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[ALEXANDROS]『月色ホライズン』川上洋平(vo,g)単独インタビュー



[ALEXANDROS]『月色ホライズン』川上洋平(vo,g)単独インタビュー

「僕、どんどんどんどんキーが高くなっていて」

 来る2020年にデビュー10周年を迎える[ALEXANDROS]。今や2010年代を代表するバンドとなった彼らは、如何にしてロックシーンやフェスシーンのど真ん中で戦ってきたのか。その約10年間の中で大きな武器として機能してきたハイトーンボイスは、どんなストーリーやメカニズムから成熟されてきたのか。そして、10周年直前にひとつの集大成として生み出された新曲「月色ホライズン」に込められた想いは? [ALEXANDROS]の過去、現在、未来について川上洋平(vo,g)に語ってもらった。

どんなことがあってもポジティブシンキングなバンドになりました(笑)

--来年10周年を迎えるほどのキャリアを積んでいる訳ですが、どんなバンドに育ってきているなと感じていますか?

[Alexandros] - city (MV)
[Alexandros] - city (MV)

川上洋平:いやぁー、まだ何にも始まっていない感じですけどね(笑)。何かひとつひとつ達成していった感覚はまだなくて、だから「まだまだこれからだよね」ってメンバーとも話している感じですね。

--それはもっと高みを見ているから?

川上洋平:うーん、スポーツ選手みたいに「金メダルを目指す」とかじゃないから、昔は「グラストンベリー・フェスティバルに出たい」とか言っていましたけど、もちろん今も出たいは出たいんですけど、もとを正せば純粋に音楽が好きなだけだし、楽しいことをやりたいだけだし、良い曲を作りたいだけだし、そういうことに逆にだんだん気付いていった。デビューのときは「かまさなきゃいけない」みたいな感覚があったけど、音楽を作ったり、ライブをするときは純粋な面を研ぎ澄ましていったほうが上手くいったりするので、今は「まだまだもっと楽しいことはあるよね。だったらそこに向かってやっていこうよ」っていう感じですね。

--デビュー当時はどんなバンドを目指していたんでしょう?

[ALEXANDROS]『月色ホライズン』川上洋平(vo,g)単独インタビュー

川上洋平:当時はとにかく売れることしか考えていなかったですね。僕の中で筋がふたつあって。ひとつは音楽のことをすごく大事にする。それが出来たらあとはどれだけいろんな人に聴いてもらえるか。やっぱりデビューするということは稼ぐということだし、お世話になる事務所と一緒に大きくなっていきたいし。だからそのふたつの筋を大事に。どっちも疎かになっちゃいけないなと思っていました。中学ぐらいに思っていた「オアシスみたいになりたいな」みたいな感覚じゃなく、とにかく「早くワンマン出来るようになんなきゃな」とか「フェスで大きいステージに立てるようになんなきゃな」とか「バイトを辞められるようになんなきゃな」とか(笑)。

--現実的(笑)。

川上洋平:なので、この10年を今振り返ってみると、行き当たりばったりだった感じもしますね。「こういう音楽性を大事にしていこう」とか「こういう風な実験をしていこう」みたいなことは特に考えていなかった気がします。デビューしてすぐにドラムが辞めたんですよ。だからそこもバタバタしていて、新たにバンドを結成する感じになっちゃったから「誰が何を出来るのか」がテーマだったりして。でも結構いろいろ出来たから「逆にこんなことも出来るね」みたいな流れになったし、良い意味で最初のヴィジョンは崩せていけたので、「これは面白いことになるな」と思っていました。

--想定外なことが起きたけど、結果的に「それでよかった」としてきた。

川上洋平:ウチはそういうトラブルが多くて(笑)。特に初期は。それで「じゃあ、どうしようか?」って対応して音楽性が変わったりもしたし、それを楽しむようにしました。そこでクヨクヨしても仕方ないし。どのバンドもそうだけど、1stアルバム、2ndアルバムまでは下積み時代のストックがあるからポンポン出来るんだけど、3rdアルバムぐらいからストックもなくなって「どうしようかな?」となる。でも僕らはわりと想定外な転機もあったから、最初はUKロックを継承しているような雰囲気だったんですけど、どんどんそんなことも気にしないで作っていくことが出来たんですよね。出たとこ勝負になれた。

--それによって多種多様な音楽を自由に作っていくことができたんですね。

[Alexandros] / starrrrrrr feat. GEROCK
[Alexandros] / starrrrrrr feat. GEROCK

川上洋平:例えば、聡泰(庄村聡泰/dr)が叩いていたドラムにギターを付けて「スパニッシュっぽいけどいいかな?」みたいな流れで「Waitress, Waitress!」が出来たりとか、初めてタイアップが付いたときも「もう少し日本語でやってみようかな」と思って「Starrrrrrr」が生まれたりとか。そこでどんどんファンも増えていったりとか、自分たちなりに大きな経験もしたりして。

--想定外な出来事と言えば、改名も大きい転機だったんじゃないですか?

川上洋平:あれって2014年でしたよね。改名しなくちゃいけなくなったときはメンバー4人で喫茶店で「どうしようか」みたいな感じにはなったんですけど、よくよく考えたらまだデビューして3年ちょっとぐらいしか経っていなかったし、紅白歌合戦に出た訳でもないし、国民的なバンドになっていた訳でもないから「気にしてんの、ウチらだけじゃない?」「ま、こういうこともあるよ」ぐらいな感覚で捉えて。それぐらいからどんなことがあっても前向きになるように、ポジティブシンキングなバンドになりました(笑)。

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フェスは「ウチらはこれだけ掻っ攫ったんだ!」っていう戦い

--何でも面白がれるようになった?

川上洋平:そうなんです! ウチらは結構いろんなことがあったんで、わりと楽観的にはなりましたね。そもそも何も悪いことをしてないのに、そういうことが起きるから。悪いことだったら反省もできるんですけど、反省もできないっていう(笑)。ゆえの苦しさはありましたけどね。だから「運が悪いな」とは思いましたけど、すぐに「改名前のほうが良かったと言われないように頑張ろう」みたいな考え方になりましたね。しかも初の日本武道館でバンド名を変えたんで、わりと[ALEXANDROS]という名前がバァーっと広まっていったんですよ。だから逆にお祭りにできた感じがしましたね。

--その改名翌年「ワタリドリ」をリリース。これを機にシーンにおける見られ方や立ち位置も変わっていったと思うんですけど、川上さん的にはあのターニングポイントをどう捉えていたんでしょう?

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川上洋平:「ワタリドリ」がメジャー1発目のリリース作品だったんですけど、最初はそんなに盛り上がらなかったんですよ。1年後にCMソングに起用されて何とかいろんな人に聴いてもらえるようになって、だから僕らからすると「1年前の曲なんだけどな?」みたいな(笑)。それが面白かったというか、すごく嬉しかった。通常、タイアップ曲って新曲じゃないと成り立たないことが多いんですよ。でも「あの曲が良いんです」と。言ってしまえば、まだまだメジャー1年目のバンドなのにそんなことを仰って頂いて。そこであの曲が広まったのは大きかったなと思います。ただ、僕らは普段からファンと関わることもないし、アーティストさんともあんまり関わらないんですよ。だから「あの曲売れてるよね」みたいな声も耳に入らないし、実感する場が実はなかった。そういう意味では、変に気負うこともなかったし、その直後にヘンな曲も作ったし(笑)、「「ワタリドリ」に続くような1曲を!」みたいな感覚もなかったんです。それで自由にやれている感じがウチららしいなって思いますね。

--そのブレイク前後のエピソードも音楽性も含め、近年類を見ないタイプのバンドになりましたよね。

川上洋平:2010年代のバンドだと思うんです、[ALEXANDROS]って。だからフェス文化が大きくあって、わりとそのど真ん中にいた自負があるんです。サカナクションの山口一郎さんに言わせると「フェスがシーンをおかしくしたところもある」、それはそうだなとも思っていて、みんながフェスのノリやフォーマットに合わせていって、そうなると良い部分もあるけど、疎かになってしまう部分もある。そういう危険性を孕んでいる。ただ、そのど真ん中にいた僕らからすると、2020年で10周年を迎える立場から今振り返ってみると、それもひとつのシーンなのかなって。シーンって言葉はあんまり好きじゃないんですけど、例えば「ブリットポップのムーヴメントの渦中にいてよく分かんなかったけど、でも振り返ってみるとブリットポップってあんな感じだったよね」みたいな。だから2010年代のソレもひとつのやり方だったし、間違ってはいなかったなと思うし。

--なるほど。

[ALEXANDROS]『月色ホライズン』川上洋平(vo,g)単独インタビュー

川上洋平:2015年あたりなんてフェスでバンド同士がバチバチしていたし、わりと年齢が近い中で戦っていたんですよ。ウチらの先輩がthe telephones、9mm Parabellum Bullet、The Mirrazとかで、その上がストレイテナーとかASIAN KUNG-FU GENERATIONとかだったんで。年齢的には9mmとかONE OK ROCKとか年下だったりするんですよ。だから明らかな「先輩、中堅、後輩」みたいな感覚がなくて。今はわりとあるんですけど、それがない時代だったからこそ逆にバチバチだったんです。その渦中にいると「じゃあ、あのバンドより盛り上げなきゃ」とか「じゃあ、俺たちはこうしたらいいんだな」とかすごく勉強になったりもしたんで、良い意味でバンドが切磋琢磨していた時代だったなと思うんですよね。フェスって数万人の前で対バンやっているようなモノじゃないですか。クローズドの対バンはお互いのファンしか来ないけど、フェスは何十組ものバンドが出る中で、1万人、2万人、6万人に対してのライブで「ウチらはこれだけ掻っ攫ったんだ!」っていう戦いじゃないですか。それによって、そのあとの僕らのツアーに来るお客さんは如実に変わるし、増えるし、フェスが今の僕らのスタイルを作っていったところもあると思うんです。

--それに加えて[ALEXANDROS]はメディアでも勝負していましたから、自然と世界は広がっていきますよね。

川上洋平:たしかに、その時期にテレビにも出始めていて、意識も変わっていったところはあると思います。それこそ「ワタリドリ」を作ったときは完全にEDMの時代になっていて、だからあの曲の作りはEDMっぽいんですよね。だから今振り返ってみると、そういういろんなモノを上手く作用させてきたんだろうなって。でも渦中にいながらしてどっぷりは浸からないようにしてすり抜けてきた。

--すり抜けたとも言えますし、突き抜けたとも言えますよね。

川上洋平:あー、なるほど。

--それを成り立たせる上で川上さんの歌声も武器だったと思うんですよね。先日ユニークな記事(※カラオケ泣かせ? [ALEXANDROS]はキーがえげつなく高いが配信チャート18冠を獲得するワケ。)を出させてもらったんですけど、「ワタリドリ」の最も高いキーはhi E。X Japan「紅」のhi D#より高いキーでハイトーンを出している。

川上洋平:そうなんですよ、実は超えてるんですよ(笑)。

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いろんな出来事があった中で、いろんな楽曲があった中での集大成

--ゆえにフェスでも大衆を振り返らせることが出来たんじゃないかなと。

[Alexandros] - Run Away (MV)
[Alexandros] - Run Away (MV)

川上洋平:それはあると思いますね。僕、どんどんどんどんキーが高くなっていて、それはキーの高い歌が好きだったからだと思うんです。歌えるようになる為に歌い込んでいたから。それでマイケル・ジャクソンのモノマネとかしていたらどんどん高くなっていって、自分なりに「もっと綺麗に響かせる為にどうしたらいいのか」と考えて勉強したりもしましたし。あと、曲を頭の中で作っていくときは自分じゃなくて女の子の声が鳴るんですよね。それは僕の姉の声なんですけど、そうすると自然にキーが高くなっていって、レコーディングでいざ歌うときに「高ぇな、これ!」ってなる(笑)。でももう作っちゃったからそのまま歌っちゃう。それで出来たのが「ワタリドリ」だったりするんです。「Run Away」とかもそうですね。

--偶然の産物でもあった訳ですね。

川上洋平:あとは「聴いてくれ!」みたいな気持ちも影響しているのかもしれない。路上ライブをデビュー前にやっていたんですけど、フェスはデカい路上ライブだと思っているんですよね。いろんなステージがあって、届かせようと思えば向こうのステージから帰ってきている人たちにも届かせられる。だから最初の5年ぐらいまでは「届けてぇ!」という想いで歌っていて、それもあってこういう声質になっていったんだろうなと思いますね。

--ハイトーンが気持ち良いと言えば、今回の新曲「月色ホライズン」もそうですよね。どんなイメージや想いから生み出したんでしょう?

[ALEXANDROS]-月色ホライズン(Teaser)
[ALEXANDROS]-月色ホライズン(Teaser)

川上洋平:来年10周年を迎える状況に寄せた訳じゃないんですけど、いろんな出来事があった中で、いろんな楽曲があった中での集大成。自分的にはそんな感じがしていて。集大成と言うといろんなモノが混ざっているイメージを持たれがちだと思うんですけど、僕の中ではため息なんですよね。ひとりふと息をつく感じ。凄く清涼感もあって爆発力もあるんだけど、どこか落ち着き払った、一息つく感じの曲をそろそろ作りたいなと思っていたんです。だから「東京はこんなんで どうもこうもないような日々が続いてるよ」って誰かに宛のないメッセージを贈るような感じで始まっているんですけど、少し気だるさがある。自分がどこにいるんだろう。自分はどこに向かっているんだろう。これだけ年数経ってもよく分かんないな。そういう想いが「月色ホライズン」の裏にあるモノなんだろうなって。

--なるほど。

川上洋平:あと、この2年ぐらい、アメリカに行ったり、アジアツアーに行ったり、飛行機に乗る機会がすごく多かったんです。そうなってくると、本当に自分がどこにいるのか、どこに向かっているのか、よく分からなくなってきて(笑)。そんな状況下で飛行機の窓から外を眺めると、日中と夜のあいだの瞬間に立ち会ったりすることがあって。その光景や状況を思い出しながら「月色ホライズン」は書きましたね。自分がどこにいるか分かんないけど、でもその瞬間こそ「自分の居場所を見つめ直せる」みたいな。飛行機って新幹線に比べてわりと静かだし、ホワイトノイズがめちゃくちゃ鳴っているときだから耳が詰まっているんですよ。その周囲を気にせず集中できる時間によって生まれた曲ですね。

--そこで目にした曖昧な光景と曖昧な心情が重なって生まれた曲。

[ALEXANDROS]『月色ホライズン』川上洋平(vo,g)単独インタビュー
▲『月色ホライズン』ジャケット写真

川上洋平:そう、曖昧さ。今までハッキリしたモノを書こうとしてきたんですけど、だから自ずと「応援ソング」と呼ばれたりもしたし、応援として受け取ってくれた人もいたし、それはそれで良かったんですけど、今回はそうじゃなくて今の状態を描いたようなモノを吐き出したかった。夏目漱石さんの本を読んだりしていると「今をとにかく生きなさい」みたいなことがわりと書かれていて、それにハッとさせられるところもあって。ずっと「未来!未来!」「過去を捨てろ!」っていう感覚でやっていたんだけど、そのあいだにあるモノをもうちょっと大切にするほうが良いのかなって、なんとなくシフトしてきた感じがあったんですよね。もっと今を楽しんだり、噛み締めたり瞬間があってもいいなって。

--そんな「月色ホライズン」の先にあるデビュー10周年。自分的にはどんな1年にしていきたいなと思っていますか?

川上洋平:9周年ツアーというモノを年末からやるんですけど、何故かと言うと「10周年です!」って銘打つのがちょっと恥ずかしいからなんです(笑)。クリスマスとかハロウィンにイベントやるもの照れちゃうから敢えて避けてきたんですよね。それで「12/26以降の年末ソング」という曲を作ったりしてきたんですけど、だから今回も「9周年を大事にしよう」と思っています(笑)。

Interviewer:平賀哲雄

[ALEXANDROS]-月色ホライズン(Teaser)
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