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<インタビュー>Rina Sawayamaが語る「自分にオーセンティックであること」 音楽&アイデンティティーに迫る
Rina Sawayamaという人物を説明するにあたって、どのような言葉があるだろう。“今注目のシンガーソングライター”“イギリスに移民した日本人”“独特なファッション”“アジア人アーティスト”“ケンブリッジ大学政治学科卒業”“先鋭レーベル<Dirty Hit>所属”“LGBTQ”…、などなど、彼女について話す際には、以上のような言葉がキーワードとして挙がるのが普通だろう。
今回のインタビューでは、11月20日に配信された「Bad Friend(End of the World Remix)」や、2020年4月にリリースしたアルバム『SAWAYAMA』の話などといった、制作した音楽作品に関するところにも言及してもらっているが、彼女自身のアイデンティティについても多く話してもらっている。詳細は以下のインタビューに譲るが、ここでは“徐々に”という言葉が重要になってくるだろう。徐々に受け入れる、徐々に変えていく。先ほど挙げたRina Sawayamaを背罪する際によく使われる言葉たちも、徐々に世間に受け入れられていく。それに彼女は自覚的だ。Rina Sawayamaが自身の内に対して思うこと、そして外にどうアクションしていこうとしているのか、このロング・インタビューで覗き見てほしい。
ファンとは自分らしくリアルな形で繋がりを持ちたい
――1週間ほど前に(インタビュー収録日は2020年11月5日)『ザ・トゥナイト・ショー』で「XS」を披露したのを観ましたが、歌唱、振り付け、衣装、メイク、どこをとっても本当に素晴らしかったです。
Rina Sawayama(以下:Rina):ありがとう。
――資本主義について歌った大胆な楽曲ですが、この曲を選んだ意図を教えてください。
Rina:番組側からのリクエストでした。私のミュージック・ビデオの中でも再生回数が一番多いので納得です。自分の曲をTVで披露するのは今回が初めてだったのですが、まさに完璧な曲だったと思います。ただ時間の制限が厳しかったので、演出面でカットしなければならない部分がありました。マネー・ロンダリングを行っている怪しい地下組織という設定だったのですが、ややパンクで、アメリカの現状にピッタリだと感じました。
▲Rina Sawayama「XS」(『ザ・トゥナイト・ショー』ライブ映像)
――残念ながら、来年に延期となってしまいましたが【DYNASTY TOUR】の内容も垣間見れたような気がします。
Rina:そうですね、まだ内容に関してしっかりと決めていないですけれども。私の美的感覚は常に変化していますが、必ずコンセプトに基づいています。とても明るくて、楽しくて、ファニーな曲もあれば、ダークだったり、グラマラスなものもありますね。
――安全にツアーが再開できるようになった際に、もっとも楽しみにしているのは?
Rina:もちろんファンに会うことです! アルバム・リリース前と比べると、ファンの数がだいぶ増えたので、みんなに会うことが待ちきれないです。ツアー日程が一年先なのにも関わらず、ファンたちがチケットを購入して、ロンドンをはじめ、UK、アメリカなどたくさんの会場をソールドアウトにすることで、私のみならず、現在危機的な状況に置かれているライブ会場の支援に繋がっていることに心から感謝しています。本当にクレイジーです。なので、みんなに会って感謝を伝えたい。そして素晴らしいショーを届けたいという想いです。
――イギリスは今日(インタビュー収録日である2020年11月5日)から再びロックダウンに入るそうですが、ライブ業界を含めさらなる打撃となりますね。
Rina:キャンセルされたイベントもすでにいくつか出てきていています。もしテレワークができなければ出社することが可能など、前回のロックダウンと比べると制限が緩和されていますが、油断のならない状況です。この件に関して他人を攻める人々がいるけれど、とにかく検査体制を充実させることに尽きると思います。検査を無料で提供することで感染者を抑えることに成功している国もありますが、その点イギリスは遅れています。もちろん検査は行っていますが、無料で素早く検査ができるようになれば、世界規模で可能性が広がると感じます。日本はオリンピックを控えていますよね。私も楽しみにしていて、開催に合わせて日本に行く予定でしたが、起こってしまったことは仕方がない。私自身は恵まれた状況にあるのでありがたいです。
――活動がほぼオンライン上に制限されてしまったことへのもどかしさはありましたか?
Rina:半々というところでしょうか。自宅から仕事をすることで、いい意味悪い意味で、プライベートと仕事の境目がつかなくなったという話も聞きますが、私は自宅から一歩も出ずにプロモーション活動ができて嬉しい(笑)。けれど色々な人々と面と向かってコラボレーションしたり、経験を共有することは恋しいですね。これは多くの人が感じていることだと思います。UKにおけるロックダウンの早い段階でアルバム『SAWAYAMA』をリリースできたのは運が良かったし、多くの人々が新しい音楽を渇望していたことはエキサイティングでした。
――そのような状況においてファンと繋がるという部分では、ここ数か月間様々な動画コンテンツを公開していますね。
Rina:そう、ここ数か月にわたりコンテンツをたくさん公開してきて、そのせいで今はちょっと燃え尽きた感じだけど(笑)。今後『ザ・トゥナイト・ショー』の舞台裏映像も公開予定で、みんなに本当はどんな内容になるはずだったか見てもらえるので、色々興味深いと思います。ファンとは自分らしくリアルな形で繋がりを持ちたいと考えていまして。自分が駆け出しだった頃、音楽業界にコネや知り合いはいなかったので、この世界にどのように足を踏み入れればいいのかわからなかった。だから、この業界を目指しているクリエイティブな人々を手助けしたい、そしてチームワークが大切だということを伝えたい。そういった内情を、自分のコンテンツを通じて伝えられることを願っています。
▲Reacting to reactions to MY DEBUT ALBUM | Rina Sawayama
――ここ最近公開したコンテンツで特に気に入っているものはありますか?
Rina:間違いなくアルバムのメイキング映像。素晴らしい思い出をたくさん蘇らせてくれたし、ものすごくハードワークだったことを思い出させてくれました。2019年の秋だったと思うけれど、やっとマスター音源のサインオフをしました。それが年末最後に行ったこと。当時2か月ぐらいスタジオに篭りっきりで大変だった。新曲を書くためではなく、収録曲の最終調整をしていたのだけれど、曲によって様々な個性があるので、それをうまくバランスしなければならなかったんです。退屈なプロセスではあるんだけど、目標を見据えてとても努力をしたのを覚えています。メイキング映像を見て、それを思い出しました。今後は全て映像に残そうと思うようになりました。のちに色々振り返れるのはいいことだから。
▲The Making of Sawayama | Behind the Scenes of My Debut Album (Part 1)
▲The Making of Sawayama | Behind the Scenes of My Debut Album (Part 2) #FoundryFest
配信情報
Rina Sawayama「Bad Friend(End of the World Remix)」
- 2020/11/20 RELEASE
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取材・文:Mariko Okada
日本人のイメージを覆すのは重要
――デビュー・アルバム『SAWAYAMA』は、2020年を代表するポップ・アルバムの一つと評されていますが、今作でポップ・ミュージックのイメージを覆し、それがリスナーに伝わったのは嬉しかったのでは?
Rina:ものすごく嬉しいし、感謝しています。称賛や好意的なレビューなどは期待しておらず、今なお(収録日である2020年11月5日現在)各国のレビューをランキングするサイト(メタクリティック)の今年のTOP10にランクインしているのも信じられないことです。同時に日本を代表できたこともとても誇りに思っています。私にとって、このアルバムを通じて日本人のイメージを覆すのは重要なことでしたし、日本人のステレオタイプについて常に敏感でいます。UKと日本の文化が入り混じったアイデンティであることのステレオタイプにとらわれることなく、自分にオーセンティックであることを貫けたのが非常に誇らしいです。
――同時に、ポップ・ミュージックでは異色とも言える“怒り”が巧みに表現されていて、その部分も大きな共感ポイントだと感じました。
Rina:ありがとう。
――その代表格である1stシングル『STFU!』は、これまでのサウンドとも全く異なるものでした。
Rina:ドアを叩き壊したかったんだと思います。あの曲のサウンドや自分のソングライティングにエキサイトさせられて、賭けではあったのですが、いい意味で人々の注意を引くことができた。中には、ああいったメタル・サウンドを好まない人々もいますが、私の世代の多くはあのような音楽を聞いて育っています。当時エヴァネッセンス、リンプ・ビズキット、t.A.T.u.など、メタルやニューメタルの影響を受けているバンドが常にチャートのTOP10にいましたし、リンプ・ビズキットの「Rollin'」に関してはUKチャートで記録的な週No.1に輝いています。なので、私にとっては珍しいことではなく、自分が聴いて育った音楽を参照しているだけなんです。変わったニッチな音楽性とは捉えておらず、みんなエヴァネッセンスが世界一ビッグなバンドだった頃をおそらく覚えていると思います。
▲Rina Sawayama「STFU!」
▲Limp Bizkit「Rollin'」
Rina:他にもアヴリル・ラヴィーンだったり…アラニス・モリセットに関しては、まだ幼すぎて、デビュー・アルバムをきちんと聴いたのはここ最近ですが、彼女たちが表現してきた“女性の怒り”というのは、私もずっと感じてきたことでした。だから、それをみんなが理解してくれたことは嬉しかったですね。
▲Alanis Morissette「You Oughta Know」
――今作は<Dirty Hit>からリリースされていますが、レーベルとのクリエイティブ面における関係性について教えてください。
Rina:<Dirty Hit>と話し始めた時、すでにアルバムは80%ぐらい完成していました。メジャーからインディー、Spotifyやディストリビューションに重点をおいている新しいタイプのレーベルなど色々な人々に聞いてもらったのですが、それらの反応を見るのは興味深かったです。<Dirty Hit>には15曲ほど聴いてもらって、この中からアルバムが生まれると思っているのだけど、サウンドをアンプリファイ(増強)する手助けを行うことに興味があるか打診しました。内容は、プロデューサーのクラレンス・クラリティとマネージメントという、とても小さなチームで作り上げていました。振り返ってみてスゴイなと思うのは、このビッグなサウンドをほぼ3人で作り上げていたということですね。当時はマネージャーがA&Rも兼任してくれていて、チームのメンバーが増えたけれど、今もそこまで大きなチームではないんです。
――<Dirty Hit>に所属しているThe 1975のアダム・ハンが、いくつかの曲のギターを再レコーディングしているんですよね。
Rina:そう、The 1975とよく一緒に仕事をしているプロデューサーが作業に参加してくれて、いくつかのトラックのサウンドをより洗練されたものにする手助けをしてくれたのですが、そのプロデューサーにギターを再レコーディングしておくよと言われ、戻ってきたものを聞いたらアダムだったんです。最高でした。アダムはとても曲を気に入ってくれて、何も考えずにレコーディングしてくれたようです。
どちらかというと<Dirty Hit>は、ロック寄りのレーベルなので、私にとってギャンブルではありました。このプロジェクトは、多少オルタナではありますがポップと位置付けているので。私にとって一番大切なのは、アーティストに対するリスペクトです。メジャー・レーベルと契約して、あまりいい経験をしなかったという女性シンガーの体験談を、これまでのキャリアで何度も聞いてきていたので、とても慎重に様々なオプションを検討しました。その中で、もっともアーティストへのリスペクトを感じられたのが<Dirty Hit>で、契約は正しい選択だったと思っています。
配信情報
Rina Sawayama「Bad Friend(End of the World Remix)」
- 2020/11/20 RELEASE
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取材・文:Mariko Okada
アルバム制作に伴う“セラピー的な役割”
――今回、「Bad Friend」のリミックスでEnd of the Worldとコラボするきっかけは何だったのでしょう?
Rina:彼らが、私のファンだったそうで、すごくクレイジーです! バンドのことは、数年前に『NHK紅白歌合戦』に出演していたのを観て知っていました。母がまだUKに暮らしていた頃、一緒によく『紅白』を観ていたので。パフォーマンスに驚かされましたし、バンド名が印象的だったのでよく記憶しています。自分のファンだと聞いて、リミックスに興味があるという話をもらってビックリしました。メンバーのNakajinと話したのですが、曲やアルバムを気に入ってくれていると教えてくれ、特別なコラボになりました。
▲Rina Sawayama「Bad Friend」
――この曲を選んだ理由は?
Rina:End of the Worldが、この曲を特に気に入ってくれていたというのが主な理由です。単なるリミックスではなく、完全なるコラボレーションにしたいと思っています。例えばパブロ・ヴィタールが手がけた「Comme des Garçons (Like The Boys)」のリミックスは、パブロのチームが完全に曲をプロデュースし直しています。リミックスに関しては、曲を大胆に変えてしまうようなものを好みますね。
▲Rina Sawayama「Comme Des Garçons (Like the Boys)」
▲Rina Sawayama「Comme des Garçons (Like The Boys) – Brabo Remix ft. Pabllo Vittar」
――作業はどのように進めていったのでしょうか?
Rina:私からは「好きにやっていいよ」と伝えて、バンド側に任せました。彼らのことを信頼しているので。過去に何度かアーティストとして大好きと言われて、リミックスをしてほしいとお願いされたものの、オリジナリティやユニークさを注入することを拒まれた経験があり、リスペクトされていないと感じたのでオファーを断ったこともあります。私である必要がないのであればやらないですし、やる必要もないですよね。なので、自分も相手にリスペクトを示し、好きなようにやってもらいたいと思っています。
時にはスケジュールが理由で、きちんとコラボレーションができない場合もあります。ブリー・ランウェイによる「XS」のリミックスは、実際にスタジオ入りしてセッションを行いたかったですが、残念ながらロックダウンのせいで無理でした。将来的にはきちんとしたコラボという形で、リミックスに取り組めたらと思っています。アーティストを選定する時、自分の声を持っていないアーティストは選ばないので、各アーティストがその個性を発揮できるようにすることを重要視しています。
――実際に出来上がったリミックスを聞いた時のリアクションはいかがだったでしょう?
Rina:とてもグレイトな仕上がりで、気に入りました! ものすごくハッピーで、ダンスっぽいグルーヴを注入してくれましたよね。歌詞、コード、メロディ、様々な解釈ができるので、面白いですね。それが音楽の素晴らしいところでもあります。
――この曲は、疎遠となってしまった親友との東京での思い出について歌った曲ですが、その後、彼女と話す機会はありましたか?
Rina:出来上がった曲を送ったのですが、2行ほどのあっさりとした返答がありましたね(笑)。でも、それはそれでいいかなと思っています。自分の内面と向き合うことが重要ですし、うまく行かない時は手放すことも必要ですから。
――曲を通じて、自分の気持ちを整理することはセラピー的な効果もあったと思います。
Rina:その通り。むしろ、このアルバム全てがセラピー的な役割を果たしてくれている。アルバムを通じて、自分の人生の様々な部分を修復することができたから。
――個人的な意見ですが、原曲の後半でゴスペル・クワイアが入ってくる部分は特に感動的でした。
Rina:私の人生において教会音楽は重要なのもので、幼い頃に教会に付属した学校に通っていました。UKでは一般的で、公立の学校だとイングランド国教会やカトリックなどがあります。私の学校はイングランド国教会でしたが、様々な信仰の子供達が通っていました。当時ゴスペル・クワイアに所属していたので、教会でよく歌っていたのを覚えています。なので、ゴスペル・クワイアが奏でるハーモニーやその力強さには多大なリスペクトを抱いてきました。この曲からは、強い感情と悲しみが感じられたらと考えていまして。時には無を、時にはありふれんばかりの感情を。完成させるのに時間がかかった曲で、多分、収録曲で「Dynasty」とこの曲が一番時間を要しましたね。
――ちなみに曲の中で、カーリー・レイ・ジェプセンについて触れていますが、彼女から反応はありましたか?
Rina:彼女はSNSをあまり積極的に使っていないようなので、ピクセルズたちが呼びかけたりしているのに気づいていないようでして、今の所はないですね。マギー・ロジャースがLAで主催したチャリティ・イベントで友人がDJするのを見に行った時に、カーリーも同じ会場にいたのだけど、緊張して話しかけられなかった。これはアルバムがリリースされる前の話だから、まだ「Bad Friend」もリリースされていなかった頃。でも彼女のことは本当に大好き。落ち着いて、挨拶だけでもすれば良かったと、今となっては思っています。
――『SAWAYAMA』の制作を振り返ってみて、特にタフだった部分はありますか?
Rina:あぁ、やはりミキシングですね。一般のリスナーには理解しがたいかもしれないですが、アルバムの制作プロセスにおいて、おそらくソングライティングが30%、プロダクションが30~35%で、残りはミキシングとマスタリングなんです。ミキシングでは、ミキサーと呼ばれる人の元に全ての音源ファイルを集め、リスナーに聴いて欲しいと思う部分を調整するのですが、ヴォーカルを少し強調したり、スネアを特定の周波数に合わせたり、ベース音が大きすぎないようにとか、たくさんの要素があります。長い間、取り掛かってきた作品だと、一般リスナーが初めて曲を聞いた時の感覚というのが薄れてしまいます。今世界でもっとも普及しているイアホンはAirPodsで、多くの人はそれを使って私の音楽を聴くことになるので、私はいつもAirPodsで聴いて判断しています。加えて、プロデューサーたちにも大きなスピーカーで聴いてもらいます。というのは、ミキシングしてもらって、その音でライブした時にベースの音が酷かったりしたら本当に最悪なので。この部分は本当にものすごく退屈なんですが(笑)、とても重要なんです。ミキシング次第で、曲の出来栄えがだいぶ変わってくるので。これは本来プロデューサーの仕事なのですが、自分もセッションに参加して、必要ないものを排除したクリーンなファイルを納品できるよう心がけています。
――ソングライティングより時間がかかったというのは正直驚きました。というのも、無駄がないのに考えさせられる歌詞が多いので。
Rina:曲は1日あれば書けますね。1日と言いましたが、24時間かからないです。例えば「STFU!」は、2時間ほどで書き上げた曲ですし、「Bad Friend」も4時間ぐらいで書きました。「Akasaka Sad」など、完成させるのが難しかった曲もいくつかありますが、それでも詞とメロディを書く時間を合計したら6時間ほどでした。ヴォーカルの録音、プロダクションなどの方が断然時間がかかりますし、最大100時間かかったものもあるんじゃないかなと思います。
配信情報
Rina Sawayama「Bad Friend(End of the World Remix)」
- 2020/11/20 RELEASE
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取材・文:Mariko Okada
Rina Sawayamaの考えるアイデンティティー/レプレゼンテーション
――過去に自身のストーリーやアイデンティティーについて苦悩したと話していたこともありますが、それを見つけ出す過程で自分について学んだことはありますか?
Rina:とにかく自分に自信が持てなかったんです。私はクリエイティブな環境の元で育ったわけではないので、人々がクリエイティブさを発揮する姿や芸術的プロセス、物事がどのように創作されるのか知りませんでした。活動を始めて最初の数年間は自分のサウンド、自信、自分がどのようなアーティストを目指しているのか、様々な疑念がありました。多くのアーティスト同様に、ツアーの合間に導き出したのですが、ファンと会うこと、ライブで曲を披露することで、誰に向かって発信しているのかが見えてきました。私のファンには、私自身の友人の若い頃を彷彿させたり、中には私の友人にそっくりな子もいて、そんな彼らに対して自分のストーリーを、自信を持ってさらけ出すことができるようになりました。
私は人生において正直であるということが最善策だと信じています。人々に嘘をついたり、本当は興味がないトピックに関心があるように振る舞うのは疲れますしね。そして自分がいいソングライターだということも学びました。それまでは自信が持てなかったので。
――クリエイティブな家庭ではなかったということですが、そんな中でクリエイティブ面でのインスピレーションはどのように得たのですか?
Rina:私の母は素晴らしいインテリア・デザイナーで、今もその仕事を続けているのですが、私が早くに学んだのは、キャリアにしてしまうと、そのクリエイティブな部分を発揮できるのは10%ほどだということです。純粋にクリエイティブなのはわずかで、残りは頑張りだったりで、クリエイティブさとはあまり関係ないことなんです。どのようなものに触発されるのかというと…今も模索中ですね。まずは創作を行う際の自分なりのリズムを掴んだり、自分自身をアーティストとして捉えることから始めています。長年インディ・アーティストとして活動してきたので、音楽業界のビジネス・サイドを熟知している部分もあり、そこと距離を置いて自分がいい曲を書けるということを知ることですね。
また、人々の物語には心が動かされます。読書が好きで、女性や有色人種の物語に共感します。あとは友達や人々との会話から気になった口癖などは興味深いので書き留めています。セラピーからもインスパイアされますし、どこにでも見い出せるものなので、世界を旅しなくて見つけられるものだと思っています。自分の目の前にあるんです。
――話に挙がったお母様とは複雑な関係だったそうですが、文化の違いや世代間のギャップから生まれた困難や葛藤もあったそうですね。
Rina:移民ならではのストーリーで、両親の文化的レファレンスや生活様式は生まれた国に基づいていて、自分はそれとは異なる国の文化で育ちながら独立した人間になりたいという葛藤。でも母は、これ以上ないほどベストを尽くしてくれたと思っています。多くの移民の家庭と同様に、現地の言葉は話せず、様々なグループの人々に差別されることもありましたが、とても熱心に仕事をして養ってくれました。私自身が自分を見つける必要があったんだと思います。私の友人にはミックスだったり、生まれた文化と全く異なる文化で育ち、頭の中で常に3つの異なる文化が共存しているような人もいますが、コンセンサスとしては、悪い部分も含めどの文化も受け入れて祝福することが可能だということです。幸運にも現在は、自分と同じような境遇で育った人々とのコミュニティが持つことができ、そういった話を共有できるのが嬉しいですね。
――では、あなたが学生時代に音楽活動を始めてから、欧米におけるアジア人アーティストのレプレゼンテーション(表象)をめぐる変化について教えてください。
Rina:当時はクロスオーヴァーするようなアジア人アーティストは全くいませんでした。私は中学生の頃に何年か日本人学校に通っていたので、日本人アーティストの名前をたくさん知っていますが、もしその経験がなければ全く知らなかったと思います。けれどここ数年間のうちにK-POP人気が高まり、白人のティーンの女の子たちも熱狂していることで状況が大きく変わりました。以前BTSのコンサートに招待されて、バックステージでRMと興味深い話などをしてハングアウトしましたが、会場に集まっていたファンの中に韓国人が全くいなかったことに驚愕しました。ほぼアジア人がいなかったにも関わらず、観客全員が韓国語で歌っていました。このように東アジア系のアーティストが成功する姿を見せることには大きな意味があると思います。BTSは様々な賞を受賞していますし、メディアでも大きく露出しています。音楽以外では、昨年『パラサイト』が【アカデミー賞】で<作品賞>を受賞したことも重大です。
▲BTS「Dynamite」
Rina:レプレゼンテーションという言葉は様々な意味を含みます。例えば、選ばれた役人もある種のレプレゼンテーションですが、アジア人、見た目がアジア人である人々が成功を収めることで、人々の固定概念をミクロ単位で変えていくことができます。より多くの成功したアジア人がメディアに登場し、彼らのストーリーが知られることで、クリエイティブなフィールドで活躍したいと思っている他のアジア人も受け入れられるようになっていくと思います。
――それが当たり前で日常になっていく。
Rina:そう、そんな風にニュー・ノーマルが作られていくんです。過去にこの件について色々な発言や問題提起をしてきたけれど、今はプラットフォームを与えられたこともあり、さらにビッグになって、自分のストーリーを語り、独自の視点を見せることで示せればと思っています。どのような側面でもいいんですー私がLGBTQであること、アジア人であること、ケンブリッジ大学を卒業して音楽の道を歩んだことなど、様々なストーリーがあるので。こういったレプレゼンテーションはとても重要ですし、その上でK-POPが果たしている役割はものすごく大切だと感じています。
――そんな中、あなたの視点から日本や日本の文化がもっとも誤解されていると思うのはありますか?
Rina:海外の人々が日本から感じる仲睦まじく共存しているというヴァイブは、とてもたやすいことのように見えていて、それが日本人の生き方のように彼らの目には映っているけれど、実際はそこまで到達するのにハードワークが必要だということ。かなりの自制が必要で、これは母親の姿や短い間だけど日本に暮らしていた時にも感じました。欧米の観光客が日本に来ると、日本人は争わないし、綺麗好きだし、礼儀正しい、これが日本人の生き方なんだと考え、まるでディズニーランドにいるように振る舞う。ラスヴェガスに行って、なんてクレイジーな変わった街なんだと思う感覚に似ているかもしれない。でも、街が綺麗であるために、人々が礼儀正しくいるために、全てが時間通りに機能するために、日々働いている人々がいます。それが苦もなく、いとも簡単に行われているというのは間違いで、そうなるように日本人の人々は一生懸命に働いていると思います。それがリスペクトされないと、個人的にイラっとしますね。同じような犠牲はあるものの、伝統へのリスペクトがあるからこそ可能なことだと思うので。
――あなたは、LGBTQコミュニティやインクルージョンの強力な支持者として知られていますが、日本の若者たちがこういった人々により理解を示し、行動を起こすためには何が必要だと思いますか?
Rina:これもレプレゼンテーションにまつわるトピックですね。最近『ミッドナイトスワン』という映画が日本で公開されたと聞きましたが、このようなストーリーを語ることはとても重要です。映画の主人公のような人々は実際に存在しますし、ジョークではありません。生身の人間なのです。このように重大なストーリーを語る映画には価値があります。
▲映画『ミッドナイトスワン』予告映像
Rina:アドバイスがあるとすれば、自分自身、自分の身近なコミュニティ以外にも目を向けることですね。これは日本に限らず、現在どの国でも大切なことです。自分と対立する考えを持つ人々や自分と対立していると思い込んでいる人々と理解しあえず、混乱が起きています。けれど、どのようにその政治的な決断を下したのかという経緯を面と向かって話し合えば、理解しあえる部分も出て来ると思います。必ずしも同意できるとは限らないですが、そういった機会を見つけることには意義があります。世界的に人口が増え続け、環境に大きな負担がかかっていることも考えると、人々がどのように連帯していけるか考えることが重要になってきます。
LGBTQの権利に関して話すと、Netflixの『クィア・アイ』など、このコミュニティがいかに素晴らしいか、いかに協力的かを視聴者に伝えている番組を若い人々が見たり、LGBTQの人々がサポートを示すことで広がって行き、明るい将来が待っていることを知ってもらえればいいなと思っています。特に日本は、UKなどに比べると多様性がないですよね。もし自分がそういった環境に置かれているのであれば、こういった多様なストーリーを通じて、人生を豊かにしてもらいたいと思います。
――最後になりますが、冬に向けてヨーロッパ各地では再びロックダウンが行われています。この期間をどのようにポジティブに過ごす予定でしょうか?
Rina:私にとってPS5が鍵になりそうです(笑)。友人に頼んでプレオーダーもしました。11月19日に届く予定なので楽しみです。前回のロックダウンの時は、Nintendo Switchと『あつ森』が自分のウェルネスのために欠かせなかったので、これも重要になりそうです。ロックダウンするたびに、特技を習得したりして、自分磨きをしなくてはというプレッシャーを自分に与えないのは難しいですよね。それと自分にとって初めての家に引っ越したばかりなので、母親からインテリア・デザインに関するヒントをもらいながら模様替えなどをしています。彼女の特定のスキルが必要になるとは思ってもみなかったのですが、活用できる場面ができたのはアメイジングで、とても楽しんでいます。
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Rina Sawayama「Bad Friend(End of the World Remix)」
- 2020/11/20 RELEASE
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取材・文:Mariko Okada
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