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<インタビュー>大原櫻子が発信する「生」と「愛」のメッセージ 1年ぶりのアルバム『l』を語る



大原櫻子インタビュー

 大原櫻子が約1年ぶりのアルバム『l(エル)』をリリースした。BOAT RACE 2021 TV-CMイメージソングに起用された「STARTLINE」で幕を開ける本作は、25歳になった彼女の人生観をポジティブかつ等身大に伝える1枚。アルバムのキーとなる収録曲「チューリップ」は、大原にとって初となる単独作詞作曲にチャレンジした楽曲で、生きることの尊さと力強さを牧歌的なメロディーにのせ、晴れやかに歌うナンバーだ。前作『Passion』からの1年間、コロナ禍によって一変した日常において、表現者として、そして一人の人間としての大原は、いかにして「生きること」、「愛すること」と向き合い、歌に表現したのか、話を訊いた。

“l”という字が色んな楽曲のキーになっている感じ

――前作『Passion』から約1年ぶりとなるアルバム『l』がリリースされます。2020年はコロナ禍によって多くの人の日常が一変した1年でしたが、大原さんはどのように過ごされていましたか?

大原櫻子:私はありがたいことに全然休みがなく、すごく充実した日々を送らせていただきました。1月28日に『両国花錦闘士』という舞台が終わって、今はすっかり音楽モードに切り替わっています。ただ、去年の5月から9月までは、本来は『ミス・サイゴン』という舞台でスケジュールが埋っていたんですけど、それが中止になってしまってから少しおうち時間がありました。それで自分で曲を作りたいなと思って、音楽プロデューサーのSakai(Ryosuke "Dr.R" Sakai)さんと一緒に作曲しました。

――そこで作った曲はすでに音源化されているものですか?

大原櫻子:去年リリースした『#やっぱもっと』のカップリング曲「Wake Up」です。

――アルバムの構想はいつ頃から組み立てていったのでしょう?

大原櫻子:去年の6月頃ですね。制作は9月、10月がピークでした。12月から『両国花錦闘士』が始まる予定だったし、芝居モードに入ってしまうとなかなか音楽と向き合えないので、その前に作り終えていました。

――では、作り終えてから半年が経った今、改めてどんなアルバムに仕上がったと感じていますか? タイトルも示唆的ですよね。

大原櫻子:まず『l』というタイトルにしたのは、“Life”とか“Love”とか、自分がコロナ禍で考えるようになって、大切にしてきた単語の頭文字が“L”で始まるからです。あと、アルバムのリード曲「STARTLINE」の“L”でもあったり。小文字にしたのは、スタートラインの線を“l”の字面になぞらえているのと、この1本線が、人が凛として立ってる姿にも思えたんです。「STARTLINE」の歌詞も、凛とした人間が前を見据えてスタートラインを切っていくという、すごく前向きなかっこいい人の姿を描いています。

――字面がすごく潔いですもんね。

大原櫻子:そうですね。シュッとしてる。その感じを意識してこのタイトルにしましたし、内容的にも「STARTLINE」はもちろん、全体的にすごく前向きな楽曲が多いです。私が初めて作詞作曲した「チューリップ」も、優しさに溢れたポジティブな曲になったし、この“l”という字が色んな楽曲のキーになっている感じはします。

――6月頃に設計を始めた時点から、そういうアルバムにしようという意識があったのですか?

大原櫻子:いや、そのときはまだ思っていなかったです。アルバムを作るときは毎回、色んな挑戦をしたり、色んな系統の楽曲を入れたいと考えたりしちゃうんです。ただ、「チューリップ」がけっこう早い段階で完成したことで、そこから他の曲も集まっていったというか、構成がどんどん決まっていった感じですね。あと、やっぱり「STARTLINE」の存在も大きかったです。

――前作『Passion』は、海外のポップ・ミュージックの要素を取り入れた楽曲も多くて、たしかにチャレンジングな内容だなと感じたのですが、今作ではそれを“大原櫻子らしさ”に上手く消化している印象を受けました。

大原櫻子:それはちょっと意識していて。『Passion』では打ち込みを増やしたりして冒険したので、ちょっと初心に帰るじゃないですけど、バンド・サウンドの楽曲を多めにしたりとか、生感みたいなものは意識しましたね。もちろん「Love Letter」とかは挑戦した部分もあって、私らしさというか、みなさんが思っている“これまでの大原櫻子のJ-POP”というのを改めて確認して、その視点に立って考えて、構成していきました。


――リード曲であり1曲目の「STARTLINE」は、それこそアルバムを象徴するような、ポジティブでエネルギッシュなオープニングです。

大原櫻子:最初にデモを聴いたとき「絶対にアルバムの1曲目だな」と思いました。アルバムのスタートラインを切るという意味でも、まずタイトルにグッときたというか。頭サビの<この夢は~>の部分は私もすごく熱量を込めて歌っているし、何かを掴んで離さないエネルギーみたいなものを感じてほしいです。

――いしわたり淳治さんが作詞をされていますね。

大原櫻子:いしわたりさんなりの言葉のセンスも良くて。私、2サビの<大空に伸ばした 指で作った銃で 鳴らす音のないスタートサイン>というフレーズが好きなんです。すごく上手い表現だなって。

――作曲とアレンジの丸谷マナブさんは『I am I』からのタッグですよね。

大原櫻子:丸谷さんはここ2年間ぐらい、私のことをすごく身近で見てくれていたプロデューサーさんの一人で、メロディーが私を引っ張ってくれている感じが、さすが丸谷さんだなと思いました。

――2曲目の「Carnival!」もすごく明るい曲で、1曲目の「STARTLINE」の勢いを軽やかに引き継ぐナンバーですね。

大原櫻子:そう、すごくノリノリ。これは早くライブでやりたいなと思っていて、今まで私のライブに来てくれたファンもきっと好きになってくれる曲じゃないかなと思います。

――楽曲を手掛けたNA.ZU.NAさんは、TWICEやE-girlsなどのガールズ・ポップを数多く作ってきた音楽プロデューサーで、そのあたりに通じるキュートで軽快なサウンドが楽しいですね。言葉運びも小気味よくて、歌っていて気持ちよさそうです。

大原櫻子:そうですね。いまの流行りの感じだし、若い方たちの心をくすぐりそうな要素がたくさんあって。メロディーと歌詞が合致するので、歌っていて気持ちいいし、楽しくなっちゃう。<イニミニマニモ>とか、どういう意味なんだろうと引っかかるというか、聴いたらすぐに覚えちゃうような言葉遣いが上手なんですよね。

――この2曲は本当に、このアルバムのムードを分かりやすく表現しているなと思いました。

大原櫻子:そうですね。アルバムのジャケットもかっこよくて大人っぽい感じなんですけど、曲を聴いてみるとポップで前向きで、いい意味でイメージを裏切っています。


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もっと自分を大切にして
自分のことを褒めてあげることが大事

――3曲目「Long Distance」は、最近の状況とダイレクトに繋がりそうな楽曲ですよね。

大原櫻子:離れているからこそ大切なことに気づくということを歌った曲で、それはコロナと関係なく昔からそうですけど、今の私たちにはより一層、刺さるんじゃないかなと思っています。

――このステイホーム期間もお忙しくされていたとのことですが、何か新しく始めたことはありますか?

大原櫻子:実は英語を習い始めました。去年1月のビルボードライブ公演はカバー中心で、海外の曲をたくさん歌ったんですけど、ちゃんと英語力を磨きたいなと思って。それから海外の音楽に触れることもより多くなりましたね。アリシア・キーズだったりビヨンセだったり。中でもやっぱり元気になる曲を求めて聴いたりしていました。


――続く「Love Letter」は先ほども仰った通り、アルバムの中ではチャレンジングな部類の楽曲ですね。手掛けたのはAAAMYYYさんとShin Sakiuraさんという、新進気鋭の若手2組によるタッグです。

大原櫻子:お二人は歳が近くて、同世代でこんな才能を持つ方々と出会えたのは本当に大きかったです。楽曲はお洒落で色気があって、こういう形の音楽はあまり届けたことがないので、ファンの皆さんがどういう感想を持つかすごく楽しみです。私自身はお芝居をやっているなかで、自分と全くかけ離れた役を演じることもあるので、そういった意味ではこういうチャレンジングな曲があるのは嬉しくて。

――燃えるというか。

大原櫻子:そうですね。仮歌はAAAMYYYちゃんが歌ってくださったんですけど、聴いたときに自分が歌っている姿が想像できなかったんです。「AAAMYYYちゃんの曲じゃん」って(笑)。

――“自分の歌”にしていく作業が大変でしたか?

大原櫻子:はい。レコーディング当日まで分からなくて、Shinさんが立ち会ってくださったんですけど、「大丈夫ですか?」とずっと訊いていました。

――なるほど。手探りしながら進めていったんですね。Shinさんからはどんなディレクションがあったのですか?

大原櫻子:吐息の加減などを色々とチャレンジしながら、「どれぐらい色っぽく歌ったほうがいいですかね?」とか「こっちのほうがいいね」とか話し合いながら、世界観を作っていきました。

――Shinさんは「miss you tonight」のプロデュースも手掛けています。

大原櫻子:これはダンサンブルな曲なので踊りたいなって。

――たしかに「Long Distance」、「Love Letter」、「miss you tonight」の3曲は、ビートの抑揚が効いたグルーヴィーな流れですよね。

大原櫻子:アルバムにはノリノリな曲もある一方で、こういう曲の低音もすごくかっこよく映えているなと思います。

――「#やっぱもっと」は先行シングルとしてリリースされた楽曲で、アルバムにはリアレンジされた「#やっぱもっと -Album Version-」として収録されます。

大原櫻子:ストリングスの音色が増えたので、世界観もグッと広がったし、演奏もゴージャスになったと感じています。シングルのほうは寄り添う感じの雰囲気でしたけど、こっちは大人数が一人の恋を応援してくれている感じというか。また雰囲気が違っていて素敵です。ぜひ聴き比べてほしいですね。


――そして「チューリップ」は、大原さんが初めて単独で作詞作曲された曲です。

大原櫻子:おうち時間が増えて、ふと自分を見つめ直す時間ってすごく大事だなと思ったんです。特に日本人は働きすぎるから、そういうメッセージも発信したいなって。この曲は、私の大事な友達が作るきっかけをくれたんです。「生きているだけでいいんだよ」って。もっと自分を大切にして、自分のことを褒めてあげることが大事なんだって伝えています。

――「チューリップ」をモチーフとしたのは?

大原櫻子:チューリップの花言葉が、私が生きていくうえでテーマにしている「愛」と「誠実」で、この曲の優しさ、あたたかさ、まっすぐな感じと合うなと思ったんです。花をモチーフにしているのでロマンティックな要素もあるけど、一方で「生きていこう」という言葉はすごく重たいですよね。それをあえてほっこりとしたメロディーにのせて歌いたいなと思ったんです。

――等身大の死生観、人生観を歌った曲ですけど、そのメッセージ性が重くなりすぎないような表現のバランスを感じられました。作曲はいかがでしたか?

大原櫻子:歌詞を書きつつ、頭の中に降ってきたメロディーをのせて、それをスマホで録音するという作業を繰り返しました。そうやってアカペラで作っていったので、シンプルにギターと歌だけもいいなと思って、アルバムの最後にはアコースティックの「チューリップ -Duo-」も入れています。

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私の中で24からの25はすごく大きな階段
能動的に前を向いて歩いて行きたいです

――8曲目の「同級生」は、とりわけ情景描写が鮮明な1曲です。

大原櫻子:ちょっと物語っぽいというか。アレンジしてくださった徳澤青弦さんはオルガンも弾いてくれていて、複雑なリズム感で、メロディーラインにすごく人間味があって、聴いているとちょっと泣けちゃう。

――「だってこのままじゃ」は、緑黄色社会の長屋晴子さんが作詞、小林壱誓さんが作曲されています。長屋さんとは先行リリースされた「透ケルトン」に続く2度目のタッグですね。

大原櫻子:前回のコラボのあとに二人で話したときに、「今後、どういう楽曲を歌いたいの?」と訊かれて、いくつか浮かんだなかの一つが、ライブで映える楽曲だったんです。そしたら、まさにそういう感じの曲を作ってくれました。「透ケルトン」は前を向く女性の強さを描いているんですけど、この「だってこのままじゃ」はちょっと可愛らしい男性の心理で、真逆だけど、どちらも晴ちゃんらしい歌詞になっています。

――前回のコラボ以降も親交は続いていたんでしょうか?

大原櫻子:めちゃめちゃ仲良くさせてもらっています。舞台も観に来てくれて、同い年ということもあるんですけど、フィーリングもすごく合うんです。いつも二人で「それ分かるー!」って、わちゃわちゃ話しています(笑)。

――完成した音源について、長屋さんから感想を聞きましたか?

大原櫻子:「だってこのままじゃ」はまだ聞けていないです。「透ケルトン」に関してはリリースされているので、「もうさくちゃんのものになったね」って。多分キーが晴ちゃんと近いので、作りやすかったんじゃないかな。


――そしてアルバムの最後「抱きしめる日まで」は、メロディーが伸びやかなミドル・バラードです。作詞は大原さんで、作曲はJUJUさんの「やさしさで溢れるように」などを手掛けた小倉しんこうさんです。

大原櫻子:デモを最初に聴かせてもらったとき、最初の2行の歌詞がパッと思い浮かんだので、思わず「私が書きたい」ってお願いしたんですけど、けっこう手こずりましたね。家入レオちゃんに連絡して、「歌詞が出てこないんだけど、どうしたらいい?」と相談したら、「出てくるまで待つ、考える」みたいな、全然いいアドバイスをもらえなくて(笑)。でも、「チューリップ」と違って、曲を小倉さんに書いていただいたので、メロディーに導かれるように言葉が紡ぎ出された感じはすごくありました。

――今後も自分で作詞作曲はやっていきたいですか?

大原櫻子:そうですね。自分で作ることの楽しさを学べました。お芝居と歌を両方やらせていただいているので、どうしても制作時間が取れなかったりするんですけど、おうち時間でじっくり音楽と向き合えたのも本当に大きかったです。

――そして、4月からツアーも予定されています。

大原櫻子:前作の『Passion』のリリース・ツアーもやれていないので、今回は『Passion』の“P ver”と『l』の“L ver”で、一部と二部のダブル・コンセプトのツアーになっています。みんなが聴きたい曲をなるべくたくさんやりたいなって思っています。

――アルバムのリリースとツアーが決まっていますが、2021年を今後、どんな1年にしていきたいと思っていますか?

大原櫻子:先日25歳になったんですけど、私の中で24からの25はすごく大きな階段というか、区切りだと思っていて。自分が何をやりたいか、どういうものを発信していきたいか、そういう考えをちゃんと持って前に進むことが大事だなと思っています。能動的に前を向いて歩いて行きたいですね。

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