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ザ・カーターズ『エヴリシング・イズ・ラヴ』発売記念特集~プロデューサーが語るサプライズリリースの裏側
2018年6月16日、ジェイ・Zとビヨンセ夫妻が【オン・ザ・ランII・ツアー】のヨーロッパ公演中に、2人のファミリー・ネームである“ザ・カーターズ”名義で9曲入りジョイント・アルバム『エヴリシング・イズ・ラヴ』をサプライズ・リリースし世界を騒然とさせた。世紀のカップルによる夢の初共同アルバムからは、ファースト・シングル「APESHIT|エイプシット」のミュージック・ビデオも同時に公開。フランスのルーヴル美術館で撮影されたMVも話題となった。そしてこのアルバムの日本盤が本日2018年8月22日にリリースとなった。このサプライズリリースについて、6月に米ビルボードで掲載されたプロデューサー・デュオのCool & Dre (クール&ドレー)へのインタビュー記事を紹介しよう。
「いや、すごく好きだから。止まらないで」
“ビヨンセ&ジェイ・Zのアルバムがドロップされた時、君はどこにいた?”
この週末に誰もが抱いたこの疑問の答えをプロデューサー・デュオのCool & Dre (クール&ドレー)はしばらく忘れないだろう。何せ彼らはその時、カーター夫妻のツアーに同行しロンドンにいて、何の前触れもないまま土曜の夜(6月17日)に『エヴリシング・イズ・ラヴ』がドロップされるほんの数時間前まで、文字通り最後の仕上げを施していたのだから。
ただ、アルバムの仕上げがリリース直前まで行われていたからと言って、その創作までもが早足で進められていたわけではない。Marcello "Cool" Valenzo (マルチェロ・“クール”・ヴァレンツォ)とAndre "Dre" Lyon (アンドレ・“ドレー”・リヨン)は、ヒップポップ界における完全主義パワー・カップルの勤労意欲は緻密そのものだと話している。彼らの吟味を免れたドラム・サウンド、サンプル、メロディは何一つなかったという。下記のインタビューでは、クール&ドレーがパリで行われたスタジアム・セッションの舞台裏や、ビヨンセが実際に関わっていたソングライティングのプロセス、そして未発表音源がどれだけ残っているかについて米ビルボードに語った。
−−ビヨンセとジェイ・Zは謎めいています。あのアルバムがリリースされたタイミングに驚きましたか?
ドレー:いや、俺たちは状況を理解していた。アルバムがドロップした時、彼らと一緒にロンドンにいたんだ。ジェイ・Zとビヨンセはゴールデンステート・ウォリアーズ(NBAチームの名前)だ、ハーフコートからシュートして、それが決まる。パリで3週間レコーディングしてから、カーディフに1週間程行った。ロンドンに到着して、アルバム完成まで10日を切ってから2、3曲を急いで作ったんだ。開演1時間半前にビー(ビヨンセ)とジェイはまだボーカルをカットアップしていたよ。その3時間後には世界に公開されていた。あの2人に関して言えばルールなんてない。
−−締め切りに間に合わせようと急いでいたのでしょうか?それともあれがたまたま彼らがリリースすると決めたタイミングだったのですか?
クール:彼らがプロジェクトの最終段階に入っていたことは分かっていた。リリースやら何やらに関しては彼らの才能だよ。自分とドレーはあそこにいられただけで嬉しかった。俺らはこれが数週間後くらいに公開されるのかなって思っていたけれど、彼らが完成させた上で手元の作品に十分満足したから世界に聴かせたかったんじゃないかな。
▲APES**T - THE CARTERS
−−プロジェクトにはいつから関わっていたのですか?
ドレー:7、8週間前ってとこかな。クールと自分が制作していた新しい音源をジェイに送ってたんだ。特に何ってわけでも、何かのためってことでもなく。ジェイから、「あの熱を感じてるって思ったら、あの否定しようがないsh*tだ、誰よりも先に俺に聴かせてくれ」ってずっと前に言われてたからね。それで彼とメールのやりとりをしてたら彼が乗り気になって、ロサンゼルスの大邸宅に呼ばれたんだ。一緒に5、6曲は作ったかな。完全な楽曲じゃなくてアイデアをちらほらって感じで。それから彼が(ビヨンセと録音した)ジョイント音源を2つ3つ聴かせてくれた。俺が、「なぁ、もう一つあるんだけど」ってかけた最後の音源が「SALUD!」だった。俺がフックを録音していた時にビーが入ってきて気に入ってくれて、4、5回聴いてたんだ。1週間後にマイアミに帰ったら、「ビーが“SALUD!”を完成させたぞ!おめでとう!」って(ジェイ・Zが)連絡してきた。そして彼のエンジニア、Young Guru (ヤング・グル)が、「パリに行くんだけど、よかったらあっちで一緒にやり続けようぜ」って連絡してきた。パリで2日の予定が3週間になってね。人生を変えるような経験だったよ。信じられないほど素晴らしかった。俺たちは関われただけでもすごくありがたく思っている。
−−このアルバムがそれ程早く完成したのは興味深いです。(ビヨンセとジェイ・Zの)ジョイント・アルバムは長い間噂されていましたし、ジェイもインタビューで『レモネード』がリリースされる前から(ジョイント・アルバムに)取り組んでいると発言していました。
ドレー:何故あの時リリースしたのかとか、彼らが何を考えていたのかは分からない。自分はただ止まらないことだけに集中していた。ジェイとビヨンセは俺とクールに、「止まるな、ただ絶えずその熱を提供し続けてくれ」って言い続けてた。俺らが相手にしているのは、自分たちが納得できた時に行動する人たちだ。3年かけて何かをしていたとしても、時が来たと思えないかもしれない。そしてそれが4週間で14曲レコーディングしなければならないことを意味するなら、そうするしかない。2人の天才レベルの才能を相手にしているのだから。
−−彼らと同時に同じ部屋にいるのですか?それとも彼らは離れてレコーディングをしていたんですか?
ドレー:俺らは恵まれていた。ツアーのリハーサルをしていたパリのスタジアムのオーナーズ・スイートを彼らがおさえてたんだ。ツアーの準備をするためにスタジアムを借りて、オーナーズ・スイートを全部買い取って、スタジオに改造したんだよ。俺らのオーナーズ・ボックスは、彼らがリハーサル後に歩くトンネルの真上だった。クールと俺が上層階にある自分たちのドアをわざと開けて、彼らが通って歩いている時に大音量で音楽を流してたら、2日に1度くらいは上を見て俺たちの部屋にふらりと入ってきた。クール&ドレー・スタジオがクラブみたいだったよ。彼らが一緒にいる間に、俺たちが制作していたものを聴かせたりしてた。2、3回くらいは変更を加えるために俺たちが呼ばれたりもしたね。他には、ジェイが自分の部屋で一人で作業をしているとき、俺たちも一緒に部屋にいることもあった。
−−アルバムの他のプロデューサーたち、例えばファレル(・ウィリアムス)やBoi-1da (ボーイ・ワンダ)も、他のスイートで同時に作業していたのですか?
ドレー:ファレルは見なかったけど、Boi-1daは間違いなく2日ほどパリにいたな。あいつは最高だよ。アルバムですごいのを2曲手掛けてた。俺たちはハッキリとヴァイブスをキャッチしていた。他にソングライターも何人かいたよ。あまり多くの人はいなかったな。
−−(ビヨンセとジェイ・Zから)どんなヴァイブスを追求しているのか指示はあったのでしょうか?それともただあなたたちのベストの素材を求められたのですか?
ドレー:俺らの場合、ただひたすら彼らに会って音楽を聴かせていた。「SUMMER」を聴かせた時とかもビーとジェイに、「メロディとか言葉が気に入らないなら変えるから。これに参加するためなら何でもやりたい」って伝えたんだけど、2人は、「いや、すごく好きだから。止まらないで」って言ってくれた。彼らが俺とクールに言ってくれた最高の言葉だったな。「止まるな」。
俺らがプレゼンテーションしてたものに二人はすごく興味を持ってくれた。もちろん、彼らがレコーディング作業を始めたらフィードバックがあったよ。「BLACK EFFECT」のドラムはもっと安定したヒップホップ・ビートだったんだけど、ジェイが、「もっと跳ねさせたい。ドラム・トラックを変えて跳ねさせろ!」って。そして「SUMMER」みたいな作品ではビヨンセが、「ストリングスが聴きたい、ホーンが聴きたい。私のストリングスとホーン音源を使ってよ、ここに全部あるから」って。彼らは本当に俺たちと一緒にこれらの楽曲をプロデュースしたんだよ。だからビヨンセとジェイ・Zとクールとドレーがプロデュースしたって書いてあるんだ。彼らが方向性を示してくれた。そして俺たちがうまくやってた時は止まるなって言ってくれた。
−−ビヨンセはソングライティングにどのくらい関わっていたのですか?
ドレー:100%関わっていたよ。音楽に全力を傾けて、彼女の仕事をしていた。メロディのアイデアを思い付いた時は、言葉も考え出していた。俺たちが言葉を用意していたら、メロディを考え出していた。彼女はめちゃめちゃカッコいいよ。
一つ話をしようか。(ビヨンセとジェイ・Zの)屋敷に行った時、女性がフランス語で歌っているループが音源の全体を通してかかっているサンプルを聴かせたんだ。ビーが「もう一度かけて」って言うからそうした。そしてまた「かけて」って言うからそうした。3度目の時、彼女はそのサンプルを最初から最後まで全部歌ったんだ。別の言語でだ!ビートを作る時は何時間も、何日間もかかることがある。あのサンプルが何を言ってたかなんて俺は全く分からなかった。でも彼女は3回聴いただけで異言語のサンプルを理解して全部歌ったんだ。あれを見た時俺は、「全くレベルが違うんだな」って思った。
−−その話は興味深いです。一般的に、特に彼女のアンチの間では、ビヨンセはソングライティングのプロセスに実際には関わっておらず、ところどころ言葉を変えるだけでクレジットされているという感覚があります。
ドレー:それがアンチの仕事だからね。優秀な人たちの評判を落とすために何でもするのが。ビヨンセとクリエイティブ・スペースを実際に共有する機会と名誉を得た者から言えば、その意見ほど真実から程遠いものはない。それがアンチのやることなんだ。かわいそうに。アルバムをストリーミングしろって言ってやれよ!
−−このアルバムで一つ突出していたことは、ビヨンセがいかにラップしているかということです。
ドレー:ああ、信じられないよな。あれがH-Town(米テキサス州ヒューストン)なんだ。あれがThird Ward (サード・ワード)なんだ。俺たちは彼女がヒューストンのサード・ワード出身だってことを忘れがちだ。これが初めてじゃない。ずっと前に「No, No, No」のリミックスでもラップしている。彼女はずっとやってたんだ。ずっと俺らに知らせてたんだよ、彼女のMCスキルをからかうな、彼女は盛り上げられるってね。みんなやっと正当に評価し始めたんだよ、「なぁ、ビヨンセって誰よりもうまくラップできてるんじゃないか?」ってね。
クール:彼女がラップ・アルバムを出したいと思えば、それはどのラップ・アルバムよりもいいものになるだろう。
−−ファンは「713」に特に興奮していましたね。ジェイ・Zが一部書いているドクター・ドレーとスヌープ・ドッグの「Still D.R.E.」をビヨンセが混ぜているからです。
ドレー:世界で一番クールなsh*tだと俺たちは思ったよ。17年後にビヨンセが同じ歌詞をやるのはマジで最高だった。間違いなくあの楽曲のレガシーを認めているわけで、かなりクールだ。ドレーとジェイがこの楽曲を作っていた時、こんなことになるなんて思っていなかっただろう。
−−あなたが手掛けた別の楽曲、「BLACK EFFECT」は不思議なサンプルで始まります。あの声は誰ですか?
ドレー:ツアーに行けば分かるけれど、公演の間ずっとかかっている映画があるんだ。(ビヨンセとジェイ・Zが)ジャマイカに行って撮影したんだけど、彼らが現地の人と話しているシーンをいくつか引っ張ってきて、確かそのシーンの一つだったと思う。
−−ライブ、またはツアーの映像が音楽に影響を及ぼした他の例はありますか?
ドレー:「SUMMER」という楽曲の場合、クールが手掛けていたミュージック・グルーヴがあって、それを俺に聴かせてくれた時にすぐメロディが聞こえたんだけど、あれは間違いなく俺たちが毎日見ていたものからインスパイアされていた。ジェイとビーがビーチにいて、砂の上でお互いを撮影し合いながらお互いの存在をただ楽しんでいるシーンがあるんだけれど、俺たちは見たものを受け止めて音楽に入れた。彼らがそれを聴いた時にアイデアを採用して「SUMMER」にしたんだ。
クール:とても有機的だった。素晴らしい音楽を最高の環境で創作していただけだった。ただ自分たちが置かれた場所の全てのヴァイブスを取り入れながら勢いに乗っていただけだ。俺とドレーは特殊な場所にいたんだ。
−−アルバムに収録されたものよりもっと多くの音楽をレコーディングしたように聞こえますが、私たちは『エヴリシング・イズ・ラヴ II』に備えて心の準備をした方が良さそうですか?
ドレー:おおっと、全ては極秘だ!いくつかの素晴らしいもの、素晴らしい楽曲が制作されて、いつでもリリースできる状態にある。何のためにかは分からないけれど、待機しているのは間違いないね。
Text by Nolan Feeney / 2018年6月18日 Billboard.com掲載
▲Beyoncé & JAY-Z Release Joint Album 'Everything Is Love' as The Carters | Billboard News
エヴリシング・イズ・ラヴ
2018/08/22 RELEASE
SICP-31189 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.サマー
- 02.エイプシット
- 03.ボス
- 04.ナイス
- 05.713
- 06.フレンズ
- 07.ハード・アバウト・アス
- 08.ブラック・エフェクト
- 09.ラヴハッピー
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