Special
熊木杏里 【live in 下北沢440】
2003.7.14(月)at 下北沢440|セットリスト
吉俣良(ピアノ)、首藤高広(ギター)、小野田清文(ベース)といった、錚々(そうそう)たるバンドメンバーと共にステージに登場し、イスに腰をかけ、「りっしんべん」という曲を歌い始める女性ボーカル。やさしく、力強く、そして、素直な歌声が、素晴らしい演奏と共に耳にスーッと入り込んでくる。当然、拍手が飛び交う。
「ありがとうございます。熊木杏里です。今のは「りっしんべん」という歌でした。次はデビュー曲歌いたいと思いますが・・・歌っていいんですか?」と、独特な間と申し訳なさそうな口調でファンに聞く彼女と、そんな彼女のMCに笑みをこぼすファンたち。微笑ましい光景と、ほのぼのとした空気が会場に広がる。そんな好ましい環境下で、彼女は「窓絵」という自分自身のデビュー曲を歌い始めた。生バンドのゴージャスさも手伝って、彼女の歌声から気合いが伝わってくる。
続いては、吉俣良のピアノと2人で「時計」という曲を披露。デビュー時からの彼女のファンはすぐに気付いていたようだが、今夜はオープニングから3曲目まで、すべてデビューマキシシングルの収録曲。デビュー当時の彼女を思い出しながら、彼女の成長を感じ、その反面で、変わることない彼女の心地良い歌声を憂う僕ら。そんな考え深い時間帯の後は、熊木杏里のプロデューサーでもある吉俣良が、人気ドラマ「Dr.コトー診療所」のサントラ用に手掛けた曲に、熊木が詞と歌を乗せた実験的ナンバーが特別に披露された。曲名は「短話」。この曲は、タイトル通り、短いながらもしっかりドラマ性があり、聴き手をグイグイとその世界の中に引き込んでいくナンバーであった。CD化を期待。
「最近、曲を作るのに苦労して、悩んだり煮詰まったりして、(そんな中で)作った曲なんですが、「風のひこうき」という曲です。聴いて下さい」。続いては、これまた嬉しい新曲の披露。気持ち良いピアノの音色に合わせて、懐かしい少年期を思い出させるようなフレーズを、とてもやさしい歌声で真っ直ぐに歌い上げる彼女。今までにないぐらい、突き抜けた感のある爽やかな良い曲であった。その爽やかな空気を保ったまま、曲は「ちょうちょ」へ。再びバンド編成に戻って披露されたこの曲を歌う彼女の姿からは、緊張の色もすっかり消え、とても和やかな雰囲気を醸し出しているように感じられた。一点の曇りも感じさせない彼女の歌声が、とても耳触り良く僕らを包み込んでいってくれる。歌えば歌うほど良い歌声になっていくあたり、確実に彼女はライヴに馴染んでいっているのだろう。
曲は「ちょうちょ」から「今は昔」へ。3人の演奏に合わせて、温度を強く感じさせる歌い方になっていく彼女。両手を軽く目に当て、懸命に想いを込めながら歌う彼女の姿に、僕らの心が感じている。
「最後は「夢見の森」という曲です。ありがとうございました」。やさしく奏でられるピアノの音色と共に今夜のライヴのラストナンバーが披露される。熊木杏里を含むステージ上の4人がしっかりひとつになって、この曲の世界観をリアルに創り上げていくと、僕らはまたスーッとその世界に入り込んでいく。やはりこの曲をライヴで聴くと、深く感じさせられるものがあるようだ。とても良い演奏と歌声であった。
以上、全8曲を披露し、ステージを後にした熊木杏里。会場に残された僕の中にあったもの、それは、充実感。程良い充実感に僕は浸っていた。そして、彼女が良いライヴを創れるアーティストに成長している事実を喜んでいた。
セットリスト
2003.7.14(月)at 下北沢440
- 01.りっしんべん
- 02.窓絵
- 03.時計
- 04.短話
- 05.風のひこうき
- 06.ちょうちょ
- 07.今は昔
- 08.夢見の森
Writer:平賀哲雄
関連商品