Special
南佳孝 デビュー45周年スペシャル・インタビュー「いくつになっても、恋をしているとイイ曲が書けるんだ。」
デビュー45周年のアニヴァーサリー・イヤーを、7年ぶりのオリジナル・アルバム『Dear My Generation』で飾った南佳孝。シティ・ポップ再評価が進む中、オリジネイターである南が完成させた新作は、オトナなクセにやんちゃもしてして、いつになくバラエティに富み、その振り幅の大きさが楽しみに繋がっている。10〜11月に行われるライブ・ツアーを前に、アルバムの手応えとライブに向けての抱負を訊いた。
いくつになっても、恋をしているとイイ曲が書けるんだ。
南佳孝:最近は、杉山清貴君とのデュオを除くと、ひとりでアルバムを作ることが多かったんだ。でも今回は新しいプロデューサーたちと出会って、チームを組んで作ったから、新しいアイディアがたくさん出てきた。広告代理店上がりで、コピーライターをやっているヤツとか、radikoを開発した大学教授とか。まぁ、飲み仲間でもあるんだけど、彼らがボクのことをすごくクールに見てくれているんだよね。
ここ何年か、Jポップ・シーンはカヴァーがひとつのブームになってきた。南もそれに乗って、大阪のFM局で持っている番組ではカヴァー曲を歌うコーナーを設けて、それをアルバム化している。そのため近年は、リリース数は多いのにオリジナル楽曲で固めた作品からは遠ざかってしまった。そして7年…。
南佳孝:でもオレも久しぶりと言いながら、ちゃんとロックっぽい楽曲を書いていたんだよね。プロデューサーがそれを見つけ、“こういうのを演りましょうよ”と。そういえば2枚目(『忘れられた夏』)の頃は「これで準備OK」とかファンキーな曲を書いていたのに、ボサノヴァっぽいのが多くなってからはあまり書いてないな、と思い出して。だから今回は意識してファンキーなのを書いた。そうやって、しばらく忘れてしまっていたモノを思い出させてくれた。だから楽しいアルバム作りでしたよ。新しい風を入れたのは正解だった。
――アルバムでひとつのカラーを醸し出すことが多い佳孝さんにしては、今回は幅広い作風を盛り込みましたね?
南佳孝:The Renaissance(小原礼・屋敷豪太)を入れたことによって、ロック色が強くなったね。3曲だけだけど、インパクトが強い。この辺りは、アルバムとライブで少しギャップが出るかもしれないね。ライブのメンバーは、もう少しジャジーな感じで演るから。
――やんちゃなロックとアダルトな佳孝さんのコンビネーションが、いつになく新鮮でした。
南佳孝:小原と豪太は、どちらも海外が長いでしょ。しかもLAとロンドンで、歳も10才くらい離れている。でもフィットするんだよね。
――そこに斉藤和義さんやCharさんも乗ってきて…
南佳孝:去年、NHKの『COVERS』という番組に松本隆と一緒に呼ばれて、久しぶりに和義クンと再会したんだ。それを機に自由ヶ丘のバーで一緒に飲んで、手伝ってもらうことになった。歌詞を書いて、ギターを弾いてくれて。The Renaissanceとの組み合わせもハマったね。Charは小原礼が連れてきた。
――「トキメイテ」は太田裕美さんとのデュエットですね?
南佳孝:女性シンガーに似合う気に入った曲ができたので、誰と歌おうかいろいろ悩んで。一回聴けば、“あぁ、裕美ちゃん!”とすぐ分かる独特な歌声なので、自分と合うかな?と思いましたけど、やってみたらスゴく良い感じになりました。もちろん裕美ちゃんは以前から知っていて、同じイベントに出演して僕の前に彼女、なんてコトは何度かあった。でも一緒に歌ったことはなかったんです。
――デュエットによくある密着感を醸し出すのではなく、適度な距離感を保った絶妙のブレンドですね。
南佳孝:ハーモニー、声を合わせるというのは、相手が誰でも難しいんです。ピッチは当然ですが、タイミングとか声の出し方とか、ピタッと合わせるのに時間がかかる。だからチャッチャッチャッとはいかなかったけれど、そこはお互い百戦錬磨だから、仕上がりはバッチリでした。でもゲストで出てもらう今回のステージでは、もうワン・ランク上に持っていくつもりです。もう2〜3曲、一緒に歌おうと思っているしね。他にもう一人ゲストが出てくれる予定です。まだ誰かは言えないけれど。
「トキメイテ」のアレンジは、ライブ・ステージでのサポートも長くなった住友紀人が手掛ける。住友とのコラボレイト4曲は、南の魅力を更にフレームアップした感覚。「柔らかな雨」や「泣かない」には、何処かトミー・リピューマ作品に通じる質感を感じた。
南佳孝:住友クンはクレヴァーだからね。ストリングスは生じゃなくシンセですが、音作りがゴージャス。でも「柔らかな雨」には苦労しました。何度も何度もアレンジを直して、イジリ回して。最後にフィーチャー・ソウル的テイストをまぶしたら、俄然面白くなった。この曲は自分で歌詞を書いたこともあって、すごく気に入っています。これができただけでも、このアルバムを作った価値がある。僕はアルバムに1曲名曲があれば、次に繋がると思います。3曲あったら名盤ですよ。
「モンローウォーク」や「プールサイド」といった名曲を始め、多くの佳孝作品に素晴らしい歌詞を提供している来生えつこの参加も、20数年ぶり。
南佳孝:NHKの『ラジオ深夜便』のために「ニュアンス」という曲ができて、歌詞をどうしようかと相談する中で、プロデューサーの一人が “来生(えつこ)さんの詞が聴きたい”と言い出した。この曲からアルバムの制作が始まったので、せっかくならもっと書いてもらおうと、結局4曲お願いしました。トンとご無沙汰していたけれど、やっぱりイイものが上がってきて、更に細かいイメージの調整などで推敲していくと、どんどん良くなり、サスガだと思いました。
▲南佳孝「ニュアンス」 PV
――ミックスとマスタリングは世界的エンジニアのGOH HOTODAさんが手掛けて、ヴォーカルをフォーカスした素晴らしい音に仕上げています。
南佳孝:熱海にある彼のプライベート・スタジオへ行ってね。グラミーを獲っているだけあって、ポリッシュの方法が他の人と全然違う。例えば、歌も何もかも全部録り終わって持ち込んでいるのに、「恋するAngelina」なんてそこで歌い直すハメになっちゃって…。コンピュータで修正できるんだから、“絶対やりたくねぇ〜!”って言ったのに、うまく丸め込まれちゃってさ、全然直してくれないの。あとで聞いたら、奥さんのNOKKOの差し金だったんだけど(笑) 彼女がこの曲をすごく気に入ってくれてたんですよ。
――でも他のアルバムでHOTODAさんを起用するより、このアルバムだからこそ、その手腕が活きたんじゃないですか?
南佳孝:そうですね。他にもいろいろ抱えてて、とても忙しかったみたいだけど、仕事はすごく早い。ビックリしたな、あれは。
45周年という節目の年で、松本隆がプロデュースしたデビュー・アルバム『摩天楼のヒロイン』も再発された。
南佳孝:“シティ・ポップの最初の1ページ”と言って持ち上げてくれて。嬉しいですよね。タワーレコード渋谷店の中に入っているパイドパイパー・ハウスでイベントをやったら、入りきれないほどの人が集まってくれた。親子二代のファンも出始めているね。
――親のクルマでユーミンや大滝(詠一)さん、(山下)達郎さん、を聴いて育った世代ですね。洋楽だとスティーリー・ダンとかAORとか。
南佳孝:たまに若い人に言われるコトがあります。クルマの中で聴いてました、って。でもそれはオレの責任じゃないんだけど…(笑)世代がひと回りふた回りして、本当に定着したんでしょう。オレも6〜7歳の頃から、ナット・キング・コールとかフランク・シナトラを聴いてた。家で20代の兄貴姉貴が背伸びして聴いていたのを、自分も自然に耳にしてたんです。ガキだからよく分かってないけど、イイなぁ〜という気持ちはあった。そういうコトなんでしょうね。
45周年のライブだからといって、特別な企画は考えていない。心構えにも何ら変化はないという。
南佳孝:ただ今回は、45周年に合わせてせっかくオリジナルのニュー・アルバムを作ったんだから、いつものライブよりは新曲をフィーチャーする形になるでしょう。おそらく4〜5曲歌うんじゃないかな。
大御所と言われる年代になっても、やっぱり曲を捻り出すのが好き。海辺を散策していると、作りかけの曲、いま気になっているメロディがふと脳裏に浮かんでくるそうだ。
南佳孝:それを作品にして外へ吐き出してしまうと、自分の中が空っぽになるから、また次の作品へ向けて溜めていかなければならない。でもその作業が好きなんだよね。いま世間では何がキテいるのかも気になるし…。でもそれを取り入れたとしても、オレが歌うと全部同じになってしまうんだけどね(笑)
――何をおっしゃいますか! 佳孝さんの年齢で世間にアンテナを伸ばし続けている方って、かなり貴重です。
南佳孝:でも歳を重ねると、感性は鈍るよ。オレ、イイ曲書けているかな?って不安になったりするもの。それにはやっぱり、胸キュンが必要なんだよね。怒られちゃうかもしれないけど、恋をしてないとね。媚薬みたいなものですよ。恋はいい曲のタネ。いくつになっても、恋をしているとイイ曲が書けるんだ。
公演情報
南 佳孝 45th Anniversary Live ~Dear My Generation~
Special Guest:太田裕美
ビルボードライブ東京
2018年10月9日(火)&10日(水)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
⇒詳細はこちら
名古屋ブルーノート
2018年11月14日(水)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:15
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ大阪
2018年11月15日(木)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
⇒詳細はこちら
関連リンク
Text: 金澤寿和
取材・撮影場所: Billboard cafe & dining
Dear My Generation
2018/09/26 RELEASE
CVOV-10049 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Mystery Train feat.斉藤和義
- 02.柔らかな雨
- 03.泣かない
- 04.Jazzy Night
- 05.トキメイテ feat.太田裕美
- 06.熱い風
- 07.はないちもんめ feat.斉藤和義&Char
- 08.恋するAngelina
- 09.ブンブン- Not Too Late
- 10.寒い日に
- 11.心の地図
- 12.ニュアンス
関連商品