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<コラム>優里の歌はなぜ胸を打つ?「かくれんぼ」「ドライフラワー」切なすぎる別れを描いた連作から紐解く
SNSでバズった“情緒を繊細に捉えた歌”
千葉県幕張出身のシンガー・ソングライター、優里が今年の春に巻き起こした“かくれんぼ現象”に続き、早くも次なる旋風として“ドライフラワー現象”を起こし始めている。
2020年8月にシングル「ピーターパン」でソニー・ミュージックレーベルズからメジャー・デビューを果たした優里だが、本格的なアーティスト・キャリアの始まりはもう少しだけ前、2019年6月頃まで遡る。都内でのバンド活動に一区切りをつけたあと、Instagram、Twitter、TikTokといったSNSを使い、自身の歌唱動画を投稿し始めたことがきっかけだ。ハスキーながら耳馴染みが良く、アイデンティティをたしかに刻み込む歌声は加速度的に支持を広げ、瞬く間にバズを起こした。とりわけ2019年12月に配信した初のオリジナル・ソング「かくれんぼ」は、各種ストリーミング・サービスのチャートで上位をマークし、YouTubeのミュージック・ビデオは2,000万回再生を超え、TikTokでの使用動画は1万本以上にものぼる。
優里 『ピーターパン』Official Music Video(フル)
優里の音楽ルーツは、幼少期に家でかかっていた海外のロック・ミュージックだ。具体的にはボン・ジョヴィやAC/DCといった70~80年代のロック・レジェンドの名前を挙げており、Billboard JAPANとTikTokによる音楽プログラム『NEXT FIRE』に出演した際には、初めて買ったCDがクイーンのベスト・アルバムであることも明かしている。
一方で、シンガーとしての彼のバックグラウンドには、数々のJ-POPスターたちの存在も窺える。そして、TikTokの本人アカウントに上がっているカバー動画を見れば、彼のマジカルな歌声にも劣らぬスター性を感じるはずだ。往年の名曲から近年のヒット・ソングまで多彩な楽曲を、あくまで“優里として”歌いこなす実力は、彼の最初のブレイクスルーである“かくれんぼ現象”に繋がっていく。
優里「かくれんぼ」Official Music Video
「かくれんぼなんかしてないで/もういいよって早く言って」というサビのラインが印象的な「かくれんぼ」は、自身のもとを去ってしまった恋人を想う歌。エリザベス宮地が監督したミュージック・ビデオでは、幸せな日々が色褪せた過去として描かれており、聴き手のイマジネーションをさらに膨らませる。胸を締め付けるような情緒を繊細に捉えた歌の表現力も見事で、多くのSNSユーザーがカバーし、歌ってみた動画に挑戦したのも頷ける。
シンガー・ソングライターとしての素質
この「かくれんぼ」から約1年後、2020年10月25日にリリースされた最新シングル「ドライフラワー」は、そのアフターストーリーとなる楽曲だ。「かくれんぼ」が男性視点だったのに対し、こちらは女性視点を描いている。「多分、私じゃなくていいね」と冷えた心中を告白する歌い出しに連なるのは、別れを選んだ彼女の気持ちの複雑な変化。同じくエリザベス宮地によるミュージック・ビデオでは、前述の「かくれんぼ」のビデオとは対照的に、彼女の暗然とした表情がいくつも映されており、男性と女性、両者の気持ちのすれ違いが生々しく描写されている。
優里 『ドライフラワー』Official Music Video(フル)
“別の人に気持ちが移った”とか“嫌いな部分に耐えられなくなった”とか、分かりやすくドラマティックなテーマで別れの物語を紡ぐのは簡単かもしれない。しかし、優里が「ドライフラワー」で表現したのは、もっと曖昧模糊で、一見したらアンビバレントにも映る心情。リリックの解釈はリスナー各々に任せるとして、モチーフに枯れ花ではなく“ドライフラワー”を据えたところは大切なポイントだ。
男性視点の「かくれんぼ」、女性視点の「ドライフラワー」、まるで短編の恋愛小説の読後感にも似た聴き心地を覚える2曲の連作は、やはりSNSユーザーを中心に共感のバズを起こした。TikTokの国内週間楽曲ランキング“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”で「ドライフラワー」は、リリース以降じわじわと順位を上げ、11月16日~11月22日集計週に自身初のトップ10入りとなる7位をマークした。また、Billboard JAPANの新人アーティストを対象とした新チャート“JAPAN Heatseekers Songs”では、11月23日付で初の首位を獲得したうえ、メイン・チャートである“HOT 100”でも右肩上がりに上昇、12月7日付で自身最高の6位を獲得している。前作「かくれんぼ」も26週連続でチャートインしており、好調だ。
優里 - かくれんぼ / THE HOME TAKE
優里 - ドライフラワー / THE FIRST TAKE
アーティストの一発撮りパフォーマンスを届けるYouTubeの人気チャンネル『THE FIRST TAKE』では、7月に「かくれんぼ」を、10月に「ドライフラワー」を披露。異なる視点と異なる感情を、異なる歌で表現している2曲のパフォーマンスは、彼の作家としてのたしかな“クリエイティビティ”と卓越した“歌唱力”を浮き彫りしている。“時代の歌”を奏でるシンガー・ソングライターとしての素質が、しっかり花開いていることが分かる。SNSから生まれる“共感・共振の音楽“のバイラルが多方面に訴求し、やがてメガ・ヒット生み出す2020年だからこそ、最右翼にいる優里は2021年の飛躍が期待される、最重要若手として各所から熱視線を集めているのだ。メジャー・デビュー曲「ピーターパン」で、彼はこう歌う。「夢の見過ぎと馬鹿にされた少年が/夢を掴む物語を/見事な逆転劇をこの手で/巻き起こせ 見せつけろ」