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国内盤リリース記念 TOOL『フィア・イノキュラム』特集
2019年8月30日にリリースされたトゥールの13年ぶりのニュー・アルバム『フィア・イノキュラム』の国内盤が、デラックス・パッケージ仕様として12月18日にCD発売される。動画再生プレーヤー搭載という豪華仕様が話題を呼んだ初回完全生産限定盤CDは瞬く間に完売し、世界各国からCD盤を求める声が殺到していた。
完全生産限定盤としてリリースされる本作には、動画再生プレーヤーは搭載されていないが、動画再生プレーヤーに収録されていた映像作品『Recusant Ad Infinitum/レキュザントゥ・アドゥ・インフィーニートゥム』が入手できるダウンロード・カードと、未公開アートワークを含む56ページに及ぶブックレット、限定のグラフィック・デザインが描かれた3Dレンチキュラー・カードが封入される。本作も初回盤同様、買い逃し厳禁だ。
ここでもう一度、異形のアート・メタル集団トゥールの経歴と、2019年9月14日付けの米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場1位を獲得し、3作連続全米1位という快挙を成し遂げた『フィア・イノキュラム』を、本作の解説・歌詞対訳を手掛けた山崎智之氏による解説でおさらいしよう。(※2019年9月10日初出)
現代ロック界を代表するカリスマとして君臨
1992年にデビュー、ダークでプログレッシヴな音楽性と唯一無二の世界観で一躍注目を集めたトゥール。旧来のメタルを大きく逸脱し、当時の音楽シーンを席巻したグランジとも一線を画するサウンドは、カリフォルニアの太陽光が届かない“闇”を垣間見させるものであり、熱狂的に受け入れられた。彼らの初のフルレンス・アルバム『アンダートウ』(1993)は米ビルボード・チャートでトップ20入り。続く『アニマ』が全米2位、そして『ラタララス』(2001)、『10,000デイズ』(2006)が連続して1位を獲得。現代ロック界を代表するカリスマとして君臨してきた。
トゥールの音楽をさらに刺激的にするのは、そのヴィジュアル・アート性だ。ギタリストのアダム・ジョーンズは映画『ジュラシック・パーク』などで知られるVFX工房“スタン・ウィンストン・スタジオ”出身の視覚効果技術者でもあり、バンドのミュージックビデオも自ら手がけてきた。彼らのライブのステージはスクリーンに映し出されるイメージやライティングに彩られ、また、『アニマ』のレンティキュラー仕様CDケース(見る角度によって絵柄が変化する)、『10,000デイズ』の3Dメガネ仕様変形ジャケットなど、パッケージへのこだわりも特筆すべきだろう(後者は【グラミー賞】で<ベスト・レコーディング・パッケージ賞>を受賞した)。
▲TOOL – Schism
▲TOOL – Vicarious
彼らは本国アメリカはもちろん、世界各国のロック・ファンを魅了してきた。それは日本も同様で、2001年(【フジロックフェスティバル】)、2002年(単独公演)、2006年(【サマーソニック】)、2007年(単独公演)、2013年(【オズフェス・ジャパン】)でのライブはいずれも大声援で迎えられた。アンダーグラウンドのカルト的な支持をされながら、野外フェスの大観衆をも虜にしてしまうのが、トゥールの音楽なのだ。
そのライブ・パフォーマンスは世界のトップ・ミュージシャン達からも注目されている。キング・クリムゾンは2001年の夏、トゥールとジョイント北米ツアーを行っているが、ロバート・フリップは筆者とのインタビューで「毎晩、ステージの袖から彼らの演奏を見ていた」と語っている。ちなみにトゥールはしばしばキング・クリムゾンからの影響を口にしているが、フリップからすると「彼らの音楽を聴いても、私たちからの影響は特に感じられない。彼らは本当に個性的なバンドだ」そうである。
そんなトゥールが遂に発表する『フィア・イノキュラム』は、“遂に!”が幾つ付いてもおかしくない、まさに2019年の最大話題作であり、ファンならずとも待望のアルバムだ。新作発売を前にしたヒートアップぶりは2019年8月、彼らの過去作品のデジタル・ストリーミングが解禁され、なんと全アルバムが同時に米ビルボード・デジタル・アルバム・チャートのトップ10にエントリーしたことからも伝わってくる。トゥールの新作発売は、それ自体がひとつの“事件”であり“イベント”なのだ。
リリース情報
『フィア・イノキュラム』(国内盤)
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Text: 山崎智之
超豪華仕様の最新作は必見&必聴
13年という長い年月を挟んでリリースされた『フィア・イノキュラム』だが、その間、トゥールが歩みを止めたわけではなかった。ヴォーカリストのメイナード・ジェイムズ・キーナンはア・パーフェクト・サークル、プシファーなど別バンド/プロジェクトも行ってきたが、トゥールとしてのライブ活動はコンスタントに続けられてきた。前述のとおり、その中には日本公演も含まれ、“トゥール健在!”を高らかにアピールすることになった。2013年にはドラマーのダニー・キャリーがスクーター事故で肋骨を折るというアクシデントもあったが、それも決してアルバム制作を中断させることがなかった。
バンドはかなり早い段階から、ニュー・アルバムに着手していることを公言してきた。『10,000デイズ』に伴うツアーの時点で、アダム・ジョーンズとベーシストのジャスティン・チャンセラーは曲作りに入っていると語っていたし、2017年にはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン/プロフェッツ・オブ・レイジのギタリスト、トム・モレロがInstagramに「トゥールの新曲を聴いたよ!」と投稿。その時点でまだヴォーカルが入っていないことを前置きしながら「壮大でスケールが大きく、シンフォニックでブルータルでビューティフルでトライバル、神秘的、ディープ、セクシー、そしてとてもトゥールらしい」と記している。さらに2019年の最新ツアーでは「インヴィンシブル」、「ディセンディング」という新曲2曲が披露され、ニュー・アルバムに向けてさらに期待を盛り上げることになった。そして2019年8月30日、『フィア・イノキュラム』が発売となったのだった。
『フィア・イノキュラム』は、トゥールの“異形のアート・メタル”を極限まで具現化させたアルバムだ。アルバムの1曲目「フィア・イノキュラム」を筆頭に、6曲が10分オーヴァーの大曲。多くの曲はアトモスフェリックなイントロで聴く者をその世界観へと引き込み、徐々にヘヴィネスが脈を打ちながら昂ぶっていくダイナミックな展開で翻弄する。曲がピークに達したときの高揚感とカタルシスは、トゥール史上最大のものである。
▲TOOL - Fear Inoculum (Audio)
前作に続いて今回も電子音楽家のラストモードが参加、サウンド・デザインを提供しており、さらにトゥールの音世界に深みをもたらしている。歌詞で描かれている世界観も幅広いもので、傷つきながらも前進を続ける“無敵”の戦士を描いた「インヴィンシブル」、人類の終焉を暗示させる「ディセンディング」など、1曲ごとに異なった表情を持っている。世界中のファンが待っていたトゥールと、誰も聴いたことがなかったトゥールが混在するサウンドは、13年のあいだ、彼らが妥協することなく、たゆまぬ前進を経てきたことを物語っている。
▲TOOL - Invincible (Audio)
▲TOOL - Descending (Audio)
なお、CDヴァージョンは全7曲仕様。デジタル・ヴァージョンは3曲を加えた全10曲仕様となっている。「リタニー・コントル・ラ・プール」、「リージョン・イノキュラント」、「モッキングビート」はいずれも2〜3分のインストゥルメンタルで、ボーナス・トラック的な楽曲ではあるものの、『フィア・イノキュラム』をひとつのトータル作品として味わうには、デジタル・ヴァージョンがオススメかも知れない。
▲TOOL - Legion Inoculant (Audio)
だが、CDヴァージョンの超豪華仕様もまた、凄まじいものだ。初回のみの完全生産限定盤はCD、ブックレットに加えて4インチ・サイズの液晶スクリーン付き動画プレイヤーを搭載して、エクスクルーシヴな限定映像を収録、スピーカー&充電ケーブル付きという、前代未聞のパッケージ。近年、ダウンロードやストリーミングによって“音楽を所有する”ことが廃れつつあると言われるが、そんな風潮に真っ向から斬り込む仕様となっている。こちらも一家に1セット必携の逸品で、しかも初回限定仕様。結局CDとデジタルの両方を押さえておきたくなる。(なお後日、通常盤CDも発売予定)
『フィア・イノキュラム』で3作連続全米1位という快挙を成し遂げたトゥールは10月から北米ツアーを開始。オープニング・アクトに孤高のニュー・ウェイヴ・バンド、キリング・ジョークを迎えて、ホームタウンのロサンゼルスでは1万3千人収容のステイプルズ・センターで2公演、ニューヨークでは1万7千人のバークレイ・センター公演など、彼らはキャリアの新たな絶頂を迎えようとしている。2020年には、さらに大きくなった彼らを日本のステージで見ることが出来るに違いない。光が強いほど、影も色合いを濃くする。トゥールの『フィア・イノキュラム』は、“闇”よりも黒いアートと音楽の混合体だ。
リリース情報
『フィア・イノキュラム』(国内盤)
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Text: 山崎智之
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