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熊木杏里【熊木杏里ライブツアー ~私は私をあとにして~】
2007.11.16(金) at Shibuya O-EAST|セットリスト
広いステージ、高い天井、ステージ向かって左からキーボード、ベース、ギター、ドラムス。その4人を背にして、白い光の中を漂う彼女がこの日最初に歌い出したのは『一等星』。前回のツアーの最後に披露した楽曲。今、彼女の心のど真ん中にある、人ともっと繋がっていきたいという想いを、とても緩やかな、間奏では自然と笑みが零れてしまうほど緩やかな気持ちで歌い届けた。桜色の光が彼女を照らせば、曲は『春の風』。ドラムスが加わったせいだろうか、この曲は今まで聴いたどのそれよりもドラマティックで、そして自然と彼女の歌声も熱っぽく響いた。もちろん周りを見渡せば、誰もが感動の面持ちだ。続いて『月の傷』をこれまた力強く歌い上げると、ファンからの「おかえり」という声に満面の笑みで「ただいま」と応える彼女。
「ゆっくりアルバム(『私は私をあとにして』)の中から歌いますから、聴いていってもらいたいと思います」と言うと『七月の友だち』を、その詞の情景を自ら思い浮かべて、楽しく、終盤ではその手を振りながら彼女は歌い上げた。そしてその気持ち良い、楽しい気持ちをもっと大きくするべく聞こえてきたのは『君まではあともう少し』。ファンのハンドクラップと爽快なバンドサウンドのアンサンブルを堪能しながら彼女は踊るように歌う。もちろん表情は終始笑顔。思わず嬉しすぎて、歌い終えると「いぇ~い、ありがとう!」と、新しいキャラを見せる熊木杏里(笑)。こういうノリを今回のツアーで出来ているのが嬉しいみたいだ。そして「恋の歌をうたいます」と、彼女は『あなたに逢いたい』と『ひみつ』を披露。それぞれ違う恋の歌だけど、どちらもこれまでになく、リアルに恋をしている気持ちに心を揺らしながら歌っている感じ。これも新しい彼女。
「スペシャルゲストを!」と彼女が言うと、熊木杏里同様、ユニクロのCMソングを歌う工藤慎太郎がステージに登場した。「大沢たかおです」と、若干スベりながら(笑)。そして彼はユニクロのヒートテックインナーを熊木にプレゼント(笑)。そんな破天荒なキャラクター全開ではしゃぎまくった後、熊木の隣で彼はデビュー曲『シェフ』を弾き語りで披露してくれた。更には、気持ちを込めた手紙を声を出して贈る場面も。初めて熊木杏里のCDを聴いたとき、初めて熊木杏里と対面したときの気持ちなどを語ると、思わず泣き出す熊木。そんな工藤の想いとギターに胸を高鳴らせながら彼女は、『朝日の誓い』を披露。歌っている最中も、喋っている最中も「平常心が保てない」と言うほど、揺れる心そのままの歌声と表情をたくさん魅せてくれた。それは工藤のギターや表情からも感じ取れたモノ。そんな互いを敬愛し合う二人は共に『君を想う』を披露。気持ちのままに歌い、生きる二人の声は、美しく会場に響き渡っていた。
工藤慎太郎がステージを去った後も熊木は気持ちを溢れさせたままの状態で歌っていた。まずは『一期一会』。とてもとても温かく明るい気持ちで彼女は歌い、バンドは奏で、僕らは胸を躍らせる。完全に開かれた心から溢れ出して止まらない気持ち。それは、まるでここを大きな野外フェスの会場に感じさせるぐらい、伸び伸びと、無限の広がりを見せていた。そんな開放感を残したまま、歌われた『0号』『戦いの矛盾』。どちらも気持ちを楽にさせる曲ではなく、つい人が目を逸らしてしまいがちな、けれども無視することはできない定め。その中で葛藤しながらも生きていこうとする様が描かれた曲であるが、開放は心地良さだけではなく、そうした苦しく悲しく厳しく在り続けるモノを受け容れる気持ちを持つためにもある。故にこのタイミングで披露された『0号』『戦いの矛盾』が聴き手に訴えてくる力も強烈であった。
そして、「いろんなことがあって弱音を吐きそうになっても・・・」そう言って彼女が歌い出した『ゴールネット』。良いこと、悪いこと、そのすべてと繋がって生きていこうとする意思。そこで初めて生まれる始まり。その始まりを感じさせたこの曲は、とても輝いていたし、今、確実に誰かにとっての光。高揚に任せて言ってしまえば、ここにいるすべての人にとっての光。それをどれだけ感じていたかわからないが、『新しい私になって』で「一緒に(この曲を)知ってる人、歌って」と、より強い繋がりをやさしく求める熊木。まだその声は小さいが、その口を開き、共にこの曲を歌う人はたくさんいた。みんなとの繋がりがまたひとつ強くなった瞬間だ。「歌いながら癒やされている」と本人も語っていたが、ファンとのトークタイムでは、本当に楽しくて嬉しくて仕方がなかったようで、テンパりながらも(笑)自由にいろいろと喋りまくっていた。そんな彼女が本編の最後に『最後の羅針盤』を歌い始めた。今日受け止めたすべての気持ちを胸に。またこれからも新しく自分の道を突き進んでいくという凛々しき意思表明のように。
大きなあったかい拍手。それは途切れることなく、アンコールを求めるハンドクラップへと変わる。そして熊木Tシャツ(ツアーグッズ)にスカートと、ラフな恰好でステージに再登場した彼女は、未発表の曲をなんといきなりピアノの弾き語りで披露した。『はじまり』。ひとりじゃ始まらないことがきっと本当のはじまり。良い笑顔。満たされた笑顔を交わす彼女と僕ら。そして最後はバンドと共に「長く自分のテーマソングになりそう」と語った、『水に恋をする』を披露。ぼくは、ぼくは生きたいのだと思った。その気持ちに辿り着くまでの彼女の物語は今宵、僕らの胸に刻まれ、彼女のように自分らしく生きたいと、思ったり思い返したり。そして、はじまったりする。進んだりする。前より強くそうしようとする。
―――共に行く。その意味みたいなものを今宵はたんまり感じさせてもらいました。
セットリスト
【熊木杏里ライブツアー ~私は私をあとにして~】
2007.11.16(金) at Shibuya O-EAST
- 01.一等星
- 02.春の風
- 03.月の傷
- 04.七月の友だち
- 05.君まではあともう少し
- 06.あなたに逢いたい
- 07.ひみつ
- 08.シェフ(ゲスト:工藤慎太郎)
- 09.朝日の誓い(ゲスト:工藤慎太郎)
- 10.君を想う(ゲスト:工藤慎太郎)
- 11.一期一会
- 12.0号
- 13.戦いの矛盾
- 14.ゴールネット
- 15.新しい私になって
- 16.最後の羅針盤
- En1.水に恋をする
Writer:平賀哲雄
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