はとても時代性のある音楽だと思っているんですが、小原さんとしては2020年の社会の状況は刺激になりましたか? それとも変わらず、という感じでした?
小原:うーん、変わらずですね。
――むしろ自宅で好きな映画を観たり、みたいな日々が多かった?
小原:そうですね。音から離れて、ずっと自然と自分の好きなものを手にしていたという、“半径何メートル”みたいな感じの生活でしたね。
この1年のことをどうしたって無視できない
――「大東京万博」を作っていた頃はアルバムの構想はなかったということでしたけれど、『ゴーストアルバム』の全体像を思い浮かべるようになったのはどんなきっかけだったんでしょう?
小原:最初は違うテーマで作っていたんですけど、途中から気分が変わったというか。創作の根源と過程みたいなものをアルバムのテーマにしようかなと思っていたんですけど、なんかそういう気分じゃないというか、まあ違うなと思って。それでこのアルバムを作りました。『ゴーストアルバム』という名前は最後につけたんですけど、何かこう「こういうものがいいな」と思って。要はこの1年のことをどうしたって無視できないな、という感じですね。
――「EDEN」が最初にできたということですが、この曲はどういうアイディアからでてきた曲なんでしょうか?
小原:歌詞というか、曲の世界観的には『2001年宇宙の旅』が最初にありましたね。映画を題材にして作ることが多いんですけど、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』って、人類が進化して、最後にスター・チャイルドになって帰ってくるというもので。要は世の中すべて、ずっとループしているということを曲にした感じですね。
Tempalay "EDEN" (Official Music Video)
――サウンドのアイディアに関してはどうでしょう? 今回のアルバムは「大東京万博」や「EDEN」だけでなく、例えば「ゲゲゲ」にしても、いわゆる日本のオリエンタリズムが前面に出てきています。このあたりの意図はどういうものだったんですか?
小原:うーん……さっき言った、この1年のことをどうしたって無視できないというのがまずあって。そのときに自分が感じた日常における題材にしたいものに、そういう音がハマったということなんです。自分が思っているものを表現するためにそういう音が必要だったという。
――その辺、感覚的な部分なので言葉にしづらいとは思うんですが、噛み砕いて説明していただくと、どんな感じで結びついてるんでしょう?
小原:世の中がコロナコロナと言って騒ぎ立てて、でも一方で自然ってまったく関係なくて。そこのあいだというか。そういうものを作りたかったんですよ。これ答えになってますか?(笑)。
――すごく興味深いのでもうちょっと掘っていきたいんですけど。つまり、世の中の混沌と泰然自若とした自然と、これは小原さんの中でどっちがいい、どっちが悪いかとかじゃないですよね。
小原:とかではなくて。要はなんで騒いでいるのかとか、誰が何をもって自分であるかとか、そういうのって分からなくて。みんな、分からないままなんとなく同調したりしていると思うんですよ。そういう中で、誰しもが身を持って自分が置かれている立場を理解した。それって一番自然に帰ってるんですけど、でもまったく乖離していて。そういうときに、自然というものが僕の中でより美しく見えたんですよ。人間として存在することの無力さというか。でも結局、別にああだこうだ言ったって人間なので、普通に日常があって金稼いで飯食わなあかんというのもあって。その狭間が絶対にあると思う。目に見えない、生かされているものがあると思う。
――そうなんですよね。人間と自然だけだったら、それはある種、文明と野生の対比ということなので、ゴーストというキーワードは生まれないと思うんです。でも、このアルバムはいわゆる幽霊というものがキーになっている。そこが面白いし、このアルバムで鳴らしている音と歌っている言葉が結びついている部分だと思うんです。なので、ゴーストというモチーフがどういうふうに小原さんの中で膨らんでいったのかも聞ければと思うんですけど。
小原:いろんな意味合いがあるし、どうともとれるんですけど。そもそもこの1年、みんな生きているか死んでいるか、よう分からんかったやろうな、というのもあるし、死んだ気分、幽霊の気分で楽しむしかないんじゃない?というのもあるし。あとは目に見えないもの、表面的じゃない奥にあるものを表現したかったということもあるし。マジカルアイもそうなんですけど、幽霊というものに直接紐づくわけではないなという感じですね。
――今回、まさにアルバムのジャケットがマジカルアイの技法で描かれているわけですよね。普段は見えないけど、目を凝らすと見える。見えるものと見えないものが重なり合って、存在しているような状況の一つの象徴となる言葉であるというか。
小原:そうですね。結局見えてくるのは赤ちゃんなんですけど。
――あのジャケット、見えた瞬間ゾクッとしました。
小原:あ、本当ですか! それめっちゃ嬉しいっす。
――何が見えるんだろうと目を凝らして見たら、胎児が浮かび上がってきた。その瞬間にちょっと鳥肌が立つような感じがあって。非常にこのアルバムを象徴しているなと思いました。
小原:それは嬉しいですね。「ゾクッ」が一番正しい表現だと思いますね。
自分なりのTempalay像で自分が出せる
――こういうイメージの話って、楽曲制作の段階でAAAMYYYさんとJohn Natsukiさんとはどれくらい話し合ったり、共有したりしているんでしょうか?
AAAMYYY:それこそ「EDEN」とか「GHOST WORLD」とか、あとは「ああ迷路」だったっけ?
小原:「忍者ハッタリくん」かな。
AAAMYYY:そのあたりから楽曲自体は制作を始めていったんですけど、曲単位では「EDEN」の『2001年宇宙の旅』だったり、「風景的イメージはこれだよ」と画像で共有してくれて、それから作っていったんですけど、アルバムのタイトルの『ゴーストアルバム』とかマジカルアイとかは、気づいたらできていた感じでした。歌詞も最後に分かるし、やっぱり歌が入って世界観が具体的になるので。私が『ゴーストアルバム』にしっくりきたのは、最後の最後で曲順が決まったり、ジャケットが決まったりしたときに「なるほど」と思ってから。だから作っている過程では……
小原:共有してないってことですね。
AAAMYYY:だから分からなかった。それで逆に、わくわくしながらやっていたこともあるし、暗中模索したこともある(笑)。
――John Natsukiさんもそんな感じ?
John Natsuki:そうですね。
――Tempalayって、3人ともミュージシャンシップがあるし、何をやってもバンドとして成立する幅の広さと技量があると思うんです。それだけに、小原さんが楽曲の表現しようとしている方向性を示したり、歌詞や世界観だけでなくサウンド・メイキングの意思疎通をしたりすることが制作段階で必要だったんじゃないかと思っていたんですけれど。そのあたりはどうでしょう?
小原:これが意外と全然なくて。各々好きな音を鳴らしているんです。それに対して「絶対的にこれは違うだろ」というもの以外は「いいね」と言って。
Tempalay "シンゴ" (Official Music Video)
――ということは、編曲の段階でどんどん曲の方向性が変わっていく?
小原:というか、もうレコーディング終わるまで分からないんですよね。みんなが何を持ってくるかはっきり見えない状態でレコーディングしたので。昔から毎回そうだったんですけど、前はもうちょっと擦り合わせていて。でも、アルバムを作るごとに必要ないなということになってきた。各々がなんとなく、自分なりのTempalay像で自分が出せるというか。そういうものを分かってきたんじゃないんですかね。
――例えばリファレンスになるようなアーティストとか曲を示したり、共有したりしたことも今回はあまりなかった?
小原:今回は多分、1曲以外はないんじゃないかな。その曲もまあ、サウンドとしては全然関係なかったし。
――ちなみにそれはどの曲ですか?
小原:「GHOST WORLD」。ティグラン・ハマシアンとアレックス・Gの二つを出したんですけど……。
――全然違いますね。
小原:そうですね(笑)。リファレンスって結局、後付けだと思うんですよ。伝えるための手段としては要らなくなってきたのかもしれないですね。
――映画とかコミックとかがアイディアのきっかけになるということもありますよね。そういうものも共有したりするんですか?
小原:さらっとは言うんですけど、どうせ別に関係ねぇだろうなと思って、最後の文章にちょこっとつけるくらいで。「はい、じゃあよろしくお願いします」みたいな感じですね(笑)。
フィジカルがちょっと強い感じのアルバム
――「春山淡冶にして笑うが如く」「冬山惨淡として睡るが如し」という曲もありますが、これも引用元がありますよね。
小原:これは郭煕という人が詠んだ詩ですね。
――なぜそこから引用したんでしょうか。
小原:さっき言った自然と人間のあいだについて考えたときに、対となるものはやっぱりそれぞれあるべきだなと思って。この人は山を水墨画で描くことを生業にしていた人なんですけど、山の水墨画って、時代もそうですけど、絶対にあれを見たまま描けないと思うんですよ。もっと自分の中でデフォルメしたものを描いているはずで。そういったものと自分がそれを音楽に落とし込むことって似ているので、言い得て妙だな、という。すごくいい言葉だなと思って拝借させていただきました。
――「Odyssey」も印象的ですが、これはどういう曲なんですか?
小原:「Odyssey」は“終わりのない旅”ということなんですけど、今のこの現状をそのまま曲にしたというか。逆にまるっとそれを体現したというのはこれくらいしかないんじゃないんかな。そういう曲ですね。
――「へどりゅーむ」はどうでしょう? これは歌詞にも「怒り」という言葉がありますが、どういうふうにできた曲なんですか?
小原:それは『ゴジラVSヘドラ』というアート・ムービーがあるんですけど、それを題材にしようと思って。「なんかみんな怒ってそうやな」という感じの曲ですね。
――アルバムのラストには「大東京万博」が入っていて、これが結果として象徴的な、まとめのような曲になっているような感じもしましたが、これはどうでしょう? アルバムの中の「大東京万博」ってどんな役割、どんな位置付けでしょうか?
小原:まさしくそういう役割になったような、1曲目と繋がっている感じはしますね。『ゲゲゲの鬼太郎』を観たりしたときも思うんですけど、お化けってどう見たって不憫じゃないですか。でも、ああいう人たちがめちゃくちゃ楽しそうにしているのがくるんですよ。ゲラゲラ笑えるというか。そういう風景が好きなんです。「世界が破滅に向かってるのに、そこで祭してんの?」みたいな。そういうのが好きなんですよね。そういう意味では「大東京万博」という曲が最後ですべてを表してるというか。最後の終着点みたいにはなったのかなあと思いますね。
――このアルバムを経てのライブもすごく面白そうな気がします。聴いた印象として、インナー・トリップだけじゃなく、身体的な強さがあると思うんです。これはTempalayというバンドが積み重ねてきた地力のようなものが基盤になっているなという感じがするんですけど。どうでしょう、このアルバムを経てのライブはどんな感じになりそうでしょうか?
小原:どうしましょうね。毎回そうなんすけど、「ライブはどうしようかな」と思ってますね。
John Natsuki:ただ、できあがった後に「これからのライブ、ちょっと汗かく感じにしようかな」と思いました。たしかに今までのTempalayに比べて、フィジカルがちょっと強い感じのアルバムだとも思うし。それはそれで面白いなと思って。今まではそんなに汗かかない感じのライブだったので。まあ、汗はかくけど……
小原:ねっとり(笑)。
John Natsuki:そう、ねっとりだったって感じ(笑)。もっと熱くて、明るいというか、オープンな感じのサウンドでやっていきたいなと思っていますね。
AAAMYYY:レコーディングの時点でドラム、よく体力持つなーと思いながら見ていました。筋トレしなきゃなって思います。私も、自分の歌の量がすごく増えた気がするので。
小原:たしかにね。AAAMYYYパート多いかもね。
AAAMYYY:そう。ほとんど歌ってるよね。筋トレしようと思います。
――小原さんはライブに関してはどうでしょう?
小原:映像演出とかもっと入れていきたいなとは思いますね。そこで僕らの曲が表現されるというのは、このあいだのライブでも身をもって思ったので。予算の許す限り、そういう魅せ方をもっとやってもいいんじゃないかなと思っています。
Photo by Yuma Totsuka
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