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レゲトン界に新風を吹きこむ“最強キング”オズナに大注目



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 近年のミュージックシーンのメインになりつつある「ラテン、レゲトン音楽」。その中で、一際大きな存在感を放っているシンガーソングライターがいるーーー現在27歳のオズナだ。キャリアは決して長くないものの、すでにレゲトン界の新たな王と称されるオズナは、2019年の米タイム誌の最も影響力のある100人に選出されている。そんな彼が、2019年11月に最新アルバム『Nibiru』をリリース。まだ彼を知らない方のために、世界の音楽シーンにおけるレゲトン音楽の影響力とオズナの最新作を、彼の偉業を交えながらご紹介しよう。

4つのギネス記録者―オズナ

 1980年代にプエルト・リコにて、ヒップホップとラテン音楽とのミクスチャーによって発生したと言われている「レゲトン」。21世紀に入り、N.O.R.E.(ノリエガ)やダディー・ヤンキーなどの登場によって、一躍ローカルな音楽から世界的に認知されるようになった。そして時を経て、2017年に入るとルイス・フォンシが発表し、ジャスティン・ビーバーがリミックス・ヴァージョンで参加した「デスパシート」が、全米ビルボード・ソング・チャートでスペイン語曲で21年ぶり、そして16週連続の1位を獲得。さらにJ. バルヴィンが発表した「ミ・ヘンテ」のリミックスにビヨンセをフィーチャリングしたことで大ヒット。これをきっかけに、レゲトンを筆頭とするヒスパニック系の音楽がヒットチャートの上位を席巻する。2019年の年間チャートを見ても、バッド・バニーの「MIA Feat. Drake」を筆頭に数多くのレゲトン・ラテン系ソングがランクインし、さらにショーン・メンデスとカミラ・カベロによる「セニョリータ」など、ラテン・テイスト溢れる楽曲も大きな話題をさらっている。ここ日本においてもボーイズ・グループ、CNCOなどが人気を博し、現在ではスタンダードな音楽のひとつとして認知されつつある状況にあるのだ。現在、北米においては5,500万人を超えると言われ、さらに2060年には人口の3割を占める勢力になるとも予測されているヒスパニック系の人々。彼らの発信する音楽カルチャーの存在感は、今後ますます高まっていくことになるだろう。

 そんなレゲトンを含むラテン系音楽のヒットの発信源になっているのが、動画サイトである。ニッキー・ジャムの「Hasta el Amanecer」(2016年発表)やマルーマの「Corazón Feat. Nego do Borel」(2017年発表)はYouTube総再生回数で14億を突破するなど、他ジャンルではあまり見かけない10億前後の視聴数を誇る楽曲・映像が多数ある。ヒスパニック系のコミュニティで再生、コメント投稿されることをきっかけに、大ヒットへ導かれるという方程式が、特にこのジャンルにおいては顕著に現れているような気がする。



 動画サイトをきっかけに、日毎に熱狂が増すレゲトン・ラテン音楽の現状の中で、ひとつ頭が抜き出た楽曲がある。DJ スネイクが2018年に発表した「Taki Taki(タキ・タキ・ルンバ)」だ。セレーナ・ゴメスとカーディ・Bを交え、ダンス・フロアで繰り広げられる男女の情熱的な「駆け引き」を描いたこの楽曲は、全米ラテン・チャートで1位を獲得したのを筆頭に、世界各地で上位にランクイン。そして、YouTubeでは17億に迫る総再生回数を記録するなど、大きな熱狂を巻き起こした。ここで、セレーナらと共にフィーチャーされ、楽曲にレゲトンの要素を持ち込んだのが、オズナというシンガーソングライターだ。


 DJスネイクが「レゲトンの要素を取り入れたい」というアイデアを元に、白羽の矢をたてた存在である、オズナ。彼は1992年にプエルト・リコにて生まれ、12歳の頃から音楽の道を志したという。2010年にはNYへ拠点を移し、2012年にデビューしたオズナは、2014年に動画サイトへ投稿した楽曲「Si Tu Marido No Te Quiere」(リリック・ビデオの再生数は3億に迫る)で一躍注目を浴び、2017年に発表されたシングル「El Farsante」が全米ビルボードのホット・ラテン・ソングスで2位にランクイン(その後発表されたロメオ・サントスとのコラボ・バージョンのミュージック・ビデオの再生回数は13億超え)。この楽曲も収録されたデビュー・アルバム『Odisea』は、トップ・ラテン・アルバム・チャートで46週連続1位を獲得。翌年リリースした2ndアルバム『Aura』も1位を奪取(『Odisea』の連続1位記録を止めた作品でもある)、またこのアルバムに収録された「Unica」のミュージック・ビデオは発表から2か月足らずで再生回数が軽々と1億超えを達成するなど、発表した作品はどれも他を圧倒させる大ヒットを記録した。


 結果、「YouTube上で最も多くビデオ再生回数が10億回に達したアーティスト(計7作品でジャスティン・ビーバーの記録を破った)」、「ビルボード・男性トップ・ラテン・アルバム・チャートで最多週間1位アーティスト(アルバム『Odisea』で46週)」、「【ビルボード・ラテン・ミュージック・アワード】にて単年で最多部門受賞したソロ・アーティスト(11部門)」、「【ビルボード・ラテン・ミュージック・アワード】にて単年で最多部門ノミネートしたソロ・アーティスト(23部門)」という4つのギネス記録を持ち、これまでリリースしたアルバムの総売上は1,500万枚以上を誇る。さらに最近3年間で最も高セールスを記録したラテン系アーティストとも言われ、キャリア10年足らずで一躍「レゲトン界のニュー・キング」と呼ばれるまでの人気を誇る存在になったのだ。ちなみにオズナは、大の日本好きとしても知られ、「Síguelo Bailando」のミュージック・ビデオは渋谷や浅草など都内各所で撮影したほどである(こちらも再生数は10億目前)。


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オズナが新たな魅力を響かせる最新作『Nibiru』

 レゲトン、いやラテン音楽の現在や未来を担う立場まで昇りつめたオズナ。2019年11月には通算3作目となるオリジナル・アルバム『Nibiru(ニビル)』をリリースした。同年1月にリリースされた、ダディー・ヤンキー、J. バルヴィン、アヌエルAAといったレゲトン界の中心人物が参加したリミックスも話題になり、全米のみでプラチナ(ミリオン)・セールスを記録した「Baila, Baila, Baila(バイラ・バイラ・バイラ)」を発表した際に、彼のSNSにて「#Nibiru」をつけて投稿するプロジェクトがスタートした。その後はピアノ・バラード「Amor Genuino(アモール・へヌイノ)」、ウインター・スポーツを楽しむミュージック・ビデオも話題になった「Te Soñé De Nuevo(テ・ソニェ・デ・ヌエヴォ)」など、先行トラックを1年通じてコンスタントに発表し続け、その集大成として本作が発表されたのだ。「太陽系に存在されたとされる仮説上の惑星」を意味する「ニビル」のタイトル通り、この作品は、彼のこれまでのラテン独特の情熱的でカラッとした雰囲気だけではない、新たな自身の、そしてレゲトンの表現世界に飛び込んだと思われる仕上がりになっている。


 デビュー以来、培ってきた世界から一歩踏み出して、新たな音楽を追求しようとするオズナの姿勢はオープニングを飾るタイトル・トラック「Nibiru(ニビル)」から聴き取れる。スティール・パンなどラテン(カリビアン)の軽やかなビートを刻みながらも、どこかメランコリックな表情を感じさせる楽曲の歌詞に目を向けると、音楽で成功したのはいいが、有名になったことで彼が背負ってしまったもの、失った何かについて綴っている印象だ。また「Temporal(テンポラル)」では、プエルト・リコ出身バンドCultura Proféticaのヴォーカリストとして知られるウィリーを迎え、バンド・サウンドを駆使して、これまでのエネルギー溢れるイメージとは異なる影のある世界を築いている。また本作では、他ジャンルのミュージシャンとのコラボレーションも積極的だ。「Eres Top(エレス・トップ)」では「Taki Taki」でも共演しているDJスネイクに加え、ディディもフィーチャー。「Patek(パテック)」ではアヌエルAA と、スヌープ・ドッグも参加と、ヒップホップやトラップの感覚も取り入れ、レゲトンという枠にはこだわらない彼の柔軟な音楽スタイルを提示している。



 歌詞に関しても、これまではパーティ(クラブ)を舞台にした「男女の駆け引き」をモチーフにしライトな感覚で時代を描いた内容が目立っていたが、よりシリアスに人生や社会を見つめている印象を受けるメッセージ性の高いものの割合が多くなっている印象だ。プライベートでは二児の父親でもあるオズナが「未来を担う子どもたちに何を残していくべきなのか?」を真剣に考える眼差しがうかがえる。ゆえにヴォーカルに関しても、楽曲にエモーションのすべてを注ぎ込むだけでなく、陰陽のコントラストを感じさせる表現に変化し、新たな魅力を響かせている。結果、アルバムからはジャンルなどにとらわれず、自分らしく、今だから表現できる音楽を追求したい、またシーンに定着化しつつある「レゲトン」に新たな風を吹かせたいという、オズナの真摯な思いが伝わる仕上がりになっている。

 現在は自身の新たな音楽世界を伝えるため、勢力的なプロモーション活動をするオズナは、先日、スペイン・マドリードにて世界各国の音楽メディア関係者や SNSインフルエンサーなどを招き、リリース・イベントを敢行した。スタジオを貸し切り、そこに足を踏み入れた者は全員が『ニビル』の空間へと誘われ、そこでコンテンポラリー・ダンスのパフォーマンスや、この日のためにプエルト・リコを代表する一流シェフが用意したランチ・コースなどを堪能しながら、にオズナは最新アルバムの世界を提示した。終盤には、米ビルボードにも寄稿しているジャーナリストを交えてのトーク・セッションを繰り広げ、アルバムへの思いを語っている。「デビューしてから、いろんな世界を見て、体感することができた。それをこのアルバムで表現してみたかった。また同時に前作をリリースしてから、ミュージシャンだけでなく人間としてもたくさんの経験を積んで、成長できたと思う。その証をこのアルバムに刻んでおきたかったんだ。」

 また「レゲトン」という音楽表現についても以下のようにコメントしている。「時代が移り変わっていく中で、レゲトン自体も変化していく必要があると思った。また、自分自身がそれ以外にもヒップホップやレゲエ、トラップ、ポップスなどいろんな音楽を聴くのが大好きだからね。その嗜好を表現してみたかったんだよ。今回は(これまでのヒットのおかげで)、楽曲制作に集中できる時間が増えたというか。初めて1日中音楽のことだけ考えていればいいという時間を作ることができたから、いろんなアイデアを試すことができて、多様なタイプの楽曲を表現することができたんだ。」

 ゆえに、アルバムにはこれまでになかったメランコリックな表情を閉じ込めることができたという。「特にオープニングを飾るタイトル曲の『Nibiru』はとてもディープだから、これまでの自分を知っているリスナーにはちょっと異なる印象を与えるかもしれない。他の楽曲に関してもそう。でもさ、人間って必ずしも明るい面だけ持ち合わせている訳じゃない。この作品では、自分自身を正直に反映させようと思ったんだ。ただ、最後までちゃんと聴いてもらえたら、これまでの作品とは何ら変わりはないポジティブなエネルギーやたくさんの愛を感じてもらえるはずだよ。」

 『Nibiru』を携えて、2020年はワールドツアーがスタート。オズナはそこでも新たな可能性を追求する。「最新作は新たな時代を代表するユニークな作品になったと思う。このような作品は3、4年前では決して作ることはできなかった。いろんなことを学んで、楽しんだことの成果をここに集約することができた気がする。それを皆さんの前で披露できるのが楽しみだよ。」

 また音楽だけでなく、2020年公開予定の映画『ワイルド・スピード9(Fast & Furious 9)』の出演も決定。俳優としての道も切り拓く。「映画に出演することは夢だったから、叶って嬉しいよ。それ以外にも、2020年はいろいろと吸収できそうな素晴らしい体験ができそうな予感しかない。とにかくいろんな経験を積んで、より進化した姿を皆さんに届けられたらと思っているよ。」

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▲『ワイルド・スピード9』に出演するヴィン・ディーゼル(右)とオズナ

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