Special
熊木杏里 【chocolate mix】
2004.9.15(水)at 高田馬場CLUB PHASE|セットリスト
熊木杏里の歌声に恋をしてから早2年7ヶ月。彼女のデビュー曲「窓絵」を聴いた瞬間、当時“100年にひとり”の逸材としてデビューし、音楽シーンの話題の中心になっていた元ちとせの歌声のインパクトすらも自分の中から消え去るほどに感動したのを憶えている。それから3枚のシングルと1枚のアルバム、9回のライヴを今日までに堪能させてもらったわけだが、その都度、彼女の歌声に僕は感動と純粋なる喜怒哀楽を感じてきた。それに加え、大きな成長を感じ取れたのが今夜のライヴである。決して熱く激しく歌うことはない熊木杏里ではあるが、どんな熱唱よりも溢れる気持ちを聴き手にしっかりと届けられる、そんな歌い手、表現者の領域に彼女は踏み込んでいた。
吉俣良の奏でる優しい音色と共にステージの幕が開くと、そこにはデビュー当時の頃くらいに短く髪を切った熊木杏里がその手を小さく動かしながら、その瞳を潤ませながら、会場中に集まった人々の目と耳をそっと引き寄せる柔らかい歌声で今夜も僕らの心を優しく包み込んでいく。ピアノの優しい旋律は止まることなく、そのまま続けて新曲が披露される。健気さ、純粋無垢さを感じさせる可愛らしいフレーズを大切に大切にその歌声で綴っていく。立て続けにふたつの新曲を披露し終えると、優しい拍手が会場に響き渡った。
「どうも、熊木杏里です。一番最初の曲が「あなたに逢いたい」、2曲目が「雨」という曲で、今日もピアノを弾いてくれているのは、吉俣良さんです」と、今夜オープニングに披露した曲と吉俣さんの紹介をする彼女。遠藤賢司のライブを見て師匠と呼ばせて下さいと心の中で呟いた話などしながら、彼女の原点となった一曲「窓絵」を久しぶりに歌い始める。今にも壊れてしまいそうな想いを、崩れないようにそっとそっと彼女がこの「窓絵」をピアノだけの演奏と共に歌うと、僕らの心はとても優しい気持ちに。もっと言ってしまえば、荒んだ、疲れた、傷だらけの心が浄化されていくような感覚を覚えた。久しぶりに聴いた生「窓絵」、とても素晴らしかった。曲はそのまま「窓絵」と同じくデビューシングルに収録されていた「りっしんべん」のピアノバージョンへ。時折唇をギュッと噛みしめながら、“気持ち”というものを歌に注入して歌う姿が印象的で、ここでも大きな優しい拍手が彼女に贈られた。
CANONのCMで自分の歌声が流れることが決定した事をファンに報告すると、その曲(なんと英語詞!)をこの場で歌ってくれた彼女。CMサイズなのでとても短い曲ではあったが、とても新鮮で、今まで彼女に対しておそらく当てはめた事のない“格好良さ”を感じさせる一曲であった。そんな嬉しいプレゼントの後、ラストに「夏蝉」という新曲を、その目を閉じて優しくもハッキリと感情の伝わる歌声で聴かせる。戻りたくて戻れないあの道が・・・そんな切ないフレーズを包み込むように歌いながら目を潤ませる姿はあまりに劇的で、僕らの目も思わず潤んだ。この「夏蝉」を含む今夜披露された新曲たちが、作品という形で発表されることを待ち望むことになったのは、おそらく僕だけではないだろう。多くの経験と喜怒哀楽を経て、確実に熊木杏里は新たな扉を開くに違いない。
セットリスト
【chocolate mix】
2004.9.15(水)at 高田馬場CLUB PHASE
- 01.あなたに会いたい
- 02.雨
- 03.窓絵
- 04.りっしんべん
- 05.夏蝉
Writer:平賀哲雄
関連商品