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P!NK 世界の最強ポップ・アイコンの魅力を徹底解剖
歯に衣着せぬ姉御キャラと、等身大の歌詞、そしてパワフルなライブパフォーマンスで幅広い世代から人気を博すピンクが、この度、米ビルボードが選ぶ<年間最優秀ツアー賞(Legend of Live + Tour of the Year)>を受賞した。この賞は2006年にエルトン・ジョンへ初めて授与されてから、オールマン・ブラザーズ、オジー・オズボーン、ラッシュ、ジャーニー、ニール・ダイアモンド、ティム・マグロウ&フェイス・ヒルなど、ライブで輝かしい功績を残したアーティストに贈られているもので、昨年は約20年のキャリアで1,000本以上のライブを行ったジョン・メイヤーが受賞している。
ピンクは、2018年~2019年にかけて行われた【ビューティフル・トラウマ・ツアー】が、300万枚以上のチケットを売り上げ、約430億円もの興行収入を叩き出し、米ビルボードのツアー・ランキング“Boxscore”で歴代10位に。女性アーティストによる記録としては過去10年で最高位だ。
2000年のメジャー・デビュー以降、数々のヒット曲を世に送り出してきたピンクだが、ここ最近、さらに輝きが増しているように感じられる。なぜピンクは人を惹きつけるのか、その魅力を“歌”“人物”“ライブ”にフォーカスしてご紹介しよう。
世代を越えて共感を呼ぶ“歌詞”に注目
今では考えにくいかもしれないがデビュー当初のピンクは当時の音楽シーンを賑わしていたブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラ、ジェシカ・シンプソンといった歌って踊れるR&B路線で売り出されていた。トニ・ブラクストンやTLCなど、90年代を代表するR&Bシンガーを輩出したレーベル<LaFace Records>の創業者、L.A.リードによるシングル「ゼア・ユー・ゴー」は米ビルボード・ソング・チャートで最高7位を記録し、同年4月に発表したデビュー・アルバム『キャント・テイク・ミー・ホーム』も、全米200万枚、全世界400万枚セールスの華々しいデビューを飾っている。
しかし、2001年発売の2ndアルバム『ミスアンダストゥッド』は、クリスティーナ・アギレラらと共演した「レディ・マーマレード」やR&B路線の1stアルバムとは全く違うテイストのロック色の強い作品になった。そのリード曲でピンクのキャリア初期の代表曲「ゲット・ザ・パーティー・スターテッド」は全米4位、全英2位と商業的に成功し、リスクを伴う音楽の路線変更に対してリスナーとメディアから高評価を得た。その物怖じしない性格は当時から健在で、<L.A.に言われたんだよね、「君はポップスターになる、君という全てを180度変えれば」って。ブリトニー・スピアーズと比べられるのはもうウンザリ。彼女はものすごく可愛い子だけど私はそういう子じゃない>と本来の自分とは違うイメージに自分が殺されてしまう苦悩を名指しで歌った「ドント・レット・ミー・ゲット・ミー」は、全米8位、全英6位を記録している。
ピンクの強みは何といっても“underdog(弱者・負け犬)”に寄り添う歌詞だ。「ドント・レット・ミー・ゲット・ミー」や2010年のヒット曲「レイズ・ユア・グラス」でも表現されているように、いわゆる“不良”少女だったピンクは、誰かに好かれるために別人を演じる必要はない、自分らしさをとことん追求しようとアピールする部分が多くの人から共感を得ている。
また、「美を追求するあまり、自分を偽るなんて嫌!」「みんなが憧れているあんなバカな子たちにはなりたくない」と歌った「ストゥーピッド・ガールズ」(2006年)は、そのミュージックビデオがパリス・ヒルトンやジェシカ・シンプソン、リンジー・ローハンといった当時のゴシップ誌を賑わすハリウッドスターたちを彷彿とさせて、大ヒット。その年の【MTV Video Music Awards】で見事<最優秀ポップビデオ賞>を受賞した。「ストゥーピッド・ガールズ」や「フー・ニュウ」、「ユー・アンド・ユア・ハンド」を収録した4thアルバム『アイム・ノット・デッド』は前作『トライ・ディス』の2倍以上のセールスを記録して、本格的な大ブレイクを果たした。
生きづらいと感じている人たちの応援ソング「レイズ・ユア・グラス」や過去を赤裸々に綴りそのメッセージに多くの人が感動した「フxxキン・パーフェクト」は、海外だけでなく日本でも人気の高い楽曲だ。自己嫌悪に陥ったり、現状に悩んでいたりする時にこの曲を聴くと、ピンクが「その気持ち、私も分かるよ」と言ってくれそうで、ピンクが味方に付いてくれたら、どんな時も無敵に思える。
“家族”第一のパワフルママ
2006年にモトクロス・レーサーのケアリー・ハートと結婚したピンクだったが、2008年にケアリーと別居。<旦那とはもう終わったけど、それが何?>という衝撃的な歌詞が話題になった「ソー・ホワット」(2008年)のMVには、当時別れたばかりのケアリーが出演し注目を集めた(ピンクはまたしてもここでジェシカ・シンプソンの名を出しており、そのコメディエンヌぶりを発揮)。この曲で「レディ・マーマレード」以来、7年振りの全米シングル・チャートNo.1に輝いたピンクは、同年10月にリリースした5thアルバム『ファンハウス』が全米アルバム・チャート最高2位を獲得し、自己最高位を更新した。
7歳の時に両親が離婚したピンクは、『ミスアンダストゥッド』収録の「ファミリー・ポートレイト」で埋まることのない心の悲しみを赤裸々に歌っており、そのハスキーボイスが胸の張り裂ける思いをより一層強調している。複雑な家庭環境で育ったピンクだが、父親との関係は良好のようで、『アイム・ノット・デッド』収録の「アイ・ハヴ・シーン・ザ・レイン」では作詞した父親のジェームズと共演もしている。
また、ピンクは別居後も良好な関係を築いていたケアリーと2010年に復縁すると、2011年に長女ウィロー、2016年には長男ジェームソンをもうけ、現在、家族4人で幸せいっぱいの家庭を築いている。ピンクは米ビルボードのインタビューの中で、「ウィローにはヒッピー向けの学校に通ってもらって、裸で木を登るようなわんぱくな子に育ってほしい」と語っており、都会ではなく田舎でのんびり自由気ままに暮らすことを考えているようだ。長年ツアーで世界中を飛び回っているピンクだが、常に家族を第一に考え、子供たちの為ならいつでも音楽活動を辞めても構わないという姿勢を持ち主だ。MVには度々家族が登場しており、家族との幸せそうな写真は彼女のSNSでチェックできる。
リリース情報
『グレイテスト・ヒッツ2019|Greatest Hits… So Far 2019!!!』
- 発売中
- SICP-6200 2,200円(tax out.)
- 日本限定ボーナス・トラック1曲収録
紙ジャケット仕様
ジャケット写真リニューアル(蛍光ピンク) - 詳細・購入はこちらから>>
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Text: Mariko Ikitake
一度は生で見てみたい迫力満点の“ライブ”
前ページの「トゥルー・ラヴ」や「ジャスト・ライク・ファイア」のミュージックビデオにも映ったが、近年、ピンクはアクロバティックなパフォーマンスが話題を呼んでいる。子供の頃に、8年間体操クラブに通っていたピンクは(本人曰く「チーム行動ができなくて追い出された」)、2009年頃からパフォーマンスにアクロバティックを取り入れ、2010年の【グラミー授賞式】で披露した命綱ナシの空中吊りと高速スピンに世界中がクギ付けになった。2012年の6thアルバム『トゥルース・アバウト・ラヴ』に収録されている「トライ」のMVでは引き締まった肉体とコンテンポラリー・ダンスを披露し、新たなアーティスト像を打ち出した。そのアルバム・ツアー以降、難度の高い技に果敢に挑戦し、ピンク=アクロバットというイメージが定着している。2017年の【American Music Awards】では、声を震わせることもなく、地上60mの場所で高層ビルの壁を飛んだりフリップしたりして、その命知らずのパフォーマンスに絶賛の声が上がった。年齢を感じさせないパワーと、いつまでも挑戦し続けるその意欲の高さに脱帽するばかりだ。
パフォーマンスの高さと、全米初登場1位を獲得したアルバム『ビューティフル・トラウマ』のヒットの効果も相まって、2018年から2019年にかけて開催された【ビューティフル・トラウマ・ワールド・ツアー】は3億9,730万ドル(約430億円)の興行収入と3,088,647枚のチケット・セールスを記録。米ビルボード・ツアー・チャート“Boxscore”史上最高記録の10位に入った。これは女性アーティストとしては史上2番目で、マドンナが2008年から2009年にかけて開催した【スティッキー&スウィート・ツアー】以来、約10年ぶりの高水準だ。今年11月にこの功績を称えるため、米ビルボードからピンクに<年間最優秀ツアー賞>である<Legend of Live + Tour of the Year>が授与され、それを記念してピンクは米ビルボード誌の表紙も飾っている。
そのインタビューの中で、ツアーの成功のカギとして、長年ピンクのマネージャーを務めているロジャー・デイヴィーズは、まず、ツアー・アーティストとして地位を確立すること、そしてアメリカ以外のファンベースを構築していくことに注力した、と話している。小さなクラブハウスをまわり、その後(2000年頃はポップアーティストが出演することが珍しかった)ヨーロッパ中の音楽フェスに出ることで話題を集め、昔ながらのスタイルのショーマンシップを目玉にすることで、1stアルバムで打ち出したイメージの払拭に成功。掲げた目標の一つである“アメリカ以外のファンベースを構築していくこと”を証明するように、ヨーロッパやオーストラリアでファンを獲得していったピンクは、2004年までにはアリーナで単独公演を行うまでに成長していた。今ではスタジアム級の会場を軒並み完売させているピンクだが、「ソー・ホワット」を収録した『ファンハウス』が大ヒットする2009年まで、北米では1500人規模の会場やオープニング・アクト止まりのアーティストで、アメリカと他国での人気にかなりの差があった。しかし『ファンハウス』のヒットによってついに北米ツアーの会場がアリーナに拡大。会場拡大によって、2002年~2005年に長期間で開催されたシェールの【リヴィング・プルーフ:ザ・フェアウェル・ツアー】で観たダンサーの空中パフォーマンスに感化され、2004年からトレーニングしていたというピンクの長年の夢でもあったアクロバット・ショーが実現可能となったのだ。
<年間最優秀ツアー賞>が授与された【ビルボード・ライブ・ミュージック・サミット】でのスピーチでピンクは「(ロジャーは)私が一番好きな人の一人であるバリー・マーシャルのようなプロモーターたちを説得して、10年から15年後には回収できるからと、私のために何十万ドルもの赤字を出すことを―ごめんね!―納得させてくれたのです」と19年前の出来事をこう話しているが、結果的にその賭けは成功したと言えるだろう。
「ソー・ホワット」が現在放送中の米倉涼子主演のTVドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』の主題歌に起用されたり、「フxxキン・パーフェクト」が2011年の月9ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』で使用されたりと、ここ日本でも大変人気があるピンクだが、2002年11月の単独初来日公演以来、残念なことに日本でライブを行っていない。世界中で話題を呼んでいるアクロバティックなライブをぜひ肉眼で見てみたいものだ。
ピンクがキャリアを振り返る特別映像が公開
表紙を飾った米ビルボードのインタビューと合わせて、ピンクが20年のキャリアの中でハイライトとなる出来事を振り返るインタビュー映像が公開。MV撮影時のエピソードや裏話は必見だ。
「ゼア・ユー・ゴー」
このビデオの私は過去最高にきれいだと思う。これ以上きれいになることはないだろうね。たぶん撮影時は19歳だったと思うんだけど、バイクに乗り始めた頃で、85回くらいクラッシュした。それにマリファナもかなり吸ってた時期で、(ビデオ監督の)デイヴ・マイヤーズに「お願いだから次のシーンを撮り終えるまで、吸うのを待ってくれる?」って言われ続けて(目が虚ろな状態で)「なんで?」って聞いたら「自力で目が開けられる状態でいて欲しいから」って言われて、(目が開いていない状態で)「開いてるじゃん」って言い返した(笑)。
『ミスアンダストゥッド』
(アルバムジャケットを見て、ため息をつき)すごく若いな。あのヘアカラーがすごく気にいってる。綿あめみたいな鮮やかな色で、あの色を出すのはなかなか難しいんだよね。ソファに自分で名前を書いたのを覚えているんだけど、かなり昔の記憶で……。19年くらい前のこと? ホント信じらんない!
「ストゥーピッド・ガールズ」
他人を面白おかしくするのがホントに大好きで、それと同時に自分のことをおかしく見せるのも好きなんだ。それが分かるビデオだよね。車から滑り落ちるフリとか、私ってホント最低だよね(笑)。<女性大統領になるって夢はどうしちゃったの? 今のあの子は50セントの隣で踊ってる(She's dancing in the video next to 50 Cent)>っていう歌詞があるんだけど、ビデオに出てるラッパーの名前は25セントで、50セントのいとこだって自分で言ってた(笑)。
「グリッター・イン・ジ・エア」@2010年グラミー授賞式
(会場にいた)大物たちをびしょびしょに濡らすことができた。シングルカットされてない曲を歌わせてくれたことに正直驚いたし、ハーネスもないのに30mもの高さまで登らしてくれて、それに会場を水浸しにさせてくれるなんてね。すごく緊張していて、白のガウンを着ているシーンは真っすぐ歩けなかった。それに最初のヴァースのところで2回くらい滑りそうになったのを覚えてる(笑)。LL・クール・Jとかリアーナにお尻を見られたけど、いいお尻してるよね。
「ジャスト・ギヴ・ミー・ア・リーズン」
当時の私は自分が太りすぎだと思ってて、衣装合わせの時、露出が多いセクシーな服は着たくないって思ってたんだけど、今、昔の写真を見ると「めっちゃ痩せてる」って思うわけ。このビデオを観てもそう思う。これって女性が抱える呪いだよ、今すぐやめよう。今、私は体重が75kgぐらいあるけど、最高にカッコいいでしょ。
<ウーマン・オブ・ザ・イヤー賞>受賞&米ビルボード誌表紙(2013年12月)
あの日はホントに気分が良かった1日で、自分ではあまり使わない表現なんだけど、大人っぽいとも思えたんだよね。授賞式には両親もいて、ケアリーが誇らしげにしていて逆に居心地悪くなった。最高の1日だったな。
国歌独唱@2018年スーパーボウル
(独唱中の写真を見て)面白い衣装のチョイスをしたな。あの日はホントにヤバかったんだよね。ちゃんと声が出たことが今でも信じられない。インフルエンザにかかってて、フィラデルフィア出身の私にとって、(フィラデルフィア・)イーグルスが出てることもあって、このスーパーボウルは家族全員の一生の思い出にしようと思ってたのに、みんなが会場に到着した頃、私はソファで死んでた。それにのど飴をフィールドにポイってするところをカメラに撮られちゃって……。まぁ、トライしたんだよ。
リリース情報
『グレイテスト・ヒッツ2019|Greatest Hits… So Far 2019!!!』
- 発売中
- SICP-6200 2,200円(tax out.)
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Text: Mariko Ikitake
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