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岸田繁(くるり) インタビュー ~マーク・コズレック来日記念:独特の“色合い”を湛える音楽家を徹底分析



 5月にビルボードライブ東京にて来日公演を開催するマーク・コズレック。独特の歌声や繊細なサウンドで、スロウコア/サッドコア・シーンの中心的存在として活躍し続ける彼の音楽性や、ライブで見せるパフォーマンスの魅力を、長くファンであり続ける「くるり」の岸田繁が語ってくれた。
取材・文/柳樂光隆

彼の歌声は一発で好きになったんです。聴いていると、落ち着くというんですかね。

―まず岸田さんがマーク・コズレックやサン・キル・ムーンを知ったきっかけを教えてください。


岸田繁:レッド・ハウス・ペインターズですね。AC/DCのカヴァーとかをやっているのを聴いたのかな、かなり前のことです。特になんかを目当てに出会ったとかじゃなくて、たまたま聴いて。男性アーティストの声が好きになるって感覚がいまだにあまりないんですよね。わざわざ音楽聴くのにおっさんの声聞きたくないじゃないですか(笑) だから好きなアーティストはいるんですけど、男性アーティストの声を聴いてうっとりするってことはあまりなかったんです。でも、彼の歌声は一発で好きになったんです。聴いていると、落ち着くというんですかね。それで集めはじめて。

―レッド・ハウス・ペインターズやマーク・コズレックのカヴァーをしたことはありますか?


岸田繁:カヴァーはしてないけど、ほぼ引用みたいな曲を作ったことはありますね。「HOW TO GO」という曲はレッド・ハウス・ペインターズみたいな曲を作ろうと思って作りました。「Between Days」って曲があって、それみたいな曲を作ろうと思って、あからさまな引用をして作ったんです。マーク・コズレックは日本で有名な人ではないからラジオとかでその曲をかけまくって、ほんなら「くるりがパクりよった」みたいに言われて叩かれた記憶があります(笑)

僕は割とサウンドとか、そのアーティストの手法みたいなものが好きになることが多いんですけど、マーク・コズレックの場合は、あの声とあの雰囲気ですね。音楽的に参照点が多いかというとそういう人じゃないんですよ。

―引用するくらい好きなレッド・ハウス・ペインターズってどんなバンドですか?


岸田繁:なんかバンド感は薄くて、プロジェクトっぽいんですよね。末期のダイナソーJr.みたいな感じで、マーク・コズレックの色合いって言うか、他の人のパーソナリティーはあまり見えてこないですね。

―たしかにレッド・ハウス・ペインターズってバンドから、マーク・コズレックのソロやソロ・プロジェクトのサン・キル・ムーンになっても音楽的にはあまり変わってないですよね。


岸田繁:変わらないですよね。近作を聞いたら、チャレンジをしててびっくりしましたけど。基本的には金太郎飴っぽいって言うか、サン・キル・ムーンであってもレッド・ハウス・ペインターズであってもソロ名義でもあっても全部一緒って言う、それが逆に安心感があるからいいんですよ。

―では、そのマーク・コズレックが書くメロディーに関してはどういう印象がありますか?


岸田繁:そもそもメロディアスな印象がないんです(笑)1回ライブを観た時に思ったんですけど、彼はすごくリヴァーヴをかけるんですよ。磔磔でのライブを僕はリハから見せてもらってたんですけど、リヴァーヴを全体にかけるんですよ。リハやって、サウンドチェックやってて、「リヴァーヴ、アップ。リヴァーヴ、アップ。」ってずっと言ってるんです。結局、お風呂みたいな音になってしまって、「こんなんで大丈夫か」と思ってました。

マーク・コズレックはギターがすごい上手なんですよ、思ったより全然弾いてるっていうか、けっこうテクニカルなんです。その時は一人の弾き語りだったんですけど、ドローンっぽい持続音が欲しいだろうなとは思いましたね。声の倍音とかも特徴的な人だから、「は――」って歌ったときの倍音が残っている感じの気持ちよさを追求してはる人なんやろなと。作品を聴いてもそういう感じはありますし。でも、作品はリヴァーヴ控えめなんですよね。

―レッド・ハウス・ペインターズのころは割とリヴァーヴがあってウェットですけど、ソロになってからは控えめですよね。


岸田繁:そう、割とドライですよね。ライブの時はお風呂なのに。品川かなんかの教会でもライブをしたみたいで、その後に来たからそういうブームだったかもしれないですけどね。磔磔でそんなにリヴァーヴかけても不自然やで、とは思ったんですけど(笑)

―メロディアスな印象がないってのはわかります。ミニマムで、シリアスでストイックな音楽ってイメージもありますね。


岸田繁:マーク・コズレックはボブ・ディラン的な感じでずっと喋ってるみたいに歌ってるけど、なんかメロディーのような感じがするんです。それは倍音の使い方やと思うんですけど、ディランほど文節が多いわけでもないし、のったりと歌ってはるし、ディランみたいに早くもないんですけど、ちょっと陶酔感のあるサイケデリックな音が響いてる中で声を出したら、すごくその部分が引っかかるみたいなそういうドローン音楽みたいな感覚もありますね。「古いオルガンみたいな声」って言うんですかね。そういう倍音がある人の歌って耳に残るんですよ。例えば、ユーミンの声もオルガンみたいやなって思うんです。もしくはホルンとか。人の声やけど、鳴ってる感じが楽器っぽい声なんですよね。


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ギターがすごい上手やったんでびっくりして、それだけでも一見の価値がある

―マーク・コズレックは2016年にソロ名義でカヴァー集を出してるんですよ。『Mark Kozerek sings Favorites』ってタイトルで、ピッチフォークで5.5点( https://pitchfork.com/reviews/albums/21944-mark-kozelek-sings-favorites/ )という酷評されてるアルバムがあるんです。今、岸田さんが言っていたことを聞いて、このアルバムの意味がようやく分かった気がします。10ccの「I’m Not In Love」をやってるんですけど、あの曲は声を重ねて作ってて、すごくゆらゆらした音像を生み出してる変わった曲ですよね。ああいう響いてる音楽が好きって考えると、彼が10ccをカヴァーする意味が分かる気がしますね。


岸田繁:いろんな音楽が好きな方なんやろな、って気はしますよね。やばいっすね、「Moon River」とかやってるじゃないですか。

―メロディーの上下がないのっぺりした曲を更にのっぺりとカヴァーしてるんです。その感じってさっき岸田さんが言ってたドローンっぽさとも通じると思うんですよ。

岸田繁:この人の美意識って言うんですかね。ジャケットとかも「いいちこの広告」みたいな、スモーキーな質感があるじゃないですか。イメージも含めて好きなんですよ、安心印って言うか。この人は「ザ・インディー」って感じですけど、ロックのアーティストって変わることを求められるじゃないですか。レディオヘッドやベックが普通に前と同じことをやったらダメじゃないですか。でも、この人には前と同じことをやっててほしいなと思うんですよね。

―エクスペリメンタルなインプロっぽい人ともセッション的にコラボしてたりするんですけど、バンドっぽくなるとピンとこないんですよね。


岸田繁:繊細な音楽性の方なんやろなとはライブ観てて思いました。ビル・フリゼールみたいな感じがするって言うか、ほんまにその人ですって、それしかできひん感じ。ただギターがすごい上手やったんでびっくりして、それだけでも一見の価値があるというか。フィンガーピッキングで、オープンチューニングで、カントリーブルースみたいな複雑なアルペジオとかをやるんですけど、かなりテクニカルな奏法をしていたんですよ。

―サン・キル・ムーンの『Benji』でもギターはひたすら反復なんだけど、ちょっと変わったフレーズを延々と繰り返してて、たしかにすごいんですよね。


岸田繁:曲が全部長いじゃないですか、普通の曲なのに8分とかあって、でも長いなって感じがなくて、苦にならないっていうか、この人はタイム感が普通のポップスをやっている人と全然違うからなんだろうなって。

ああいうミュージシャンって、のたのたしたリズムでなんかぐにゃぐにゃしそうだなと思っていたら、すごくシビアに足でリズムを取って、複雑なギターのパターンを弾きながら、のてーっと歌ってはって、リヴァーヴがさーってかかってて、不思議な空間でしたよ。


―ミニマルなギターがあって、それに合わせて上モノっぽく歌うって話だとホセ・ゴンザレスみたいな例もありますけど、マーク・コズレックはそれとは全く違うんですよね。


岸田繁:マーク・コズレックはアメリカの内陸のサイケデリックな音楽って言うか、○○○○中毒っぽい音楽って言うんですか。音楽が始まると死にたくなるような速度なのに多幸感があるみたいな。すごくドラッギーで、ダウナー系の音楽ですよね。僕は結構好きなんですよね。くるりがそっち方面で本気出したら、その感じを出せるとは思っているんです。くるりの「ハイウェイ」とか「HOW TO GO」とは割とそういう感じだから。隙間がいっぱいあるんだけど、何かが持続しているような感じって言うんですかね、そういうリラックス感のある音楽を求めている方は多いんじゃないかなと思うんですよ。


―アメリカの地方の感じっていうのはよくわかりますね。


岸田繁:AC/DCとかキッスのカヴァーもしてたじゃないですか。それが謎だったんですけど、ギター弾いてるのを見たら上手だから、中学生のころメタルとかやってたのかなと。年代的にもね。真面目にメタルとかコピーしてた人なのかなと。


―メタルもエフェクトとか外すとカントリーみたいになりますもんね。その感じでテクニカルなフレーズを遅くして、ループさせたら、マーク・コズレックになるかもしれないと。


岸田繁:骨と皮だけの音楽としてはすごい秀逸ですよね。コードが動かへんのにハーモニーの感覚を、ちょっとした倍音の使い方とかで作れる。同じようなことをやっていても「凪」を作れるって言うか、そこが魅力的ですよね。今、アメリカの田舎にいる人たちのメンタリティーって、日本まで飛んでこないじゃないですか。僕とか柳樂さんくらいの世代の人たちがアメリカのオルタナティブなロックを聴こうってときに、掃いて捨てるほどいたような内陸のほうのグランジバンドとか、ちょっとメタル入ったようなサウンドガーデン・タイプの人たちとか、そういうのって情報は来ないけど、サブスクで掘ってみるといて、まだ変わってへんのやなって思ったんですよね。たまにそういうのを掘ってみるんですけど、時代に取り残されているけど、敢えてそのままの位相でいるアメリカの田舎のサイケデリックな音楽をやっている人って、変化しないままでいるんですよね。その中にマーク・コズレックみたいな人が孤高でいる感じがありますね。


―暗い部屋で体育座りしながら聴いてるみたいなダウナー感がありますね。サッドコア、スローコアそのものを体現してるって感じですが。


岸田繁:そういわれている人って、ローファイな表現に向かったりとか、チープな感じを志向したりしがちなんですけど、ライブを見たら、それなりにハイクオリティーなものをやろうとしていて、アメリカの暗い白人のオルタナティブな人が来たって先入観がなかったら、ヨーロッパとかのリュート弾きながらきれいに歌う人みたいな独特の世界が見えるって言うか。


―こういう音楽性でありながらも、演奏がうまくて歌もよくてって言う、ある種マチュアな部分もアメリカっぽさと言えるかもしれないですね。大人になり切れない人を相手にしているのかと思いつつ、実は非常に成熟しているというアンビバレンツな部分も高く評価されている理由かもしれませんね。


岸田繁:音楽を「聴いて」判断する人が好きそうな感じって言うか。実際に鳴ってるのを聴いて「この感じ好きかも」って思わせる魔力がある。説明の要らん感じって言うか「あ、もうこれ好きやな」って一瞬で思わせる感じがありますね。「これMDで録ってきたんやろな」みたいなノイズがポコッと入ってたりするじゃないですか。サウンドコラージュというにはあまりにも適当なものなんですけど、でも、そのセンスって、どんだけ頑張って作った器用な音楽よりもバーンと入ってくる。そういう愛される感じっていうのも、彼の魅力のひとつですよね。そういう人がいわゆるローファイ魂みたいなところに甘えてたら腹立つなと思うけど、やたらギターがうまくて、けっこう練習してて、音楽は真面目ですよね。


―実は最近、謎のコラボレーションがあって、デヴィッド・ボウイの『★』のバックバンドやってたジャズ・サックス奏者のダニー・マッキャスリンの『Blow.』ってアルバムにマーク・コズレックが起用されてるんです。


岸田繁:やっぱりミュージシャンズ・ミュージシャンなんですよね。以前、くるりでやってくれてたドラマーのクリストファー・マグワイアもすごい好きだって言ってましたね。


―あと、ダニー・マッキャスリンが好きなロックバンドがサン・キル・ムーンとディアフーフらしくて。ディアフーフもけっこううまいじゃないですか。


岸田繁:そうですね、音楽性高いですよね。僕もその二つは好きですね、今でも。


―なかなかうまく言葉にできないですけど、アメリカ独特なオルタナティブロックのありかたみたいなものが彼らにはあるのかもしれないですね。


岸田繁:一筆書きなのにどれだけ情報量を出せるかみたいな魅力って言うんですかね。そこにはルーツにしているものの強さみたいなものがしっかり出ていて、いろんなものを内包している。サン・キル・ムーンを聴いててもポロンと弾いて「ああーー」って言ってるだけじゃないですか、ほとんど。だけど、あのタイム感に飲まれるから、スロウで物悲しくて、陶酔的な、あの世界に持って行かれてしまう。ちゃんと分析したことはないですけど、もしかしたら、あれを楽譜にしっかり起こしたら、すごくいろんな要素が入っているんじゃないかなって思うんですよね。200年後とかに言葉が効力を発揮する詩人とか哲学者とかいるじゃないですか、マーク・コズレックってそういうタイプの音楽な気がするんですよ。

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¥2,409(税込)

僕の住んでいた街
くるり「僕の住んでいた街」

2010/05/26

[CD]

¥3,190(税込)

僕の住んでいた街
くるり「僕の住んでいた街」

2010/05/26

[CD]

¥3,353(税込)

鉄歌 鉄道会社の歌
弓狩匡純 くるり ハイ・ファイ・セット ダークダックス 二期会 日本フィルハーモニー交響楽団 葛谷葉子 村上ゆき「鉄歌 鉄道会社の歌」

2009/10/07

[CD]

¥2,619(税込)

ROCK THE MIX 2
DJ松本素生 BEAT CRUSADERS くるり 吾妻光良&The Swinging Boppers 東京スカパラダイスオーケストラ EGO-WRAPPIN’ MO’SOME TONEBENDER NUMBER GIRL「ROCK THE MIX 2」

2009/09/30

[CD]

¥2,619(税込)

どうしようかな
渡辺大知,峯田和伸,岸田繁 峯田和伸 岸田繁 渡辺大知「どうしようかな」

2009/07/08

[CD]

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魂のゆくえ
くるり「魂のゆくえ」

2009/06/10

[CD]

¥3,190(税込)

魂のゆくえ
くるり「魂のゆくえ」

2009/06/10

[CD]

¥3,190(税込)

愉快なピーナッツ
くるり「愉快なピーナッツ」

2009/04/29

[CD]

¥1,257(税込)

三日月
くるり「三日月」

2009/02/18

[CD]

¥1,257(税込)

ワルツを踊れ
くるり「ワルツを踊れ」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

NIKKI
くるり「NIKKI」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

アンテナ
くるり「アンテナ」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

TEAM ROCK
くるり「TEAM ROCK」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

図鑑
くるり「図鑑」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

さよならストレンジャー
くるり「さよならストレンジャー」

2008/12/17

[CD]

¥2,075(税込)

さよならリグレット
くるり「さよならリグレット」

2008/09/03

[CD]

¥1,320(税込)

横濱ウィンナー
くるり「横濱ウィンナー」

2008/05/21

[DVD]

¥4,715(税込)

横濱ウィンナー
くるり「横濱ウィンナー」

2008/05/21

[DVD]

¥4,085(税込)

エイプリル
サン・キル・ムーン「エイプリル」

2008/04/18

[CD]

¥2,640(税込)

ワルツを踊れ
くるり「ワルツを踊れ」

2007/06/27

[CD]

¥3,190(税込)

ワルツを踊れ
くるり「ワルツを踊れ」

2007/06/27

[CD]

¥3,190(税込)

JUBILEE
くるり「JUBILEE」

2007/05/30

[CD]

¥1,153(税込)

NIKKI
くるり「NIKKI」

2005/11/23

[CD]

¥3,666(税込)

Baby I Love You
くるり「Baby I Love You」

2005/10/26

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¥1,100(税込)

Baby I Love You
くるり「Baby I Love You」

2005/10/26

[CD]

¥1,466(税込)

アンテナ
くるり「アンテナ」

2005/09/22

[CD]

¥1,980(税込)

図鑑
くるり「図鑑」

2005/09/22

[CD]

¥1,980(税込)