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ジェーン・バーキン来日記念特集 ~中島ノブユキが語るジェーン・バーキンとの日々
60年代にセルジュ・ゲンズブールと出逢い、シンガーとしての才能を開花し、時代を超えて世界中で愛され続けるミューズ、ジェーン・バーキン。東日本大震災が起きた2011年には急遽来日して、支援活動も行った彼女。深い愛に満ちたライフ・スタイルは、日本でも多くのファンを生んできました。その彼女が、いよいよ2020年のビルボードライブに降り立ちます。時代に揺るがないジェーンの歌声、そしてセルジュ・ゲンズブールの音楽を親密なビルボードライブの空間で堪能する貴重なステージを前に、共に世界ツアーを周り、今回もアレンジメントを担当する中島ノブユキさんが、出逢いから近況までたっぷりと語ってくれました。
中島ノブユキが語るジェーン・バーキンとの日々
ジェーンと僕が初めて会ったのは、2011年の4 月。東日本大震災の後、ジェーンが急遽来日した時になります。あの時、震災の報道をフランスのテレビで見ていたジェーンはいてもたってもいられなくなり、家族の反対を押し切って、マネージャーも連れずに単身来日。自ら街頭に立ち、募金活動もしました。そして「いまの私に出来ることは、私の歌と声を届けること」と、東京で震災復興支援コンサート「Together for Japan」を開催することになったんです。そのコンサートで演奏するミュージシャンとして僕に声がかかり、ピアノと編曲を務めることになったのがそもそもの始まりです。
▲【ELLE TV JAPAN】ジェーン・バーキン『Together for Japan』
震災後の出逢いから世界ツアーへ
その時のメンバーは金子飛鳥さんがヴァイオリン、Little Creatures の栗原務さんがドラム、Double Famous の坂口修一郎さんがトランペット/トロンボーンという編成でした。70年代からジェーンとセルジュ・ゲンズブールのアーティスティック・ディレクターを務めるフィリップ・ルリショムさんからセットリストが届いたのはリハーサル当日の朝!リハーサルも1日だけという強行スケジュールでしたが、この4人で演奏したサウンドをジェーンがすごく気に入ってくれたんですね。震災の影響で来日を控えるアーティストが相次ぐ中、彼女の行動力と歌に胸を打たれた人はたくさんいたと思いますが、ジェーン自身も心を動かされたようで、コンサートの終わった夜にフランスのマネージャーに「彼らとツアーに出ることに決めたわ」と電話したそうです。
当時はまさかその後2年以上の長きにわたるワールド・ツアーに一緒に出ることになるとは思ってもみませんでした。そして今、僕がフランスに住んでいるのも彼女があの時、日本に来てそこで出会ったからです。
ジェーンは人の人生を動かす人なんですよね。
【Jane Birkin Sings Serge Gainsbourg Via Japan】の本格的なツアーが始まったのは2011年の秋。ジェーンの日本への想いが「Via Japan」というツアー名に表れています。東京で出会った日本人ミュージシャンと北米・オーストラリア・韓国・日本ツアーをまわり、ヨーロッパはフランスで新たに編成されたメンバーでしたが、僕は音楽監督/ピアニストとして、27ヵ国80本に及ぶツアーに同行しました。
▲Jane Birkin Sings Serge Gainsbourg
長いツアーをまわる中で僕が感じたのは、ジェーンには繊細で脆いというパブリックイメージがありますが、彼女の歌が思いのほか力強いし、リハーサル中でも音程のとりづらい曲に関しても常に気を配るプロフェッショナルなシンガーだということ。そこにはシンガーとしての強い意志があるように思いました。亡きゲンズブールの歌を歌い継いでゆくことはもちろん、そこに新しい息吹を吹き込みたいといつも考えているんですね。
セルジュの音楽とジェーンの歌の魅力
そのツアー用の編曲に先立ちジェーンの事務所からセルジュがジェーンのために書き下ろした78曲のリストが届けられました。「ノブ(……とフランスでは呼ばれています)だったらどの曲を選ぶ? 提案してよ」というわけです。すぐにCD をかき集め全曲聴き直し、選曲してフランスに送りました。僕からの提案はジェーンにもフィリップ・ルリショムにも新鮮な驚きがあったようです。それまでのコンサートの定番曲だけでなく、80年代のエレクトロニックな編曲が施されているけれども楽曲の骨組みだけ抜き取るととても美しく新鮮なハーモニーに満ちた楽曲など、セルジュの音楽の魅力を再発見できて、さらにジェーンの歌がしっかり活きる楽曲を僕なりに選んだつもりです。コンサート中、セルジュのことを語る時、感情が溢れだし、時には涙を浮かべるジェーンを何度も見てきましたが、その彼への気持ち、そして人生観をお客さんと共有したいという想いが彼女にはあるんですね。
2013年に震災の被災地を訪れ、現地で小さなライブをしたのも忘れられない時間と光景でした。ジェーンはそうして色んな想いと経験と時間を重ねながら、歌い続けてきた人なんだと思います。
深化したオーケストラ・コンサート
【Birkin-Gainsbourg The Symphonic】が実現したのは2016年、モントリオールのフェスティバルが初演でした。セルジュの曲をオーケストラで歌うというオファーがあり、長女を亡くされて、一時は歌えなくなってしまったジェーンでしたが、それを乗り越えるためにも新しい挑戦をするところが彼女らしいし、彼女の選択に攻めの意識を感じましたね。「Via Japan」ツアーが終了したとき僕はジェーンとの仕事は終わったと思っていたので、オーケストラの編曲を託されたのは驚きましたが、光栄でもありました。僕が映画音楽やNHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽を手がけていたことをジェーンは思い出してくれたのかもしれません。編曲を進めるに当たり、僕が思い描いていたのは、シンガーとしてのジェーンと同時に彼女の女優性をオーケストラとのステージで表現できないだろうかということです。70~80年代にかけてのオリジナル録音における編曲のポップな装いを剥ぎ取ったとしても、ジェーンが歌うことでしっかりとセルジュの楽曲の良さは伝わる。しかしそれだけでは無くオーケストラとの共演でジェーンの女優性がステージで現れればさらにスペシャルな出来事になると思えたので、例えば元の楽曲のテンポ感を離れゆったりとした歩みを感じさせるようにしたり、とある楽曲では冒頭に少し長めのイントロダクションを作りじっと目を閉じるような場面を作ったり……。そのような作業はフィリップとのやり取りでさらに深化して行きました。
▲BIRKIN / GAINSBOURG - Le Symphonique : La Javanaise (Audio officiel)
親密なアレンジで貴重なステージを
アルバム『シンフォニック・バーキン&ゲンズブール』は、収録曲も曲順も録音と前後して行われたツアーとほぼ同じ内容になりました。このツアーは世界各地のオーケストラ、指揮者との共演になるので、公演を重ねるにつれ、ジェーンの歌がオケをリードする場面もあって、スタジオ録音とコンサートはまったく別の印象を受けると思いますが、それも面白いところなんです。最初は「オーケストラの音に負けてしまうんじゃないか」とジェーンも心配していたみたいですが、彼女の声は思っていたよりずっと強いんですよ。それを彼女自身が自覚したのも大きいですね。
2017年の夏には東京フィルハーモニー交響楽団との共演を果たし、カーネギーホール公演をはじめ世界各地で好評を博した「The Symphonic」ツアーは現在も続いていて、3月には再びニューヨークでの特別公演を控えています。イギー・ポップとシャルロット・ゲンズブールをゲストに迎えるステージは僕もすごく楽しみにしているんです。
▲Jane Birkin & Iggy Pop: Elisa
4月にビルボードライブで開催される【Birkin/Gainsbourg "Symphonie intime" ジャパン・ツアー】は、オーケストラより“Intime”=親密なアレンジでバーキン&ゲンズブールを味わってもらえるコンサートになると思います。ヴァオリン、チェロ、等の弦楽器アンサンブルにピアノに加えオーボエやホルンが入り、室内楽のような編成でジェーンの歌をお届けしたいなと。すでにヨーロッパでは何度か公演していますが、金子飛鳥さんを含む日本人のメンバー編成でジェーンがステージに立つのはこのツアーだけ。なおかつビルボードライブのような、まさに“Intime”な空間でジェーンの歌が聴けるのは貴重ですね。
ジェーンを愛する日本のファンのために、今、とっておきのセットリストを考えています。日本に特別な想いがあるジェーンの気持ちが伝わるアンサンブルをぜひ聴きにいらしてください。
ジェーン・バーキンからビデオメッセージが到着
▲Jane Birkin Video Message for Billboard Live 2020
公演情報
Jane Birkin
ジェーン・バーキン
Birkin/Gainsbourg "Symphonie intime"
ビルボードライブ東京※公演中止
2020年4月20日(月)- 21日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ横浜※公演中止
2020年4月24日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
2020年4月25日(土)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪※公演中止
2020年4月27日(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
<Member>
ジェーン・バーキン / Jane Birkin (Vocals)
中島 ノブユキ / Nobuyuki Nakajima (Piano / Arr.)
金子 飛鳥 / Asuka Kaneko (Violin)
志賀 恵子 / Keiko Shiga (Viola)
徳澤 青弦 / Seigen Tokuzawa (Cello)
西嶋 徹 / Toru Nishijima (Doublebass)
庄司 さとし / Satoshi Shoji (Oboe)※4/21除く
岡 北斗 / Hokuto Oka (Oboe)※4/21のみ
藤田 乙比古 / Otohiko Fujita (Horn)
高良 久美子 / Kumiko Takara (Percussion)
Text:佐野郷子
シンフォニック・バーキン&ゲンズブール
2017/04/26 RELEASE
WPCR-17692 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.ロスト・ソング
- 02.公園を通りすぎる憂鬱
- 03.バビロンの妖精
- 04.終わりのない愛
- 05.ほんのささいなこと
- 06.無造作紳士
- 07.メロディーのワルツ
- 08.しあわせは逃げていく
- 09.馬鹿者のためのレクイエム
- 10.別離の唄
- 11.いつわりの愛
- 12.Zによる問題集
- 13.マノン
- 14.プレヴェールに捧ぐ
- 15.シックな下着
- 16.ラムール・ドゥ・モワ
- 17.マリン・ブルーの瞳
- 18.ぬかるみ
- 19.ジェーンB.
- 20.ラナムール
- 21.ラ・ジャヴァネーズ
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