Special
熊木杏里【SOUND IN STUDIO AST 1st Live】
2002.8.19 (月)at サウンド イン スタジオ AST|セットリスト
彼女は悩む。彼女は迷う。彼女は苦しむ。そうして彼女は心の言葉を聞き取り、詞へと変え、歌に乗せる。
少し緊張した表情で、それでも時に笑顔を浮かべながら急ぎ足でステージへと駆け寄る熊木杏里。自分の歌声を聴きに来てくれた人々の前で初めてライヴをする彼女にとって、今日は忘れられない日になるはず。それはライヴが終わる頃は僕にとっても同じだった。
サポートバンドを従えて(ピアノはプロデューサーの吉俣さん)、まず一曲目に彼女が歌い出したのはデビューシングル「窓絵」・・・初めて彼女の生歌を聴く僕らからすれば“実際は大したことないのかもしれない”など、よからぬ不安を抱いたりするわけだが、このオープニングの一曲でそんな不安は瞬く間に吹き飛ぶ。CDの空気感も臨場感もそのまま目の前のステージからリアルに伝わってきた。「ねぇ君は・・・」と優しく包み込む、囁きのような歌声に、ただただ僕らは聴き惚れる。しかし、当の本人はまだ緊張から抜け出せないようで、一曲歌い終えると不慣れなMCの中、何度も何度もペットボトルの中の水を口に含んだいた。
その後、1stの3曲目に収録されていた「時計」、2ndの2曲目に収録される「二色の奏で」を続けて披露。緊張気味のMCとは相対して、大切に大切に一句一句を歌い上げていく姿は堂々としたもの。特に死生観を思いっきり歌い上げた「二色の奏で」には、スタジオ中の人々が息を飲むほどに、彼女の内に秘めていた熱さが爆発(おそらくこの曲は、歌えば歌うだけ魅力を増す曲になる気がした)。そして、8月21日に待望の2ndマキシシングルの「咲かずとて」が発売されることを話し、その作品のタイトル曲「咲かずとて」を披露。CDより少し大人っぽい雰囲気がこの詞が持つ切ない気持ちをよりリアルに。「あなたを愛せない 私はどこへも行けない」というフレーズを彼女が歌う度、こみ上げてくるものがあった。
この日は1stと2ndの収録曲以外に一曲だけ未発表曲が披露された(一度詞を忘れてやり直したのだが(笑))。タイトルは「やすり」。詞の内容は聞き取ることが出来なかったが、70年代の日本のフォークソングや歌謡曲を思い出させるメロディが印象的。是非CD化して、今度は詞を熟読しながら聴いてみたい一曲だ。
気がつけば今夜のライヴはクライマックス。序盤に比べ、スタジオの雰囲気もだいぶ和んでいた。そこで披露されたのが「りっしんべん」と「まよい星」。心地よい空気がスタジオ中に広がる。特に「まよい星」、この曲は彼女が星空に語りかけながら作った曲だが、そのシチュエーションに僕らもほんの少しではあったがトリップできたような気がした。心地がよい。
今夜の初ワンマンライヴ・・・足りない点もいくつかあったかもしれないが、僕らがホレ込んだあの歌声を、いくつもの想いや感情と共に目の前で聴くことが出来ただけで充分。また何度でも彼女の歌声をこうした場で聴きたいと思えた。
彼女は悩む。彼女は迷う。彼女は苦しむ。そうして彼女は心の言葉を聞き取り、詞へと変え、歌に乗せる。ただひとつ、今夜のライヴ、そしてこれから先きっと何度も行われるであろうライヴの中で・・・彼女は楽しむ。この要素が彼女の詞の世界を更に魅力的なものへと変えていく・・・そんなことを予感させたライヴであった。本当に将来が楽しみな表現者である、熊木杏里は。
セットリスト
2002.8.19 (月)at サウンド イン スタジオ AST
- 01.窓絵
- ~MC~
- 02.時計
- 03.二色の奏で
- ~MC~
- 04.咲かずとて
- 05.やすり
- ~MC~
- 06.りっしんべん
- ~MC~
- 07.まよい星
Writer:平賀哲雄
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