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石丸幹二、デビューから30年 これまでの軌跡を振り返る<インタビュー>

インタビュー

 劇団四季で数々のミュージカル作品に主演、フリー転身後もミュージカル分野のみならず幅広いジャンルで活躍を続ける石丸幹二。このたび、そのデビュー30周年を記念し、ベスト盤とデュエット盤の2タイトルが同時発売される。これまでリリースしてきたアルバム&シングルから本人が選曲したもので、ボーナス・トラックとして新曲も1曲ずつ収録。それぞれの曲に寄せたコメントと共に、石丸幹二の軌跡を振り返ることのできるアルバムとなっている。10月11日にはアルバム発売記念のオンライン・ライブ&トークも生配信される予定だ。

自分の歩んできた軌跡が見えるようなセレクションができた

ーー石丸さんのこれまでを振り返ることのできる収録内容となっています。

石丸幹二:収まりきらなかったなあというのが一つの感想なんですが(笑)、こうして2枚のアルバムという形でこれまで歩んできた軌跡のセレクションができたかなと思っています。深く険しい道のりでしたが(笑)、劇団四季の17年間は私の礎になっていますし、そこから離れてフリーになってからの13年は、その礎から枝葉のように広がっていった時間だと思っています。幹から葉までが収められているアルバムですね。

ーー「険しい」という言葉が出ました。

石丸:人生、楽しく過ごせるものではないです(苦笑)。劇団では、現場でしのぎを削って、ほとんどレースのようにして走ってきた17年間でしたから。僕がよく使ってきた表現で言うと、ほぼ「ロッククライミング」でしたね。下からは後輩がガシガシ上がってきているし、目指すは上しかない。断崖絶壁を登るような思いで過ごしていましたね。それはもちろん舞台裏の話であって、表の舞台では、その日のベストのキャスティングで、ベストなパフォーマンスをお客様に見せるというモットーでやっていた劇団でした。そんな環境に身を置けたことは幸せだった、あの時間があったからこそ今があるんだと思います。私の安心の起点ですね。



▲ 「マイ・ウェイ」


ーー「ロッククライミング」のモチベーションは何だったのでしょうか。

石丸:道があるから歩く、海があるから渡るみたいなもので(笑)、岩壁が上にそびえるから登っているようなものでした。自分の体力と相談して、もうこの崖は登り切れないなと判断したところがストップする場所だったんです。その時点でギアチェンジをしないと、パフォーマーとして苦しいですから。例えば、分野が全然違いますけれども、アスリートたちが現役を退くとき、おそらく同じようなことを悩んで、同じように決断されるんじゃないのかな、似てるかな……と思いました。

ーー組織の中で活動するのと、お一人で活動するのとでは異なる部分もあるのでは?

石丸:退団して再出発したとき、最初のうちは「第二章です」という言い方をしていたんです。でも本当はフリーって頼るところがなくて「海の上を漂ういかだ」状態だった(笑)。もちろん、まったくゼロではないですよ。手を差し伸べてくれるところもあるんですが、自分からそれをつかんで引き寄せない限り進んでいけない。だからこそ、自分試しにもなりましたし、また、人とのコミュニケーションも広がっていきました。海の中には魚がいるし、上には鳥が飛んでいる、自発的に手を伸ばせばつながっていける、と。だから、出会いを大事にしようと思いましたね。レーベルのソニーとの出会いもそのひとつで、気づけば十年経っていました。決して、ただ自然に流れていればたどり着くものでもないなと思っています。

ーーそうやって手を伸ばす上での判断基準は?

石丸:最初は、やみくもでした。結果、良い道に行ったかなとは思っているんですけれども、世の中、本当にいろいろな人たちがいるんだなあ(笑)と思うこともありましたね。その中で、どういう人と結びつけば、どんな先が見えてくるのかという経験則による判断基準ができてきました。一つ一つ積み重ねですね。  今、思い返すと、一歩踏み間違えたら落ちるしかないようなところを、綱渡りみたいにして歩いていたんだなと。でも、周りを見ると、みんながそうやって綱渡りをしている。自分だけじゃないと鼓舞しながら、前に向かって進んでいましたね。そうして、映像の世界で音楽番組の司会までするようになり。舞台では、毎回違う座組で、まったくお手合わせしたことのない人たちと作品を完成させ、そこで出会えた楽曲をこうやってアルバムに残せました。

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ーー劇場空間で、観客の前でパフォーマンスを披露するのと、スタジオでレコーディングするのとで、どんな違いを感じられますか。

石丸:歌手としてスタジオでレコーディングする場合も、聴衆を意識して歌う姿勢だから、観客の前で歌うのと何ら変わりはないんですね。ただ、レコーディングして残すという行為は、絵を画くことと同じで、その時点での完成形を目指すわけです。片や、舞台公演やステージで歌うことは、ライブだから“放つ”ものなんです。つまり、消えていくんですね。その違いはすごく感じますね。

 だから、レコーディングでは徹底的に納得できるものを残さなきゃいけない。歌い手として粘りますし、演奏家やプロデューサーとチームとして力を存分に出し合って進むようになりましたね。例えば、一日何時間もスタジオにこもって歌っていると、プロデューサーが私の声の微妙な変化から喉の具合を判断してくれて、もうやめようと言ってくれる。ベストなものを残すための采配だったりするわけです。  幸いなことに、これまでにソロアルバムを5タイトル残すことができました。その集約である今回の2枚のアルバムでは、自分の足取りが見えるような曲順にしています。ベスト盤に関しては、最初の4曲は劇団時代に演じてきたもの、歌ってきたものを、まず残す。その後はフリーになってからのものが並んでいます。加えて、最新録音で、昨年演じた『ラブ・ネバー・ダイ』から「美の真実」を入れています。デュエット盤はほぼすべてミュージカル作品からの曲です。自分がやってきてよかったなと思う曲、歌いたいなと思うデュエット曲をこれほど集めることができるのは、やはり30年にわたってミュージカルの舞台に立たせていただいたおかげだなと思っています。



▲ 「時が来た」


ーー翻訳ミュージカルの楽曲の場合、原詞の日本語訳を曲に落とし込むという作業が重要になってくると思うのですが。

石丸:これは翻訳作品をやっている限りついて回る課題ですから、そこは、訳詞家、翻訳家、演出家と相談して、粘ります。翻訳家は言葉を重視しているし、現場の僕らは、メロディーのアップダウンと言葉の意味との関係などを重視するので、皆で、ひとつひとつ解決していきますね。外国語をダイレクトに直訳しても、習慣や思想が違うので、聴き手の心に響かないこともあるじゃないですか。僕が常々思うのは、日本の観客が、もともと書かれている文脈をしっかり理解でき、かつ、我々パフォーマーたちが音楽的、生理的に納得できる歌詞やセリフになっていること。その落としどころをうまく見つけて、ベストを目指します。

ーー『ラブ・ネバー・ダイ』は、石丸さんのデビュー作である『オペラ座の怪人』の続編にあたるミュージカルです。

石丸:今回のアルバムでは、デビュー作の『オペラ座の怪人』と最新作の『ラブ・ネバー・ダイ』の双方から楽曲を入れることに意義がありました。それが自分の証ですから。

ーー石丸さんご自身の中には、これまで演じてきた作品はどのように残っているものなのでしょうか。

石丸:実はね、過ぎていったものはあまり顧みない人間なんです(笑)。だから何がどう残っているのかは分からない。ただ、今回、ライナーノーツを書かなくちゃいけなくなり、色々と記憶を引っ張り出してみました。私の歩みを共有していただければという思いで書いていると、けっこう楽しめました。アルバムを手に取ってくださった方だけが読むことが出来る特典ですね。

ーーそして今回、アルバム発売を記念して、初めて配信イベントを行なわれます。

石丸:本当だったら、大きな会場で、オーケストラとのコンサートを予定していましたが、すべて延期になってしまって。そのひとつのオーチャードホールを使って、今可能な方法でお客様とのコミュニケーションの機会を作ろうと思いました。日本のどこでも、いや、海外からでもあたかもホールにいるかのような気分でご堪能いただけます。広いホールに響き渡る歌唱で、ゲストの方をお招きして、トークを交えて。一度限りなのでお見逃しなく。

ーー石丸さんにとって、改めて、歌とは?

石丸:歌は自分発信のツールの一つですね。好きな音楽を通して、誰かの心と結びつく手段だと思っています。



▲ 2020年10月7日発売『The Best』『Duets』


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