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May J. インタビュー ジャズピアニスト佐山雅弘氏との出会い
ジャズピアニスト、作編曲家、ミュージカルの音楽監督など幅広く活動していた佐山雅弘氏。昨年、惜しまれつつ逝去した佐山氏が、開館当初からホールアドバイザーとして深く関わってきたのが、ミューザ川崎シンフォニーホールだ。【オーケストラで楽しむ音楽】【サマーナイト・ジャズ】など人気企画を次々と生み出し、ミューザ川崎を中心に2015年からスタートした【かわさきジャズ】にも出演。2018年11月には、スペシャル・ピアノプロジェクトとして、奥田弦、三舩優子とともに3人のピアニストによる公演も予定されており、直前までリハーサルが重ねられていたが、惜しくも本公演の出演は叶うことはなかった。
そして、2019年。佐山雅弘氏をリスペクトするアーティストによるメモリアル・コンサートが実現。佐山氏がデビュー前から注目していたという寺久保エレナや、【ピアノ6連弾】で共演したピアニストたち、そして2018年4月に初共演した、May J.とトリビュートバンドが登場する。今回、出演者の1人であるMay J.にインタビュー。佐山氏との出会いや教えられたこと、そして音楽を紡いでいくことへの思いについて話を聞いた。
佐山さんのアイディアで色んな曲に初挑戦した
――まず、佐山さんとの出会いについて教えていただけますか。
May J.:初めて、お会いしたのは2018年4月にミューザ川崎で開催された【オーケストラで楽しむ音楽IX】です。ホールアドバイザーである指揮者の秋山和慶さんと佐山さんの企画なんですが、お声がけいただいて、佐山さんのピアノで共演させていただきました。実は、私の父が昔から佐山さんのことが大好きで。出演が決まったとき、父がとても喜んでくれたことを覚えています。
――共演して、いかがでしたか?
May J.:皆さん、おっしゃるんですが佐山さんのピアノって、変化球が多いんですよ。「え、こんなところでこんなフレーズがくるの」って。なので、ただただすごいなって思ったのが正直な感想です。あと4月のコンサートでは、佐山さんのアイディアで色んな曲に初挑戦させていただきました。とにかく、佐山さんのアレンジは素晴らしかったですね。
――例えば?
May J.:「Smile」ですね。とてもシンプルな曲ですし、昔から大好きだったんですが、佐山さんのエッセンスが入ることで、また違う魅力が生まれて。私も、その世界に連れていかれるような気分でした。「Smile」って、こんなに良い曲だったんだ」って思いましたね。「Smile」以外にも、『バグダッド・カフェ』の主題歌「Calling you」も、その時に初めて挑戦しました。このコンサートで「Calling you」を歌ってほしいというご提案をいただいて。その時に、初めて「Calling you」を知ったんですが、本当に素敵な曲ですよね。そのあと自分のレパートリーにしたくて、アルバム用にレコーディングしたくらい、すごく衝撃を受けた出会いでした。
――佐山さんを通じて、色んな曲との出会いがあったコンサートだったんですね。様々なジャンルの音楽を歌ってらっしゃいますが、ジャズの面白さと、難しさとはなんだと思いますか。
May J.:ジャズの魅力を語るなんて、おこがましいですが、すごく好きなことは確かです。心地良いんですよね。テクニックがどうとか考える前に、心で思っていることが先に表現されているような感じがして。演奏している方の人生観が出るというか…。奥が深いなって思います。
――佐山さんとは、その後(2018年)11月のブルーノート公演でも共演される予定だったとか。
May J.:そうなんです。4月に佐山さんとご一緒した時に、ぜひ次のブルーノート公演では佐山さんにお願いしたいと思い、アレンジと演奏をお願いしました。でも体調が安定されなかったのでリハーサルでお会いしたのが最後で。リハーサルでも演奏は、息子さんの佐山こうたさんが担当してくださって、本番でも弾けるように、佐山雅弘さんがサポートしてくださいました。そして本番の日、こうたさんがご自宅を出られる直前に亡くなられてしまわれて。佐山雅弘さんのアレンジを、こうたさんと一緒に演奏させていただきました。
――私たちも、佐山さんが亡くなる直前にインタビューさせていただいたのですが、「上手くいくステージだけじゃなくて、上手くいかないのも面白いんですよ。下手っぴな演奏って、すごく面白い。ジャズはアドリブですから、そこからどうやって立ち直るか、誰がどう出るかって見ていると面白いんですよね。」って笑顔でおっしゃっていたのが印象的でした。(http://www.billboard-japan.com/special/detail/2500)
May J.:“立ち直る”か…。面白い表現ですね(笑)。
公演情報
【My Favorite Songs~佐山雅弘メモリアル・コンサート】
2019年11月16日(土)
OPEN 17:00
ミューザ川崎シンフォニーホール
第1部:~佐山雅弘が育てた若手ミュージシャン~
寺久保エレナ(as)、馬場孝喜(g)、中林薫平(b)、福森康(ds)
「Dead Zone」「P-Bop」 ほか
第2部:~ジャズ・ピアノ6連弾の仲間たち~
国府弘子、佐藤允彦、小原孝、塩谷哲(以上、pf)
「かわさきリボーンブルース」「ビバップ・トルコ行進曲」「Well, You Needn’t 」「Tombo」ほか
<プログラムB>
第3部:~佐山雅弘トリビュートバンド~
三木俊雄(ts)、岡崎好朗(tp)、中川英二郎(tb)
佐山こうた(pf)、川村竜(b)、大坂昌彦(ds)
ゲスト・ヴォーカル:May J.
「I Remember Clifford」「Above Horizons」「What a wonderful world」ほか
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小さい時に聴いた音楽に全て影響されている
――今回、佐山さんは出演されませんが、佐山さんが紡がれたご縁で色んなミュージシャンが集まります。そして音楽は自分がこの世からいなくなっても残り、愛され続けます。
May J.:そうですよね。なので、私もこのコンサートを通じて、来てくださった方の心に少しでも、思いが残ればなと思っています。そうしたら きっと、その人は周りの人に「こんなコンサートがあったんだよ」とか、「この音楽を君にも聴いてほしいな」って続いていくだろうし。そうやって、人の記憶に少しでも残ることで、音楽は生き続けるのかなって。
――映画音楽やポップスなどのカバー集をリリースされているのも、そういう思いからなのでしょうか。
May J.:そうですね。ジャズには長年歌い継がれている名曲がありますが、それはポップスも同じで。残していくべき名曲は、たくさんあります。私が、そこまで大きな役割を務められるとは思っていませんが、そんな曲たちを歌うことで次の世代の人たちに伝えられたらと思っています。
私自身も、なぜ歌を歌っているんだろうっていうことを振り返ると、小さい時に聴いた音楽に全て影響されていて。私はディズニー映画が大好きなんですが、ピーボ・ブライソンとレジーナ・ベルの「A Whole New World」のようなエンドソングが特に好きなんです。少し大人っぽい感じに、子供の頃からすごく惹かれて。今の活動は、すべて子供の頃に聴いた音楽がベースになっています。なので、同じように私の歌をきっかけに歌を歌い始めたり、音楽を聴き始めてくれたりする子供たちがいたら…。そんなきっかけになれたら、それはすごく嬉しいことだなと思いますね。誰かの人生のきっかけになるということですから。
――11月のコンサートは、どんなプログラムになりそうでしょうか。
May J.:2018年11月のブルーノート公演の前に、佐山さんが「What a wonderful world」を歌ってほしいって言ってくださって。さっき、お伝えした「Smile」や「Calling you」のように、佐山さんをきっかけに知った曲を中心にセレクトしたいなと思っています。
――どの曲も、これまで数多くの歌手の方たちが歌ってこられた曲です。そんな曲を歌う上で、自分らしさを出すというのは、どういうことなのでしょうか。
May J.:歌い手が、その時に誰に届けたいかで変わってくるのではないでしょうか。私は、いつもステージでは誰に届けるかをイメージして歌うようにしています。なんだか、ぼやっとした中で歌いたくなくて。例えば、お客様がステージから近い時は、お客様の顔を見ながら、その方に届くようにと思って歌っています。あとは、その場にいらっしゃらなくても、具体的に誰かに届けたいのかを思い描いて歌っています。11月のコンサートでは、佐山さんに届ける気持ちで歌うつもりです。
――メンバーは、昨年のブルーノート公演の時と同じですか。
May J.:ピアノの佐山こうたさん、ドラムの大坂昌彦さんは同じですね。私が出演するのは第三部ですが、第一部と第二部にも、ご一緒したことがあるアーティストの方が出演されるので楽しみです。特に、第一部に出演される寺久保エレナさんは、久々の再会で。10年くらい前だったかな…?私が司会を担当させていただいている、NHKワールドの『J-MELO』という番組の取材で札幌までお伺いしたことがあって。そこで、一緒に演奏してみようということになり、「You'd Be So Nice To Come Home To」を共演させていただいたことがあるんです。
かわさきジャズ事務局:寺久保エレナさんも、実は昔ミューザ川崎の【オーケストラで楽しむ音楽】シリーズに出てもらったことがあります。まだ高校生だったんですが、佐山さん、たってのご希望で。なので、今回の公演は本当に佐山さんを軸に繋がった人たちによる公演になります。寺久保さんにも今回のためにニューヨークから戻ってきていただきました。
May J.:そうなんですね。佐山さんのおかげで再会できて嬉しいです。札幌で共演して以降、いつかまたご一緒したいと思いながらも、海外に行かれていることも多く、なかなか叶わなくて。今回をきっかけに、またお会いできるので、今度こそいつか共演できればなと思います。
――もしかして、今回のアンコールで実現すると良いですね。
May J.:本当ですね(笑)。
公演情報
【My Favorite Songs~佐山雅弘メモリアル・コンサート】
2019年11月16日(土)
OPEN 17:00
ミューザ川崎シンフォニーホール
第1部:~佐山雅弘が育てた若手ミュージシャン~
寺久保エレナ(as)、馬場孝喜(g)、中林薫平(b)、福森康(ds)
「Dead Zone」「P-Bop」 ほか
第2部:~ジャズ・ピアノ6連弾の仲間たち~
国府弘子、佐藤允彦、小原孝、塩谷哲(以上、pf)
「かわさきリボーンブルース」「ビバップ・トルコ行進曲」「Well, You Needn’t 」「Tombo」ほか
<プログラムB>
第3部:~佐山雅弘トリビュートバンド~
三木俊雄(ts)、岡崎好朗(tp)、中川英二郎(tb)
佐山こうた(pf)、川村竜(b)、大坂昌彦(ds)
ゲスト・ヴォーカル:May J.
「I Remember Clifford」「Above Horizons」「What a wonderful world」ほか
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崩しながら歌うこともできるアーティストになれるんじゃないか
――最後に、どんなステージになりそうでしょうか。
May J.:私はまだまだジャズの初心者なので、むしろジャズってすごく敷居が高い音楽だなって思われている方にも楽しんでいただけるような歌を届けたいです。このメンバーの中では、それが私の役目だと思っているので。
去年、佐山さんとご一緒できたのも、私にとっては本当に奇跡のようなことでした。リハーサルでご一緒しても、自分が今までと全然違うフィールドにいるということが、すごくプレッシャーで。でも、佐山さんのおかげで、今まで歌ったことのないレパートリーにも出会えて、すごく成長させていただきました。
私って、性格が真面目すぎるところがあって(笑)。それが歌にも出ている気がして…。もちろん、間違わずに歌うということは、とても難しいことですし、大切なことです。でもジャズに挑戦することによって、正確にも歌えるし、でも崩しながら歌うこともできるアーティストになれるんじゃないかって。なので、色んな方とご一緒して経験を積んでいきたいですね。
――今回のような公演では難しいかもしれませんが、セットリストを決めないライブに挑戦してみるとか。
May J.:たしかにその場の雰囲気に合わせて、ステージ上で曲を選ぶっていうのも楽しそうですね!普段はリハーサルもしていますし、変えられないことが多いので、なるべくMCで工夫するようにしています。自由でなんでもできる、これからはそういった対応力を身に着けるのが課題かなと思っています。
公演情報
【My Favorite Songs~佐山雅弘メモリアル・コンサート】
2019年11月16日(土)
OPEN 17:00
ミューザ川崎シンフォニーホール
第1部:~佐山雅弘が育てた若手ミュージシャン~
寺久保エレナ(as)、馬場孝喜(g)、中林薫平(b)、福森康(ds)
「Dead Zone」「P-Bop」 ほか
第2部:~ジャズ・ピアノ6連弾の仲間たち~
国府弘子、佐藤允彦、小原孝、塩谷哲(以上、pf)
「かわさきリボーンブルース」「ビバップ・トルコ行進曲」「Well, You Needn’t 」「Tombo」ほか
<プログラムB>
第3部:~佐山雅弘トリビュートバンド~
三木俊雄(ts)、岡崎好朗(tp)、中川英二郎(tb)
佐山こうた(pf)、川村竜(b)、大坂昌彦(ds)
ゲスト・ヴォーカル:May J.
「I Remember Clifford」「Above Horizons」「What a wonderful world」ほか
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