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<コラム>JUJUのベストアルバム『YOUR STORY』~4枚のディスクから繰り出されるそれぞれの物語とは



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 JUJUのベストアルバム『YOUR STORY』が4月8日にリリースされた。詳細は本編に譲るが、本作はTheater RED / Theater PURPLE / Theater PINK / Theater BLUE と各DISCにテーマを設けた4枚組となっており、一人一人の女性の物語を紡ぐベストアルバム。それぞれの時を歩んできた大人たちのこれまで、そしてこれからの強く生きてゆく日々に寄り添えるような作品になれたら…という願いがタイトルに込められている。ただ一方で、『YOUR STORY』を通して聴くと、2004年のデビュー以降、JUJUが様々なジャンルで活躍してきたことを実感するだろう。本作は『YOUR STORY』であるが、JUJUのSTORYでもあること。そのことをライターの森朋之に紐解いてもらった。

「リスナーが求めるものを歌う=自我を捨てる」ではない

CD
▲『YOUR STORY』

 JUJUのベストアルバム『YOUR STORY』が2020/4/20付のBillboard JAPAN 総合アルバム・チャートで1位を獲得した。

 2019年にデビュー15周年を迎えたJUJU。「シネマ・コンプレックス“Theater JUJU”」をコンセプトに、「Theater RED」「Theater PURPLE」「Theater PINK」「Theater BLUE」のCD4枚組(各盤に未発表曲・新録曲を1曲ずつ収録)で構成された本作には、さまざまな愛の形を豊かな物語とともに描き出す歌詞、R&B、ソウル、ジャズ、ハウス、EDM、歌謡曲などのテイストを取り入れた音楽性、そして、“歌を歌う=ストーリーテリングでありたい”という彼女のスタイルが濃密に描かれている。16年間の軌跡が刻まれたスーパーベスト『YOUR STORY』を軸にしながら、これまでのキャリアを紐解いてみたい。

 名実ともに音楽シーンを代表する女性シンガーの一人となったJUJUだが、そのキャリアは決して順風満帆ではなかった。物心がついた頃から周囲の大人たちの影響で様々な音楽に触れ、特にジャズに惹かれていたという彼女は、18歳のときに単身NYに渡り、ジャズシンガーを目指してーー”JUJU”というアーティスト名が、ウェイン・ショーターの名盤『JUJU』に由来しているのは有名な話だーー活動をスタートさせた。同じくNY在住のDJ、クリエイターとともに少しずつ活動の幅を広げ、ジャズ、R&B、ヒップホップなど多彩な音楽を吸収してきた彼女は、2004年にシングル『光の中へ』でメジャーデビュー。当初はまったく注目されなかったが、約2年間の制作期間を経てリリースされた『奇跡を望むなら...』(2006年)のロングヒットにより、ブレイクのきっかけを掴んだ。


▲JUJU「奇跡を望むなら...」

 この頃からJUJUは、シンガーとしてのスタイルを少しずつ明確にしはじめる。“リスナーが求めているものを歌いたい”そして“楽曲を一つの物語として捉え、ストーリーテラーとして歌う”。この二つのポイントをはっきりと意識したことで彼女の歌は幅広い層に受け入れられ、「素直になれたら」(JUJU feat.Spontania)、「明日がくるなら(with JAY'ED)」などのヒット曲を次々と生み出すことになる。


▲JUJU feat.Spontania「素直になれたら feat. Spontania」


▲JUJU「明日がくるなら(with JAY'ED)」

 ここで記しておきたいのは、“リスナーが求めるものを歌う””ストーリーテラーとして歌う”というスタンスは(“シンガーとしての自我を捨てる”ということではなく)、彼女の個性を存分に発揮できる選択だったということだ。前述した通りJUJUは、幼いときから幅広い音楽に触れて育ってきた。その中心にあるのがジャズであることは間違いないが、ソウル、R&Bから歌謡曲まで、様々な音楽を好み、歌ってきたことがシンガーとしての下地になっているのだ。以前の取材で彼女は「ストレス発散はカラオケ」と言っていたが、“歌うことが好き”というピュアなモチベーションはおそらく、いまもまったく変わっていないのだと思う。

 ブレイク以降もJUJUは、ストーリーテラーという立ち位置をしっかりと保ちながら、貪欲に音楽性を広げてきた。“JUJUといえば、切ないバラード”というイメージを持っている方も多いだろうが、彼女の楽曲にはR&B、ソウル、ハウス、EDMなどきわめて幅広いテイストが取り入れられている。松尾潔、亀田誠治、川口大輔、Jeff Miyahara、UTAといったプロデューサー/クリエイターとともに練り上げられたそのスタイルは、“海外のポップミュージックを日本語の歌に結びつける”というこの国のポピュラーミュージックの伝統に根ざしているとも言えるだろう。


▲JUJU「この夜を止めてよ」

 さらに特筆すべきは、彼女自身のルーツとつながる活動も積極的に行っていることだ。その一つが、ジャズのカバーアルバム『DELICIOUS』シリーズ。第一弾の『DELICIOUS』(2011年)では「Night and Day」、「Lush Life」といった名曲を取り上げ、ジャズシンガーとしての資質を証明した。松尾潔がプロデュースを手がけ、島健、渡辺香津美、菊地成孔などが参加した本作のヒットは、そのキャリアにとって大きな意義を持っていると思う。



 もう一つはJ-POPのカバーアルバム『Request』シリーズ。ファンのリクエストをもとに選曲した同シリーズは、まさに“リスナーが求めるものを聴きたい”というスタイルの具現化だと言っていい。同時に本作は、シンガーとしての根本的な実力、表現力の豊かさの証明にもつながった。2015年夏に東京・国立代々木競技場 第一体育館で行われたライブ【ジュジュ苑 10th Anniversary Special】で筆者は、年配の男性客が「やっぱり歌が上手い歌手はいいねえ」とシミジミ話しているのを耳にしたが、どんなタイプの楽曲も歌いこなし、聴衆に「いいねえ」と言わせられるシンガーは本当に稀だと思う。



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JUJU「YOUR STORY」

YOUR STORY

2020/04/08 RELEASE
AICL-3865/8 ¥ 3,960(税込)

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