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タル・ウィルケンフェルド来日記念特集 featured by BASS MAGAZINE ~スーパー・ベーシストのボーダーを超えるグルーヴ

タル

 21世紀のシーンで最も注目される才能のひとり、タル・ウィルケンフェルド。ハービー・ハンコック、メイシー・グレイ、マーカス・ミラーなど、ビルボードライブのステージを彩ったレジェンドたちともセッションを重ね、最注目のベーシストへと駆け上がってきた彼女の「力量」の凄味を、雑誌『ベース・マガジン』編集部の秋摩竜太郎さんが解き明かします。


17歳で目覚めたベースの才能


 “私には目標があるのよ。ジェフ・ベックを例に挙げると、彼は本当に素晴らしくて、一緒にプレイするとものすごくワクワクさせられる。だからそれと同じ感覚をお返しすることが、私の一番の目標なのよね”。
──タル・ウィルケンフェルド(ベース・マガジン2009年4月号)

 タル・ウィルケンフェルドは、名だたるレジェンド・ミュージシャンとの“出会い”を糧にキャリアを邁進してきた。遡れば1986年、オーストラリアにて産声をあげたこの才媛が初めて楽器を手にしたのは14歳。ただしそれはギターだった。翌年、ヴィクター・ウッテンのプレイを目の当たりにし、“これがベースなんだ!”と感銘を受ける。16歳でLAの音楽学校に渡り、17歳でベースへ転向。わずか1ヵ月後にNAMMショウへ出演、その姿を観たマーカス・ミラーに気に入られる。その後ニューヨークへ移ると、アンソニー・ジャクソンやウェイン・クランツ(g)のライブへ毎週のように足を運び、交流を深めていく。ときにはセッションをし、タルが観客30名ほどの小さなクラブで弾くところをふたりが観にきたこともあったそう。この頃には、マーカス・ミラー、アンソニー・ジャクソンのそれぞれを人生の師と仰ぐようになっていた。





感性の爆発に呼応するチカラ


 2005年〜06年にはオールマン・ブラザーズ・バンドと共演を果たす。かの「エリザベス・リードの追憶」をなんと1時間近くもジャムったようだ。何を隠そう、件の小さなクラブに、オテイル・バーブリッジの姿もあったという。そして2007年、一躍スターダムへのし上がる。初のソロ作『Transformation』をリリースした直後、チック・コリア(p)、ジェフ・ベック(g)の客演を立て続けに務めたのだ。このふたりに共通するのは、“感性の爆発”である。テクニックや構築美も随一だが、何よりライブの火花散るインプロヴィゼーション、それらの応酬による旋律のケミストリーを重視している。特にタルをレギュラー・メンバーとして起用したジェフ・ベックは、「哀しみの恋人達」で初めてベース・ソロを設けるなど、彼女の瞬発力とボキャブラリーを買い、引き上げていったのだ。




 以降、ひっぱりだこの状況が続く。参加作品を挙げれば、コンポーザーとしてのクレジットも含め、ハービー・ハンコック(p)の『The Imagine Project』(2010年)、メイシー・グレイ(vo)の『The Sellout』(2010年)、ジェフ・ベックの『Emotion & Commotion』(2010年)、リー・リトナー(g)の『6 String Theory』(2010年)と『Rhythm Sessions』(2012年)、トレヴァー・ラビン(g)の『Jacaranda』(2012年)、ウェイン・クランツの『Howie 61』(2012年)、スティーヴ・ルカサー(g)の『Transition』(2013年)、ジャクソン・ブラウン(vo)の『Standing in the Breach』(2014年)、ライアン・アダムス(vo)の『Ryan Adams』(2014年)、TOTOの『Toto XIV』(2014年)、トッド・ラングレン(vo)の『Global』(2015年)……。


越境するグルーヴと理解力


 ジャンル、人種、性別、年齢。あらゆる垣根を越え、数多のトップ・プレイヤーよりラブ・コールを受ける理由は、ふたつある。グルーヴと理解力だ。彼女の手は決して大きくない。弾き方も2フィンガーとスラップが主体、いたって普通である。にも関わらず、そのリズムはオーストラリア大陸のごとく雄大で、ルーツ・アメリカ・ライクな粘っこさを湛える。それはたとえ速いパッセージであっても、だ。加えて、楽曲全体のフィーリングを察知し、求められていることをいち早く理解するための懐がとんでもなく広い。グルーヴと理解力、それらを発射台とするからこそ、縁の下の力持ちにとどまらない前述の爆発、音楽の煌めきを際限なく開放できるというわけだ。そのおかげでタルは次々に出会いを引き寄せ、成長を重ねると同時に、新たなワクワクという名の出会いを、レジェンドたちにさえ提供することができたのである。




 そして、そんな道程の結晶が、12年ぶりの新ソロ・アルバムとなる『Love Remains』なのだ。本作にはベースを弾いていない楽曲も収録されている。ベーシストとしての到達点を示しながらも、ひとりの音楽家として、さらに大きな飛躍を遂げているのだ。ただこれは、彼女の実像を映す氷山の一角にすぎない。来たる8月の来日公演を観なければわかることはないはずだ、タル・ウィルケンフェルドという名手の、真の姿は。

タル・ウィルケンフェルド ウェイン・クランツ ジェフリー・キーザー キース・カーロック シーマス・ブレイク サムエル・トレス オティル・バーブリッジ「トランスフォーメーション」

トランスフォーメーション

2009/01/21 RELEASE
KICJ-553 ¥ 2,828(税込)

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Disc01
  1. 01.BC
  2. 02.コズミック・ジョーク
  3. 03.トゥルース・ビー・トールド
  4. 04.セレンディピティー
  5. 05.ザ・リバー・オブ・ライフ
  6. 06.オートミール・バンディッジ
  7. 07.テーブル・フォー・ワン

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