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<コラム>緑黄色社会『SINGALONG』に見たポップ・アーティストとしての矜持 2020年駆け抜けた夏
“歌”にフォーカスした『SINGALONG』
気づけば10月。そろそろ音楽シーンを賑わせた“今年の1枚”を振り返り始めてもいい時期かもしれない。新型コロナウイルスが猛威を振るい、とりわけエンタメ市場は大打撃を受けた1年だったとはいえ、音楽が鳴りやむことはなく、ヒット・チャートにもしっかり“今年の音楽”が入ってきている。緑黄色社会が4月に配信リリースした最新アルバム『SINGALONG』も、今年の音楽シーンを賑わせた1枚だった。
『SINGALONG』はその名の通り、このバンドの最大の武器である“歌”にフォーカスしたアルバムだ。ドラマ『G線上のあなたと私』主題歌「sabotage」では、しなやかで力強いハイトーン、アニメ『僕のヒーローアカデミア』エンディングテーマ「Shout Baby」では、感情のアップダウンを緻密にコントロールする表現力。インディーズ時代から高い歌唱力で注目を集めていたフロントマン、長屋晴子(Gt/Vo)のヴォーカリストとしてのさらなる成長を窺い知ることができる。
緑黄色社会 『Shout Baby』Music Video
また、小林壱誓(Gt/Cho)、peppe(Key/Cho)、穴見真吾(Ba/Cho)の3人もコーラス参加した「愛のかたち」、ライブではオーディエンスの大合唱も起こりそうなアンセム「あのころ見た光」など、長屋のヴォーカルに焦点を当てるだけではなく、もっと広い視点で“歌”と向き合った作品としても解釈できる。トオミヨウ、横山裕章といった、J-POPの第一線で活躍するアレンジャー陣の参加も大きい。
本来なら4月22日にフィジカルとデジタルの両媒体でリリースされる予定だった本作も、ご存じの通り、コロナの影響でCDリリースのみ9月30日に延期された。デジタルとフィジカルが5か月差でリリースされるという異例の施策となったわけだが、セールスは好調。Billboard JAPANのダウンロード・チャートでは、5月4日付で初登場3位を獲得し、3週連続のトップ10入りを果たした。また、現時点で25週連続のチャートインとなっており、第1波以降もロングテールで売上を積み上げている。一方、9月30日にリリースされたCDは、初週10,679枚を売り上げて7位をマークし、こちらも好調な滑り出しを見せた。
リョクシャカの駆け抜けた夏
こうした商業的な成功の背景には、バンドがイレギュラーな事態にも屈せず、むしろ状況に適応する形で活動を続けてきた、この半年間の歩みがある。
4月には、YouTubeの一発撮りチャンネル『THE FIRST TAKE』に2度にわたって登場。小林と穴見のWアコースティック・ギターによる「Shout Baby」、peppeのピアノ伴奏による「sabotage」を披露し、長屋の大迫力なヴォーカルを切り取った。“歌”がテーマの新作をリリースした緑黄色社会にとって、『THE FIRST TAKE』ほど相性の良いメディアはない。しかも人気チャンネルなだけあって、その影響力は絶大だ。
緑黄色社会 - sabotage / THE FIRST TAKE
6月には、「Mela!」を使用した『Mela!Mela!キレキレダンス』の動画をTikTokで公開。ダンス経験のある小林が振り付けを担当したもので、中日ドラゴンズのマスコットキャラクター、ドアラが“キレキレダンス”を披露している。
また、8月には、日本テレビ系『スッキリ』の新プロジェクト『ひとつになろう!ダンスONEプロジェクト~高校生ダンス部応援企画~』で「Mela !」がテーマ曲に選ばれ、バブリーダンスでお馴染みのakaneによる振り付けが披露された。「Mela!」を起用した一連のダンス施策は、とりわけ若年層を中心として、リョクシャカの名を広く認知させる結果となり、長期的な『SINGALONG』の売れ行きにも大きく貢献したと思われる。
さらにバンドは7月24日、配信ライブ【SINGALONG tour 2020 -夏を生きる-】を開催し、その際に初披露した新曲「夏を生きる」を同月31日に配信リリース。<君の続きが見たい 逞しくあれ>とポジティブなメッセージを送る、リョクシャカ初のサマーチューンだ。ヴァイオリンをフィーチャーし、壮大なサウンドスケープを描くアレンジは、『SINGALONG』以降の新機軸を感じさせる仕上がりで、バンドの確かな成長を浮き彫りにするものとなっている。
そして9月30日、『SINGALONG』はCDリリースを迎えた。ライブ映像を収録したBlu-ray付きの初回生産限定盤、CDのみの通常盤に加え、新たに追加された“初回生産限定夏を生きた盤”も展開。「夏を生きる」や「Mela! (夏を生きたRemix)」、前述の配信ライブの音源などを収めたDisc 2が付属している。
サブスク全盛の時代でCDを売っていくには、どうしても“音楽が聴ける”以外の付加価値が必要になってくる。『SINGALONG』の場合は“リョクシャカの駆け抜けた夏”がそれだ。多くのアーティストが水面下での活動を余儀なくされた2020年上半期。しかしリョクシャカは、大衆に呼びかけることを止めなかった。そんなポップ・アーティストとしての矜持が、この『SINGALONG』という名盤を通し、日本中をシンガロングさせる結果に結びついたのだ。
緑黄色社会 『夏を生きる』– SINGALONG tour 2020 -夏を生きる- 2020.7.24
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